第245話 止めようとする馬鹿な人はいませんよね?

 沙耶と晶と合流した後、恭介達は横須賀の港付近にいた瑞穂に着艦した。


 格納庫に着いたところで、それぞれのゴーレムのコックピットにバトルスコアが表示される。



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バトルスコア(VSクトゥルフ神話)

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出動時間:1時間54分26秒

撃破数:クァチル・ウタウス1体

    イゴーロナク1体

    ドール180体

    トゥールスチャ1体

    モルディギアン1体

    忌まわしき狩人4体

    ヤマンソ12体

    グラーキー1体

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総合評価:S

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報酬:資源カード(食料)100×10枚

   資源カード(素材)100×10枚

   100万ゴールド

ファーストキルボーナス:エグザイルの設計図

            クライシスの設計図

ノーダメージボーナス:魔石4種セット×100

ギフト:黄竜人機ドラキオンLv49(stay)

コメント:日本は無事だったよ! 良かったね!

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 自分達と沙耶達は倒していない雑魚モブも戦果として数えられていたことから、3期パイロットが先行していたクトゥルフ神話の侵略者達を倒してくれたのだろう。


 瑞穂クルーがパイロットに恵まれていると改めて恭介が実感できた瞬間だった。


 それはそれとして、新しく手に入れた設計図について触れておこう。


 エグザイルは放浪者だからなのか、長時間の稼働に備えられるようエネルギー効率が非常に良い特徴を持つ。


 腰の両側には短剣型のビットが装備されており、このビットで刺された者はエネルギーを吸収される。


 吸収したエネルギーはエグザイルのエネルギーとして使われるため、更に長時間の稼働ができるようになる訳だ。


 その一方、クライシスは1対多数の戦闘を得意としたゴーレムであり、腰の折畳み式ビームランチャーと両肩のサブビームマシンガンを使えば敵を一気に片付けられる。


 ただし、高火力ゆえにエネルギー消費量が多いため、使いどころは見極めなければなるまい。


 エグザイルとクライシスは合成可能だったことから、恭介は宝探しで手に入れた設計図合成キットを使用した。


 完成したゴーレムはリフレインという名前であり、2機の良いとこどりをした機体だったが、一番のポイントはリベリオンと合成可能というところだろう。


 恭介は設計図合成キットを即座に購入し、リフレインとリベリオンを合成して長時間の稼働と高火力という一見釣り合わない性能をどちらも引き継いだソリチュードを完成させた。


 腰の両側には十字剣型のビットが備わっており、リフレインのビットよりも多くのエネルギーを吸収できるようになった。


 リベリオンの背中にあった十字剣だが、リフレインのサブビームマシンガンを搭載した翼へと変わった。


 これで吸収したエネルギーを長時間の稼働だけでなく、攻撃にも転用できるようになった。


 ソリチュードには変形武器のウェイルスカイも残されていて、二度の合成作業を経たおかげでファルスピースを装備したアンチノミーと同程度のスペックと評価できる実力がある。


 これでサブのゴーレムも2機目が使いやすくなったと恭介は喜んだ。


 ゴーレムの合成作業を済ませてコックピットの外に出たら、麗華が恭介を待っていた。


「恭介さん、リベリオンも随分と変わったね」


「待たせてごめんな。大気圏に突入できる機体がアンチノミーだけってのも不安だったから、ソリチュードを完成させたかったんだ」


「それだけのスペックの機体になったんだね。おめでとう」


「ありがとう。麗華は今回の戦闘で設計図が手に入らなかったのか?」


 自分が設計図を2つも報酬として貰ったものだから、麗華だって少なくとも1つは貰っているのではないかと思って恭介は訊ねた。


「ファーストキルボーナスは設計図合成キットと武器合成キットだったんだ」


「必要と言えば必要だけど、設計図とか武器の方が良かったな」


「うん。私って恭介さん程リアルラックが高くないから…」


「元気出してくれ。俺にできることがあったらできる範囲で叶えるからさ」


 なんでもするとは言わない辺り、恭介も学習しているようだ。


 もしもなんでもすると言った場合、麗華がここぞとばかりにとんでもないお願いをして来るとわかっているから、あくまでできる範囲で叶えると言ったのである。


「それじゃあ、家族を高天原に連れて行きたいな」


「なるほど。俺は構わないぞ。ただし、俺だけの都合で話は進まないだろうから、こっちにいる間にそれができるか訊いてみたらどうだ?」


「うん! ありがとう!」


 クトゥルフ神話の侵略者達に日本が攻め込まれた以上、家族の安全を考えるなら日本にいるよりも高天原にいた方が安全だ。


 それゆえ、麗華は恭介に両親を高天原に避難させたいと願った。


 恭介も事態が落ち着けば麗華と結婚するつもりだったので、義理の両親を日本に置き去りにするのは気が引けた。


 麗華が自分の両親を高天原に連れて行くのなら、恭介も母親恭子を連れて行こうと考えた。


 勿論、筧前首相は置き去り決定である。


 血が繋がっているとはいえ、恭子と籍は要れていないのだから当然だ。


 この話を聞いていたから、2期と3期パイロットも家族は高天原に連れて行きたいと言い出した。


 一応補足しておくと、沙耶も筧前首相を連れて行くつもりはなかった。


 浮気して2つの家庭に迷惑をかけた父親に慈悲はないようだ。


 それから、瑞穂が横須賀の軍港に停泊したところで持木と瑞穂クルーの家族が車で海軍基地までやって来た。


 恭介達から動かなかったのは、恭介達が動くとそれだけで大騒ぎになるからである。


 黒塗りの高級車が瑞穂の近くに停まり、その中から出て来た後で恭介達も瑞穂を降りた。


 恭介と恭子、持木を除いて家族で喋る時間ということになり、恭介達だけ瑞穂の待機室パイロットルームで今後について話すことになった。


 移動してすぐに持木は恭介に頭を下げる。


「まずはお礼を言いたい。日本の危機を察知し、すぐに駆け付けてくれたことを感謝する。瑞穂のおかげで日本の被害は極めて軽微なもので済んだよ」


「日本に家族がいる以上、攻め込まれてるのを放置する程冷徹ではありませんよ」


「誰も明日葉君のことを冷徹だなんて思ってないさ。むしろ、日本から出た英雄だって毎日大盛り上がりだ。瑞穂の黒い凶星の二つ名はあっという間にトレンド1位になったからね」


「それは忘れてもらいたいやつですね。さて、本題に入りましょう。瑞穂が日本に滞在する時間は短い方が良いと思ってます。それは高天原が度々攻撃されてることからおわかりいただけますね?」


 高天原にはエネルギーバリアがあるから、それがある限りクトゥルフ神話の侵略者達に高天原が陥落させられることはない。


 そちらの心配というよりも、クトゥルフ神話の侵略者達にとって天敵である瑞穂のクルーがいるから高天原が狙われている訳で、その瑞穂が日本にいると余計な被害を出す恐れがあることを恭介は言っている。


 持木もそれは理解しているから、申し訳なさそうに頷いた。


「残念ながら、我々の戦力ではまだ明日葉君達の足を引っ張ることしかできない。瑞穂がここに長居することで生じるリスクを跳ね返せるならば良いのだが、それだけの戦力がない以上無理はできないだろうね。ただ、プロジェクトチームの者達は明日葉君と話をする時間が欲しいと言っていた。少しだけ付き合ってもらえないだろうか?」


 瑞穂の停泊は必要最低限の時間が望ましいという点で、恭介と持木の考えは一致した。


 しかし、持木もずっと日本が恭介達に頼りっ放しで良いとも思っていないから、少しでも自衛のための戦力を確保するために恭介とメイドインジャパンのゴーレム開発プロジェクトチームを引き合わせたいようだ。


「わかりました。少しだけならば時間を取りましょう。それと母さん、高天原に来ないか?」


 唐突に恭介が訊ねたけれど、恭子は特に驚いたりせずにあっさりと頷いた。


「恭介が誘ってくれるなら行くわ」


「まあ、自衛できない日本に家族を置いておくのは心配だろうから、そうなることはわかっていたよ」


「止めようとする馬鹿な人はいませんよね?」


「大丈夫だ。そういう手合いは既にフォルフォルに弾かれてるよ。家族を人質にして明日葉君達を戦わせるなんて、真っ当な人間がやる手口ではない。私は家族が一緒にいるべきだと思う。自由に連れ出してほしい」


 持木は恭介達に理解のある人種だったため、恭介は心の中でホッとした。

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