第226話 目に見えるものだけが真実じゃない。それが証明された

 ルルイエに着いた時、明日奈は仁志以外の瑞穂クルーと分断されてしまった。


「敵地で分断されるとか不味いわね」


『それな。さっさと遥と合流しておきたい』


「潤さんは放置?」


『違う、そういう意味じゃない。だから一番心配なだけだ』


 明日奈がわかっていてスパイシーなジョークを言うものだから、仁志はそんなはずないだろうと否定した。


 そこにビヤーキーとマガ鳥の混成集団がやって来る。


「捜索するよりも先に、まずはこっちに来る敵を倒しましょう」


『そうしよう』


 他の瑞穂クルーを探すにしろ、2人だけで作戦を続行するにしろクトゥルフ神話の侵略者達が邪魔なのは間違いない。


 それゆえ、明日奈も仁志も各々のゴーレムで迎撃し始める。


 明日奈のギャラルホルンだが、ナグルファルよりも強化されたフライトユニットを装備した機体だ。


 Xの文字によく似たフライトユニットであり、上の一対の翼はビームブーメランとして投擲可能で、下の一対の翼は蛇腹剣になっている。


 フライトユニットを分離して、遠隔操作したりその上に乗って移動することもできるから、行動パターンを柔軟に変えて戦える設計と言えよう。


 九頭蛇剣ヒュドラソードは今も継続して使っているため、攻撃の組み合わせの数は瑞穂クルーの中でもトップクラスの多さだ。


 最初はビヤーキーとマガ鳥の数が多く感じられたが、明日奈の活躍が著しく敵集団はあっさりと片付いてしまった。


「全く問題ないわね」


『いや、そうとも言い切れないぞ』


「どういうこと?」


『瑞穂やフォルフォルとの連絡ができなくなってる。俺と等々力が通信できてるのも近いからであって、離れたらこの通信も途切れるだろうよ』


 戦闘で明日奈が活躍していた分、仁志は暇だったので程々に戦いながら味方との通信手段がないか探していた。


 しかし、近くにいる味方としか通信ができないとわかり、本気で厄介なことになったと思っている。


「仕方ないわね。ルルイエを壊しながら進みましょう。私達が目立つように動けば、探しやすくなるはずだわ」


『それが良さそうだな。移動優先で他のクルーを探すのは、全員がその選択をした場合に合流できない可能性がある。等々力さんのプランで行こう』


 明日奈&仁志ペアの判断は、沙耶&晶ペアと同じものだった。


 ルルイエを壊しながら進んで行くと、その破壊活動で居場所が丸わかりだから敵がどんどん押し寄せて来る。


 (ラミアスのナビがないのって地味に不便ね)


 敵の名前がわかれば、クトゥルフ神話の内容からある程度敵の力を推測できる。


 ところが、瑞穂にいるラミアスとの通信は切断されているため、敵に関する情報が事前に手に入らない。


 敵の接近についても、ゴーレムのセンサーよりも瑞穂のセンサーの方が広範囲まで探知できるから、接敵する際に反応が遅れるのだ。


 現れたのはショゴスの集団だったが、それらが明日奈達の前に到着するまでに共食いを始め、射程圏内に入った時には通常の3倍は大きな4体のショゴスになっていた。


 それらはいずれもモーニングスターの形態に変化し、明日奈と仁志に攻撃を始める。


「デカければ良いってもんじゃないのよ」


『とは言っても大きいってだけでめんどいけどな』


 まだ喋りながらでも戦えるぐらいだから、明日奈達に余裕があるのは間違いない。


 しかしながら、次に現れたダーク・ワン2体は今までの敵と比べて随分と雰囲気が違った。


 見た目がゲヘナキーパーのダーク・ワンなんて、どれだけ強いのか2人にとって未知数である。


「避けて通れないわね」


『やるしかないだろ』


 雑魚モブらしからぬ気配を感じる敵を前にしても、明日奈と仁志は退いたりしない。


 仮に逃げた場合、正面のダーク・ワン2体がそのまま逃がしてくれるとも限らないからだ。


 片方のダーク・ワンがマシンガンを連射した時、仁志は何か感じるものがあったらしい。


『嫌な手口をするじゃないか』


「何が嫌な手口なの?」


 もう片方のダーク・ワンの銃撃を躱しつつ、明日奈は仁志が何を感じ取ったのか気になって訊ねる。


『撃ち方の癖が遥によく似てるんだ。完コピしてると言っても良い。GBOで何度も対戦してるから、この攻撃パターンの攻略法もわかってる』


「だったら早く片付ければ良いじゃないの」


『考えてみろよ。敵はクトゥルフ神話の存在だぞ? もしも敵が俺達のゴーレムのモニターに映る情報に干渉してたとしたら、今戦ってるのは遥と潤さんになる』


「言われてみれば、地味に反撃の機会が瓦礫とかでタイミングをずらされてるかも」


 仁志には100%の自信がないのだが、あながち否定できないと直感が訴えているため目の前の敵に攻撃できずにいる。


 明日奈も自分と対峙するダーク・ワンについて考えてみると、自分が攻撃したいと思ったベストタイミングを外的要因に邪魔されていることに気づいた。


 これは潤がギフトを使わずとも生じる現象なので、目の前の敵が本当に敵なのか怪しいと思うのは無理もない。


 どうしたものかと悩んでいると、2体のダーク・ワンもそれ以上の攻撃をせずに止まっていた。


「攻撃が止んだわね」


『遥も俺の回避パターンは理解してるだろうから、こっちが敵じゃないかもしれない可能性に気づいたか? でも、マジでそうだとすると俺達はモニターに映る情報を信じられないってことになる』


 そんな時、この場に炎の輪がXの形でクロスした存在の群れが押し寄せて来た。


 ヤマンソの群れである。


 群れを見た瞬間、明日奈達と戦っていた2体のダーク・ワンがヤマンソの迎撃を始めた。


 とある個体の攻撃が偶々他のヤマンソに命中し、それがきっかけでフレンドリーファイアが連鎖した。


 これを見て仁志は潤の不幸招来バッドラックであると確信した。


『目に見えるものだけが真実じゃない。それが証明された』


「つまり、トゥモロー様が婚約したように見えてもそれが真実とは限らないってことね」


『それは違うと思うぞ』


 明日奈が予想外なポジティブシンキングの発言をしたため、仁志はノータイムで否定しておいた。


 恭介がチャラくて軽い男ならノーコメントを貫いたかもしれないが、恭介は恋愛に対して前向きではなく、麗華がどんどんアプローチすることでようやく婚約しようと自ら言い出せるところまでメンタルが正常に戻って来た。


 恩人にとってそれが良い傾向ならば、明日奈が台無しにするのを黙って見ている訳にはいかないのである。


 それでも、明日奈は聞こえなかったふりをしてヤマンソの攻撃を行うから、仁志は明日奈という暴走特急がこれ以上面倒事を増やさないでくれと願った。


 ヤマンソの群れを討伐した時、離れた所から2つの反応がこの場に接近して来た。


 それらが近づくにつれて、明日奈達のコックピットにフォルフォルの声が聞こえて来る。


『こちらフォルフォル。3期パイロットのみんな、聞こえてる? 聞こえてたらワンって返事して』


「誰が犬よ」


『シリアスな時にボケさせるな』


『緊張感が欠如してるわね』


『真面目にやりましょうよ』


 フォルフォルから声をかけられても、誰一人としてワンと答えなかった。


 それはそれとして、先程まではゲヘナキーパーに見えた2体のダーク・ワンが、いつの間にかタイクーンとガルーダに変わっていた。


『やっぱり俺の直感は正しかった。遥達を攻撃しなくて良かったよ』


『私もなんだか攻撃を避ける動きに見覚えがあったのよね。本気で撃たなくて良かったわ』


『えっ、あれって本気じゃなかったんですか?』


『『あれはじゃれ合い程度』』


 潤が思わず質問するのに対し、仁志と遥の答えがシンクロした。


 そんなやり取りをしている内に、沙耶のガイアドレイクと晶のサルガタナスが明日奈達と合流する。


『本格的な同士討ちになる前に止まって良かったです。皆さん、大丈夫ですか?』


『大丈夫です。途中で私と仁志がお互いの操縦の癖に気づけたので。潤さんに不幸招来バッドラックを使ってもらったことで、仁志と明日奈さんが私達を敵ではないと確信してくれたんです』


 沙耶の質問に応じたのは、3期パイロットのリーダーを任されている遥だった。


『なるほど。不幸招来バッドラックは確かにユニークなギフトですもんね』


「合流できたところで、ルルイエ侵攻作戦はまだ続いてますよね? トゥモロー様が来るまでに進めましょうよ」


『そうですね。いつも兄さん頼みでは申し訳ないですから、私達でやれるだけやってみましょう』


 明日奈の言い分を聞いて沙耶が賛同した時、6機のゴーレムに接近する敵影があった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る