第225話 善悪なんて見方によっていくらでも変わるものです
恭介と麗華がクティーラの相手を引き受けている頃、沙耶率いる2期と3期のパイロット達はルルイエに到着した。
しかし、到着早々に麗華達は困った事態に直面した。
なんとルルイエに到着した瞬間に、分断されてしまったからである。
沙耶と晶は一緒にいるが、3期パイロットの姿が消えてしまったのだ。
「これは不味いですね」
『そうだね。他の4人もせめてペアで飛ばされてると良いんだけど』
「そうなってることを祈りつつ、彼等を探しましょう」
『ルルイエを破壊してた方が集まるんじゃない? 全員が探し回るよりも、派手に暴れて目印になった方が良いと思う』
恭介に3期パイロットの4人を任されたため、沙耶はルルイエ侵攻作戦の遂行よりも彼等の安全を優先した。
それに対し、晶はルルイエ侵攻作戦と味方の合流を一気に進める対策を提示した。
数秒間考えてから、沙耶は晶の考えに賛同する。
「そうですね。彼等もすぐにやられるような実力ではありませんから、お互いに探し合って見つからないという展開を避けた方が良さそうです。派手に暴れましょう」
『そう来なくっちゃ』
「では、私から始めましょう」
沙耶はガイアドレイクを機械地龍形態に変形させ、ビームを放ってルルイエの古代都市の街並みを破壊していく。
『僕達の方が侵略者っぽく思えて来た』
「善悪なんて見方によっていくらでも変わるものです」
善悪は判断する者の立場によって変わるものであり、誰からどう見ても善あるいは悪という者がいるとは考えにくい。
生物が2種類以上存在すればそれだけで考え方は変わるし、そもそも同種族でも考え方の違う者なんてたくさんいる。
沙耶の言葉はそれをちゃんと理解した上で発せられた。
『確かにね。あぁ、団体さんが来たよ』
「そのようですね。ただ、ラミアスからアナウンスがないのは気になります」
『言われてみれば…。もしかして、通信がジャミングされてる?』
「ラミアス、聞こえますか?」
ラミアスから沙耶に対して応答はなかった。
『僕も試してみよう。フォルフォル、聞こえる?』
晶の問いかけに対してフォルフォルの応答もなかった。
「これは本格的に不味いですね」
『ヤバいね。フォルフォルだって曲がりなりにも神だよ? それが連絡を遮断されるってルルイエには何がいるんだろう? 神話的にはクトゥルフ?』
「クトゥルフはいるでしょうね。ゾス三神とクティーラがルルイエから現れたんですから、その親であるクトゥルフがいないとは考えられません」
『だよねー。憂鬱だー』
クトゥルフがクティーラよりも弱いとは考えにくいから、それを察した晶が本当に憂鬱そうな声を漏らした。
それはそれとして、ディープワンの群れとその上空に忌まわしき狩人4体が沙耶と晶を倒しにやって来た。
「薙ぎ払います」
沙耶はビームを左から右に薙ぎ払うように放ち、地上を進むディープワンの群れの数を削った。
ビームの威力が強かったことで、沙耶が一気にヘイトを稼いでしまう。
残存するディープワンと忌まわしき狩人がガイアドレイクに接近している隙を突き、背後を取ったサルガタナスがウィンダムから幽体のペリュトン爆弾を飛ばして迎撃する。
想定外の側面からの攻撃のせいで、残存するディープワンは掃討されてしまい、忌まわしき狩人4体も2体が力尽きて残る2体も浅くない怪我を負った。
「囮は上手くいったようですね。残りは私が仕留めます」
ガイアドレイクが元の姿に戻り、蛇腹剣形態のユーザーパーで手負いの忌まわしき狩人2体にとどめを刺した。
派手に戦ったこともあり、周辺の街並みは瓦礫まみれになったけれど、3期パイロット4人の誰もこの場には来ない。
それでも、少しだけ事態はマシな方に進んだ。
フォルフォルの声が沙耶と晶に届き始めたのだ。
『沙耶ちゃん、晶君、聞こえる? 聞こえたら返事をして』
「聞こえます」
『聞こえるよ』
『はぁ~、良かった。君達6人がルルイエに入った途端、急にパスが切断されてその修復に時間がかかっちゃったんだ』
フォルフォルの声が沙耶と晶に連絡できて安堵したものだったから、フォルフォルですらこの事態は予期していなかったことを察することができる。
「クトゥルフの力でしょうか?」
『その可能性はあるね。ルルイエはクトゥルフのホームだもの。アウェーの私よりも力が強いのは当然だよ』
『頼りにならないゲスフォルだねぇ』
『ぐぬぬ…。反論できないのが辛いところだね。それはそれとして、ラミアスとの通信にはまだ時間がかかるから、私が代わりにナビゲーターをしてあげるよ。どうだい、嬉しいだろう?』
痛いところを突かれたフォルフォルだが、緊急事態に対処せず沙耶達を死なせてしまったら恭介と麗華に今後戦ってもらえない可能性があるので、ラミアスが担っていた役割を一部負担すると言い出した。
それに対する沙耶と晶の反応は決まっている。
「無駄口が多くなりそうですから、嬉しいとは思ってません」
『チェンジで』
『どうしてだよぉぉぉぉぉ!』
フォルフォルの嘆く声が沙耶達の乗るゴーレムのコックピットに響いた。
塩対応をされてしまうのは、フォルフォルの日頃の行いのせいであることは言うまでもない。
そうだとしても、フォルフォルは敵の接近を感知したからナビゲーションを始める。
『新たな敵が現れたよ。2時の方向からC014ヤマンソの群れが接近中だね』
フォルフォルが告げた方向から、炎の輪がXの形でクロスした存在の群れが押し寄せて来た。
ヤマンソはクトゥグアの召喚に失敗すると現れる危険であり、クトゥグアに殺されたとされている事件のいくつかは、実はヤマンソの仕業であると言われていたりする。
数が多くて
だがちょっと待てほしい。
晶のサルガタナスは水属性であり、火属性のヤマンソと相性が良い。
『僕のターン!』
ウィンダムからビームを連射し、晶はヤマンソを次々に撃ち落していく。
水属性のビームには個々の力では勝てないと悟り、生き残っているヤマンソが合体して巨大なヤマンソになる。
「私のことも忘れないで下さい」
ガイアドレイクを機械竜形態に変形させ、沙耶は巨大なヤマンソに向かってビームを放った。
土属性のビームとはいえ、火力の高い攻撃であれば巨大なヤマンソの放射する炎とぶつかっても撃ち負けることはない。
沙耶の支援があって自分へのヘイトが消えたから、晶はサルガタナスを周囲の景色に同化させて巨大なヤマンソに接近する。
『もらった!』
ガイアドレイクのビームが終わると同時にヤマンソの炎も途切れ、その隙を突いて晶が至近距離からヤマンソにペリュトン爆弾を発射した。
突然至近距離で水属性の爆発が生じれば、それが巨大なヤマンソを逃がさずに包み込む。
爆発が収まった時には、巨大なヤマンソの炎は完全に消えていた。
「やりましたね。お見事です」
『ドヤァ』
『そんな2人に残念なお知らせ。地下から接近する反応が多数。C015グールの群れだね』
フォルフォルがそう告げた瞬間、地上にゴムのように弾力のありそうな灰色の腕がたくさん地面を突き破った。
その直後に、犬に似た顔で鉤爪と蹄状に割れた足を持つグールの群れが姿を見せた。
「ヤマンソがいなくなったから出て来たんでしょうね」
『なんだって良いよ。敵は全て倒すんだから』
「間違いありません。右半分はお任せしますね」
『はーい』
沙耶と晶はそれぞれが相手をする領域を決め、そのままサクサクと倒していく。
ヤマンソと違って遠距離攻撃のデキないグールだから、沙耶達はそれぞれ蛇腹剣形態のユーザーパーとウィンダムのビームで対応した。
それら全てを倒したところで、こんどこそこの場に後続の敵は現れなくなった。
『沙耶ちゃんも晶君もお疲れ様。この近くに敵はいないよ。2人のゴーレムの火力だと、この場でこれ以上破壊するのも難しいだろうから、別の場所に移動してほしいな』
「その件ですが、3期パイロットの4人と連絡は取れないのですか?」
『もう少しで取れそう。多分、沙耶ちゃん達みたいに飛ばされた場所で
「なるほど。では、フォルフォルの力が届きそうな地点を教えて下さい。彼らはそこにいるはずですから、ルルイエの破壊を進めながら迎えに行きます」
『良いよ。近い方から案内するね。まずは10時の方向に進んでほしいな』
「わかりました」
フォルフォルの案内に従い、沙耶と晶は3期パイロットと合流するべく移動し始めた。
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