第239話 不快な笑みですね。面の皮が厚い下半身直結男とは違うベクトルで不愉快です

 沙耶がレイダードレイク、晶がアスタロトに乗り込んでカタパルトに移動する。


『敵勢力は依然として接近中です。沙耶さんと晶さんの準備は整いましたか?』


「問題ありません」


『僕もOKだよ』


『承知しました。進路クリア。レイダードレイク、発進どうぞ!』


『筧沙耶、レイダードレイク、発進します!』


 カタパルトから射出され、レイダードレイクが高天原の外に飛び出す。


『進路クリア。アスタロト、発進どうぞ!』


『尾根晶、アスタロト、行きまーす!』


 アスタロトも宇宙空間に飛び出し、すぐに沙耶のレイダードレイクに追いつく。


 サクサクルースはドールの群れの後ろに控えており、ドールの群れは高天原から熱源ゴーレムが2つ出て来たを察したのか、刃をむき出しにして好戦的な笑みを浮かべた。


「不快な笑みですね。面の皮が厚い下半身直結男とは違うベクトルで不愉快です」


『やだー、比較対象が前首相じゃないですかー』


 恭介も筧前首相のことを嫌っているが、沙耶も筧前首相のことを嫌っていた。


 それはわかっていたことだけれど、クトゥルフ神話の侵略者と比較対象になるぐらい嫌っているということを知り、晶は苦笑しながら軽口を叩く。


 ドールを自分に近づけたくないと思っているようで、沙耶はレイダードレイクの尻尾の蛇腹剣で最前列のドールを薙ぎ払った。


 勿論それだけで攻撃を終わらせることなく、二対の翼からビットを飛ばしてその後ろに並ぶドール達も撃破していく。


『ちょっとちょっと、僕の分も取っといてよね』


 ボーっとしていると自分が倒すドールがいなくなってしまいそうだったから、晶もカタルシスからペリュトン爆弾を発射してドールの数を一気に減らした。


 跡形もなく消される個体もいれば、即死には至らずとも半分程体を失った個体もいる。


 そんな個体は後ろに控えているサクサクルースが舌を伸ばし、それらを捕食してパワーアップしていく。


「以前から思ってましたが、やられた味方を捕食して強くなるってどうなんでしょうか? 仲間意識の欠片も感じませんが」


『どうだろうね。もしかしたら、戦力として役に立たないのなら自分の血肉にしてその分だけ強くなるのが向こうの常識なんじゃないの?』


「他の雑魚モブにもその傾向は見られますから、十分にあり得ますね。晶さんはクトゥルフ神話の第一人者になれそうです」


『止めてよね。そんなSAN値がいくつあっても足りない役割は担いたくないよ』


 沙耶の発言に対して、それだけは勘弁してくれと晶は渋い顔をして応じた。


 ドールの数も減ってきたけれど、ドール達もただやられるだけの置物ではない。


 体を大きく膨らませ、それらの体が段々と赤く染まっていく。


 完全に赤く染まった個体から、ロケットスタートしてレイダードレイクとアスタロトに向かって飛び出した。


『ここは僕に任せて』


 晶がそう言ってアスタロトをレイダードレイクの前に移動させたところ、アスタロトに近づく存在はスペックが叶わない限りどれも減速するから、赤く膨れ上がったドール達も減速している。


 それを晶が狙撃したところ、赤く膨れ上がったドールは元々の形の時とは異なって派手に爆発した。


 爆発が連鎖して一気に視界が爆炎で塞がれるけれど、爆炎すら減速するからその隙に晶は後ろに退いた。


 沙耶は何があっても晶を援護できるようにするため、レイダードレイクをアスタロトの斜め後ろの位置に移動させて周囲を警戒していた。


 爆炎で視界が遮られている間に、サクサクルースが近くに残っているドールをまとめて捕食してパワーアップしていることに気づき、沙耶はサクサクルースの舌を二対の翼のビットで狙撃した。


 撃ったビームが舌を撃ち抜いたのだが、撃ち抜かれて千切れたはずの舌がすぐに繋がってしまい、サクサクルースが周囲のドールを平らげてしまった。


 爆炎が晴れた時に晶もサクサクルースの姿を目にしたけれど、その姿は爆炎で隠れる前よりも大きくなっていた。


『サーヤ、サクサクルースって成長期なの?』


「ドールが戦力にならないと判断したらしく、自爆しなかった残りの個体全てを捕食して大きくなりました。舌を撃ち抜いて阻止しようとしましたが、撃ち抜いた舌がすぐにくっついて捕食したんです」


『驚異の再生力だね。プラナリアもびっくりだ』


 そんなことを言っていると、サクサクルースが半分に分裂し始める。


「させません!」


分裂それはさせられないね!』


 分裂したら元々のサイズのサクサクルースが2体になるから、沙耶達は絶対に阻止してやると同時に攻撃した。


 ところが、その攻撃が余計に厄介な事態を招いてしまう。


 サクサクルースが蜂の巣になったと思ったら、小さいサイズになった代わりに6つに分裂したのである。


 しかも、3体の色が青くなり、残り3体が黄色く変色した。


『攻撃が効かない!? しかも属性を会得した!?』


「晶さん、落ち着いて下さい。おそらくですが、分裂しながら再生したせいで6体併せても大きくなった1体の体積には及ばないはずです。つまり、敵は切断ではなく確実に消滅させて削らなければならないということです」


『なるほどね。じゃあ、跡形もなく消す方向で攻撃してみるよ』


「私も遠距離攻撃に切り替えます。ギフト発動」


 沙耶は晶がゴーレムチェンジャーでアスタロトからグローリアに乗り換えている間、未来幻視ヴィジョンでサクサクルースの動きを確認してから機械竜形態に変形し、青い3体が同一直線上に並ぶ位置まで移動してビームを放った。


 水属性には土属性の攻撃が効くから、確実にサクサクルースの体を削り取れると思ってのことだ。


 弱点属性の攻撃を受けたことによって撃ち抜かれた3体が爆散したが、その残骸を残った3体が捕食することで黄色い3体のサイズが少しだけ大きくなった。


『大きい的なんて当てやすいじゃないか』


 風属性のグローリアに乗り換えた晶が三対の翼の銃でそれらを撃ち抜くことで、土属性になっていた3体も爆発した。


 しかし、サクサクルースの破片同士が結合して卵形態になり、それは風属性に変わっていた。


『その展開は見えてましたよ』


 既に火属性のアザゼルに乗り換えていたらしく、沙耶が両腕の大砲で卵を撃ち抜けば、爆発によって再生不可能なところまで破壊されてサクサクルースはいかなる姿にも変わらず動かなくなった。


 戦闘が終わったことを告げるべく、ラミアスが沙耶達に声をかける。


『沙耶さん、晶さん、お疲れ様でした。周辺に敵影はありません。高天原に帰還して下さい』


『「了解」』


 沙耶と晶が格納庫に戻ったところで、2人のゴーレムのコックピットにバトルスコアが表示される。



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バトルスコア(VSクトゥルフ神話)

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出動時間:32分18秒

撃破数:ドール94体

    サクサクルース1体

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総合評価:S

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報酬:資源カード(食料)100×6枚

   資源カード(素材)100×6枚

   120万ゴールド

ファーストキルボーナス:レイダードレイク専用兵装ユニット琥珀鉤爪アンバークロー

ノーダメージボーナス:魔石4種セット×60

ギフト:未来幻視ヴィジョンLv35(up)

コメント:これで3期パイロット達に先輩面できるね♪

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「間違ってませんけど、先輩面って言い方に悪意を感じますね」


『悪意だなんて嫌だなぁ、もう。私は事実を言ったまでだよ』


「だったらその悪意に満ち溢れた笑みを抑えなさい」


『それはできない相談だね』


 ニヤニヤ笑う顔を抑えようとしないルーナに溜息をつき、沙耶はレイダードレイクに乗り換えてファーストキルボーナスの確認を始めた。


 その結果、琥珀鉤爪アンバークローが両腕に追加されたことがわかった。


 琥珀鉤爪アンバークローは伸縮自在な鉤爪であり、爪の先端からビームも放てる二段構えの武器だ。


 近距離にしか使えないと思って近づいた場合、相手は痛い目を見ることになる。


 晶もアスタロト専用兵装ユニットを手に入れたようで、2期パイロット2人は自信を取り戻すと共にメインのゴーレムを強化できて満足のいく結果を得られた。

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