第207話 いいや、戦いは質だ

 恭介達が瑞穂に来て47日目、身支度を整えた恭介と麗華を私室のモニターからニヤニヤしたルーナが見ている。


『夕べはお楽しみでしたね』


「「ハウス」」


『クゥーン』


 哀愁漂う犬の声を真似たが、モニターから姿を消すことはなかった。


「なんだよ? 俺達を揶揄う以外に何か用事でもあったのか?」


『あるに決まってるじゃないか。恭介君と麗華ちゃんが夜の運動に励んでる間、私が一晩で作成した高天原のお披露目をしたいんだ』


「流石ゲスナ。言い方に悪意しか感じない」


 このやりとりからわかるように、婚約した恭介と麗華は遂に夜の営みをしたのだ。


 麗華からすれば既成事実があれば、婚約破棄される可能性がぐんと減るので夜の営みはウェルカムだった。


 恭介にジト目を向けられているルーナだが、それをスルーして麗華に訊ねる。


『ねえねえ麗華ちゃん、まだ挟まってる感じある?』


「失 せ ろ」


『はーい』


 普通にセクハラ発言をかますルーナに対し、麗華は端的に不機嫌であることを告げた。


 ルーナもこれ以上揶揄うのは不味いと判断し、モニターから姿を消した。


 ちなみに、ギフトレベルが上がることの副産物として常人よりも体が頑丈になっており、昨晩は張り切ってしまったものの麗華は普通に動けている。


 それはさておき、恭介と麗華は私室を出て待機室パイロットルームに移動する。


 そこには仁志と遥を除いたメンバーが揃っており、明日奈は幸せそうな麗華を見て一瞬だけ負のオーラを漏らしたが、すぐにトレーニングルームに駆け込んでサンドバッグを殴って戻って来た。


 トレーニングルームは防音性が高いため、サンドバッグがどれだけ強く殴られたか外にいる者にはわからないが、すまし顔で明日奈が戻って来たことから相当強く殴っていることは察せられた。


 明日奈が戻って来た時には仁志と遥も戻っており、待機室パイロットルームにルーナの姿が映し出される。


『おはよう! 早速だけど、高天原が完成したからお披露目するよ~!』


 その瞬間、ドンドンパフパフというSEが聞こえた。


 どうやらルーナは高天原のお披露目をするにあたり、ガヤの仕込みもばっちりらしい。


「ルーナ、質問して良いか?」


『なんだい恭介君? 高天原に愛の巣が欲しいのかい?』


「高天原は何処に建設したんだ?」


『フッ、これぐらいのジャブは華麗にスルーしてしまうんだね。ならば答えよう。地球を挟んで月の反対側にあると!』


 ある意味巨大な人工衛星であるから、ルーナは月の位置を意識した場所に高天原を建設したようだ。


 そこでラミアスが口を開く。


「現在、瑞穂は高天原の港に向かっております。5分後に到着の予定です」


 モニターの画面が変わり、瑞穂から見た高天原の映像が映し出される。


「砂時計みたいな形なんだな」


「てっきり、第二の月ができるのかと思ってた」


『フッフッフ。ただの砂時計型惑星基地じゃないんだよ。高天原にはね、結界を展開できるのさ。ほらっ』


 ルーナが指をパチンと鳴らした瞬間、正二十面体の光の結界が高天原を覆った。


「どう見てもアル○ミスの傘ですね。エネルギーをドカ食いするから非効率です」


「サーヤ、こういうのが良いんじゃないか」


『良いね。晶君はロマンがわかってるじゃん』


 沙耶が現実的な観点でツッコめば、晶はロマンを尊重したい気持ちを口にした。


 ルーナと晶がわかり合っているのを見て、男性陣の何人かはそのロマンにこっそり共感していた。


 恭介はエネルギー切れの問題さえなければ、光の結界は有用だと男性陣の中では比較的冷静だった。


 もう間もなく高天原に入港するということで、瑞穂は向きを変えてバックで入港し始める。


 その時、ラミアスは敵の接近を感じ取った。


「総員、第一種戦闘配備。繰り返します。総員、第一種戦闘配備。侵略者が現れました」


 (チッ、まだ朝食も取ってないってのに)


 嫌なタイミングで攻め込まれたものだと恭介は心の中で悪態をついた。


「ラミアス、敵戦力の情報を頼む」


「承知しました。C109ダゴンとC110ハイドラ、その奥にC201ヨグ=ソトースもいます!」


『単一個体だけじゃなくて、単一上位個体まで出て来ちゃったかぁ。こりゃ、高天原を警戒されてるね』


「上位って文言がある以上、ヨグ=ソトースが強いことはわかった。俺と沙耶、晶で出る」


 恭介は麗華を気遣って言ったが、麗華は首を横に振る。


「私も出撃できるよ」


「…わかった。無茶はしてくれるなよ」


「うん」


 そのやり取りに明日奈の表情がムッとしたが、それには誰も触れずに恭介達が格納庫に移動する。


 各々がゴーレムに搭乗してから、カタパルト付近に整列してドラグレンはカタパルトの上に待機した。


『進路クリア。ドラグレン、発進どうぞ!』


「明日葉恭介、ドラグレン、出るぞ!」


 カタパルトから射出され、ドラグレンが瑞穂の外の宇宙空間に飛び出してから麗華達が続く。


『更科麗華、ブリュンヒルデ、出るわよ!』


『筧沙耶、ガイアドレイク、発進します!』


『尾根晶、サルガタナス、行きまーす!』


 ブリュンヒルデとガイアドレイク、サルガタナスも宇宙空間に飛び出し、恭介のドラグレンの後ろに続く。


「俺が先制する。ギフト発動」


 恭介がギフトの発動を宣言し、彼はドラグレンのコックピットからドラキオンのコックピットの中に移った。


 カタパルトからの出撃の勢いを利用し、最初からトップスピードのドラキオンは鱗や水かきのついた手足を持つ巨大魚人と呼ぶべきダゴンの懐に入り込む。


 そして、竜鎮魂砲ドラゴンレクイエムでダゴンの体を撃ち抜いた。


 これこそ速攻と呼ぶに相応しいやり方でダゴンを倒したことにより、ハイドラが激昂する。


『『『…『『よくもダゴンをやってくれたな!』』…』』』


 ハイドラは元々、灰色のジャイアントスライムからあらゆる知的生物の頭部を生やした見た目だったが、恭介にダゴンを殺されたことで茹で上がった蛸のように体が真っ赤になっていた。


 それが爆発するように分裂し、赤いゲル状の胴体を持つ分身が周囲に広がった。


「麗華と沙耶、晶は分身を潰せ」


『『『了解!』』』


 大量の分身で敵を攪乱し、本体がその隙を突いて攻撃しようとしていることを見抜いたから、恭介は麗華達に援護を要請した。


 麗華達はそれぞれの武器を駆使して分身を減らしていき、ハイドラの作戦は失敗の色が濃厚になって来た。


『おのれ、忌々しい! 我が子達よ、私の敵を痛めつけなさい!』


 恭介の追っていた本体が魔法陣を展開し、そこから大量のディープワンを召喚した。


『戦いは数だよ恭介君!』


「いいや、戦いは質だ」


 ルーナがネタに走るのに対し、手短に応じてから恭介はビームランチャー形態のラストリゾートを横に薙ぎ、ディープワンの数を減らす。


 そのタイミングで死角からハイドラの本体がドラキオンを襲うが、恭介はドラキオンをターンさせて竜鎮魂砲ドラゴンレクイエムをハイドラの本体に命中させる。


「バレバレだっての」


『ヒュー♪ 流石エース!』


 ルーナが恭介をおだてるが、恭介はそれに反応せず麗華達が戦っていた分身が消滅するのを確認していた。


 本体と分身が完全に別の個体になっていたら厄介だったので、本体を倒して分身がそれに連動して倒せたか気にしていたのだ。


「沙耶と晶はそのままディープワン掃討に移れ。麗華は俺と合流してヨグ=ソトースを倒しに行くぞ」


『任せて!』


『『了解!』』


 麗華は恭介と共に戦いたいと思っていたから、一緒にヨグ=ソトースを倒しに行くと言われて喜んだ。


 ダゴンとハイドラを進んで恭介が倒しに行ったのは、自分の体を気遣ってくれてのことだとわかっているが、それでも麗華は恭介と肩を並べて戦いたいと考えている。


 実際、ギフトレベルが高くなったことで体に違和感はないから、戦闘に支障はないので麗華が恭介と共に戦った方がヨグ=ソトースに勝てる可能性が上がるに決まっている。


 ヨグ=ソトースはダゴンとハイドラを使い、恭介の戦い方をじっと見ていた。


 それはこれから自分が戦う相手だから分析していたのが、ダゴンとハイドラ程度では恭介の実力を完全に引き出せなかったと判断し、魔法陣を展開して黒い仔山羊の大群を恭介達にぶつける。


『恭介さん、私が道を拓くよ!』


「助かる!」


 麗華は全武装で一斉掃射し、黒い仔山羊の数をガンガン減らしていく。


 そのおかげで恭介はヨグ=ソトースの前に辿り着くことができた。

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