第237話 今日から君はスナイプクイーンだ!

 コロシアムから戻って来た恭介は、笑顔の麗華に出迎えられた。


「すごいよ恭介さん! 瑞穂の黒い凶星だって! 瑞穂の黄色い弾丸よりも強そうだよ!」


「麗華、お前もか…」


 自分としてはその二つ名を好意的に捉えていないのだが、麗華は気に入っているらしい。


 いじるつもりなんてこれっぽっちもなく、ただ純粋に喜んでいる麗華を見て恭介は苦笑するしかなかった。


「私もそろそろ傭兵アイドルは卒業したいな。GBOが現実になった今、別に傭兵でもアイドルでもないし」


「言われてみれば確かにそうだな。名乗りたい二つ名があるんだったら、決めといた方が良いと思うぞ。そうじゃないとルーナに勝手に名付けられた挙句、掲示板に晒されてバズったらしいから」


「そっかぁ。私はどうしようかなぁ。恭介さん、何か良い二つ名はない?」


 (俺に二つ名のセンスを求めないでくれ)


 ノータイムでツッコみたくなったけれど、期待の眼差しを向けられてそれをスルーするような恭介ではないから、何かそれっぽいものを考える。


 そうしている間に、格納庫のモニターの電源がオンになってルーナも話に加わる。


『札束ビンタクイーンとか、成金スナイパーとかどう? 麗華ちゃんにぴったりだと思うんだけど』


「却下。ハウス」


『どうしてだよぉぉぉ!』


 ルーナが叫んですぐにモニターの電源がオフになった。


「スナイプクイーンでどう?」


「シンプルで良いね。恭介さんと一緒で瑞穂のって頭に付けたい。よし、瑞穂のスナイプクイーンに決めた。じゃあ、早速レースに行って来るね」


「油断するなよ。キメラパークは合成獣キメラ型モンスターだらけだから」


「うん」


 麗華は恭介の注意にしっかりと頷き、シグルドリーヴァに乗ってレース会場に移動した。


 それからすぐにルーナがモニターに現れる。


『瑞穂のスナイプクイーンね、了解』


「酷い二つ名を付けようとした割にはやけに素直じゃないの」


『チッチッチ。甘いよ麗華ちゃん。私がわざと酷い二つ名を提案することで、恭介君が考えた二つ名を口にしやすい環境を作ったんだ。恭介君は二つ名なんてなくて良いと思ってるし、そういうのを考えるのは苦手そうだったでしょ? だから、私が意見を出しやすくなるようにハードルを下げたのさ』


「ふーん。まあ、そういうことにしといてあげるわ。それよりも早く入場門を開いてちょうだい」


『はーい』


 ルーナが入場門を開いたため、麗華はシグルドリーヴァを操縦してその中に入った。


 キメラパークのスタート地点には既に7機のゴーレムが位置に着いており、シグルドリーヴァが位置に着くのを待っている。


 1位の位置から順番に火属性のオファニエル、風属性のエインヘリヤル、土属性のアリコーン、水属性のアスタリスク、火属性のハーロット、風属性のエクリプス、土属性のゲヘナキーパーが並ぶ。


 7位のゲヘナキーパーを除き、属性の一致を考慮しなければいずれも瑞穂クルーがサブのゴーレムとして使っている機体ばかりだ。


 麗華がシグルドリーヴァを8位の位置まで移動させたため、レース開始のカウントダウンが始まる。


『3,2,1,GO!』


 開始の合図と共に、5位のハーロットが信号をオンにしてシグルドリーヴァと自身を除くゴーレムがまともに操縦できず、シグルドリーヴァが1位でハーロットが2位に躍り出て、それ以外はスタートダッシュに失敗した。


 このレースで麗華がハーロットに乗り込んで来なかったのは、事前にハーロットが出て来るとわかっており、ハーロットが出て来るならば勝手に足止めをしてくれるとわかっていたからだ。


 ハーロット同士ではスペックが変わらないから、それならばハーロットにスペックで勝っているシグルドリーヴァでスタートダッシュを決めるのが賢い選択と言える。


 だからこそ、麗華は最初からシグルドリーヴァに乗っている。


 ハーロットは信号をオフにするつもりがないようなので、3位以下のゴーレムがハーロットを抜くにはハーロットがコース内の邪魔者に排除されるか、自分達が信号の効果範囲外からハーロットを仕留めるしかない。


 それはそれとして、レースが始まってから麗華が最初に遭遇したのはキマイラの群れだった。


 (コロシアムじゃ単体で出現するモンスターを群れで出すとか頭がおかしいわ)


 キメラパークというコース名から、合成獣キメラ型モンスターが邪魔者として集まるのはわかるが、それでもコロシアムに出て来るようなモンスターが雑魚モブ扱いだなんてふざけていると思うのも仕方ないだろう。


 麗華は現状にツッコんだものの、シグルドリーヴァに乗り換えた麗華は特に対策せずともトップスピードに到達して生じた風のバリアで突っ切れるから、それらを無視して進む。


 最初は攻撃を当てようとするキマイラもいたのだが、追いつけないし攻撃も当たらない敵の邪魔をするよりも、これから来る敵に邪魔した方が役目を果たせるのでシグルドリーヴァを狙わなくなった。


 そのせいで2位のハーロットが足止めを喰らい、キマイラの群れを倒さなければ安全に先には進めなくなってしまった。


 次に現れたケルベロスは短気な性格の個体が多いので、攻撃して来た者が味方であろうとやられたらやり返す。


 その特性を利用し、麗華はフレンドリーファイアさせて時間をかけずにケルベロスゾーンを通過してみせた。


 (恭介さんのレースをじっくりと観戦したんだもの。この程度で私を止められると思わないでよね)


 あと少しで1周目が終わるというタイミングで、コカトリスの群れが待ち構えていた。


 それでも、コカトリスの攻撃はキマイラと大差ないスピードだったから、それが届くまでに突っ切れば良い。


 それゆえ、ケルベロスゾーンを通過するよりも簡単にコカトリスゾーンを通過して麗華は2周目に突入した。


 コースを半周するまでの間に、ゲヘナキーパーとアスタリスク、アリコーンが合成獣キメラ型モンスターにやられたらしくレース続行不可能な姿で見つかった。


 それはまだ奮戦した形跡が見られたからまだマシだったが、エインヘリヤルに至っては大量のトリオレイヴンによるバードストライクで大破していた。


 (これこそ数の暴力ね。気を付けないと)


 こんな風に思っていたからなのか、正面にトリオレイヴンの群れが大きく広がってシグルドリーヴァを待ち構えていた。


 それらは自滅覚悟で一斉にシグルドリーヴァに向かって突撃し始める。


「冗談じゃないわよ!」


 エインヘリヤルと同じ目に遭いたくないから、麗華はシグルドリーヴァの全武装を一斉掃射することで、トリオレイヴンの群れを撃ち落として穴を開けてそこを通過した。


 一度追い抜いてしまえば追いつかれることはなかったから、麗華の当面の危機は去ったと言える。


 コカトリスゾーンにはミルメコレオの群れも追加されており、そこではオファニエルが足止めされていた。


 オファニエルは麗華にも半分ぐらい敵を引き受けてもらおうと考えたらしく、シグルドリーヴァに接近して来た。


「こっちに来ないで」


 麗華は容赦なく全武装でオファニエルを狙い撃ち、オファニエルはそれを躱し切れずに撃破された。


『冷徹冷徹ゥ!』


「失 せ ろ」


『あっはい』


 ルーナは麗華にゴミを見る目を向けられ、おとなしくモニターから姿を消した。


 その直後にはシグルドリーヴァが3周目に突入しており、キメラパークの空が雷雲に包まれる。 


 更にアンピプテラまで出現するようになり、コースを半周した地点ではエクリプスがキマイラとケルベロス、アンピプテラに包囲されながら攻撃を受けていた。


 (そっとしておきましょう)


 関わっても時間のロスになるだけだから、麗華は参戦せずにコースを直進した。


 その更に奥にはハーロットがいて、こちらはアンピプテラとトリオレイヴン、ミルメコレオの混成集団と絶賛戦闘中だった。


 今度はコース全体にモンスターが広がっていたため、麗華は全武装で自分の正面にいる敵だけ攻撃して隙間を作り、そこを通過してハーロットを置き去りにした。


 トップスピードのシグルドリーヴァには誰も追いつけず、麗華はそのまま1位でゴールした。


『ゴォォォル! 優勝は瑞穂のスナイプクイーン、福神漬け&シグルドリーヴァだぁぁぁぁぁ!』


 アナウンスが聞こえてすぐに麗華はキメラパークを脱出し、モニターに映し出されたレーススコアを確認し始める。



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レーススコア(ソロプレイ・キメラパーク)

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走行タイム:38分12秒

障害物接触数:0回

モンスター接触数:0回

攻撃回数:79回

他パイロット周回遅れ人数:7人

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総合評価:S

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報酬:資源カード(食料)100×5枚

   資源カード(素材)100×5枚

   50万ゴールド

ぶっちぎりボーナス:エクリプス専用兵装ユニット回顧録メモワール

ギフト:金力変換マネーイズパワーLv39(stay)

コメント:今日から君はスナイプクイーンだ!

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 (希望が通って良かったわ。変な二つ名になったらどうしてくれようかって思ってたもの)


 麗華はエクリプス専用兵装ユニットの回顧録メモワールが手に入ったことも喜んでいたが、それ以上に自分の新しい二つ名が変にテコ入れされずに済んだことを喜んでいた。

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