第238話 庭先に化け物が集まってて喜ぶ趣味はないね
レース会場から戻って来た麗華は、恭介に出迎えられた。
「お帰り。エクリプス専用兵装ユニットが加わったみたいだぞ」
「ただいま。うん。さっきのレースで
「翼が強化されてる。銃が仕込まれてるみたいだが、まさかたったそれだけってことはないだろうな」
「ちょっと調べて来るね」
麗華はエクリプスに乗り込み、
その結果、翼に内蔵された銃はアヴェンジャーが吸収したエネルギー量に比例してビームの威力が強化される上、魔石の消費を伴わない敵の攻撃エネルギーの身を利用したものだと判明した。
アヴェンジャーで攻撃を防ぐ前から普通の威力は出せるが、その際は通常通り魔石の消費を伴う。
エクリプスに新たな攻撃手段が備わったことは喜ばしいことなので、麗華は満足した表情でエクリプスのコックピットから出て来た。
そのタイミングでレイダードレイクとアスタロトが帰艦した。
コックピットから出て来た2人は、恭介達を見つけて駆け寄る。
「兄さんと麗華さんに相談があります!」
「恭介君と麗華ちゃんに相談があるんだ!」
「デジャヴ?」
「昨日も同じ感じだったよね。とりあえず、
恭介の問いかけに対し、麗華がその通りだと頷いてから4人は
今日は恭介が全員分の飲み物を用意し、それから沙耶と晶に話しかける。
「沙耶と晶の相談ってのは2機目のゴーレムの合成のことか?」
「正解です」
「流石恭介君! 僕達が説明しなくてもすぐに意図を理解してくれる!」
「そこにシビれないし憧れもしないでくれよな」
晶がネタに走るものだから、恭介はその辺にしておけという意味でネタを中断させた。
真面目な話をするのだから、過度なボケは不要なのだ。
恭介が場を一旦静まらせたため、麗華が本題に斬り込む。
「沙耶さんがオファニエルで晶さんがケルブだったと思いますけど、相談ってことは合成先の候補が複数あるんですか?」
「そうなんです。私も晶さんも設計図合成キットといくつかのゴーレムの設計図を手に入れましたから、メインのゴーレムからあまり性能が落ちないゴーレムをサブとして用意したいと考えてます」
「ここまで準備するためにゴールドも惜しみなく使ったよ。ゴールドなんて今の生活でショップチャンネルでしか使うことがないからね」
「良いなぁ…」
それゆえ、沙耶と晶みたいにショップチャンネルで景気良く大金を使ってストレス発散することができないから、2人を羨ましそうに見ていた。
ちなみに、2期と3期パイロット全員が瑞穂の私室をver.10までアップデートしているから、瑞穂には今のところアップデートするところがない。
これもまたショップチャンネルでゴールドを使う者が増える要因である。
「麗華がゴールドを自由に使えないのはわかってるから、欲しい物を教えてくれた時は俺が買ってるだろ?」
「それは本当に嬉しいんだけど、全部恭介さんに買ってもらうのは申し訳ないもん。奢ってもらう時だってちゃんと厳選してるよ。私だって一応今のところは黒字だから、自分で買えるものは自分で買うし」
「もう少し甘えてくれても構わないけどな。さて、脱線してしまったけど沙耶と晶の手持ちの設計図と合成候補を教えてくれないか?」
このままずるずると脱線したままだと時間のロスになるので、恭介は軌道修正して沙耶達に合成候補について訊ねた。
恭介の質問に2人が答えた内容をまとめると以下の通りである。
オファニエル+サイコドラグーン=アザゼル
オファニエル+アガリアレプト=パラノイア
オファニエル+ケルブ=セラフ
ケルブ+ジャンクセージ=グローリア
ケルブ+サタナキア=ドミネーター
アガリアレプト+サタナキア=ルシファー
セラフは麗華が以前使っていたゴーレムであり、ルシファーはレースで恭介達が競ったことのあるゴーレムだから特筆すべき点はない。
アザゼルは両腕が大砲、両脚が
パラノイアはパイロットが1つの戦闘で攻撃手段を絞れば絞る程、その攻撃の火力が上がる特徴を持つ翼人型ゴーレムだ。
グローリアは三対の翼に銃を内包しているだけでなく、機体からチャフをばら撒いてビームやミサイルを当たりにくくできる天使型ゴーレムである。
ドミネーターはハーロットよりも他のゴーレムにとっては厄介で、単体が対象だがスペックがドミネーターよりも低い機体の操作を乗っ取れる身分の高そうな人型ゴーレムだ。
沙耶が近接戦闘を得意だからアザゼルを選び、晶が遠距離戦を得意とすることからグローリアを選んだ。
ついでに、余ったアガリアレプトとサタナキアはルシファーに合成してしまい、誰かが使うか更に合成に使えるように在庫になった。
沙耶達は自分のサブのゴーレムの合成先が決まると、すぐに格納庫に戻って設計図の合成を始める。
(ん? ちょっと待てよ?)
恭介は残されたルシファーの設計図を見て、それがマーヴェリックの設計図と合成できることに気づいた。
誰も使わないなら使っても良いという取り決めにしたばかりだったが、恭介が使い道を見つけたのでありがたく使わせてもらうことにした。
ということで、恭介も設計図合成キットを購入してから格納庫に移動し、マーヴェリックとルシファーの合成を行った。
それにより、新たにアンチノミーというゴーレムが完成した。
アンチノミーはXを模る二対の翼を持つ翼人型の機体であり、上の一対の翼が天使のもので下の一対の翼が悪魔のものを模っている。
一対の天使の翼は着脱自在なビームブーメランになっており、一対の悪魔の翼は蛇腹剣になっている。
変わったところはそれだけではなく、アンチノミーの腰の両側にはそれぞれ2つずつビットが追加された。
この4つのビットは左側が天使の翼で右側が悪魔の翼と言うデザインであり、いずれもアンチノミーの周りを衛星のように回りながら追従し、ビームを射出して攻撃できる。
(棚から牡丹餅とはこのことだな)
元々こうなることは予想していなかったため、恭介は偶然にも普段使いするゴーレムが強くなったことに喜んだ。
先にゴーレムの合成作業を終えた沙耶と晶は、アンチノミーのコックピットから出て来た恭介を見て戦慄していた。
「兄さん、どこまで武装すれば気が済むんですか…」
「リアルラックが高い、いや、ゴーレムに愛されてるんだろうなぁ」
「恭介さんだもの。こんなこともあるって」
戦慄する沙耶達に対し、麗華は恭介ならばこういうことも起きると特に驚いたりしなかった。
婚約者としての余裕がそうさせるのではなく、恭介と共にタワー探索をしていた頃はしょっちゅう自分と恭介の運の差を見せつけられていたから、すっかり慣れてしまっただけである。
その時、格納庫にラミアスがやって来た。
「総員、第一種戦闘配備。繰り返します。総員、第一種戦闘配備。高天原にC120サクサクルース及びC015ドールの群れが接近中です」
ラミアスが告げたのと同時にモニターの映像が切り替わり、高天原に向かってゲル状のドラゴンと焦げ茶色の盲目巨大芋虫の群れが接近する様子が見えた。
「ラミアス、何処から現れたかわかるか?」
「ルルイエがあった地点とは別の方角のようです。情報通りであればエネルギーバリアを展開するだけで防御は問題ありませんが、高天原を取り囲まれるのは恭介さんも嫌ですよね?」
「庭先に化け物が集まってて喜ぶ趣味はないね」
「同感です」
恭介の言い分を聞き、ラミアスも本当にその通りだと力強く頷いた。
そこに沙耶が声をかける。
「兄さん、ここは私と晶さんが出撃します」
「良いのか? 俺も新しいゴーレムの試運転がてら手伝うけど?」
「大丈夫です。兄さんは瑞穂、いえ、高天原の精神的支柱でもあります。この程度の敵は私達だけで十分です。それに、合成して新しくなったゴーレムで単一個体を倒せれば、私達もまだまだ3期パイロットには負けないと自信を持てます。ここは任せて下さい」
「全部サーヤに言われちゃったね。まあ、僕達だけでやらせてよ」
そこまで言われてしまえば、恭介も出撃すると強情に言ったりしない。
「わかった。気を付けてな」
「「はい!」」
恭介は沙耶達に敵の相手を任せ、麗華と共に瑞穂で待機することにした。
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