第246話 日本の物作りってレベル高くね?

 今後の方針について話し合いが終わった後、恭介は持木と瑞穂クルーの家族を見送ってからゴーレム開発プロジェクトのメンバーと会うことになった。


 ゴーレムの開発はテストも含めて広い場所が必要であることから、横須賀の基地の一角を使って行われていた。


 すぐに来れる場所にいるということで、ゴーレム開発プロジェクトのメンバーが持木や瑞穂クルーの家族と入れ替わりでやって来た。


 他の瑞穂クルーもメイドインジャパンのゴーレムに興味がない訳でもなく、恭介と共に話を聞くつもりのようだ。


 流石に黒塗りの高級車で基地内を移動せず、その者達は3台のジープに乗って来た。


 降りて来た者達は軍人ではないらしく、特に敬礼をすることなくお辞儀をしてから名乗り出す。


「こんにちは。ゴーレム開発プロジェクトのプロジェクトリーダーを務める三島幸一みしまこういちと言います。GBOではシャチョサンのパイロットネームで遊んでました」


「ゴーレム開発プロジェクトの渉外チーフ、速水博己はやみひろきです。GBOではA業スマイル@午後十時騎士団の名前で遊んでました」


「ゴーレム開発プロジェクトの分析チーフ、菊田知樹です。GBOでは歩くデータベース@検証班と名乗って遊んでました」


 (パイロットネームだけは聞いたことのある人達ばかりだ)


 恭介はそこまで深くかかわって来なかったけれど、恭介以外のメンバーでは関わることが多かった者もいる。


 例えば、午後十時騎士団繋がりで仁志と遥はお前がA業スマイル@午後十時騎士団かという顔になっていたし、沙耶も貴方が歩くデータベース@検証班だったのかと目をぱちぱちさせていた。


 彼等は当初、プロジェクトリーダーやチーフなんてポジションではなかったのだが、プロジェクトを進めるにあたって政府の人間よりも意欲的に働いた結果、そのポジションを交代することになったのだ。


 それはさておき、相手が名乗ったのにこちらが名乗らないのは社会人として失礼だと思い、恭介は瑞穂クルーを代表して名乗る。


「瑞穂の1期パイロットを務める明日葉恭介です。よろしくお願いします」


「「「おぉ」」」


「なんでしょう?」


 自分が普通に挨拶したことに対し、幸一達が感動をしているので恭介はそれが気になって訊ねてみた。


「いえ、フォルフォルの印象操作もあるのでしょうが、明日葉さんがここまで丁寧な喋り方をするとは思ってなかったんです」


「そうですね。強い力を得て俺様キャラに変貌してるのではと思ってました」


「以前にインタビューした時と変わらない対応で安心しました」


「…これはルーナと話をする必要がありそうだ」


 その瞬間、幸一の持つスマホをハッキングしてそこから反論する。


『ちょっと待ってほしい。私は悪くない。悪いのは社会だ』


「ルーナ、正直に言ってみろ。俺をどんな風に印象付けようとした?」


『そりゃ勿論、若きカリスマパイロットだよ。口癖は『世の中には2種類の人間がいる。俺か俺以外か』だね』


「勝手にキャラ付けするな。すぐに直せ。直らなかったらわかってるな?」


『Sir, Yes Sir!』


 恭介から冷たい声が放たれ、幸一達はブルブルと震えていた。


 この程度のやり取りは瑞穂だと割と日常茶飯事だったため、他の瑞穂クルーはまたやっているとしか思っていなかったけれど、地球にいた3人からするとその程度では済まなかったようだ。


「これが瑞穂の黒い凶星…」


「この殺気、営業先が黒寄りのグレーな企業だった時に感じたものと同じだ…」


「まさかこれ程とは…」


「三島さん、速水さん、菊田さん、大丈夫ですか?」


「「「Sir, Yes Sir!」」」


 (あっ、これは大丈夫じゃないわ)


 思わず敬礼してしまった幸一達を見て、恭介はいつの間にか自分とルーナのやり取りが周囲を脅かすレベルになっていることを知った。


 麗華が得意気なのもそうだが、明日奈も恭介を前にすればその態度が当然だと満足そうに頷いていた。


 それはそれとして、恭介達は3台のジープに分かれて乗り込み、ゴーレム開発プロジェクトの研究施設に移動した。


 研究施設の中には、2機のベースゴーレムが壁際に並べて立っていた。


 施設の中には恭介の想像していたよりも人がいて、誰もが活発に動いている。


「すごいですね。もうベースゴーレムが形になってるじゃないですか。それに人も多くて活気がある」


「ありがとうございます。皆さんから送っていただいた資源に加え、フォルフォルが皆さんの戦闘映像を提供してくれました。フォールンゲームズのGBO開発陣もこのプロジェクトに参加してますので、そのおかげでどんどん開発が進んでおります」


 恭介と麗華以外のメンバーは、高天原の開発に少しも資源カードを使っていないから、それらを日本にずっと仕送りしていた。


 持木がクトゥルフ神話の侵略者達に備えるべく、自分達だけの戦力としてゴーレムを開発させようとゴーレムに必要な素材をこのプロジェクトに優先して振り分けた。


 その甲斐あって2機のベースゴーレムがこの場にある。


 ベースゴーレムを見て麗華が挙手した。


「三島さん、質問しても良いですか?」


「勿論です。なんでも質問して下さい」


「ベースゴーレムに設計図は差し込めるんですか?」


「…そこだけが問題なんですよね。それ以外は完成してるのですが」


 麗華の質問に幸一が困ったように苦笑した。


 GBOはあくまでゲームだから、カード状の設計図を差し込めばゴーレムの姿が変わった。


 しかし、現実ではそんなことなんて起こりえない。


 設計図を差し込んだところで、それでゴーレム全体のデザインが自動的に変化するなんてことはまずあり得ないだろう。


 恭介はどうせ聞いているだろうルーナに訊ねる。


「ルーナ、コックピット周りだけでもルーナが協力できないか?」


『メイドインジャパンに拘ると私は協力しない方が良いね。コックピット周りこそ、私の力が存分に発揮されちゃってるから』


「なるほど。そうなると、いっそのことベースゴーレムを諦めて他のゴーレムを独自に開発した方が良さそうだな」


『私もそう思うよ』


 ルーナの力を借りればメイドインジャパンではなくなるから、GBOに出て来る機体とそっくりなゴーレムはベースゴーレムを完成させようとすると難しい。


 はっきりとルーナに言われたため、幸一はそうなった場合のために用意していた資料を恭介達に配る。


「こちらを見て下さい。ベースゴーレムを基にした新しいゴーレムの設計図です。近距離戦闘に適したオルタナティブαと遠距離戦闘に適したオルタナティブβの作成も、ベースゴーレムの開発が無理だとわかった時から着手できるよう手配しておりました」


 オルタナティブαはブリキドールによく似たデザインであり、オルタナティブβはエンジェルによく似たデザインだった。


 コックピットに設計図を差し込まず、ゴーレムの形状を固定するのならばあとは組み立てるだけだ。


 幸い、ベースゴーレムからライカンスロープとエンジェルはそこまで離れた外見ではない。


 すぐに幸一が指示を出すことで、ベースゴーレムの調整からオルタナティブαとオルタナティブβの開発に研究施設全体の作業が切り替わる。


 1時間程度の作業でベースゴーレムが新たなゴーレムに変わったため、それを見ていた恭介達は驚いた。


 (日本の物作りってレベル高くね?)


 恭介がそう思った時に幸一が得意気に微笑む。


「どうでしょうか? 日本の物作りも馬鹿にできないと思いませんか?」


「そうですね。設計図を差し込んでデザインが変わるのは、GBOをプレイしてた時の感覚だから慣れてしまいました。ですが、実際に0から開発したベースゴーレムが1時間で別のゴーレムになったのを目の当たりにすると、日本も捨てたものじゃないと思います」


「動作のテストもこれからやりますか?」


「やります。速水さんと菊田さんに動かしてもらう手筈になってますので、このままもう少々お待ち下さい」


 今回、瑞穂が滞在するのは明日の正午までである。


 移住できる瑞穂クルーの家族を待つため、一旦明日の正午を締め切りとした。


 今後も瑞穂が地球に来た時は高天原に瑞穂クルーの家族を連れていっても良いことにしたため、今回はすぐに移住できる者だけを連れていくことになっている。


 だからこそ、まだ恭介達には時間があったので、これから動作テストを行うのなら恭介は見ることにした。


 それから10分後、オルタナティブαとオルタナティブβが起動して動き始めた。


 動きはベースシリーズ以上ブリキドール&エンジェル未満だったが、それでもしっかりと動けていたと言える。


 メイドインジャパンのゴーレムはここに誕生した。


 この日、メイドインジャパンのゴーレムが動いたことで戦局は人類にとって良い方向に進んだのは間違いない。

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