第202話 それはジェバンニ

 帰って来た恭介を麗華が笑顔で出迎える。


「恭介さん、お疲れ様。今日もぶっちぎりだったね」


「ありがとな。なんか惑星開発チケットとかいうの貰った」


『その通り! 惑星開発ができるチケットをプレゼントしたよ!』


 格納庫のモニターにドヤ顔のルーナが現れた。


「これを使って惑星基地を開発しろと?」


『正解! まあ、何もないところにチケット1つで用意できるはずないから、恭介君達が溜め込んだ資源カードを使って開発するんだけどね!』


「そりゃ惑星基地がノーコストで手に入るとは思ってないさ。チケットを使うのにそれぞれどれぐらいの資源が必要なんだ?」


『う~んとね、どれぐらいの資源カードを使うかによって惑星基地のグレードが変わるって言った方が良いかな。最低でも資源カード(食料)100×100枚と資源カード(素材)100×100枚は必要だね。グレードはそれぞれこんな感じだよ』


 ルーナは画面を分割し、左半分に自分を映して右半分にグレードと必要な資源カードの枚数の一覧を映し出した。


 

 黄泉:資源カード(食料)100と資源カード(素材)100を100枚ずつ

 吉原:資源カード(食料)100と資源カード(素材)100を200枚ずつ

 龍宮:資源カード(食料)100と資源カード(素材)100を300枚ずつ

 天の岩戸:資源カード(食料)100と資源カード(素材)100を400枚ずつ

 高天原:資源カード(食料)100と資源カード(素材)100を500枚ずつ

 ※資源カード(食料)100と資源カード(素材)100を100枚毎にグレードアップ



「麗華、資源カードをどれだけ持ってる? 俺は348ずつ」


「私は224ずつだよ」


「それなら高天原にするか?」


「そうだね。使う時はパーッと使おうよ。それが安全に繋がる訳だし」


 待機室パイロットルームのショップチャンネルで恭介が300枚ずつ、麗華が200枚ずつ資源カードを消費して高天原の設計図を購入し、惑星開発チケットを使った。


『素晴らしい。素晴らしいよ恭介君、麗華ちゃん。君達の御大尽プレイに敬意を表して一晩で完成させようじゃないか』


「それはジェバンニ」


「すぐに完成しないんだね。それなら、私も挑戦して来る」


「気をつけてな」


 麗華はすぐに高天原が完成しないなら、時間を有効に使うべきと考えてハーロットに乗り込み、そのままレース会場に向かった。


 レース会場に到着するや否や、モニターにルーナが姿を見せる。


『麗華ちゃんは私をないがしろにしてると思う。一晩で完成させるって言ったんだから、恭介君みたいなリアクションをしてよ』


「元ネタを知らなかっただけよ。それよりも、ブリザードルインズに挑むから入場門を開いてちょうだい」


『はーい』


 ルーナは入場門を開き、麗華はハーロットを操縦してその中に入った。


 入場門を通った先には、吹雪で視界の悪い廃墟街と呼ぶべきブリザードルインズがあった。


 1位の位置から順番に土属性のレオンロック、風属性のイーグルノクターン、火属性のイグニスオペラ、水属性のクルーエルラプソディ、土属性のロイヤルガード、風属性のベルセルク、火属性のテスタメントが並んでいる。


 1位と2位は変形できるゴーレムだ。


 レオンロックはパンクなデザインで、ドラムセットを叩くパーツごとに衛星のように飛ばせるだけでなく、獅子形態に変形できる。


 イーグルノクターンは紳士的なデザインで、ヴァイオリン型ビームランチャーを装備しているのが特徴的であり、鷲形態に変形可能である。


 それに対して、3位~7位は変形できないゴーレムだ。


 イグニスオペラはシンガーのようなデザインで、マイク型ロッドを装備しており、変形能力がない代わりに腰には折り畳み式のレールガンがある。


 クルーエルラプソディはイーグルノクターンよりも砕けたデザインで、キーボード型ガトリングガンを装備しているゴーレムだ。


 ロイヤルガードは片手剣と盾を持った騎士型ゴーレムだが、剣と盾が周囲から金属を引き寄せて纏わせたまま攻撃や防御に使える力を持つ。


 ベルセルクは2本の大剣を背負った戦士型ゴーレムであり、両手に大剣を装備して暴れ回る狂戦士である。


 テスタメントは遠距離重視で実弾とビームを切り替えられる銃を装備しており、状況に応じて使い分けられる遠距離戦を得意とするパイロット向けのゴーレムだ。


 8位の位置に麗華のハーロットが着いた瞬間、レース開始のカウントダウンが始まる。


『3,2,1,GO!』


 スタートダッシュと同時に、麗華は予定通りにハーロットの信号をオンにする。


 それが原因でハーロット以外のゴーレムがまともに操縦できず、ハーロットが一気に1位に躍り出た。


 信号の効果範囲外に出たら、麗華はゴーレムチェンジャーを使ってブリュンヒルデに乗り換える。


 ブリュンヒルデが2位以下を突き放すレベルで独走しているということは、それ以外のゴーレムはレース早々に1つ順位が下がっているし団子状態になっている。


 2位の座は渡さないとガンガン武器を使って少しでも高い順位を狙う有様だ。


 そんな中でも、2位のイーグルノクターンと3位のレオンロックは順位が入れ替わっているが、今はそれぞれ鷲と獅子と変形しており、ブリュンヒルデを追いかけている。


 追いかけられようと差が開き過ぎて後ろから攻撃が飛んで来ないので、麗華はモニター上のセンサーと映像に集中する。


 (そろそろ来るはず)


 一瞬だけ吹雪の中で何かが光ったことを見逃さず、麗華はブリュンヒルデの位置をずらした。


 その直後に光が見えた場所から、先程までブリュンヒルデがいた位置を狙ってビームが飛んで来た。


 これはブリザードルインズがかつて要塞都市だった頃の迎撃システムの仕業で、熱源に反応して一定の間隔でビームによって狙撃する仕組みなのだ。


 更にギミックによる妨害は続き、ブリュンヒルデが通過した直後に地面が爆発した。


 ブリザードルインズに埋められた地雷によるもので、ある程度の高度までだがその上を何かが通った瞬間に爆発するようになっている。


 爆発によって雪が吹き飛び、それがコースの上に積もれば陸を走るゴーレムにとっては邪魔でしかないが、空を飛ぶブリュンヒルデには関係ない。


 迎撃システムと地雷を躱して先に進んだ所で、雪を巻き込んだ竜巻がブリュンヒルデに向かって接近して来る。


 正面衝突を避けようと麗華が竜巻を迂回すると、このタイミングで迎撃システムが一斉掃射を始めてブリュンヒルデを竜巻に追いやろうとする。


 (陰湿な迎撃システムね。でも、私を追い詰めようなんて甘いわ)


 麗華は恭介のレースをしっかり研究していたから、全てのビームを的確に躱して竜巻の影響を受けないルートを進んで竜巻をやり過ごした。


 2周目に突入し、ブリザードルインズにシルバーウルフの群れが放たれる。


 シルバーウルフは空を飛べないから、空を飛ぶゴーレムに対する攻撃手段は風の砲弾を口から吐き出すのみだ。


 吹雪の勢いが強くなり、生半可な出力では空を飛ぶのが危険な状態だが、ブリュンヒルデならば問題ない進める。


 賢いシルバーウルフが迎撃システムの射程圏内や地雷の上に獲物を誘導しようとするけれど、麗華はそう簡単に引っ掛かったりしない。


「アォォォォォン!」


「「「…「「アォォォォォン!」」…」」」


 群れのリーダーが遠吠えした後、配下のシルバーウルフ達が吠えて雪崩が発生する。


 その雪崩で2位と3位のゴーレム以外は巻き込まれているのを見つけ、麗華はそれを颯爽と抜き去っていく。


 竜巻を躱してブリュンヒルデが3周目に突入すると、ブリザードルインズにデンジャラスドック同様に警備用ゴーレムのロストガーディアンが出現する。


 ロストガーディアンの妨害に迎撃システム、地雷、シルバーウルフの妨害が加わったことで、3位から2位に上がれないレオンロックが嵌められて残骸に成り果てていた。


 2位のイーグルノクターンはそれらによって竜巻に押し出されてしまい、竜巻に巻き込まれたまま逆走していった。


 麗華はイーグルノクターンを追い抜いたことで余裕ができたため、それぞれの妨害を丁寧に躱してゴールした。


『ゴォォォル! 優勝は傭兵アイドル、福神漬け&ブリュンヒルデだぁぁぁぁぁ!』


 麗華はブリザードルインズから脱出してすぐに、モニターに映し出されたレーススコアを確認する。



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レーススコア(ソロプレイ・ブリザードルインズ)

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走行タイム:41分26秒

障害物接触数:0回

モンスター接触数:0回

攻撃回数:18回

他パイロット周回遅れ人数:7人

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総合評価:S

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報酬:資源カード(食料)100×5枚

   資源カード(素材)100×5枚

   50万ゴールド

非殺生ボーナス:魔石4種セット×50

ぶっちぎりボーナス:キャプテン義体作成キット

デイリークエストボーナス:魔石4種セット×50

ギフト:金力変換マネーイズパワーLv27(stay)

コメント:やったね! ラミアスの体を手に入れたよ!

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 (やったねじゃないわ!)


 ラミアスは二次元の存在だったから、恭介を巡る戦いでライバルになり得なかった。


 しかし、キャプテン義体作成キットでラミアスに義体が与えられたなら、ラミアスが恭介にアプローチすることも可能かもしれない。


 麗華が喜べない理由はそこにあった。


 モニター上ではルーナがニヤニヤしていたが、麗華はそれを無視して瑞穂の格納庫に帰った。

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