第209話 お帰りなさいませ、ご主人様

 遅めの朝食と食休みを経て、恭介達は瑞穂にラミアスを残して高天原の地面を踏んだ。


 疑似太陽によって朝と夜の区別がつくようになっており、港の外は何も知らされずにつれて来られたら近未来的な街が広がっていた。


「こいつはすごいな。SFの世界だ」


「恭介さん、ゴーレムに乗って戦ってる時点で十分SFだよ」


 恭介が目を輝かせていると、麗華が慈愛に満ちた表情で優しくツッコんだ。


 他のメンバーも高天原の景色を見て感動している。


 そこにいつの間にかメイド服を着たフォルフォルがいた。


「恭介様、麗華様、お連れの皆様、お待ちしておりました」


「…ルーナ、これはどういう茶番だ?」


 その正体がフォルフォルの姿をしたルーナだと見抜いたため、恭介はジト目を向けながらルーナに訊ねた。


「え~? もっと驚こうよ~? 折角私がメイド服を着てやって来たんだからさ~」


「驚くよりも先に呆れるっての。案内でもしてくれるのか?」


「そゆこと~」


 恭介の質問に対し、緩い口調でルーナが正解だと頷いた。


 ルーナは高天原の各種施設を案内し、パイロットそれぞれに家を与えて最後に恭介と麗華の家に到着した。


「なんで俺と麗華の家だけ立派な屋敷なんだよ?」


「そりゃ、恭介君と麗華ちゃんが高天原の所有者だからだね。資源カードを負担したんだから、所有者になるのは当然だよね。建国しちゃっても良いんだよ?」


「ということは、私が王妃になれちゃうってこと?」


「正解!」


 満更でもない様子で麗華が訊ねれば、ルーナはサムズアップして肯定した。


 建国するつもりなんてなく、瑞穂から降りてゆっくり休める場所が欲しいと思って高天原を建設したから、恭介はどうしたものかと困惑する。


 他のメンバーは一軒家を与えられ、自分と麗華だけ立派な屋敷に住むというのは気が引けるというのもある。


 とりあえず、屋敷の前で突っ立っている意味はないから、恭介達は屋敷の中に入った。


「「「…「「お帰りなさいませ、ご主人様」」…」」」


「チェンジで」


「「「…「「どうしてだよぉぉぉぉぉ!」」…」」」


 恭介が真顔でチェンジと言った理由だが、恭介達を出迎えるメイド達がいたことに加え、そのメイド全てがフォルフォルの姿をしていたからだ。


 周囲に恭介と麗華以外のパイロットがいなくなったこともあり、先程まで恭介達を案内していたルーナは本来の姿に戻っていることからして、ここにいる全員がルーナの分身なのだろう。


「鬱陶しいからに決まってんだろ。とんだ事故物件じゃないか」


「そんなぁ!?」


「私達はメイドとして恭介君達のラブラブした日常が見たいだけなのに~」


「あァァァんまりだァァアァ」


「喧しい!」


 恭介が一喝したことでこの場が静かになり、麗華は恭介に提案する。


「恭介さん、ルーナは要らないけど屋敷の維持に人手は必要だよ。ショップチャンネルを見てみようよ」


「そうだな。これだけの屋敷を俺と麗華で維持するのは厳しい。見てみるか」


 屋敷の設備は瑞穂と変わりなく、談話室のモニターが瑞穂の待機室パイロットルームと同じ機能を使えた。


 ショップチャンネルでメイド型アンドロイドが1体100万ゴールドで販売されていたため、恭介と麗華が1体ずつ購入した。


 それぞれの名前は予めアルファとベータであると決められていたため、これからもそう呼ぶことになった。


 アルファとベータがいるならば、メイド姿のルーナの分身達は不要だから、ハンカチを噛む本体を残して分身達は姿を消した。


 悔しがるルーナだったが、思い出したことがあってポンと手を打つ。


「あっ、そうだ。ナショナルチャンネルだけどさ、高天原に限って言えば1週間に1回って制限を解除したから。それと、ビデオ通話ができる端末さえあれば誰とでも連絡できるようにしたよ。この件は高天原建設も含めて日本の関係者にも連絡済みだから」


「いきなりどうした?」


 ルーナが自分達の福利厚生面を一気に改善したことが気になり、どういう理由でそこまで制限を解除したのか恭介は訊ねた。


「そこはほら、高天原の建設ボーナスってことだよ。ちなみに、消えた分身達は他のパイロット達にいつでもナショナルチャンネルを使えるって話を伝えに行ったから」


「そうか。じゃあ、ひとまず俺達の両親に婚約したことを報告するか」


「そうだね!」


 麗華が更科夫妻とビデオ通話をしようとしたら、すぐに連絡がついてモニターに更科夫妻が映った。


「お父さん、お母さん、これ見て!」


『婚約指輪じゃないの! やったわね!』


 いきなり用件に入るあたり、麗華はよっぽど嬉しかったのだろう。


 そのテンションについていけるのは麗美母親の方だけで、父親はフリーズしていた。


「今はお屋敷で恭介さんと同居してるの! 私達が高天原の所有者なの!」


『まあ、素敵なお屋敷ね! 恭介さん、麗華のことをこれからもよろしくお願いします!』


「はい。大切にします」


 テンションに推されて一瞬ボーっとしかけたが、間が開くことで麗華と麗美を不安にさせてしまうと思い、恭介はすぐに返事をした。


 父親の方は麗美が突いても返事がなかったため、麗華と麗美が話したいことを話してビデオ通話は終わった。


 今度は恭介が恭子にビデオ通話を繋げる。


『元気そうで良かったわ。立派なお屋敷に住んでるのね』


「まあな。クトゥルフ神話の侵略者達が襲ってこなくなったら、こっちに遊びに来るか?」


『私が行っても良いの?』


「もうあいつのことは吹っ切ったつもりだ。それと、麗華と婚約した」


 恭介に婚約したと言われ、恭子は一瞬目を丸くしたけどすぐに優しい表情に変わった。


 ろくでなしの父親の件もあり、恭介が実家を出て以降一度も自分を家に招いてくれなかったけれど、今は自分のことを招いてくれたので恭子はこの変化が麗華のおかげだと悟ったようだ。


『そう。麗華ちゃん、恭介はなかなか癖の強い子だけど良い子よ。末永く支えてあげてちょうだい』


「任せて下さい! 何が起きても恭介さんと乗り越えてみせます!」


『良い返事ね。安心して任せられるわ』


「孫の顔を楽しみにしててくださいね!」


 (麗華さんや、テンションがハイになってリミッターが解除されてないかい?)


 両親に婚約の報告というイベントのせいで、麗華のテンションはおかしいレベルで上がっている。


 クールな恭子も一瞬だけポカンとしてしまう発言を聞き、恭介は額に手をやった。


 恭子に見えないところでルーナが笑い転げていることが、余計に恭介の頭痛を強めたのは言うまでもない。


 そんなイベントもどうにか終わったところで、恭介は最後に首相官邸に連絡する。


 瑞穂のリーダーとして、持木と連絡を取っておくべきだからである。


『明日葉君、更科さん、婚約おめでとう』


「「ありがとうございます」」


 どうして知っているんだと恭介はツッコまず、麗華と同じように礼を述べた。


『それはそれとして、高天原なんて惑星基地ができるとは驚いたよ』


 持木が高天原の話をしたところで、ルーナがフォルフォルの姿でカメラに写り込む。


「そりゃそうだよ。恭介君と麗華ちゃんは私から見ても屑ばっかりの日本に資源を送らずにいたんだもん。その貯蓄を使って惑星基地を建設するぐらい余裕でできちゃうよ」


『…耳の痛い話だね。でも、その方が明日葉君達の役に立つのだから仕方のない話だ。幸い、2期と3期パイロットからはちょこちょこと仕送りを貰えているからね。国民が不満を持つことも減ったよ』


「持木首相、私が解放したフォールンゲームズの社員達を保護してるんだから、計画を進められてると思って良いのかな?」


「ルーナ、計画ってなんだ?」


 ルーナの口からしれっと何かが水面下で進められていることが漏れたので、恭介はスルーせずに訊ねる。


「日本でゴーレムを開発する計画だよ。フォールンゲームズのGBO制作陣と選りすぐりのメカニックを集めた特別チームを組んで、メイドインジャパンのベースゴーレムを造るんだ」


「なんでそんなことを?」


「日本って他国よりも優秀なパイロットが多いみたいだから、4期パイロットを募るついでにベースゴーレムも日本で造ろうかなって。その方が、日本人にも危機感が生じて馬鹿なことを考える者も減るだろうし」


 恭介達が負けることなく敵を倒し続けられるのは、日々の努力があってこそだ。


 それを簡単そうだと勘違いする者も残念ながら出て来たため、ルーナは荒療治も兼ねて日本をモデル国にしようとしているのだ。


 この計画が上手くいけば、日本の国防力も上がるので持木はルーナの計画に賛同したのである。


『概ね順調ですよ。4期パイロットも3期パイロットに倣って公募制にするつもりです』


「ふーん。精々頑張ってね。くれぐれも恭介君達の手を煩わせちゃ駄目だからね。それじゃ」


 ルーナはビデオ通話を勝手に切ってしまった。


 もっとも、日本の状況はルーナのおかげで大体わかったから、恭介にも麗華にも特に付け加えて言うこともないのだが。


 連絡すべき相手に連絡し終えたため、恭介と麗華は屋敷の中を詳しく見ることにした。

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