第216話 自分に都合の悪いことは受け入れない。人間って面白っ!

 麗華はシミュレーターでの模擬戦をするにあたって、ハーロットに乗っていた。


 その理由として、ブリュンヒルデだと明日奈に対策されている可能性があるからである。


 シミュレーターでの模擬戦だが、実戦と同様にゴーレムチェンジャーを使える仕様になっているから、ゴーレムを複数保有している者ならば、いくらでも乗り換えて戦える。


 イザベラはゴーレムチェンジャーもなければサブゴーレムも持っていないけれど、それを理解せずに挑んだイザベラが悪いので何も文句は言えまい。


 全員の準備が整い、3期のゴーレムがコロシアムの中で向かい合った。


 明日奈は最初にナグルファルでやって来たが、ブリュンヒルデ対策だと考えられる。


 火属性のナグルファルならば、ブリュンヒルデに対して属性的に相性が良いからナグルファルを選んだのだろう。


 (センジュで戦うには準備不足ってのもあるだろうけど)


 麗華は明日奈がナグルファルを選んだ理由を正確に見抜いていた。


 明日奈だって麗華の方が今は技量が上だとわかっているから、センジュを完全に使いこなせていない状態で乗って挑むのはリスクがあると思っていたのだ。


 だからこそ、明日奈は乗り慣れたナグルファルに乗って現れた。


 その一方、イザベラはロッソオリエンスに搭乗していた。


 ロッソオリエンスとはオリエンスの上位機種だ。


 ロッソオリエンスと同様に、アマイモンやアリトン、パイモンもそれぞれゲルプアマイモンとブラウアリトン、グリューンパイモンが上位機種とされている。


『準備は良さそうだね。それじゃあ模擬戦開始!』


 ルーナが開始の合図を出した直後、麗華はハーロットの信号をオンにする。


 それが原因でハーロット以外のゴーレムがまともに操縦できず、麗華がアポカリプスをビームウィップに形態に変え、ナグルファルをロッソオリエンスにぶつけて戦闘続行不可能な状態にした。


『はい、終了~』


『ちょっと待ちなさい! こんなの不正じゃないの!』


『そうよ! ゴーレムがまともに動かなくなったわ! シミュレーターの故障に決まってる!』


『あのね、麗華ちゃんはハーロットが使える他のゴーレムの操縦を妨害する機能を開始の合図直後に使っただけなんだ。見苦しいからガタガタ言わないでよ』


 モニターに現れたルーナはやれやれと首を振った。


 それはまさに、物わかりの悪い子供に言い聞かせるような素振りである。


「ハーロットのこの機能を使わずにもう一戦やってあげても良いわ。でも、それで負けた時は金輪際私と恭介さんの関係に口出ししないでくれる? これでも譲歩してるんだから、まさかこれ以上文句は言わないよね?」


『わかったわ。チートさえなければ問題ないもの』


『卑怯な手さえ使われなければ勝てる』


『自分に都合の悪いことは受け入れない。人間って面白っ!』


 (ルーナだって元人間でしょうが)


 麗華は恭介と同様にルーナの正体を知っているため、ルーナのコメントに対して心の中でツッコミを入れた。


 それから、ハーロットではなくエクリプスに機体を変更して2戦目に挑む。


 機体の変更をしたのは、明日奈とイザベラに抗議する口実を与えないためだ。


 これにより、3人全員が火属性のゴーレムに乗って模擬戦をすることになったから、属性的に誰が有利になることもない。


『次の試合ではイザベラちゃんから文句が出ないように、ゴーレムチェンジャーの使用を禁止するよ。機体の性能とパイロットの腕による勝負だから、これで負けて文句を言ったら恥だと思ってね』


「わかったわ」


『上等よ』


『問題ないわ』


『はーい。それじゃあ模擬戦開始』


 ルーナが再び開始の合図を告げると、今度は明日奈とイザベラが一斉にエクリプスに攻撃を仕掛けた。


 ただ、2人とも大事なことを忘れているようだ。


 エクリプスには敵の攻撃を吸収して強くなる特性があり、それはデフォルトの武装であるアヴェンジャーによって成立する。


 アヴェンジャーのデフォルトの形態は盾だが、吸収したダメージ量によって変形できる先が変わるのだ。


 ダメージ量が少なければ大剣にしか変形できず、ダメージ量が大きければビームライフルに変形できるようになる。


 変形のタイミングはパイロットが自在に選べるが、遠距離戦闘に慣れた麗華としては是非ともアヴェンジャーをビームライフルに変形させたいところである。


 ナグルファルのソードウイングと九頭蛇剣ヒュドラソードの攻撃に加え、ロッソオリエンスのガトリング攻撃もあったが、それらが連係プレーではなく個人プレーの攻撃だったおかげで麗華は機体に被弾させることなく捌けた。


 (頭に血が上ってる相手はやりやすいわ)


 明日奈とイザベラが協力したら苦戦したかもしれないが、そうならなかったことでアヴェンジャーはビームライフル形態に変形させられた。


 ここから先は麗華のターンと言えよう。


 まずはガトリングガンが鬱陶しいロッソオリエンスを標的にして、アヴェンジャーを向ける。


 その時にわざとナグルファルとロッソオリエンスの同一直線上にいたため、ナグルファルは背後から剣の攻撃がエクリプスに仕掛けた。


 当然、正面からロッソオリエンスも挟み撃ちのつもりでエクリプスに向かってガトリングガンを放つが、麗華はそれを躱して正面ががら空きなナグルファルに攻撃させた。


 その結果、ナグルファルはロッソオリエンスの攻撃を受けてしまい、明日奈がイザベラに対して怒る。


『ちょっとイザベラ! 邪魔すんならどっか行きなさいよ!』


『あんたこそ邪魔しないでよ! 少しも役に立たないじゃない!』


 (思った通りね)


 ちょっと連係プレーらしきものができたと思ったら、それが失敗したので明日奈とイザベラの関係を悪化させた。


 上げて落とす策略が見事に嵌り、隙ができたところに麗華はビームライフルでロッソオリエンスを仕留めた。


『しまっ』


 最後まで喋ることもできず、麗華の銃撃がロッソオリエンスのコックピットを撃ち抜いたため、これで戦場からイザベラは退場した。


『邪魔者は消えたわ。今度こそ正々堂々勝負よ』


「最初から正々堂々勝負してるわ。ごちゃごちゃ言い訳するのはそっちだけ」


『サイコロカットしてやる!』


 図星を突かれた明日奈は怒り、本気でサイコロカットするつもりで攻めて来るが、頭に血が上っている明日奈は普段よりも動きが単調だから攻撃を躱しやすい。


 したがって、麗華が冷静に狙撃することで九頭蛇剣ヒュドラソードを次々に撃破していく。


 ソードウイングまで壊され、四肢も撃ち抜かれて身動きができなくなれば、ナグルファルはコックピットだけになって何もできなくなった。


「じゃあ、決まった通り今後一切口を挟まないでね」


 麗華は冷たい声色でそう言うと同時に、ナグルファルのコックピットを撃ち抜いた。


『はい、終了~! 最初からわかり切ってたことけど、麗華ちゃんの圧勝~!』


 模擬戦が終わり、麗華はシミュレーターから出てすぐに待機室パイロットルームに戻った。


「恭介さん、勝ったよ」


「お疲れ様。本当に圧勝だったな」


「うん。丁度良い機会だから、恭介さんに近づく悪い虫に正妻は誰かわからせてあげたの」


 まだ婚約中ではあるものの、正妻ポジションは自分のものだから麗華も強気な姿勢である。


 明日奈とイザベラは戻って来たが、どちらも表情は暗かった。


 それでも、ルーナが空気を読まずに煽る。


『あれれ~? 厄介なガチ恋勢とにわかファンが落ち込んでるぞ~? いつもの元気はどうしたの~?』


「フォルフォルの血は絶対赤くないですね」


「だよねー」


 容赦のないルーナに対し、沙耶と晶はジト目を向けながらそのようにコメントした。


 とりあえず、今日はこれで解散ということで、明日からパンゲアクルーも高天原の防衛に加われるよう鍛えることが決まった。


 ジェスパー達がパンゲアに戻った後、恭介達も自分達の家に帰っていく。


 屋敷に戻った途端、麗華は恭介に甘え始める。


「えへへ、これで恭介さんは私だけのものだよ」


「俺が麗華から別の相手に乗り換えないって言ったとしても、あの戦いはやるしかなかったか」


「うん。言葉で駄目ならきっちりと心を折るの。恋愛だって戦闘だよ。時には相手を本気で蹴落とすぐらいしないとこっちが危ないんだから」


「そこまで俺は貪欲になれないなぁ」


 恭介が困ったように笑うのに対し、麗華は真面目な顔になる。


「恭介さんはずっとそのままで良いよ。恋愛で肉食系の恭介さんって違和感があるから。私がリードするから任せて」


「そうさせてもらうよ」


 この日の夜、麗華がいつにも増して燃え上がったとだけ補足しておこう。

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