第228話 日本語で喋れや

 現れた化け物の正体について、ルーナがすぐに言及する。


『わかってると思うけど、これがルルイエの主C203クトゥルフだよ』


「だろうな!」


 恭介はクトゥルフを見つけて早々に、核ミサイルの破壊力をイメージした土精霊槌ノームハンマーを使ってそれを攻撃する。


 クトゥルフの体がルルイエに叩きつけられると共に、ルルイエ全体に大きな罅が行き渡った。


 クトゥルフの体は濃い青色であり、その属性は水として知られている。


 したがって、土精霊槌ノームハンマーはクトゥルフに大ダメージを与えるはずだった。


 ところが、クレーターの中心に飛び散った破片が集まってクトゥルフが再生した。


「マジかよ。あれを喰らって再生するのか」


『恭介君、今のは単純な再生ではないよ』


「どういうことだ?」


『クトゥルフが再生する時にルルイエにいる瑞穂クルー以外の生命体の反応が消えた。つまり、ルルイエの住民の命を代償にクトゥルフが再生したんだ。しかも、最初に現れた時よりも少しだけ小さくなってるから、ルルイエの生き残りの命だけでは足りなくて、自分の体も再生するための代償にしたんだ』


 ルーナに言われて見てみれば、恭介の目にもクトゥルフは最初よりも少しだけ小さくなったように見えた。


『やられたらやり返す』


 その声が恭介と麗華の頭に直接届いた途端、クトゥルフは触手のような髭を束ねて巨大な槌を形成し、それでドラキオンを攻撃する。


『私のことを無視しないでくれる?』


 クトゥルフの側面に移動した麗華は、ブリュンヒルデの全武装で一斉掃射してクトゥルフの攻撃を邪魔した。


 被弾することでクトゥルフの動きが鈍るけれど、クトゥルフは是が非でも攻撃を当てると決めたのか攻撃を止めなかった。


「斬る!」


 恭介はラストリゾートを大太刀に変え、槌に変えた髭の先ではなくその根本を切断した。


 先程の土精霊槌ノームハンマーで破片が集まって再生していたため、麗華が切断された髭をビームで焼失させれば、クトゥルフはノーコストで再生できない。


 現に、髭を再生させたクトゥルフの体はほんの少し小さくなった。


「このまま再生できなくなるまで削るしかないか」


『手間はかかるけど、倒せる方法さえわかれば大丈夫!』


「そうだな。削れるだけ削ったら、麗華のギフトでとどめを刺そう」


『了解!』


 2人は戦闘の方針を決めてすぐに行動に移る。


 クトゥルフは髭を刃に変え、それらを振り回すことで恭介と麗華を近づけさせない。


 防御だけでは恭介達を倒せないから、クトゥルフは攻撃手段として自分の周囲に大量の水の弾を創り出してドラキオンとブリュンヒルデに向かって射出する。


 恭介はラストリゾートを盾に変形させて身を守り、麗華は混沌衛砲カオスサテライトでエネルギーバリアを展開して防いだ。


 クトゥルフの攻撃が終わった隙に恭介は再び接近し、髭の根本を斬る。


 麗華もそれに合わせてビームを放つから、クトゥルフが髭を再生させた時にその体はまた小さくなった。


 そこにルリム・シャイコースを倒した2期と3期パイロットが合流する。


『兄さん、援護します』


「わかった。沙耶と晶は距離を保ったまま攻撃。3期パイロットはルルイエの破壊を進めろ。クトゥルフは上位単一個体だ。幻影を見させられた3期パイロットが相手をするにはリスクが大き過ぎる」


『了解しました。皆さん、行動を開始して下さい』


『『『『『了解!』』』』』


 この戦場で恭介の作戦に異を唱える者はいない。


 3期パイロットの中でも、特に明日奈は恭介と一緒に戦いたいという気持ちが強かったが、恭介の足を引っ張る真似だけはしたくなかったからおとなしくその指示に従った。


 沙耶と晶の援護が加わったことにより、クトゥルフの攻撃にイライラした感情が乗って雑になる。


 鉤爪のある腕を伸ばし、ガイアドレイクとサルガタナスを攻撃するけれど、その攻撃は大振りで避けるのは容易かった。


 髭と腕を同時に操るのは難しいようで、クトゥルフの動きに隙が増えた。


 その隙を見逃す恭介達ではないから、今度は髭だけでなく腕も切断してはビームで跡形もなく破壊してみせた。


『不快、不快、不快』


 再生したクトゥルフはさらに小さくなったが、その色味が濃くなる。


 それだけに留まらず、全身のあちこちにある瘤が突然膨らみ始めた。


『みんな離れて! 瘤の中に高エネルギー反応!』


 ルーナの声が聞こえた瞬間、恭介達はクトゥルフから急いで距離を取った。


 その対応は正解だった。


 クトゥルフの瘤が体から分離し、全方位に向かって射出されてすぐに爆発したからである。


 距離を取らずにいたならば、爆発の餌食になっていただろう。


 爆炎のせいでその奥で何が起きているかわからなかったが、それが消えた時にクトゥルフの姿が繭に変わっていた。


「麗華、作戦変更! ギフトを使ってくれ!」


『わかった! ギフト発動!』


 繭の中でクトゥルフがどんな変化を遂げているかわからないが、このままそれを見過ごす訳にはいかない。


 幸いにも繭は動かないから、麗華は100万ゴールドをコストに金力変換マネーイズパワーを発動し、強力な一撃を繭に向かって発射した。


 それが直撃して繭に風穴ができて爆散するも、その破片が急速に集まって1機のゴーレムを模った。


 その姿は翼の代わりに歯車を背負っているが、ブリュンヒルデによく似ていた。


 サイズもドラキオン等のゴーレムと同じであり、歯車の先端はビットになっていて、それが射出されたと思ったらビームを撃ち始める。


『うっ!?』


『嘘でしょっ!?』


 ビットの数は24もあり、恭介達の乗る4機のゴーレムに対して6つずつ割り当てていたため、恭介と麗華に操縦の腕では劣る沙耶と晶が被弾してしまう。


 それでも、被弾したのはどちらも脚部だからまだ戦える。


「沙耶と晶はルルイエの破壊作業に回れ。今のお前達にこの形態のクトゥルフは荷が重い」


『…わかりました』


『ごめんね』


 ギフトを使っても自分達だけ被弾してしまったから、沙耶も晶も反論せずルルイエの破壊作業に移った。


 それにより、恭介と麗華を襲うビットの数が12ずつになったけれど、2人は問題なくそれらから放たれるビームを躱してみせた。


『踊れ、踊れ、踊れ』


 クトゥルフの声がした直後、ビットからのビームに加えて水の弾がドラキオンとブリュンヒルデを囲んで発射される。


 (使うならここだ)


 恭介は攻撃吸収アタックドレインを発動してビームも水の弾も全て吸収してみせた。


 麗華も混沌衛砲カオスサテライトのエネルギーバリアで被弾せずに耐え抜いた。


 攻撃が止んだ直後に恭介は反撃に移り、吸収したエネルギーをスピードに回してクトゥルフに接近した。


 そして、ラストリゾートをビームソードに変形させて横薙ぎと振り下ろしを放つことで、クトゥルフの体を四等分にしてみせた。


 また再生するのかと思いきや、クトゥルフの切断された体はくっつくことがなかった。


『ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるふ るるいえ うがなぐる ふたぐん』


「日本語で喋れや」


 そう言って恭介はラストリゾートをビームランチャーに変え、破片を2つまとめて破壊する。


 麗華も残った2つの破片に集中してビームを放ち、クトゥルフの体は完全に消えた。


『やったね! クトゥルフの生体反応が消えたよ! 大勝利!』


 ルーナの喜ぶ声が聞こえた直後、ラミアスからの連絡が復活する。


『恭介さん、麗華さん、ご迷惑をおかけしました。C203クトゥルフが倒されたことで、私からの連絡が届くようになりました。突然ですが、ルルイエから離れて下さい』


「ここで何か起きるのか? それとも敵の増援が来るのか?」


『前者です。C203クトゥルフが倒れるのと同時に、ルルイエ内部に高エネルギー反応が発生しました。あと5分で爆発するでしょう』


「脱出する。沙耶達に連絡はしたか?」


 自分達が離脱するのは当然だが、ルルイエの破壊作業をしていた沙耶達を置き去りにする訳にはいかないので、恭介はラミアスに訊ねた。


『勿論です。既にルルイエから脱出を始めております』


「わかった。麗華、俺達もルルイエを出るぞ」


『うん!』


 懸念事項がなくなったため、恭介は麗華と共にルルイエから脱出した。


 瑞穂の正面まで2人のゴーレムが辿り着いた時、恭介達の侵攻作戦でボロボロだったルルイエが派手に爆発する。


『汚ねえ花火だ』


「ルーナ黙って」


『はーい』


 ボケるポイントがあれば必ずボケるルーナを黙らせ、恭介と麗華は瑞穂クルーの中で最後に着艦した。

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