第234話 私はハズレ枠じゃないんだからねっ。勘違いしないでよねっ

 午後になり、沙耶と晶は各々の新しいゴーレムに乗ってコロシアムにやって来た。


「ルーナ、バトルメモリーのハネムーンガーディアンに挑戦します。入場門を開いて下さい」


『準備万端って感じだね。そりゃ、恭介君のアドバイスを貰えば大丈夫でしょうよ』


『ルーナってば拗ねてんの? 構ってほしいの?』


『むっ、晶君なんて午前のマルチプレイでようやくギフトレベルが30になった癖に、偉そうな物言いだね』


 沙耶と晶は午前中に挑んだコロシアムのマルチプレイにより、それぞれギフトレベルが33と30になった。


 昨日からフォルフォルをルーナと認識できた沙耶から1日遅れ、晶も同じ状態になったからこそルーナ呼びしている。


 ルーナは午前中に自分はアドバイスしてほしいと言われなかったから、誰から見てもわかりやすく拗ねており、その原因は今のやり取りで沙耶と晶にも理解できた。


「いつもふざけてるルーナと頼れる兄さんだったら、アドバイスを受けるのは兄さんしか考えられません。諦めて下さい」


『その二択を間違える訳にはいかないよね』


『私はハズレ枠じゃないんだからねっ。勘違いしないでよねっ』


『はいはい。入場門を開いたらおとなしく消えてね』


 ツンデレ口調のルーナが入場門を開き、沙耶は肩を竦めて晶はバッサリと斬り捨ててから入場門の中に自身のゴーレムを進ませた。


 入場門の先にあったのは宇宙に向けたリニアカタパルトのある近未来的な空港だった。


 そのリニアカタパルトの上には、全身がハートマークやコックピットに乗ってる2人のデフォルメキャラがイチャイチャしたイラストの描かれたピンク色のキュクロが待機していた。


「これは痛いですね」


いてててて、ルーナさーん。これは痛いよー』


『私の趣味じゃないんだ! 私は悪くない! ハネムーンガーディアンに出て来るキュクロのデザインは掲示板に常駐する日本人の想像から無作為にランダムで選んだんだ! さて、ハネムーンガーディアン、開始!』


 それはつまり、キュクロにこんな痛々しいデザインを考えていた日本人がいたということで、違う意味で沙耶と晶に頭痛を引き起こさせた。


 そんなやり取りをしている内に、ハネムーンガーディアンの開始の合図が出されてキュクロの発進を邪魔するために第一ウェーブの敵がやって来る。


 キュクロの発進を邪魔するように現れた最初の敵とは、奇しくも1期パイロットのチャレンジと同様にワイバーンの群れだった。


『ワイバーンのお肉は倒した分だけ君達の物だから、張り切って狩って良いよ。あっ、君達は別にカップルじゃなかったね。ごめんね☆』


「ゲスナは黙ってて下さい」


『煽るしかできないならハウス』


『えぇ〜? 折角気を利かせたのに酷いな〜』


 ニヤニヤしながらルーナはモニターから姿を消した。


 師匠面するための作戦に失敗したから、せめてこの場では爪痕を残そうという考えのようだ。


「晶さん、ルーナの言ったことは忘れてコンテンツに集中して下さいね」


『わかってるって』


 気持ちを切り替えた沙耶達は、ワイバーンを手前の個体から倒し始める。


 火の息を吐き出されたとしても、沙耶も晶も自分のゴーレムを操作して確実に回避した。


 突撃して来る個体は沙耶が対処し、遠くから火の息を吐くだけの個体は晶が狙撃することで、第一ウェーブはピンチに陥ることなく切り抜けられた。


 最後のワイバーンの体が光になって消え、第二ウェーブで現れたのはクレタブル2体だった。


 それらは現れて早々に、ピンク色のキュクロを破壊すべく突進し始める。


「破壊したくなる気持ちはわかりますが、そうはさせません」


『悪いけどこれ、護衛ミッションなのよね』


 沙耶と晶だってハネムーンガーディアンというコンテンツでなければ、痛々しいデザインのキュクロになんて関わりたくないのだ。


 だからこそ、クレタブルの破壊衝動に理解を示しつつ、沙耶は大鎌デスサイズ形態のユーザーパーでクレタブルの首を刈り取り、晶はカタルシスの砲撃でクレタブルの頭部を撃ち抜いた。


 単調な動きをする敵に攻撃を当てるなんて沙耶達からすれば余裕だから、第二ウェーブも余裕を持ってクリアできた。


 恭介達の時はタクティクスドラゴンフライが現れた第三ウェーブでは、デモニックブレードが2体現れた。


 デモニックブレードはすぐに配下の剣を大量に召喚し、それらを纏ったデモニックブレード同志が合体することで双頭竜が完成した。


『沙耶ちゃん、周りの剣は僕が惹きつける。その内に本体を倒してね』


「わかりました」


 晶は沙耶が承諾してすぐに磁力挑発マグネプロヴォークを使った。


 磁力挑発マグネプロヴォークとは堅牢動盾シールドがLv30に到達したことで得られた派生能力で、敵の攻撃を確実に自分に誘導できる効果がある。


 堅牢動盾シールドがあれば攻撃は防げるけれど、そもそも攻撃が自分に向かなければ堅牢動盾シールドを使えてもあまり意味がない。


 だったら堅牢動盾シールドを意味あるものにするために、磁力挑発マグネプロヴォークで敵の攻撃を自分に誘導できれば完璧ということである。


 今日は午前中に堅牢動盾シールドを使ってしまったけれど、アスタロトは自身に何かが近づけば近づく程そのスピードの落ちるフィールドを展開できるから、それで迫り来る攻撃を撃ち落としてしまえば良い。


 実際に、今も双頭竜を模ったデモニックブレードの体を構成する剣が次々にアスタロトを襲うが、近づいた剣からどんどんその速度が落ちていくので、晶がカタルシスからペリュトン爆弾を発射してまとめて破壊している。


 コアとなる本体が剥き出しになれば、沙耶としては非常に狙いやすい。


 尻尾の蛇腹剣でXの形で交差しているデモニックブレードをまとめて拘束したら、それを締め付けながら引き寄せる。


 大鎌デスサイズ形態のユーザーパーが届く位置に来た時、拘束を解除すると同時にユーザーパーを振り下ろしてデモニックブレードをばっさりと切断した。


 本体が力尽きれば召喚された剣は自動的に消えるため、この場に残るのは真っ二つにされたデモニックブレード2体だけだ。


 その2体も時間経過で光の粒子になって消え、第四ウェーブに移行する。


 今度はスケリトルドラゴン2体が上空に現れ、護衛対象のキュクロをそのまま踏みつぶしてやろうと落下する。


「あまりやりたくなかったのですが、こうなっては仕方ありませんね」


 沙耶は嫌そうな顔をしつつ、レイダードレイクを機械竜形態に変形させた。


 その瞬間、スケリトルドラゴン2体の首がぐるりと方向を変え、機械竜形態のレイダードレイクをロックオンしてキュクロへの興味を失って一直線で飛んで来る。


 これは以前、恭介がリュージュに乗っていた頃にスケリトルドラゴンをうっかり誘惑してしまった話を思い出し、沙耶がこの場で実践したのだ。


『サーヤの囮作戦を無駄にはしないよ!』


 晶がカタルシスからミサイルを連続して発射し、スケリトルドラゴンを撃ち落とす。


 ビームで撃ち落とすよりもミサイルをぶつけて推進力を殺して爆破した方が、沙耶に危険が迫らないと考えてのことである。


 アンデッドゆえのしぶとさで辛うじて動けていたけれど、逃げていた沙耶が攻めに転じてユーザーパーで薙ぎ払えばそれがとどめになった。


 ここで出て来る敵を倒せば丁度半分の第五ウェーブでは、突然空港にトレントが現れた。


 それだけで空港の損害率が5%進んでしまったけれど、出現するモンスターはランダムだから運が悪かったと思うしかない。


 トレントは土属性だから水属性のアスタロトは属性的に相性が悪いので、晶はゴーレムチェンジャーでケルブに乗り換えた。


 メインとサブでゴーレムの性能差があるのは辛いところだけれど、それでも空港やキュクロに被害が出る前に倒すのなら相性を優先する判断は妥当である。


 ケルブも火力がない訳ではないため、それも晶がゴーレムチェンジャーを使おうと判断した理由だ。


 晶がチクチクとトレントにダメージを蓄積させている一方で、沙耶は機械竜形態のまま動かないトレントに向かってビームを放っていた。


 歩いて逃げない相手ならば、ビームを撃つのに丁度良いからである。


 トレントのど真ん中に風穴が開き、沙耶は一撃でトレントを倒すことに成功した。


 その数分後には、晶ももう片方のトレントの体力を削り切って勝利した。


 損害は最初にトレントが出て来た時の5%だけの状態で折り返し地点まで来たから、順調と呼んで良い結果だろう。


 沙耶は機械竜形態からデフォルトの形態に戻り、晶もアスタロトに乗り換えて第六ウェーブの開始を待った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る