第195話 ダンスもまともに踊れないのね。さよなら
恭介が
(恭介さんに大技を使わせちゃった。あと1時間は私がカバーしなきゃ)
それどころか、アトラク=ナクアを倒したことで敵全体のヘイトを恭介が大きく稼いでしまったから、これから少しでも多くヘイトを稼がないと恭介だけ集中狙いされる恐れがある。
麗華の心配は半分当たって半分外れた。
ニューイングランドに残っている
そして、
『侵攻組の皆さん、気を付けて下さい! C105イタカとC106ラーン=テゴスが現れました!』
イタカの見た目は風属性のゴリアテをグロテスクにアレンジしたものだ。
赤く輝く目に猛禽類のような嘴、水かきのついた足がイタカをゴリアテらしからぬ存在たらしめている。
ドラストムの嵐の鎧には届かずとも、風を纏っているだけで攻撃によるダメージを軽減できる。
更に言うならば、イタカは風属性なのでドラキオンと属性的な相性が良い。
アトラク=ナクアごとニューイングランドに攻撃した際、しっかりと敵側もドラキオンの属性を把握したようだ。
ラーン=テゴスは象の体に無数の吸入管と蟹の鋏がついた6本の触腕が生えた存在であり、こちらは別に風属性ではないようで体の色は灰色だった。
その吸入管の吸い込む力は並のものではなく、先程から恭介が倒した敵の残骸を片っ端から吸い込んでいる。
『俺と麗華でイタカを倒す。沙耶と晶はラーン=テゴスを頼んだ』
『『「了解!」』』
恭介から手短に役割分担が伝えられ、麗華達はそれに従った。
イタカと属性的相性が悪いにもかかわらず、恭介がイタカと戦うことにしたのはヘイト管理の問題があるからだ。
仮に恭介がラーン=テゴスと戦えば、イタカは自分と戦う者なんて歯牙にもかけず恭介を狙って攻撃するだろう。
そうなれば、ラーン=テゴスとの戦闘に支障が出てしまうことは想像に難くない。
そんな事態を阻止するために、恭介は相性が悪くともイタカと戦って避けタンクになると決めたのだ。
(恭介さんのためにも1分1秒でも早くイタカを倒さなきゃ)
麗華は気を引き締めてから、イタカの側面に回り込んでヴォーパルバヨネットで連射する。
その攻撃で纏っている風を相殺し、四対の翼の銃からビームを放って風に守られていない箇所を狙い撃ちする。
『おのれ羽虫め! よくも俺様の体に傷をつけてくれたな!』
イタカは麗華の頭に直接怒りの声を届けるが、麗華は昨日のバトルメモリーによってギフトレベルが30に達していてイタカの声を聞いた程度では精神に影響を受けたりしない。
正気は保っているが、麗華には聞き逃せない言葉があった。
「今、私のことを羽虫って言った?」
『何度だって言ってやる! 羽虫風情がよくも俺様の体を傷つけてくれたな!』
やはり聞き間違いではなく、自分が羽虫と呼ばれたことを理解して麗華はキレた。
麗華から放たれる殺気が並々ならぬものだったため、イタカの動きが一瞬止まる。
「イタカ、お前は私を怒らせた」
その瞬間、ブリュンヒルデの腰に付いていた8つのビットが展開してブリュンヒルデの周囲を回り出す。
元々は4つだったビットだが、麗華は昨日のバトルメモリーでブリュンヒルデ専用兵装ユニットの
通常時は
具体的にどうなるかと言えば、生物も非生物も関係なく指揮系統を無茶苦茶にするから思うように体を動かせなくなるという訳である。
麗華は再びヴォーパルバヨネットで一点を狙って連射し、纏っている風の壁に穴を開ける。
そこを目掛けて
全てのビットを合体させることで、戦艦の副砲に勝るとも劣らない威力のビームを放てるのだ。
ただし、エネルギーを多く消耗するから魔石が潤沢にない時は使えないという制限もある。
『馬鹿な!? この俺様が羽虫如きに!』
「順応性を高めなさい。あるがままを受け入れられなければ死ぬだけよ」
『何を!?』
「ダンスもまともに踊れないのね。さよなら」
全てのビットを合体した
『ドS女帝様のおなぁぁぁりぃぃぃ!』
「ルーナ、黙りなさい」
『あっはい』
これ以上ボケをかませば不味いことになると判断できたようで、ルーナは静かにモニターから消えた。
ルーナが消えて麗華は冷静さを取り戻し、それに伴って麗華から放たれていた殺気も静まる。
どうして羽虫と呼ばれて麗華がキレたのか。
それは、恭介が極度の虫嫌いだからである。
虫を嫌う恭介の前で、自分が虫扱いされることを麗華は許せなかったのだ。
勿論、麗華が敵に羽虫扱いされたとしても、恭介も麗華を無視扱いして忌避することなんて有り得ない。
しかし、麗華は有り得なくても自分を虫扱いした事実を許すつもりなんてない。
二度とそのような扱いができないようにして初めて、麗華の心は穏やかになれる。
『麗華、落ち着いたか?』
「大丈夫。私は落ち着いてるわ」
『そうか。俺は麗華のことを頼りにしてるからな。イタカの言うことなんて気にしなくて良いぞ』
「うん! ありがとう、恭介さん!」
恭介は麗華がキレた理由を勘違いしていたけれど、麗華は恭介に頼りにされていると改めて感じられたことでご機嫌になったから結果オーライである。
麗華の機嫌が良くなったとわかり、恭介は麗華に指示を出す。
『さあ、ラーン=テゴスを仕留めるぞ。沙耶と晶がじわじわとダメージを与えてるけど、決め手に欠けるみたいだからな』
『任せて!』
沙耶と晶がラーン=テゴスと戦っていることを思い出し、麗華は恭介と共に参戦する。
ラーン=テゴスは
その結果、沙耶と晶が休まずダメージを与え続けていても、ダメージを回復しているせいでなかなか致命的なダメージを与えられない訳である。
だが、それはあくまで沙耶と晶だけがラーン=テゴスと戦う場合の話で、そこに麗華と恭介が加われば話は変わる。
ヴォーパルバヨネットとラストリゾートからビームを放ち、ラーン=テゴスの体に2つの風穴が開く。
それに続けてブリュンヒルデの四対の翼の銃と
麗華と恭介の加勢により、回復が追い付かなくなってラーン=テゴスは力尽きたのだ。
ラーン=テゴスの死体が消えた時、麗華はモニターに向かって話しかける。
「ルーナ、ラーン=テゴスの死体を回収したのよね?」
『したよ。わかってると思うけど、イタカの死体も回収したからね』
「それは構わないし文句を言うつもりはない。ただ、なんで
『情報収集に必要な分は回収したんだよ。数があれば良いってものでもないし、どうせ麗華ちゃん達なら倒せるってわかってたから、宇宙ゴミにならないように自主的にまとまってもらったの』
ルーナも自分の仕事はしたんだと胸を張って答えるが、後半については戦闘中に真っ先に配慮すべき事柄ではないだろう。
麗華が引っ掛かったのはそれである。
「楽に倒せる相手を強くしてどうすんのよ。馬鹿なの? 実は馬鹿なんでしょ?」
『むっ、言ってくれるじゃないか。相手が強くなって倒すのに苦労したかもしれないけど、その分だけ報酬は良い物にグレードアップしてるんだ。だから、決して麗華ちゃん達に損はさせてないよ。まさか、私が嫌がらせするためだけにそんなことをしてると思ったの? 信用ないなぁ』
「ルーナのしてることを考えれば、信用してもらえると思う方がおかしいのよ」
この発言にはルーナも反論できず、ぐうの音も出なかったのか何も言わずにモニターから姿を消した。
周囲の敵がいなくなったため、麗華は恭介の指示に従って再び北上した。
その行動がとんでもない結果に繋がるとは誰もこの時には思っていなかった。
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