第205話 実弾が効かないならビームを撃てば良いじゃないの

 麗華がコロシアム前にやって来た時、ブリュンヒルデのモニターにニヤニヤしたルーナが現れた。


『恭介君にプロポーズされてご機嫌な麗華ちゃんだね。我が世の春が来たって感じ?』


「我が世の春かどうかは知らないわ。でも、油断すると危険だってことはわかった。あの女の目がヤバかったからね」


『あの女? なんだ、明日奈ちゃんの変化にちゃんと気づいてたんだね。脳みそお花畑かと思ったら、そういうとこはちゃんと見てたんだ』


「当たり前でしょ? 女同士の戦いに終わりなんてないもの」


 恭介の前では特に何も言わなかったが、麗華は昼食時にずっと明日奈のことを警戒していた。


 婚約指輪を左手の薬指に嵌めてもらい、恭介と婚約関係になったことで明日奈に対して更に1歩リードした訳だが、明日奈の笑顔でもハイライトの消えた目に危険なものを感じない程麗華の頭はめでたくない。


 明日奈は略奪愛上等のスタンスなので、婚約破棄させるために何か仕掛けて来るんじゃないかと麗華は考えている。


 それはそれとして、ここで雑談しているのは時間が勿体ないから麗華は入場門を開いてもらうことにした。


「コロシアムで5連戦するわ。入場門を開いてちょうだい」


『はーい』


 ルーナが開いた入場門を通り、麗華はコロシアムの中に入った。


 そこには本来出て来るはずのヒッポグリフがおらず、その代わりに山羊頭に鳥の翼を持つバフォメットが空中で腕を組んで待ち伏せていた。


『サプラァァァァァイズ!』


「初手サプライズってそんなのあり?」


「我を呼んだのはお前か」


「私は呼んでないわよ!」


 力強く返答するのと同時に、麗華はヴォーパルバヨネットでバフォメットを攻撃する。


 そんな麗華に対し、バフォメットは手を前に出して六芒星の魔法陣を発動した。


 魔法陣がビームに触れた衝撃で激しい土埃が生じ、その少し後で土埃の中から麗華が撃ったのと同じ威力のビームが飛び出した。


 麗華は攻撃した直後には移動し始めており、ビームを撃ち返された時にはバフォメットの背後に回り込んで全武装で攻撃していた。


「ぬぐぉぉぉぉぉ!」


 ヴォーパルバヨネットの攻撃は再び魔法陣で撃ち返したけれど、四対の翼の銃と混沌衛砲カオスサテライトによるビームまで加われば、バフォメットの魔法陣では防ぎ切れなかった。


 六芒星の魔法陣は胴体を守るサイズだったので、複数の攻撃で体のあちこちを狙われてしまえば防ぎ切れないのは当然だろう。


 左右の角と翼、四肢を撃ち抜かれてバフォメットは地面に墜落した。


「次行くわよ、次」


 麗華がヴォーパルバヨネットで胴体に風穴を開ければ、バフォメットは力尽きて光の粒子になった。


『やだー、血も涙もないじゃないですかー』


「ハウス」


『クゥーン』


 ルーナはまだふざける余地ありと判断し、哀愁漂う犬の鳴き声を真似しつつモニターから姿を消した。


 バフォメットの次に現れたのは紫色の大蛇の外見をしたピュートーンで、その体から放出する煙にはゴーレムの機体の耐久度を削る効果がある。


 耐久度を削る煙への対策は近づかないことだから、近づかずに倒すために銃火器を使う戦法がベストだということは恭介の戦いを見て理解している。


 遠距離戦闘は麗華にとっていつも通りの戦法だから、部位破壊も狙いつつ攻撃を開始した。


「シュロロ!?」


 組みついてとゴーレムをじわじわと壊していこうと思ったら、近づくどころか一方的にダメージを受けてしまっているため、ピュートーンは驚きと焦りでいっぱいだった。


 しかし、驚いている間に全ての牙が折られて目も潰されてしまい、鱗もどんどんボロボロになっていく。


 何もできないまま終わるのは嫌だと考えたのか、被弾を覚悟の上でピュートーンは突進を敢行する。


 それでも、大きな体で爆発力のある移動手段もないから、ピュートーンはブリュンヒルデに近づくよりも前に蜂の巣にされて地面に倒れた。


 ピュートーンが消えるのと入れ替わりで、今度は緑色の怪鳥が現れた。


 見かけは牡鹿の頭部と脚を持った大きな鳥なのだが、体が透けているのである。


 このモンスターはゴースト要素もある合成獣のペリュトンという。


 (実弾が効かないならビームを撃てば良いじゃないの)


 もしもビーム兵器を持っていない時に遭遇したら勝ち目はなかったかもしれないが、ビーム兵器を多く装備するブリュンヒルデにとってペリュトンは敵ではない。


 全武装による一斉掃射であっけなく戦いは終わってしまった。


『初登場のペリュトンさんが…』


「弱いのが悪いのよ」


 ルーナがしょんぼりしているけれど、麗華はバッサリと斬り捨てた。


 弱肉強食の世界なのは事実だから、実力を発揮できずにあっさりとやられたペリュトンが評価されなくとも仕方あるまい。


 ペリュトンが消えた後に現れたのは、100本の腕と50個の頭を持つヘカトンケイルである。


 GBOにおいて、ヘカトンケイルは全身黄色の超巨大土属性モンスターであり、どの腕にも棍棒が装備された手数で勝負するスタイルだ。


 レース時の原寸大ゴーレムと同じサイズだから、コロシアムで縮んでしまうゴーレムに乗っているとヘカトンケイルはかなり大きく見える。


 (ニューイングランド侵攻作戦の方がよっぽど大変だったわ。ヘカトンケイルぐらい余裕よ)


 サイズが大きくて手数も多いのは脅威だが、精神攻撃を繰り出して来ない敵なんて今の自分にとって脅威ではない。


 麗華は深呼吸してから全武装で一斉掃射し、ヘカトンケイルの頭と腕を次々に撃ち抜いていく。


「「「…「「何故だ!? 何故攻撃が届かない!?」」…」」」


 ヘカトンケイルは頭と腕がどんどん破壊されていくせいで、焦って狙いが雑になってしまう。


 属性的に有利なこともあり、ブリュンヒルデとヘカトンケイルの戦いはサイズこそ逆だが巨象と蟻の戦いと表現できるぐらい一方的に進む。


「馬鹿な!? 圧倒的な物量差があったのに!」


「これで終わりね」


 ヘカトンケイルの疑問に答えることなく、麗華は両脚と最後に残った頭を撃ち抜いたことでヘカトンケイルは力尽きた。


 胴体しか残っていないヘカトンケイルの体が消え、いよいよ5戦目のアンフィスバエナがコロシアムの上空に現れる。


 真っ赤な大蛇のボディの両端に頭にあるアンフィスバエナは、黒金剛アダマンタイト製のゴーレムだとしても、油断しているとバターのように熔かされてしまう程の炎を吐くから、麗華は短期決戦で済ませることにした。


「ギフト発動」


 理想を言うならば、ゴーレムチェンジャーを使ってハーロットに乗り換えるべきだが、今のハーロットには強力なビームを放てる武器がない。


 だからこそ、麗華は150万ゴールドをコストにして金力変換マネーイズパワーを発動し、ヴォーパルバヨネットのビームでアンフィスバエナの体を撃ち抜いた。


 いくら属性的に不利であろうと、ゴリゴリに強化すればどうとでもなるのだ。


 アンフィスバエナの体が光の粒子になって消えて5連戦が終わり、麗華はブリュンヒルデのモニターに表示されたコロシアムバトルスコアを確認する。



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コロシアムバトルスコア(ソロプレイ)

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討伐対象:①バフォメット②ピュートーン

     ③ペリュトン④ヘカトンケイル

     ⑤アンフィスバエナ

部位破壊:①角(左右)/翼(左右)/四肢

     ②②牙×4/目(左右)③なし

     ④頭(全て)/腕(全て)/脚(左右)⑤なし

討伐タイム:52分15秒

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総合評価:S

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報酬:100万ゴールド

   資源カード(食料)100×10

   資源カード(素材)100×10

ファーストキルボーナス:黒金剛アダマンタイト×100

サプライズ撃破ボーナス:ゴブレットオブエロス

ノーダメージボーナス:魔石4種セット×100

ギフト:金力変換マネーイズパワーLv33(up)

コメント:札束ビンタでギフトレベルが2つ上がったよ(゚д゚)

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「札束ビンタとか言わないで。確実性を求めただけよ。というかこっち見んな」


『どう見てもオーバーキルです。本当にありがとうございました』


「まだ煽るの? しつこいルーナは嫌われてるわよ?」


『嫌われてるって現在形じゃん!』


「逆に嫌われてないとでも思った?」


『ぐぬぬ…』


 ルーナは心当たりがあったのか、唸ることしかできなかった。


 麗華はルーナを黙らせてから瑞穂の格納庫に戻り、武器合成キットを購入してゴブレットオブエロスをゴエティアと合成し、アポカリプスを完成させた。


 アポカリプスはゴエティア同様に4つの形態に変形可能な武器であり、変形先は斬馬刀とビームウィップ、ビームキャノン、大鎌デスサイズだ。


 ゴエティアの時に使っていた時の武器が強化されており、唯一種類は変わっていない大鎌デスサイズも切れ味が増している。


 コロシアムで手に入れた武器の名前は記憶から消し、ハーロットにも強い武器が手に入ったことを喜ぶ麗華だった。

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