第212話 うわぁ、麗華ちゃんが金の力でわからせて来るじゃん

 瑞穂に帰って来た恭介は、ルーナに薦められた通りに格納庫を2段階アップデートした。


 それにより、ゴーレムの作成と修理素材を40%カットできるから恩恵を受ける者が多くなった。


「恭介さん、私も使えるアイテムを貰って来る。欲しい物は言わないけど」


「その方が良い。物欲センサーは怖いからな。気を付けて行っといで」


 恭介に見送られ、麗華はブリュンヒルデに乗ってコロシアムに向かった。


『麗華ちゃんは何が欲しいのかな? 言ってごらんよ』


「遠慮しとくわ。ルーナに言ったら余計に手に入らなくなりそうだから」


『濡れ衣だよ!』


「濡れ衣かどうかはコロシアムの報酬で判断するわ。5連戦でよろしく」


『むぅ。信用無いね。はい、開いたよ』


 どうしてルーナは話してもらえると思ったのか不思議だけれど、麗華は開かれた入場門をくぐってコロシアムの中に入った。


 コロシアムの上空には緑色の巨大な鳥がいた。


 その羽ばたきのせいでコロシアム内部は風が強く吹き荒れており、並のゴーレムでは姿勢を制御するのがやっとだろう。


「ジハァァァァァ!」


 その咆哮は大気を揺るがした。


 見下ろしているブリュンヒルデに対し、覚悟してかかって来いと訴える咆哮であり、それがジズの前方の大気を弾いて砲弾張りの勢いでブリュンヒルデを襲う。


「遅いわ」


 ジズの攻撃を華麗に躱し、麗華は四対の翼の銃と混沌衛砲カオスサテライトでジズの両翼を撃ち抜いた。


 両翼が使い物にならなくなれば、ジズは墜落するしかない。


 麗華はジズに反撃する暇を与えないように、墜落するのと同時に頭部にヴォーパルバヨネットのビームを放った。


 それが頭部に命中してしまえば、ジズは力尽きて光の粒子になって消えた。


 (恭介さんの戦いを見たおかげで楽に勝てたわ。ありがとう、恭介さん)


 シミュレーターで体験していたとしても、実際に戦っている時のデータがあるのとないのでは大きく変わる。


 恭介が以前戦っているのを見ていたため、麗華はジズにほとんど何もさせず最小限の労力で1戦目を終えられた。


 ジズの次に現れたのはベヒーモスだが、その体はコロシアムの3分の1を占める程大きい。


 しかし、ベヒーモスは土属性だから風属性のブリュンヒルデにとって相性が良い。


 ベヒーモスが大声で鳴いて威嚇する前に、麗華はブリュンヒルデの全武装を一斉に発射することでベヒーモスを沈黙させた。


 頭部の完全破壊に加え、四肢も破壊されているあたり、無駄なく効率的に仕留められていると言えよう。


「ベヒーモスってばジズよりもチョロいわね」


『その認識は訂正させてほしいな。パンゲアのクルーだと勝てるパイロットはいないだろうし、属性的相性が悪ければ瑞穂の2期と3期パイロットだって完勝できるとは限らないんだから。恭介君も麗華ちゃんもその辺の認識がバグってるよね』


「恭介さんと認識が一緒ってこと? 息がぴったりってことね!」


『そだねー』


 この件についてルーナは揶揄わず、ただジト目を向けるだけだった。


 その時、コロシアムの地面が下に押し込まれて水で満たされて、水の中から巨大な青龍が姿を現した。


 リヴァイアサンの登場である。


「リヴァァァァァ!」


 リヴァイアサンはブリュンヒルデが土属性でないならば恐れる必要はないと判断し、早速ウォーターカッターばりの勢いで水をブリュンヒルデに発射した。


 攻撃は最大の防御という言葉の通り、攻めさせずにこちらから少しずつでもダメージを与え続ければいつか敵を倒すことができるから、リヴァイアサンは麗華に攻撃させないつもりなのだ。


 (ジズよりも速いじゃない。油断禁物ね)


 ジズの攻撃に比べ、威力が変わらないのにスピードがあるから、麗華は慎重に躱していく。


 反撃は混沌衛砲カオスサテライトに任せ、自分は回避に専念する。


 それだけを5分程続けていくと、リヴァイアサンは混沌衛砲カオスサテライトの攻撃を鬱陶しく思ってだんだん攻撃のコントロールが雑になっていく。


 コントロールが雑になれば避ける難易度が下がるので、次第に麗華にも反撃の余裕ができる。


 四対の翼の銃から反撃を始め、戦闘開始から10分が経過する頃には攻撃が止む時もあり、麗華はその瞬間を見逃すことなくヴォーパルバヨネットで頭部にビームを命中させた。


「リヴァァァァァァァァァァ!」


「撃たせないわ」


 激昂してブレスを放とうとしたリヴァイアサンの口内を狙い、ブリュンヒルデの全武装で一斉掃射すれば、リヴァイアサンはブレスに失敗するどころか自爆して余剰なダメージまで受けて力尽きた。


 リヴァイアサンの体が光の粒子になって消え、次に現れたのはローブを着たラプラスデーモンではなく、空を飛んでいる紫色のドラゴンだった。


『サプラァァァァァイズ!』


「サプライズ引き過ぎでしょ!? 確率はどうなってんのよ!?」


『運命は収束するものなんだよ』


「まったくもう!」


 解せないことではあるけれど、サプライズで別のモンスターが出て来てしまった事実はどれだけ抗議しても変わらないから、麗華は気持ちを切り替える。


『クエレブレは毒のブレスを吐くから気を付けてね~』


 ルーナはそれだけ言ってモニターから姿を消した。


 その直後にクエレブレは初手から毒のブレスを放つ。


 麗華が避けたことにより、毒のブレスがコロシアムの地面に触れたのだが、その部分だけがドロドロになって毒の沼に変わった。


 (うわっ、この毒は触れたらヤバいわ)


 コロシアムの地面よりも硬い黒金剛アダマンタイトではあるが、クエレブレの毒には触れない方が良いだろうと判断し、麗華はリヴァイアサンの攻撃よりも慎重に避け続けた。


 クエレブレは執拗に毒のブレスを当てようとするが、麗華の巧みな操縦でなかなか攻撃が命中しない。


 しばらくすると、クエレブレの方がリヴァイアサンに比べて体のサイズは小さいこともあり、毒のブレスを放ち続けられなくなった。


「ギフト発動」


 麗華は躊躇わずに100万ゴールドを消費し、金力変換マネーイズパワーで威力を底上げした結果、ヴォーパルバヨネットでクエレブレの首に風穴を開けるどころか、首から上が吹き飛んだ。


 やり過ぎな強化だったため、クエレブレを貫いたビームはコロシアムの壁を破壊する程であり、当たり前だがその攻撃はオーバーキルだった。


『うわぁ、麗華ちゃんが金の力でわからせて来るじゃん』


「煩いわね。黙って消えなさい」


『はーい』


 ルーナが麗華に言われてモニターから消えた直後、クエレブレの代わりに百の頭を持つラードーンが現れた。


 ラードーンは火属性だから、属性的な相性を考慮して麗華はゴーレムチェンジャーを使ってハーロットに乗り換える。


 武器がアポカリプスになってから初めての操縦になるので、ラードーンは練習台という扱いになるだろう。


 ラードーンが全ての口から火球を創り出して時間差で射出したけれど、麗華は落ち着いてラードーンの後ろ側に回り込み、アポカリプスを大鎌デスサイズに変形させて頭部を次々に切断し始めた。


 体が大きく動き自体は鈍いから、ラードーンの頭はどんどんその数を減らしていき、それに伴って麗華の回避する難易度が下がる。


「「「…「「ラダァァァン!」」…」」」


 首をぐるりと曲げ、自分の背後で攻撃するハーロットを狙って火の球を放つラードーンだが、麗華は自爆を狙ってアポカリプスを使わずに躱す。


 痛がって怯んだところでビームキャノンに変形させたアポカリプスで攻撃し、キレたラードーンの攻撃を躱して自爆させて怯ませたら攻撃するのを繰り返せば、時間はかかったけれど全ての頭を破壊してラードーンを討伐できた。


 ラードーンの体が光の粒子になって消えて5連戦が終了し、ハーロットのモニターにコロシアムバトルスコアが表示される。



-----------------------------------------

コロシアムバトルスコア(ソロプレイ)

-----------------------------------------

討伐対象:①ジズ②ベヒーモス③リヴァイアサン

     ④クエレブレ⑤ラードーン

部位破壊:①頭部/翼(左右)②頭部/四肢

     ③頭部④逆鱗⑤頭(全て)

討伐タイム:50分21秒

-----------------------------------------

総合評価:S

-----------------------------------------

報酬:100万ゴールド

   資源カード(食料)100×10

   資源カード(素材)100×10

ファーストキルボーナス:ベースゴーレム

サプライズ撃破ボーナス:設計図合成キット

ノーダメージボーナス:魔石4種セット×100

ギフト:金力変換マネーイズパワーLv36(up)

コメント:初見じゃないとはいえ恭介君よりも早く倒せたね

-----------------------------------------



 (ラプラスデーモンと戦ったら、間違いなく恭介さんの方がタイムで負けてたよ)


 ルーナのコメントを読み、麗華は素直に喜べなかった。


 シミュレーターでの予習を終え、一番苦戦すると思っていたラプラスデーモンがクエレブレと入れ替わったことで50分21秒で5連戦を終わらせられた。


 もしも恭介がクエレブレと戦っていたら、自分は恭介に討伐タイムで負けていただろうと冷静に判断したのである。


 それはそれとして、麗華はベースゴーレムと設計図合成キットが手に入ったため、瑞穂の格納庫に戻って3機目のゴーレムをどうするか恭介に相談することにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る