第198話 撃たれる前に撃て!

 恥ずかしがって布団から出て来ない沙耶に対し、恭介は声をかける。


「諦めて布団から出て来いよ。恥ずかしがることなんてないだろ」


「…20歳よりも30歳の方が近い自分なのに、ワーワー泣いたって気づいたら恥ずかしくなりますよ」


「俺達は命がけの戦いをしてるんだ。辛くて泣きたくなることだってある」


「兄さんは泣かないじゃないですか」


 ちょっとだけ布団から顔を出した沙耶にジト目を向けられ、恭介は視線を逸らしこそしなかったけれど苦笑した。


「俺が折れずにいれるのは、ゴーレムに乗るのは好きだからだ。そうじゃなかったらここまでやって来れなかったと思う」


「ゴーレムに乗るのが好きなだけで、外国のパイロットを歯牙にもかけず、クトゥルフ神話の侵略者達を倒せる訳ないじゃないですか。兄さんは精神的に図太過ぎです」


「そんなこと言ったってしょうがないじゃないか」


「…はぁ。まったく、兄さんは仕方のない人ですね」


 沙耶は恭介がすごいのは恭介だからだと結論付け、これ以上この話題を続けるのを止めた。


 その一方、恭介は晶に渡したのと同様にギフトレベルアップチケットⅤを取り出す。


「沙耶、まだゴーレムに乗るつもりはあるか?」


「あります。私は兄さんと麗華さんのお荷物にはなりたくないんです。さっきは泣いてしまいましたが、それだって怖くて泣いたというよりも自分の弱さが悔しくて涙が出たんです」


 沙耶の目には確かに強くなりたい、強くならなければならないという意思が感じられたため、恭介はチケットを沙耶に手渡す。


「だったらこれを渡そう。ギフトレベルアップチケットⅤだ」


「Ⅴということは、Lv25以下なら5つギフトレベルが上がるんですね?」


「正解。俺と麗華がグロースの即死攻撃に耐えられたのは、ギフトレベルが30に到達してるからかもしれない。沙耶のギフトはLv22だったよな?」


「その通りです。即死攻撃に耐えられるかどうかはLv30になってみないとわかりませんが、ギフトレベルは上がれば上がる程私達の生存率を高めます。使わせてもらいます」


 恭介が頷いたのを確認し、沙耶はギフトレベルアップチケットⅤを使って未来幻視ヴィジョンをLv27までレベルアップした。


 その時、ラミアスが沙耶の部屋のモニターに現れた。


『恭介さん、お疲れのところすみませんが、ゴーレムに乗って待機して下さい。この案内は麗華さんにも案内してます』


「わかった。沙耶、ゆっくり休んでおけ」


「わかりました。兄さん、無事に帰って来て下さいね」


「勿論だ」


 恭介は沙耶の私室を出て、格納庫にあるドラグレンに乗った。


 ドラグレンのモニターに再びラミアスが映る。


『先程は沙耶さんのメンタルケア中に失礼しました』


「仕方ないさ。外で何かあったんだろ?」


『はい。ニューイングランドに異変がありました。こちらをご覧下さい』


 モニターの画面が変わり、そこには半壊したニューイングランドがゼリー状に変化し、そのまま球体を形成していく。


「嘘だろ? まさか、ニューイングランド自体がクトゥルフ神話の侵略者だったのか?」


『残念ながらその通りです。先程の戦闘にて回収したデータによれば、ニューイングランドの正体はC108ウボ=サスラの擬態でした』


「ウボ=サスラ? ビッグネームだよな。聞いたことがあるぞ。確か、原始ショゴスじゃなかったか?」


『仰る通りです。新たに手に入れたデータでは、ウボ=サスラがショゴスと似た特性を有してるようです』


 ショゴスと似た特性ということは、属性攻撃を受けた物体を捕食することでその属性に変化することがわかる。


 発見当初の半分とはいえ、惑星サイズの敵だから簡単には倒せないだろう。


 何故なら、恭介達が先程の戦闘で派手に暴れてなお問題なく動いているからだ。


「ラミアス、全武装で攻撃を仕掛けてくれ。その後に俺と麗華で出撃する」


『かしこまりました。ミサイル、副砲、主砲、特捜砲にて攻撃次第、発進願います』


 恭介の頼みに頷き、ラミアスは早速準備に取り掛かる。


 その間に恭介と麗華はいつでもカタパルトから発進できるように移動を済ませた。


『準備が整いました。全ミサイル照準、撃てぇぇぇ!』


 装填された全てのミサイルがウボ=サスラに命中して爆発し、球体のウボ=サスラのあちこちが凹んだ。


 修復させる暇を与える訳にはいかないので、ラミアスは続けて副砲の発射に移る。


パニッシュメント照準、撃てぇぇぇ!』


 ウボ=サスラの中心に向かって左右の副砲から一撃ずつ発射されたが、ウボ=サスラは十字型に変形させ、更に左右の部位を盾に変えて自身の中心を守る。


 副砲が命中したことで2つの盾は破壊されたが、ウボ=サスラの中心に光が集まっており、ビームを打ち出そうとしているのは明らかだった。


「撃たれる前に撃て!」


『お任せ下さい! 審判ジャッジメント照準、撃てぇぇぇ!』


 恭介が命令した直後に主砲の審判ジャッジメントが放たれ、それがウボ=サスラのビームを撃とうとしている中心に命中して爆発した。


 エネルギーが中心に集まっていたことにより、爆発の勢いはウボ=サスラ全体を包み込む規模になった。


 肉片がバラバラに飛び散り、ウボ=サスラもこれで倒せたのではないかと思った時、その肉片が1ヶ所に集まって巨大な大砲を形作った。


 その砲口が光り始めたため、ラミアスは恭介に命令されるよりも先に対処する。


魔開闢砲オリジンキャノン照準、撃てぇぇぇ!』


 特装砲の魔開闢砲オリジンキャノンが発射され、再びウボ=サスラの中心を貫いた。


 今度は先程よりも更に爆発の規模が大きく、半分以上焼失したのか散らばった肉片の数が減っていた。


 その時には恭介がドラグレンをカタパルトに乗っていつでも出撃できるようにしていたから、ラミアスの声がコックピット内に響く。


『進路クリア。ドラグレン、発進どうぞ!』


「明日葉恭介、ドラグレン、出るぞ!」


 カタパルトから射出され、ドラグレンが瑞穂の外の宇宙空間に飛び出してから麗華も続く。


『進路クリア。ドラグレン、発進どうぞ!』


『更科麗華、ブリュンヒルデ、出るわよ!』


 魔開闢砲オリジンキャノンを受けてしまえば、ウボ=サスラも飛び散った破片を集めて次の形に変わるのも時間がかかってしまった。


 ウボ=サスラの形が外見だけドラキオンによく似た姿へと変わり、サイズも同程度になった。


 元々大きかった惑星サイズのウボ=サスラも、ゴーレム1機分のサイズになるといよいよ追い詰められたと思ったのか恭介達に背中を見せて逃げ始める。


「逃がさねえよ」


 恭介はドラグレンのコックピット下の砲口からビームを放ち、それを躱したウボ=サスラの動きを見極めて蛇腹剣形態のファルスピースで拘束した。


 蛇腹剣でウボ=サスラを捕らえられたのは、外見がドラキオンでもスピードがドラキオンに比べて遅かったからだ。


 それでも、恭介がこれまでに鍛えた反射神経がなければ拘束できない程度には速かったとだけ補足しておく。


「麗華、引き寄せるから一撃で決めてくれ!」


『了解! ギフト発動!』


 宣言通りに恭介がファルスピースを引き寄せると、麗華が50万ゴールドをコストに金力変換マネーイズパワーを発動してヴォーパルバヨネットからビームを放つ。


 それに当たらぬように恭介がファルスピースを回収すれば、ウボ=サスラは強化されたビームによって体の中心に大きな風穴が開いた。


 度重なる修復と部位の欠損により、これ以上体を治す力もなくウボ=サスラの動きが完全に止まった。


 その証拠にルーナがウボ=サスラを回収している。


 戦闘が終わったことはラミアスからも2人に知らされる。


『恭介さん、麗華さん、お疲れ様でした。戦闘終了です。帰艦して下さい』


 恭介と麗華は瑞穂に戻り、それと同時に、恭介達のゴーレムのコックピットにバトルスコアが表示される。



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バトルスコア(VSクトゥルフ神話)

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出動時間:6分36秒

撃破数:ウボ=サスラ1体

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総合評価:S

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報酬:資源カード(食料)100×5枚

   資源カード(素材)100×5枚

   50万ゴールド

ファーストキルボーナス:惑星基地の設計図のショップ販売

ノーダメージボーナス:魔石4種セット×50

ギフト:黄竜人機ドラキオンLv37(stay)

コメント:ニューイングランド侵攻作戦成功おめでとう!

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 (惑星基地の設計図なんてものがあるのか。…なんだかワクワクして来た)


 何歳いくつになっても男の子ということなのか、恭介は惑星基地を組み立てられると知ってワクワクした。


 そうだとしても、まずは惑星基地よりも先に反省会をする必要があると思って気持ちを切り替える恭介だった。

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