第224話 ちょっとだけよ

 恭介のドラグレンがカタパルトの上に乗ったところで、ラミアスが恭介達に声をかける。


『恭介さん、出撃前に特装砲をルルイエに発射します。敵が混乱してる隙に畳みかけて下さい』


「わかった。早速撃ってくれ」


『承知しました。総員、衝撃に備えて下さい。魔開闢砲オリジンキャノン照準、撃てぇぇぇぇぇ!』


 ラミアスの発射許可が下りてすぐに、特装砲の魔開闢砲オリジンキャノンが瑞穂から発射されてルルイエに命中した。


 ド派手な爆発が起こり、ルルイエに大きなクレーターができた。


 その反動も相当なものであり、瑞穂全体が揺れて恭介達の乗るゴーレムのコックピットにはラミアスの乳揺れシーンが映った。


『恭介君、これを狙ってたんだね! 乳揺れだよ、乳揺れ!』


「ルーナはシリアスな時に出て来るな。ラミアス、予定通りこれから発進する」


『進路クリア。ドラグレン、発進どうぞ!』


「明日葉恭介、ドラグレン、出るぞ!」


 カタパルトから射出され、ドラグレンが瑞穂の外の宇宙空間に飛び出してから麗華達が続く。


『更科麗華、ブリュンヒルデ、出るわよ!』


『筧沙耶、ガイアドレイク、発進します!』


『尾根晶、サルガタナス、行きまーす!』


 ブリュンヒルデとガイアドレイク、サルガタナスも宇宙空間に飛び出し、恭介のドラグレンの後ろに続く。


 今回は短期決戦を仕掛けるつもりだから、3期パイロットもすぐに出撃する。


『等々力明日奈、ギャラルホルン、出るわ!』


『山上仁志、オーケストラ、発進する!』


『笛吹遥、タイクーン、出るわよ!』


『田辺潤、ガルーダ、行きます』


 明日奈が火属性のギャラルホルンで出撃したため、今日は遥も土属性のタイクーンで出撃しており、3期パイロット全員がメインのゴーレムに乗っていることになる。


 ギャラルホルンだが、これはナグルファルとフリングホルニの設計図を合成して完成するゴーレムだ。


 3期パイロットが出撃した直後、恭介達の正面の空間が歪む。


『総員、注意して下さい! C202のクティーラが接近してます!』


 ラミアスのアナウンスが聞こえた直後、歪んだ空間から薄ピンク色の触手のアイマスクとドレスを身に着けた巨人の姫と呼ぶべき存在が現れた。


 クティーラはクトゥルフの娘とされているが、他のクトゥルフの子供と違って表に出ている情報が極めて少ない。


 ただし、一説によればクトゥルフは自身の肉体が滅びても、クティーラの子宮に宿って生まれ変わって復活する目論見を持っている。


 それがもしも本当の話ならば、ここで逃がして良い敵ではない。


『いあ! いあ! くとぅるふ ふたぐん!』


「沙耶、2期と3期パイロットを連れて先に行け! 俺と麗華はこいつを仕留めてから向かう!」


『わかりました。皆さん、行きましょう』


 上位単一個体のクティーラに足止めされてしまえば、ルルイエ侵攻作戦の成功確率が下がってしまう。


 したがって、恭介は自分と麗華がこの場を引き受けて先に沙耶達を行かせる選択をした。


 沙耶は恭介の意図を正確に把握し、2期と3期パイロットを引き連れてルルイエを目指して前進した。


 クティーラが腕を伸ばし、触手のドレスが鋭い槍に変化しながら伸びることで沙耶達の足止めを使用としたが、恭介は蛇腹剣形態のファルスピースを操作して伸ばした触手を拘束した。


「奇抜なドレスね。踊ってみなさいよ」


 恭介にヘイトが向いていることをチャンスと捉え、麗華がヴォーパルバヨネットでクティーラの心臓部を狙撃した。


 ところが、触手のドレスが盾に変形してヴォーパルバヨネットのビームを防いだ。


 厳密に言えばビームで盾が破壊されたのだけれど、すぐに再生して元通りになった。


「触手のドレスが厄介だな。いや、この再生力があるからクトゥルフはクティーラの力を借りて生まれ変われるのか」


『絶対にここで倒さないとね。クトゥルフの復活とか本当にシャレにならないもん』


「そうだな。跡形もなく破壊するつもりで戦おう」


『了解』


 クティーラが触手のドレスを操作してファルスピースの拘束から逃げたため、恭介はファルスピースをブーメランに変えてクティーラに向かって投擲する。


 ファルスピースを警戒するクティーラはそれに触れないように回避するけれど、恭介はその動きを予測して赤不動砲アチャラナータを発射した。


 その砲撃がクティーラの体に風穴を開ける。


 触手のドレスがその穴を埋めて変質してクティーラの傷が治ったが、その代わりに触手のドレスの面積が減って丈が短くなった。


『恭介君のエッチ。さてはクティーラのパンツを覗くつもりだね?』


「失 せ ろ」


『あっはい』


 ルーナのコメントが鬱陶しかったため、恭介は不快感を表に出した。


 それにより、ルーナもやってしまったと思ってモニターから消えた。


 クティーラは触手のドレスの袖をどちらも大砲に変形させた。


 (俺も戦闘スタイルを変えるか)


 恭介はゴーレムチェンジャーを使ってドラクールに乗り換えた。


 ドラクールを警戒したクティーラは、麗華のことをスルーして両腕の大砲をドラクールに発射する。


 ウェイルスカイを盾に変形させて恭介が砲撃を防いでいる間に、麗華が全武装で一斉掃射を行った。


 これが全弾命中してクティーラの体のあちこちが穴だらけになり、それを再び触手のドレスが再生させた。


 今回の再生で触手のドレスが半袖のミニスカドレスに変わり、クティーラの手足が露出する。


『ちょっとだけよ』


『求めてないのよ!』


 麗華は全武装でガンガン連射し、クティーラの体を再生が追いつかない速度で破壊しようとした。


 そこに恭介も加わり、青六星翼ヘキサグラムと十字剣の刃を伸ばした刺突で追い込みをかける。


 結果として、クティーラの体を守る触手のドレスはなくなった。


 しかし、それでクティーラの守りが薄くなったかと言えばそういう訳でもない。


 驚くべきことに、クティーラ自身が大量の触手になってそのまま大蛇を形成した。


「よくわからない生態だな」


『クトゥルフ神話の侵略者の生態なんて、考えたって理解できないよ』


「それもそうだ」


 恭介の抱いた感想に対し、麗華がもっともなことを言うので恭介は頭を切り替えた。


 大蛇になったばかりのクティーラの動きは人型の時よりも鈍かったため、ラミアスが恭介と麗華に声をかける。


『恭介さん、麗華さん、主砲を発射します。射線から離れて下さい』


『「了解」』


審判ジャッジメント照準、撃てぇぇぇぇぇ!』


 瑞穂から主砲の審判ジャッジメントが放たれ、クティーラの体に2つの大きな風穴ができる。


 触手同士が結び付いてクティーラの傷を癒そうとするが、恭介と麗華がそれぞれのゴーレムの全武装で一斉に攻撃したことで、その行動が不完全なまま行われた。


 先程までは綺麗に蛇の形を模った触手の塊だったが、今は崩れかけの蛇を模った触手の化け物になっただけでなく、そのサイズもかなり小さくなった。


 恭介はウェイルスカイを大剣のまま振るい、クティーラを更にバラバラに切断する。


 バラバラになったパーツを麗華がきっちり撃って壊せば、クティーラは体を構成する触手がほとんどなくなった。


 蛇を模るだけの触手がなくなり、クティーラは触手を生やした小さな球体に変形した。


 いよいよ命の危機を感じたのか、全ての触手を先端だけ尖らせてランダムに伸び縮みさせた。


 (近づけないなら遠くから攻撃するまでだ)


 ウェイルスカイの刃を伸ばし、その先端からビームを発射することでクティーラの中心部に穴が空く。


『これで終わりよ!』


 麗華が混沌衛砲カオスサテライトを全て連結し、威力を高めた砲撃を放ったことにより、クティーラの体は完全に破壊された。


『死亡確認』


 ルーナが劇画風の表情でそうコメントすれば、クティーラとの戦いが終わったのだと恭介達は実感できた。


『恭介さん、麗華さん、お疲れ様でした。まだ戦えますか?』


「問題ない。麗華はどうだ?」


『私も大丈夫。倒すのに時間はかかっちゃったけど、被弾した訳じゃないからね』


 上位単一個体のクティーラと戦ったものの、恭介と麗華は敵を削り切るのに時間をかけてしまっただけで被弾した訳ではない。


 それゆえ、恭介達は先にルルイエへと向かった沙耶達を心配し、休まずに後を追うと決めた。


「ラミアス、瑞穂のことは任せる。いざという時は事前に渡しておいたコピーパイロットプログラムで瑞穂に残したゴーレムを動かせ」


『承知しました。作戦の成功をここからお祈りしております』


 ラミアスに指示を出した後、恭介と麗華はルルイエに向かった。

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