第227話 恥の多い生涯を送って来ました

 クティーラを倒してルルイエに到着した恭介と麗華は、先行した沙耶達が暴れた痕跡を見つけた。


「どうやらここから10時の方向に向かったらしいな」


『そうみたいだけどさ、6機のゴーレムが暴れたにしては生温くない?』


『その点については私から補足するよ。沙耶ちゃん達はルルイエに到着した途端、2人組3つにワープで分断されちゃったんだ。この地点では沙耶ちゃんと晶君が暴れたんだよ』


「分断されたってのは穏やかじゃないな。ルーナのアナウンスで合流させられないのか?」


 沙耶達を先にルルイエに行かせたが、それはあくまで6人が固まって動けば問題ないと思ってのことだ。


 分断されてしまったとわかれば、恭介の心中は穏やかではない。


『最初は連絡も取れなかったけど、今はどうにか連絡が取れてるよ。6人も合流してる』


「それは良かった。誰か負傷してるとかある?」


『大丈夫。ただ、3期パイロット4人は明日奈ちゃん&仁志君ペアと遥ちゃん&潤君ペアがお互いをクトゥルフ神話の侵略者に見えてしまうよう細工されて、少しの間だけ戦闘になったんだ』


「幻影系の能力か。厄介だな。さっき大丈夫って言ったってことは、特に誰も負傷することはなかったってことだよな?」


『その通り。仁志君と遥ちゃんがお互いの戦闘の癖で疑問を抱いて、それがきっかけで見た目に騙されちゃいけないって気づいたからね。私も沙耶ちゃんと晶君のおかげで3期パイロットを私の力が及ぶ範囲に入れられたから、本格的な戦闘が始まる前になんとか収められたよ』


 ルーナの報告を聞き、恭介も麗華もホッとした表情になった。


 クトゥルフ神話の侵略者達には目に見える物を騙す存在もいると知り、目に見える物だけを信じるとうっかりフレンドリーファイアすることになってしまうため、これからは注意する必要があるだろう。


「フレンドリーファイアの可能性は可能な限り避けたい。ルーナ、幻影に騙されなくなる条件とかわからないのか?」


『今のところ、ギフトレベルが25以下だと危険だね。3期パイロットで最もギフトレベルが高い明日奈ちゃんがLv25だったから。2期パイロットの2人は幻影の影響を受けてなかったよ』


「ギフトレベル20で即死は防げても、ギフトレベル26にならないとフレンドリーファイアの可能性があるとはな…。いやらしい力を持った敵もいるもんだ」


 恭介の話を聞いて麗華もその通りだと頷く。


 2人ともギフトレベルは30以上であり、恭介に至っては43もある。


 それぐらいになれば、クトゥルフ神話の侵略者のあらゆる精神攻撃も通用しないけれど、3期パイロットにはまだ荷が重かったようだ。


 その時、恭介達の正面の空間が歪み、金属製のマッチが幾何学図形を模っている存在が現れた。


「ギフト発動」


 恭介がギフトの発動を宣言し、彼はドラグレンのコックピットからドラキオンのコックピットの中に移った。


 その後すぐに、恭介は竜鎮魂砲ドラゴンレクイエムを発射して敵の出鼻を挫く。


 麗華も追い打ちをかけるように全武装で一斉射撃をすれば、突然現れた敵は残骸だけ残してピクリとも動かなくなった。


『わーお。C118ダオロスも瞬殺だね。流石は恭介君と麗華ちゃん』


「ラミアスは敵を捕捉できなかったのか?」


『私の力は恭介君達を起点として発揮できるんだけど、瑞穂にいるラミアスのアナウンスはまだどのゴーレムにも届けられないんだ。だから、一時的に私がナビゲーターの役割を担うよ』


「敵の接近を伝えられてなかったけど?」


 恭介が指摘した通りで、ルーナがダオロスについて情報連携する前にそれが現れた。


 なんで教えてくれなかったのかと突っ込まれ、モニターに映るルーナは申し訳なさそうに応答する。


『ごめんね。ダオロスの接近を告げようとした時には、恭介君が既に攻撃してたんだ』


『人間に反射神経で劣るって神としてどうなの?』


『ぐぬぬ…。麗華ちゃんも言うじゃないか。今回ばかりは私の非を認めるよ』


「『今回だけ?』」


 ルーナの言葉に疑問を抱き、恭介と麗華の声がシンクロした。


『恥の多い生涯を送って来ました』


「『知ってる』」


『そんなぁ…。ネタのつもりだったのに』


 ネタのつもりで言った言葉を恭介と麗華に本気だと捉えられ、ルーナがしょんぼりした。


 今までのことを思い返してみれば、ルーナのゲス発言は両手両足の指では数えきれないレベルなので、恭介達は決して同情しない。


 恭介はそれよりも気になったことがあったため、ルーナに訊ねてみる。


「さっきダオロスをC118って言ったよな。C117って何? もしかして、沙耶達が戦ってる?」


『正解。沙耶ちゃん達は今、C117ルリム・シャイコースと戦闘中だよ』


「どんな奴? 沙耶達だけで倒せそう?」


 6人もいれば心配するのは過保護と思うかもしれないが、沙耶達が到着した途端に分断するようなルルイエは確実にアウェーだから、恭介が心配するのも当然だ。


 麗華も心配そうな表情になっている。


『見た目は巨大な灰色の蛆虫で、両目から常に血を噴き出してそれを操る単一個体だね。今のところ、反撃されても被弾は0だし順調にダメージを与えられてるから、10分もあれば倒せると思うよ』


 6機のゴーレムが少なくとも10分以上かけて倒す敵ならば、タフな敵だと考えるべきだろう。


 それでも、被弾がないのだから着実にダメージを与え続ければ倒せるので、恭介と麗華の心配事はなくなった。


 ルーナは今度こそ役立たずなんて言わせないんだと思っていたため、自分がキャッチした情報を2人に告げる。


『恭介君と麗華ちゃん、気を付けて! C119ツァトゥグァが来るよ!』


 その瞬間、ドラキオンとブリュンヒルデの前に魔法陣が現れる。


『イア イア グノス=ユタッガ=ハ! イア イア ツァトゥグァ!』


 恭介達の脳に直接その声が聞こえた直後、魔法陣から巨大な腹部とヒキガエルに似た頭部を持つずんぐりむっくりな群青色の化け物が現れた。


 これがツァトゥグァなのだが、腹を空かせているのか口から涎を垂らしている。


「おいおい、ゴーレムを見て食欲が湧くってどゆこと?」


『私達には理解できない生態だってことだけはわかるよ』


 ツァトゥグァが早速大きく吸い込みを始めたから、恭介達はそれぞれのゴーレムをツァトゥグァの両側面まで移動させて攻撃を始める。


 ビームランチャーに変形させたラストリゾートの砲撃に加え、ブリュンヒルデの全武装を一斉掃射したのだが、それらの攻撃はツァトゥグァの体に当たらずに曲がってツァトゥグァの口の中へと吸い込まれていく。


 ビームを飲み込むという想定外な対処を下ツァトゥグァの体が、元々の倍以上の大きさに膨れ上がる。


「麗華、ツァトゥグアはどこまで膨れ上がると思う?」


『破裂するまでビームをご馳走してみよっか』


『やってみよう』


 恭介と麗華の膨れ上がった敵への対処は同じことを考えていたため、各々のゴーレムでビームを連発してツァトゥグアに飲み込ませていく。


 あまりのピッチの速さに消化できず、ツァトゥグァはそれを一部吐き出そうとするのだけれど、恭介達がそれを許さずビームを連射する。


 ツァトゥグァの体が光り出し、何か仕掛けてきそうだと思ったから、麗華は混沌衛砲カオスサテライトを全て連結して発射した。


 それがツァトゥグァを怯ませ、恭介はチャンスだと判断して大太刀に変形させたラストリゾートで膨れ上がったツァトゥグァを一刀両断する。


 トップスピードですれ違いざまに斬れば、その勢いでツァトゥグァの体は真っ二つになりながら後ろに飛んで行く。


 それだけでなく、今までに無理矢理飲み込んだ数々のビームが消化し切れておらず、ツァトゥグァの体が真っ二つになった途端に溜め込んでいたビームが爆発した。

 

 結果的にその爆発が内側からもツァトゥグァの体を破壊し、周囲にはツァトゥグアの残骸が飛び散った。


 ルーナが情報収集のために一部だけ回収してから、麗華が残骸換金サルベージ金力変換マネーイズパワーのコストを少しでも賄う。


 その作業が終わった時、ルルイエ全体が激しく揺れる。


 恭介達がそれを見守っている中、その揺れがルルイエを破壊していくのを見てこれから何かが起こることを察した。


 (単一個体との連戦か。雑魚モブと大量に戦うより目的達成に近づいてる気がするから良いか)


 雑魚モブがこんな事態を引き起こすとは思ってなかったので、恭介は恐らく次も単一個体以上が出るだろうと思った。


 そんな中、触手のような髭を備えたタコに似た頭部、鉤爪のある腕、そして蝙蝠に似た翼を持ち、全身がゴム状の瘤に覆われている人間に近い姿の化け物がルルイエの地下から地上の建築物を壊しながら現れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る