第243話 こっち来んな!
恭介達がそれぞれのゴーレムに乗り込んだ時、瑞穂は既に高天原を出港していた。
瑞穂はすぐに地球の大気圏に突入する準備に移っており、ラミアスから恭介達に向けて連絡が入る。
『総員、これより瑞穂は大気圏に突入します。衝撃に備えて下さい』
瑞穂は大気圏に突入することも考慮した設計になっており、特殊なゲルが戦艦の底を覆うように広がって燃えないようになっている。
その時、面倒な事態が起きてしまった。
『緊急事態です! クトゥルフ神話の侵略者が現れました! C121クァチル・ウタウスとC122イゴーロナクです! その後ろにC015ドールの群れもいます!』
『うーん、地球も緊急事態だね。東京湾上空に空間の歪みが生じてる。クトゥルフ神話の侵略者、それも上位単一個体からハッキングされて私の結界に綻びが生じてるや。ここからクトゥルフ神話の侵略者達が出て来るのも時間の問題だよ』
ラミアスとルーナの情報を聞き、恭介は麗華に連絡する。
「麗華、俺と一緒に大気圏に突入してくれるか?」
『恭介さんと一緒なら何処にだってついて行くよ』
恭介が麗華だけに声をかけたのは、最も信頼できるのが麗華だったということもあるが、シグルドリーヴァのスペックを理解してのことだ。
アンチノミーよりもシグルドリーヴァの方がハイスペックなので、アンチノミーが大気圏に突入しても無事ならシグルドリーヴァも無事でいられる。
それ以外のゴーレムだと特別な装備を用意しなければ、問題なく大気圏に突入できるか怪しい。
確率の問題だとしても、低い確率で大気圏への突入に失敗することがあってはならないから、恭介は麗華だけに声をかけた訳である。
麗華は恭介に頼られたことが嬉しかったらしく、返事をする声が弾んでいた。
緊急事態で頼りにされたことで、自分の成長や存在意義を感じられて喜んでいるとも言える。
「わかった。ラミアス、俺と麗華で出撃してクァチル・ウタウスとイゴーロナクを対処する。その間に瑞穂は大気圏に突入して日本に向かえ。俺達は敵を倒してから大気圏に突入する」
『…承知しました。私が言うのも変かもしれませんが、無理はしないで下さい』
「わかってるさ」
ラミアスは義体を手に入れたとはいえ、あくまでキャプテンプログラムだから生身の人間ではない。
それでも、恭介が瑞穂や高天原を守るためにいつも頑張っているのは重々承知しているから、ラミアスもそんな恭介を自然と心配するようになった。
AIにだって心は宿るのである。
恭介と麗華がカタパルト付近まで各々のゴーレムを移動させ、アンチノミーがカタパルトの上に乗るとラミアスのアナウンスが入る。
『進路クリア。アンチノミー、発進どうぞ!』
「明日葉恭介、アンチノミー、出るぞ!」
カタパルトから射出され、アンチノミーが瑞穂の外の宇宙空間に飛び出した。
『進路クリア。シグルドリーヴァ、発進どうぞ!』
『更科麗華、シグルドリーヴァ、出るわよ!』
シグルドリーヴァも宇宙空間に飛び出し、恭介のアンチノミーの隣に追いついた。
アンチノミーとシグルドリーヴァが出撃した後、瑞穂は大気圏に突入することだけに集中して降下を開始する。
それを妨害しようと急接近する勢力に対し、まずは麗華が全武装を一斉掃射してドールの数を減らす。
撃たれたドールが死体になり、それを喰おうとする個体がぞろぞろと動き出す。
味方だろうとなんだろうと、死ねば等しく餌としか認識できないようだ。
(さっさと倒すか。スケジュールが詰まってるんでね)
恭介はファルスピースを蛇腹剣に変え、アンチノミーの翼のビームブーメランと蛇腹剣も使って同胞の死体を喰らうドール達を倒していく。
敵の前でも同胞の死体を喰らって強くなることを優先するものだから、恭介も麗華もドールの群れを倒すのに対して手間はかからなかった。
ここで、クァチル・ウタウスとイゴーロナクについて説明しよう。
クァチル・ウタウスは人型の骸骨にガラスの破片がびっちりと集まった見た目をしており、何かに触れると風化させてしまう効果を有している。
何かが自身に近づけば近づく程、それが体感する時間だけが長くなっていざクァチル・ウタウスに触れそうな時には風化してしまうのだ。
物体よりもビームの方が効き目のある単一個体である。
イゴーロナクは頭部がなく掌に濡れた口があり、白熱して膨れあがったぶよぶよとした全裸の男性に似た姿をしている。
男性と女性なら女性に憑依しようとする傾向が強く、今もアンチノミーではなくシグルドリーヴァをロックオンしている。
『安心して下さい。全裸ですよ』
『こっち来んな!』
微塵も安心できない声が頭に直接響き、麗華は
(麗華の方は問題なさそうだな。俺は俺の敵に集中しよう)
クァチル・ウタウスの伝承からその能力を察していたため、恭介は物理的な攻撃を控えてファルスピースをビームライフルに変形させて使用する。
ビームブーメランもビーム部分こそ風化しないけれど、持ち手となる部分は機械だから風化してしまう。
ただのビームならば風化されないから、ファルスピースをビームライフルとして使いつつ、腰の4つのビットで攪乱して
『宇宙の塵にしてやろう』
「願い下げだよこの野郎」
かけられた言葉に恭介がノータイムで応じれば、クァチル・ウタウスが不快そうな感情の思念を全方位に放つ。
そんな思念なんて意に介さず、恭介はクァチル・ウタウスを撃墜せんと射撃し始める。
いきなり物理攻撃ではなく自身が風化できないビームを放って来たため、クァチル・ウタウスの中で恭介の脅威度が一段上がった。
出し惜しみなんてしている場合ではないと思ったからか、クァチル・ウタウスは体に付着したガラスの破片を散弾のように発射する。
(あれは直接触れちゃ駄目だな)
ガラスの破片はクァチル・ウタウスの体の一部だから、それに触れることで風化してしまう可能性は高い。
だからこそ、恭介はできる限りそれらを躱し、躱すのが厳しいものはファルスピースやビットで撃ち落とした。
『これで終わりよ!』
恭介が反撃のチャンスを狙っている一方で、麗華はイゴーロナクに対艦砲と呼ぶべき威力のビームを放って倒したところだった。
『1対2か。しかもあちらの方が発射するビームが多いとはやってられん。逃げ』
「逃がさねえから」
シグルドリーヴァに気を取られている間に、恭介は4つのビットをクァチル・ウタウスの死角にセットして一斉にビームを発射した。
クァチル・ウタウスが言い切らない内に、ビームはガラスの破片がない骨の部分に命中して砕けた。
体を構成する骨がいくつも砕けてしまえば、クァチル・ウタウスも満足に動けない。
それによって生じた隙を
戦場に残った残骸は、麗華が
「麗華、お疲れ様。そっちの方が早く終わったみたいだな」
『まあね。なんとなく気持ち悪い敵だったからさっさと倒しちゃった』
「外傷こそなさそうだけど、メンタルの方は無事か?」
『大丈夫だよ。あっ、でも、心配してくれるのは大歓迎だよ』
恭介に心配してもらえるということは、それだけ恭介が自分のことを考えてくれていることに他ならないから、麗華はそのことを喜んだ。
好きな人には自分のことを考えていてほしいという気持ちが、麗華にもやっぱりあるのだ。
『お疲れ様。周辺に敵影はないから戦闘は一旦終わりだね。瑞穂は無事に大気圏を通過して地球に降下して、空間の歪んでる地点に向かってくれてるよ。恭介君達にも来てほしいな』
「わかった。麗華、デブリを利用して盾を作れないか? 盾があった方が大気圏に無事に突入できるはずだ」
『任せて!』
麗華は各国が宇宙に放置したデブリを集め、
『宇宙ゴミが地味に問題になってるってニュースでやってたけど、確かに問題になるだけのゴミはあったね』
「まさか宇宙までポイ捨ての監視はできないからな。まあ、俺達が有効利用すれば少しは宇宙環境も良くなるさ。さて、行こうか」
『うん』
恭介と麗華は即席の盾も使い、ルーナのサポートも受けながら大気圏に突入して地球への降下を開始した。
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