第223話 むぅ、あれが世に聞くエンディミオンのTANAKAか

 恭介達が瑞穂に来て51日目、ハイパードライブを終えて瑞穂とパンゲアはルルイエに接近していた。


 瑞穂の待機室パイロットルームにはクルー全員が集まっており、モニターに映るルルイエを眺めている。


 ルルイエは太平洋の海底にあるとされているが、実のところそれは誤った情報だ。


 何故かと言えば、太平洋の海底にはルルイエらしき古代遺跡は存在しておらず、他と変わらぬ海の底に変わったからである。


 かつて宇宙から地球に墜落した隕石が太平洋の海底に落下し、その隕石が実は宇宙に存在するルルイエに繋がるゲートを開いていた。


 これはロキは興味本位で地球の外の神とコンタクトを取ろうとしたことにより、ルルイエに繋がる手がかりとして隕石を呼び寄せたことが原因だ。


 現在はもういないとある神がロキのやらかしの後始末をしたため、その隕石が破壊されてゲートが閉じられたから、太平洋の海底にルルイエへ向かう手段は残っていない。


『クトゥルフ神話で登場する地名はね、全て宇宙にあるんだよ。他の場所も全て地球との繋がりは切れてるから安心してね』


「ロキってマジで迷惑な神だな。ルーナだって迷惑な神寄りなのに、それ以上だなんて耐えられない」


『おかしい。解説したら唐突にディスられたよ。あんまりじゃないか』


「自分が今までにやって来たやらかしを数えてみろ」


『恭介君は今まで食べたパンの枚数を覚えてるの?』


「こいつはナチュラルに悪神だわ」


 恭介の発言に麗華達も賛同するように頷いた。


「総員、第一種戦闘配備。繰り返します。総員、第一種戦闘配備。ルルイエよりC116シュド=メル及びC008クトーニアンの群れが接近中です」


 ラミアスが告げたのと同時にモニターの映像が切り替わり、ルルイエから灰色の芋虫に似た巨大生物とクトーニアンの群れが瑞穂とパンゲアに向かって飛んで来る様子が見えた。


 恭介達が各々のゴーレムに乗り込んだ時、ラミアスが全員のコックピットに連絡を入れる。


『発進は少し待って下さい』


「待機する理由は?」


『パンゲアのノアから連絡がありました。ここはパンゲアで引き受けるとのことです。パンゲアクルーが敵を片付けた後、皆さんにルルイエ侵攻を始めてほしいとのことです』


「ジェスパー達だけでやれるのか?」


 その質問は瑞穂クルーに共通するものだった。


 対処する敵が減ることはありがたいけれど、それでパンゲアクルーの誰かに死なれるのは気分が悪いので、ちゃんと彼等だけで対処できるのか気にするのは当然と言えよう。


『ご安心下さい。瑞穂のデータベースで調べた限りでは、C116シュド=メルは即死攻撃を使いません。また、彼等もスケープゴートチケットを人数分所持してるそうなので、万が一のことがあっても死ぬことはないでしょう。彼等にも単一個体を倒さねばならない事情があるため、ここは譲っても良いかと愚考します』


「その事情についてラミアスは把握してるのか? 知ってるなら教えてくれ」


『ルルイエ侵攻作戦において、単一個体を討伐すれば資源カードの追加報酬が出ると確約されてるそうです。彼等の出身国に送る資源が増えるチャンスがあるならば、乗らないはずありません』


「命あっての物種だと思うけど、ここで手柄を奪うと後で面倒なことになるか。わかった。危なくなるまでジェスパー達に任せるとしよう」


『承知しました。ノアにその旨を連絡しましたので、皆さんはそれぞれの機体のモニターで観戦しながら待機して下さい』


 恭介達が観戦モードに入ったところで、パンゲアの主砲が発射されてクトーニアンの数が減り、その直後に5機のゴーレムが順番に出撃を開始した。


 ジェスパーがグリューンパイモン、イザベラがロッソオリエンス、メリッサがゲルプアマイモン、グレゴリーがブラウアリトンに乗っており、いずれもソロモンの合成元であるゴーレムの上位機体に乗っている。


 その一方、田中は風属性のエンディミオンに乗っていた。


『むぅ、あれが世に聞くエンディミオンのTANAKAか』


『知ってるのかフォルフォル?』


『聞いたことがある。奴は決闘挑発レッツデュエルで強敵と1対1で戦う時、守りよりも機動力を優先してショップチャンネルを漁っていたところ、エンディミオンを見つけて即買いしたそうだ。奴の所持金でギリギリ買えるのがエンディミオンだったらしいが、奴はそれを使いこなして避けタンクとして強敵のヘイトを稼ぐようになった』


 (ルーナと晶は何やってんだよ…)


 ネタに走っているルーナと晶を見て、恭介はやれやれと首を振った。


 それはさておき、ジェスパー達は田中が決闘挑発レッツデュエルでシュド=メルをフィールドに閉じ込めている間に周りのクトーニアンを大急ぎで片付ける。


 田中の回避の腕前を信頼しているからこそ選んだ戦術のようで、ジェスパー達がクトーニアンの群れを倒している間は田中がシュド=メルの頭部から生えた触手の発射するビームを避け続けている。


 決闘挑発レッツデュエルのフィールドが消えた時には、襲撃して来た全てのクトーニアンを倒せたため、ジェスパー達がシュド=メルを囲んで一斉に攻撃を始める。


 (ふーん、少しはやるらしいな。無傷で時間稼ぎの役目を終えるとはね)


 パンゲアクルーの中では一番最後に合流したため、他の4人に比べて田中の操縦するゴーレムのスペックはそこまで高いとは言えない。


 それでも、シュド=メルの攻撃を全て躱したのだから田中も口だけではないのだと恭介は認識を改めた。


 グレゴリーがシュド=メルを対象に被害保留ダメージホールドを発動したことで、シュド=メルはジェスパー達の攻撃を喰らっても見た目では無傷だった。


 だからこそ、ジェスパー達の攻撃が自分を傷つけるものではないと判断し、シュド=メルは防御を捨てて攻撃に専念した。


 そして、被害保留ダメージホールドの効果が切れた時、蓄積されたダメージが一気にシュド=メルを襲う。


 シュド=メルの体が爆散してジェスパー達が勝ったと思ったその時、シュド=メルの破片が小さなシュド=メルを形作るようにまとまり、5機のゴーレムをターゲットにして次々に突撃した。


 ジェスパー達はそれぞれの武器で小さなシュド=メルを迎撃するが、メリッサが大鎌デスサイズから斬撃を飛ばして対処した個体が爆発したことで状況が変わる。


 (爆発する小型分身を飛ばすか。本体は何処だ?)


 まさか本体も自爆特攻するとは思っていないため、恭介はモニターに本体が映っていないか探す。


 それから数秒後、小型分身と変わらないサイズの銀灰色の蛹がモニターの端に見えた。


「ラミアス、ノア経由でシュド=メルの位置をジェスパー達に伝えられないか?」


『座標を特定しましたが、ノアも発見したようですね。イザベラさんが対応するようです』


 ラミアスが言った通り、イザベラが偶像崇拝アイドルファンを発動してシュド=メルの対応を始めた。


 自身は爆発する小型分身の対応に終われているけれど、ギフトの効果で現れたドラグレンがシュド=メル本体に接近して攻撃する。


 蛹状態の本体は芋虫形態の時と異なり、移動速度がかなり落ちていた。


 結果として、シュド=メル本体はドラグレンの持つ蛇腹剣形態のファルスピースで細切れになった。


 それと同時に、小型分身達が一斉にあちこちで爆発した。


 どうやら、本体が倒されたことによって小型分身のコントロールが不能になったようだ。


 連鎖する爆発は予想以上に広範囲に及び、ジェスパー達は被弾こそしなかったものの冷や汗をかいていたに違いない。


 あと少し範囲が広ければ確実に被弾していただろうから、観戦している恭介達もジェスパー達が無事でホッとしている。


『これはエンディミオンのTANAKA。まごうことなきエンディミオンのTANAKA』


「確かに田中はよくやったけど、他のパイロットのことも評価してやれよ」


『ぶっちゃけ田中って私の中ではネタキャラだったから、ここまでやってくれるとは思ってなかったんだよね。良い意味で期待を裏切ってくれたから、二つ名としてエンディミオンのTANAKAを浸透させようと思ってね』


「二つ名を付けるのは良いけど、もっとマシなものにしてやれよ」


 恭介の意見に麗華達もそうだそうだと頷くが、ルーナは首を横に振る。


『もう遅いよ恭介君。この戦闘は既に地球で中継されてるんだ。そこに私がエンディミオンのTANAKA爆誕のテロップを流してるから手遅れなんだ』


「100%悪意だろ、それ?」


『良いじゃないか。ヒキニートからエンディミオンのTANAKAに大出世だもん。そんなことより、恭介君達は出撃準備を始めてよ』


「…そうだな」


 言いたいことはあるけれど、ルルイエ侵攻作戦はこれからが本番なので恭介は会話を止めてドラグレンをカタパルトに移動させ始めた。

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