第196話 ドン引き不可避ですよ、こいつはァ…

 恭介が土精霊槌ノームハンマーを使ってクレーターを作った後、ニューイングランドに残っている雑魚モブ集団が持ち場を離れて瑞穂に向かって来た。


『護衛組の皆さん、出番です。砲撃で数を減らし次第、出撃して下さい』


 ラミアスから声をかけられ、3期パイロット4人が気を引き締める。


 瑞穂のリーダーは恭介だが、3期パイロット4人だけで動く時のリーダーは遥だ。


 遥がリーダーになったきっかけは、2期と3期パイロットの6人による多数決である。


 明日奈は実力だけで言うと3期の中で一番だが、恭介のことしか頭にないのでチームをまとめるとか指揮が得意ではない。


 3期パイロットがトゥモローファンクラブだけなら話が別だけれど、そうでなければ個人プレーに走りがちなので得票数は0だった。


 次に得票数が少なかったのは潤だ。


 人柄に問題がある訳でもなければ、一部周りの自己による恩恵もあるが操縦もなかなかの腕前である。


 ただし、覇気がない。


 リーダーとして他のメンバーを引っ張っていくには覇気も必要だろうということで、得票数は1票だった。


 ちなみに、票を入れたのは明日奈だ。


 その理由は押せば言うことを聞いてもらえそうだからであり、潤がリーダーになってくれると自分に都合が良くて票を入れた。


 2番目に票が多かったのは、2票で仁志だった。


 票は晶と遥が入れており、その理由は真面目だが固過ぎず、パイロットとして無駄がないことが理由だ。


 そして、3票を獲得してリーダーになったのが遥である。


 沙耶と仁志、潤が票を入れており、その理由は年長かつ人を引っ張る力があるとか、味方に優しく敵に厳しいからという理由が挙げられる。


 最近では年功序列という考えは古いという風に思う者もいるだろうが、どうしても年長者の方が場数を踏んでいて異常事態に強いのだ。


 それを聞いて遥の機嫌が若干悪くなり、仁志によって慰められたのはまた別の話である。


 遥がリーダーになった経緯はさておき、遥は3期パイロットの全員を鼓舞する。


『皆さん、自分達が成長して手に入れた力をこの場で発揮しましょう』


「はい」


『了解!』


『わかりました』


 明日奈達が遥の言葉に頷いていると、ラミアスが瑞穂に集まって来た雑魚モブ集団に迎撃を始める。


『ミサイル全弾発射! 続いてパニッシュメント照準、撃てぇぇぇ!』


 ミサイルの着弾である程度敵の数が減り、ミサイルを躱すべく固まった敵の群れに副砲のパニッシュメントが命中してさらにその数が減った。


 それを確認してから、明日奈達は各々のゴーレムをカタパルトまで移動させる。


『進路クリア。ナグルファル、発進どうぞ!』


「等々力明日奈、ナグルファル、出るわ!」


 カタパルトから射出され、ナグルファルが瑞穂の外の宇宙空間に飛び出してから仁志達が続く。


『山上仁志、クルーエルラプソディ、発進する!』


『笛吹遥、レオンロック、出るわよ!』


『田辺潤、ティターニア、行きます』


 クルーエルラプソディとレオンロック、ティターニアも宇宙空間に飛び出す。


 今日の作戦のために、3期パイロットは全員自分のゴーレムを黒金剛アダマンタイト製に変えているから、新人戦の時よりも耐久力が上がっている。


 攻めるのが得意な明日奈と周囲に不運を齎す潤が雑魚モブ集団を迎え撃ち、仁志と遥が瑞穂のデッキにの上から攻撃する。


 昨日までに仁志はケイローンからクルーエルラプソディに乗り換え、遥もペガサスからレオンロックに乗り換えた。


 これはバトルメモリーのポイント争奪戦の報酬で手に入れたものであり、両者とも今まで乗っていたゴーレムよりも高いスペックの機体が手に入ったから乗り換えたのだ。


 明日奈と潤は今の機体よりも強いゴーレムの設計図を得られず、機体を乗り換えることなくこの戦いに臨んでいる。


「トゥモロー様に捧げる供物共、かかって来なさい!」


 明日奈はやる気満々な様子でソードウイングを伸ばし、2本の蛇腹剣で敵をバッサバッサと斬り伏せる。


 それだけで終わるはずもなく、九頭蛇剣ヒュドラソードも使って撃墜スコアを稼いでいく。


 九頭蛇剣ヒュドラソード六腕衛剣ゲリュオンソード三叉犬槍ケルベロスピアを合成してできた武器だ。


 2本の剣を手に持ち、7本の剣は衛星のようにゴーレムの周辺を回り、敵を攻撃する時は遠隔操作で斬りつけることができる。


 はっきり言って九頭蛇剣ヒュドラソード六腕衛剣ゲリュオンソードの上位互換だ。


 ゴーレムを構成する鉱物マテリアルの強化を除き、設計図で強化できなくとも明日奈は武器が強くなっている。


 そんな明日奈が敵集団を張り切って倒すのを見て、潤も負けじと双犬銃剣オルトバヨネットで敵を牽制しつつ、翼から粉を飛ばして敵に触れたタイミングで爆発させる。


雑魚モブぐらいどうにかしなきゃお役に立てませんよ』


 潤はゴーレムも武器も変わっていないが、狙撃の腕や粉の操作の精密性が上がっており、一度の攻撃で多くの敵を巻き込んでいる。


 今までは数で押し切ろうとしてきた雑魚モブ集団も、考えなしでは味方の数が減るだけだと学習して精神攻撃に切り替える。


『『『…『『テケリ・リ!』』…』』』


『『『…『『ヨォォォォォ!』』…』』』


『『『…『『シャァァァァァ!』』…』』』


 (トゥモロー様が1人、トゥモロー様が2人、トゥモロー様が3人…)


 明日奈は精神の安定を図るため、恭介の数を数えるという対策を実行した。


 恭介のことを考えている時、明日奈はとても幸せな気分になれるからこんな手段を選択したのだ。


『ドン引き不可避ですよ、こいつはァ…』


 想定外の対策を目の当たりにして、ナグルファルのモニターに現れたフォルフォルはドン引きしている。


 そんなことなんてお構いなしに、明日奈は恭介の数を数えて昂った気持ちで敵を倒す速度が上がっていく。


『ここで使っておきますか。ギフト発動』


 明日奈に比べて自分には余裕がないから、潤はいつ帰艦することになっても良いように不幸招来バッドラックを発動した。


 ギフトを発動した直後から、敵集団の中でフレンドリーファイアが頻発するようになった。


『明日奈さん、潤さん、射線から離れて下さい。主砲を発射します』


「『了解』」


 ラミアスからの援護があると聞き、明日奈と潤はすぐに敵集団から離れた。


審判ジャジメント照準、撃てぇぇぇ!』


 主砲の審判ジャッジメントが瑞穂から放たれ、多くの雑魚モブが宇宙の塵になった。


 しかし、まだまだ生き残りは両手両足では数えきれない程いる。


 その中でも、黒いキュクロに乗るダーク・ワンの集団に変化が生じ始める。


 雑魚モブの死体を取り込むことにより、キュクロがブリキドールに変化した。


 更にブリキドール同士が合体し、今度はイフリートに変形してしまった。


 色は黒いけれど、外見は間違いなくイフリートである。


 4体のイフリート型ダーク・ワンが瑞穂に接近し始め、それ以外の雑魚モブ達が明日奈と潤をその4体に近づけさせまいと邪魔をした。


『4体のダーク・ワンはこちらでやります。等々力さんと田辺さんは目の前の敵に集中して下さい』


「『了解』」


 遥からダーク・ワンのことは任せろと言われたので、明日奈と潤は言う通りにに対応する。


『仁志、私にダーク・ワンを近づけさせないでね』


『わかってるって』


 仁志は鶏蛇爆星コッカスターを構えて前進し、手前の1体を殴りつける。


 その直後にボムスター零式で殴った時よりも大きな爆発がダーク・ワンを包み込んだ。


 イフリートに姿を変えたダーク・ワンだが、見た目だけでなく中身もイフリートに寄せているらしく、スペックの差でエンジンまで爆炎が届いて更に爆発する。


 段階的な爆発に巻き込まれ、隣にいた個体の左半身が焦げて脆くなった。


 残り3体のダーク・ワンのヘイトが仁志に集まり、遥の存在が彼等の中から消えたのを見計らい、遥は仁志に撃つぞと合図を送る。


 仁志はすぐにその合図に気づいたため、彼女の射線から大急ぎで離れた。


 それを確認して遥は呪機関銃カースマシンガンでダーク・ワン3体を順番に撃ち抜いた。


 左半身が脆くなった個体から攻撃したため、力尽きて爆発することで近くの個体を巻き込むことに成功し、遥が撃った弾数は本来イフリート形態のダーク・ワンを倒すのに消費する数と比べてかなり少なく抑えられた。


 仁志と遥が全てのダーク・ワンを倒した時には、明日奈と潤も目につく雑魚モブを片付け終えていた。


『護衛組の皆さん、お疲れ様です。周囲に敵性反応はありません。一旦帰艦して下さい』


 ラミアスから帰艦指示が出たため、明日奈達は瑞穂に戻った。


 ずっと宇宙空間で戦える程、明日奈達はタフじゃないのだ。


 休める時に休まなくては、いざという時に全力を発揮することはできないだろう。


 恭介達に悪いという気持ちはあれど、無茶をすることで余計に迷惑をかけることになってはならないから、明日奈達は格納庫で待機しつつ休憩した。

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