第23章 ルルイエ侵攻作戦

第221話 駆逐してやる! 1体残らず!

 恭介達が瑞穂に来て50日目、瑞穂とパンゲアは高天原を出発してハイパードライブを開始した。


 既にルルイエ侵攻作戦については恭介達に説明されており、ルルイエへの到着は明日の午後の予定である。


 今日は各々自由に過ごすことになっているから、恭介は麗華と共にコロシアムへやって来た。


「ルーナ、バトルメモリーに新しいコンテンツが増えたんだろ? 挑みに来たぞ」


『ハネムーンガーディアンにチャレンジだね。じゃあ、入場門を開くから頑張って来てね』


 2人がコロシアムに来た理由だが、代理戦争と新人戦のどちらでも行われなかったバトル部門のコンテンツが増えたからだ。


 今回のコンテンツはハネムーンガーディアンという名前で、マルチプレイ限定だから恭介と麗華は一緒に挑みに来た。


 恭介はドラグレン、麗華はブリュンヒルデを操縦して入場門をくぐる。


 入場門の先にあったのは近未来的な空港だった。


 近未来的と表現したのは、この空港には通常存在しないリニアカタパルトが存在したからだ。


 そのリニアカタパルトから発射される物体はゴーレムである。


 そんな空港にドラグレンとブリュンヒルデが到着したことで、ハネムーンガーディアンの説明がコックピットのモニターに表示される。



 ・参加者はハネムーンに向かう2人の乗るゴーレムを敵から守る

 ・2人のゴーレムは特別仕様の2人乗りだから、護衛対象は1機のみ

 ・制限時間は最大1時間で、2人を脱出させられなかったら失格

 ・報酬は護衛対象の安全以外にも加点要素があるが、失格なら何も貰えない

 ・モニターには味方と護衛対象、敵の3種類のアイコンが映る

 ・空港を襲う敵は参加者が対峙した全ての敵からランダム選出

 ・敵は第十ウェーブまで順番に出現する

 ・ゴーレムのサイズはレースの時と同じ



 8つのルールを読み終え、恭介は味方が白い丸アイコン、護衛対象が黄色い丸アイコン、敵が赤い三角アイコンであることも把握した。


 モニターに映ったそれぞれの位置関係を把握してから、恭介は護衛対象そのものに目を向ける。


 (い、痛い。痛車ならぬ痛ゴーレムだ)


 そんな感想を恭介が抱くのも無理もない。


 護衛対象のゴーレムは全身ピンクであり、ハートマークやコックピットに乗ってる2人のデフォルメキャラがイチャイチャしたイラストの描かれたキュクロだったからだ。


『ハネムーンガーディアン、開始!』


『えっ、こんなのを守らなきゃいけないの?』


「仕方ないさ。どうせ1回限りなんだから、サクッと終わらせよう。俺がキュクロの右側を守るから、麗華は左側を頼む」


『了解!』


 麗華が思わず本音を口にしたのに対し、恭介は麗華を説得して気持ちを切り替えた。


 そうしなければならなかったのは、自分達の後ろでキュクロが発進準備をしているからだ。


 キュクロの発進を邪魔するように現れた最初の敵とは、ワイバーンの群れだった。


 (ハネムーンガーディアンには相応しい敵かもな)


 苦笑しつつ、恭介はそんな感想を抱いた。


『ワイバーンのお肉は倒した分だけ君達の物だから、張り切って狩って良いよ』


「黙ってろゲスナ」


『えぇ〜? 折角気を利かせたのに〜』


「余計なお世話だ」


 ワイバーンやアンピプテラの肉を食べた結果、麗華が大変なことになったのを覚えていたから、恭介は違う意味でワイバーンを警戒している。


 とりあえず、手前の個体から倒し始める。


 火の息を吐き出されたとしても、恭介はドラグレンを巧みに操作して回避と同時にファルスピースで仕留めていく。


 麗華も同様にワイバーンを仕留めて行ったせいで、第一ウェーブは無事に終わった。


 モニターには進捗率も表示されており、現在10%でキュクロも空港も無傷だから、恭介達としてはこのままハネムーンガーディアンを終わらせたいところだ。


 ワイバーンの群れを倒した後、カルキノスが2体現れた。


「ギフト発動」


 恭介がギフトの発動を宣言し、彼はドラグレンのコックピットからドラキオンのコックピットの中に移った。


 その後すぐに、恭介がカルキノス2体をビームランチャーに変形させたラストリゾートでまとめて仕留めた。


 2体が同一直線上に並ぶ位置に移動し、ビームを発射すれば一撃で第二ウェーブは終わってしまった。


『風属性の敵が出て来たら私に任せてね』


「わかった。その時は頼む」


 これをフラグと言わずして何をフラグと言うべきだろうか。


 第三ウェーブで現れたのはタクティクスドラゴンフライだった。


 しかも、特別仕様なのかコロシアムで戦った時よりも数が多かった。


『駆逐してやる! 1体残らず!』


 恭介が殲滅に動く前に麗華が動き出し、ブリュンヒルデの全武装で一斉掃射を行った。


 属性的にはエクリプスの方が良いのだが、群体を相手に殲滅するならばブリュンヒルデの方が適している。


 恭介に1秒でも短く心の平穏を取り戻してもらうため、麗華はゾーンに入ったとしか思えないぐらい的確な射撃でタクティクスドラゴンフライを倒した。


 ぶっちゃけてしまうと、麗華はキュクロを護衛することなんて忘れてタクティクスドラゴンフライを早急に倒すことだけ考えていた。


 そのおかげで、恭介の視界からタクティクスドラゴンフライは3分とかからずに消えた。


『恭介さん、もう大丈夫だよ。掃除は終了したから』


「ありがとう。動きがキレッキレだったぞ」


『エヘヘ。恭介さんのためって思ったらあそこまでできたんだよ』


 麗華も恭介に並ぶ凄腕だから、本気になったらこれぐらいサクッとできてしまうのだ。


 モニターに映るルーナも、この嬉しい誤算にニヤニヤした表情を隠せなかった。


 続く第四ウェーブでは、ケルベロスが2体現れた。


「「「ワォォォン!」」」


「「「ワォォォォォン!」」」


「喚くな」


 ラストリゾートを蛇腹剣形態に変え、恭介が素早く自分の正面に現れたケルベロスの首を全てを落とし、麗華の乗り換えを邪魔しようとするケルベロスを牽制する。


「「「キャイン!?」」」


 巧みに操られた蛇腹剣により、本能的に死の危険を感じ取ったケルベロスは攻撃を中断して後退した。


 その間に麗華がハーロットに乗り換えを済ませ、アポカリプスもビームキャノンに変えていたから発射する。


 ドラキオンを警戒していたせいで反応が遅れ、ケルベロスは回避できずに胴体に風穴を開けられて倒れた。


「ナイスショット」


『恭介さんが時間を稼いでくれたおかげだよ』


 第四ウェーブを終えた時点で空港は未だ無傷であり、キュクロの発進準備も40%に到達している。


『これは難易度をもっと上げとくべきだったかな』


「これぐらいで構わない。調子に乗ればそれだけ隙ができる」


『堅実だね。でも、クトゥルフ神話との戦いではそれぐらいの方が長生きできるって証明されてる。その感覚を信じなよ』


「言われなくてもそうするさ」


 ルーナと話している間に第五ウェーブに移行し、恭介達の目の前にバトルグリモアが現れた。


「先手必勝!」


 恭介はバトルグリモアが属性を変える前に勝負を仕掛け、竜鎮魂砲ドラゴンレクイエムを発射した。


 無属性の状態では、属性攻撃で有利になることも不利になることもない。


 したがって、純粋な竜鎮魂砲ドラゴンレクイエムの火力だけでバトルグリモアに攻撃した訳だが、元々高火力だったことで恭介の正面の個体は力尽きた。


 麗華の正面にいる個体は、ドラキオンの竜鎮魂砲ドラゴンレクイエムを危険に感じ、自らを風属性に変質させた。


 当然、風属性になっただけで終わらず、ドラキオンに対して風属性のビームを発射する。


『やらせないから』


 その攻撃はエクリプスに乗り換えた麗華が盾形態のアヴェンジャーで防ぎ、それを大剣に変形させる。


 自分と麗華の両方が護衛対象から離れてしまうのは良くないから、恭介はバトルグリモアを麗華に任せてキュクロの側に戻る。


 バトルグリモアは麗華に接近されたくないから、必死にビームを撃って迎撃する。


 しかしながら、バトルグリモアの攻撃するテンポを把握してしまっているから、そのビームはエクリプスに掠りもしない。


 確実に距離を詰め、麗華は風属性になったバトルグリモアを真っ二つに切断した。


 これで半分の第五ウェーブまで終わったことになるが、護衛対象のキュクロは無傷で空港にも目立った損害はない。


 恭介と麗華のチャレンジが順調であることは、この段階に至るまでにかかった時間の短さや被害状況から断言できる。


 それでも2人は油断せず、第六ウェーブの敵を静かに待った。

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