第215話 饅頭ヨシ! 緑茶ヨシ! さあ、思う存分戦ってね!
沙耶と晶が戻って来た後、パンゲアも高天原に到着した。
ムッシュを先頭に5人のパイロットがパンゲアから降りて来たため、恭介達は皆とで彼等を出迎える。
「助けてくれてありがとうございます。パンゲアの代表を務めております、ムッシュことジェスパー=ローレンです。よろしくお願いします」
「よろしく。俺は高天原代表の明日葉恭介だ。トゥモローと名乗った方がわかるか。それよりも、日本語が上手いじゃないか」
「はい。遊盛がいるので、こういった時のために我々全員が日本語を勉強しました。元々、日本の娯楽が好きだったので、それほど苦労はありませんでしたが」
「そうか。まずは他のメンバーの自己紹介もした方が良さそうだな」
何を話すにせよ、お互いの自己紹介が必要だろうと判断し、瑞穂クルーとパンゲアクルーは互いに自己紹介を行った。
その中でも、注目すべきは蟹頭こと田中遊盛だろう。
「GBOでは生意気なことばかり口にしてすみませんでした。蟹頭こと田中遊盛です。よろしくお願いします」
「蟹頭がイキッてない…だと…?」
晶がツチノコを見たようなリアクションをするが、瑞穂クルーの心の内は同じようなものである。
「田中は私がここまで躾けたわ」
そう言ってドヤ顔を披露するのはレッドマーキュリーことイザベラである。
「じゃあ、蟹頭だった田中は躾けられて坊主になっちゃったんだ?」
「違うわ。田中は元々パンゲアに送り込まれて来た時から坊主だったわ」
「「「…「「え?」」…」」」
てっきりイキッていた田中を教育するため、イザベラが田中の頭を丸刈りにしたのだと思っていたが、瑞穂クルーの予想はここでも裏切られた。
「坊主のどこに蟹頭要素が?」
「蟹頭にしたかったんじゃないの?」
「なるほど、憧れか」
『それは違うよ』
港に突然ルーナの声が届いたため、恭介が気になって訊ねる。
「何がどう違うんだ?」
『田中は元々、家から一歩も出ないくせに蟹頭をキープしてたヒキニートだよ。ネット弁慶なスタイルがイラっと来たから、私がパンゲアにワープさせる時に田中の鬱陶しい髪の毛を代償にしたんだ』
「そんなことしなくても俺達をデスゲームに連行できたじゃん。なんで田中だけ髪の毛を通行料にしたんだ? 本当にネット弁慶なスタイルにイラっと来たからか?」
『イラっと来たからだよ。反省を促すには坊主が良いかなって思った』
そんな理由で人をワープさせる際に坊主にできるのだから、神の力はすごいと思うのと同時に力の無駄遣いだと思う一同だった。
「信じられますか? 髪の手入れだけは毎日1時間かけてたのに、その髪が拉致られたらごっそり持ってかれたら引き籠りたくもなります」
「何言ってんのよ。あんたは元々ヒキニートだったでしょうが。真人間にしてあげたんだから感謝なさい」
「Yes Ma’am」
(教育的指導が完全に行き届いてる。よっぽど厳しく躾けられたんだろうな)
敬礼までして応答している田中を見て、恭介はそのように考えた。
とりあえず、恭介達もジェスパー達も夕食を取っていなかったため、瑞穂に招いて夕食を取ることにした。
難しい話をするよりも先に、パンゲア救出で後倒しになった夕食を取りたかったからである。
ジェスパー達は瑞穂の食堂のレベルの高さに感激し、モリモリと食べた。
満腹になって満足したところで、恭介とジェスパーは瑞穂の艦長室を借りてパンゲアが高天原に在留するための条件について話し合いを行う。
「パンゲアクルーは高天原に在留するため、チケットや設計図、キット、魔石は除外し、それ以外の稼ぎの3割を納めましょう」
(2割って考えてたけど、貰えるものは貰っておくか)
恭介も鬼ではないから、他の瑞穂クルーにパンゲア滞留を納得させるには2割の納付が必要だと考えていた。
しかし、それを上回る形でジェスパーが最初から言い出したので、恭介はその申し出を受け入れることにした。
ジェスパー達が1日に手に入れたゴールドや資源カードの収入の3割を貰えるならば、不労所得としては十分だろう。
「わかった。その条件で受け入れよう」
「この条件でよろしいのですか? 5割寄越せと言われても4割で決着すればなんて思ったのですが」
「俺はそこまで鬼じゃない。パンゲアから搾取したところでしょうがないだろ? お前達が安全な環境で強くなればこちらに入って来る物も増えるし、お前達だって国に仕送りができる。搾り取った結果、負けるとわかってても反乱を起こされたら面倒だ」
「…ありがとうございます」
今までは代理戦争でゴーレムを通して戦って来たから、ジェスパーは恭介が容赦のない性格をしているものだと思っていた。
ところが、実際に話してみればそんなことはなく、自分達にも十分なメリットがある条件で着地させてくれたから、ジェスパーの中で恭介の評価が大きく変わった。
恭介ならば自分の命を預けられると確信したのだ。
話がまとまった後、恭介とジェスパーが
「トゥモロー様への愛なら私が一番よ! ファンクラブ会員ナンバーだって001なんだから!」
「私だって負けてないわ! トゥモローファンクラブなんてそもそも非公認じゃないの! それなら会員ナンバーでマウントを取る意味なんてないのよ!」
(早速面倒事が起きてるんだがどゆこと?)
苦笑している恭介に対し、麗華がすぐに近付いて状況を説明し始める。
「事の発端はあの女が恭介さんのレースや戦闘のシーンを編集したビデオを流したことなの。イザベラさんが自分もパイロットの中で恭介さんを一番推してるって言い始めてこの有様ね」
「麗華があそこで戦ってなくて良かったよ。いたら止めるのが大変そうだし」
「そんなことしないわ。だって、争わなくても恭介さんのパートナーは私だもの」
麗華は恭介の婚約者だから、明日奈やイザベラに対して明らかなアドバンテージを有している。
わざわざこんな争いに参加する必要がないからこそ、余裕のある態度でいられるのだ。
だが、言い争っている2人にとってその発言は聞き逃せるものではなかった。
「余裕ぶってて足元を掬われないと良いわね」
「婚約破棄なんて珍しいことじゃないわ」
(あっ、これは不味いかも)
恭介がそう思った時には麗華も口を開いていた。
「だったらはっきりさせましょう。3人でシミュレーターの模擬戦で勝負よ。私が恭介さんに相応しいってわからせてあげるから」
「言ったわね。返り討ちにして私がトゥモロー様に相応しいって証明してやるわ」
「勝った者が全て。わかりやすくて良いじゃないの」
『饅頭ヨシ! 緑茶ヨシ! さあ、思う存分戦ってね!』
ルーナがモニターに饅頭と緑茶を持った姿で現れたため、恭介はそれにジト目を向けつつ3人に声をかける。
「言葉でわからないなら戦ってみれば良い。でも、戦って結果が出たらそれ以上の争いはもう止めろ。良いな?」
「勿論だよ。というよりも、私は争いたくて争う訳じゃないもん」
「逃げるの? やっぱりビビったのかしら?」
「言葉で駄目ならゴーレムで語り合えば良い。それで決まるなら問題ないわ」
麗華と明日奈はそれぞれの私室に向かい、イザベラは瑞穂に私室がないので遥がシミュレーターを貸すことになった。
戦闘が始まるまでの間、ムッシュは恭介に頭を下げる。
「イザベラが突っかかってしまい申し訳ございません」
「クトゥルフ神話の侵略者達と戦ってる時に争われるよりもずっとマシだ。それに、戦う前から結果はわかってる」
「麗華さんを信用されてるんですね」
「当然だ。俺と肩を並べて戦えるのは麗華だけだからな」
恭介とジェスパーが真面目な話をしていると、模擬戦が始まるまでまだ時間があるから胴元スタイルに着替えたルーナが喋り始める。
『さあみんな、集まって! 恭介君争奪戦の賭けを始めるよ!』
「その賭けは成立しませんよ」
「麗華さんが勝つでしょ」
「等々力じゃ無理だな」
「麗華さんが勝つでしょうね」
瑞穂クルーは麗華の勝利を疑っておらず、ルーナは胴元スタイルから元の衣装に戻った。
『やれやれ。そこは折角のお祭りなんだから乗ってほしかったね』
「ルーナ、いい加減にしろ。さもないと…」
『あっはい』
恭介にその後の言葉を言われなくとも、自分の望まない展開になるだろうからルーナはおとなしくモニターから消えた。
そのタイミングで画面が切り替わり、3人のゴーレムがコロシアムで向かい合った状態でモニターに映し出された。
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