第187話 ふしだらな母を助けなさい

 午後になり、2期パイロットも3期パイロットもそれぞれレースやタワー探索等に出払っており、瑞穂の中にいるのは1期パイロットの恭介と麗華だけだった。


 そんな時に艦内のモニター全てにラミアスが映り出す。


『総員、第一種戦闘配備。繰り返します。総員、第一種戦闘配備。侵略者が現れました』


「午後はオフにしたかったんだけどな」


「しょうがないよ。敵は私達の都合なんてお構いなしだもん」


「だよな。ラミアス、敵戦力について教えてくれ」


『承知しました。いずれも恭介さんと麗華さんは初見のはずです。C008クトーニアンが6体とC009黒い仔山羊が4体です』


 クトーニアンとは、触手だけの生物なのでできれば近づきたくないと思う見た目だ。


 黒い仔山羊は樹木と仔山羊が合体した見た目で、角も含めて頭部がいかつく変化を遂げている。


 恭介と麗華はそれぞれドラストムとブリュンヒルデに搭乗し、順番にカタパルトに並ぶとラミアスの声がコックピット内に響く。


『進路クリア。ドラストム、発進どうぞ!』


「明日葉恭介、ドラストム、出るぞ!」


 ドラストムがリニアカタパルトから射出されたら、麗華がその後に続く。


『ブリュンヒルデ、発進どうぞ!』


『更科麗華、ブリュンヒルデ、出るわよ!』


 ブリュンヒルデもすぐに宇宙空間に飛び出し、恭介のドラストムの後ろに続いた。


「クトーニアンは近寄りたくない見た目だな」


『目から私達のSAN値を削ろうとしてるのかも』


「固まってるうちにできるだけ多く倒してやろう」


 恭介はそう言ってアンヒールドスカーをビームキャノンに変形させ、クトーニアンがまとまっているところに一撃を放つ。


 即死したのは3体、残りの3体はダメージを負ったものの死には至っていないようだ。


『残りのクトーニアンは私が貰うよ』


 麗華は合成して新しくなったヴォーパルバヨネットの試し撃ちとして、ビームできっちり残り3体のクトーニアンを仕留めてみせた。


 うねうね動くクトーニアンを全て倒したところで、ラミアスから追加の連絡が入る。


『恭介さんと麗華さんに連絡があります。C010マガ鳥が4体、そちらに接近中です』


「了解。それならちゃっちゃと黒い仔山羊を倒さないと」


『私の一斉掃射で数を減らすわ』


 今度は麗華が先に攻撃すると宣言し、ヴォーパルバヨネットでヘッドショットを決められるように照準を定め、全武装で攻撃を開始する。


 黒い仔山羊は見た目こそ気持ち悪いが、台所の悪魔と呼ばれる黒いGと違って動きはそこまで速くない。


 それゆえ、麗華は簡単に4体をヘッドショットしてみせて、マガ鳥が恭介達の前に出て来るまでに黒い仔山羊は力尽きた。


「よくやってくれた。マガ鳥は俺が全部倒してやる」


 次は自分の出番だと恭介が宣言し、遠くから接近して来たマガ鳥を嵌めるべく爆発する粉を翼から撒いて操り始める。


 そして、マガ鳥達が撒いた粉の付近に近づいた瞬間にアンヒールドスカーからビームを放った。


 ビームと爆発により、マガ鳥達は恭介に何もできないまま倒された。


 マガ鳥とは本来、他者の脳に直接歌を届けて感情を増幅させる力を持っており、それが恐怖や怒りの場合に冷静なままでいることはなかなか難しいだろう。


 それを未然に防いだあたり、恭介にはクトゥルフ神話の侵略者達の情報を自主的に勉強した成果が出ているらしい。


『恭介さんと麗華さん、注意して下さい! C103シュブ=ニグラスがそちらに接近してます!』


「黒い仔山羊が出た時点でそんな予感はしてた」


『恭介さん、シュブ=ニグラスって黒い仔山羊を千匹産んだんだっけ?』


「豊穣の女神なんて異名もあったはずだ。とにかく気を付けてくれ」


 恭介はゴーレムチェンジャーを使い、ドラストムからドラグレンに乗り換えた。


 その理由だが、ドラグレンの方が恭介は乗り慣れているからである。


 それからすぐにシュブ=ニグラスが恭介達の前にやって来た。


 シュブ=ニグラスの見た目は、触手と山羊と樹木を混ぜ合わせた黒い物体と呼ぶのが相応しく、どこが豊穣の女神なのか一般的な感性ではわかる日は来ないに違いない。


 3期パイロットがその姿を見れば、モニター越しでもSAN値がガリガリ削られていくことは間違いない。


 2期パイロットでも数分でSAN値がピンチになるだろう。


 1期パイロットの恭介達ですら、長い間見ていたくはないと思える存在である。


『良質な雄の精気を感じる。子種が欲しい』


『恭介さんは渡さない!』


 麗華の頭にもシュブ=ニグラスの声が届いていたらしく、麗華はその発言に激昂して全武装でシュブ=ニグラスを攻撃し始めた。


 その攻撃はかつてない程過激で、燃料となる魔石の消耗を度外視した怒涛の連撃だった。


 これにはシュブ=ニグラスも防戦一方であり、態勢を立て直すことにしたようだ。


『ふしだらな母を助けなさい』


 その言葉が聞こえた直後、シュブ=ニグラスの周囲にいくつもの魔法陣が現れて黒い仔山羊の群れが召喚された。


 黒い仔山羊の群れを肉壁にして時間を稼ぎ、シュブ=ニグラスは全ての触手を伸ばしてドラグレンを捕獲しようとする。


「守られてばかりじゃいられないんだよ!」


 蛇腹剣形態のファルスピースをコンパクトに振るい、恭介はバッサバッサと自分を捉えようとする触手を切断していく。


 無論、それだけじゃなくて翼の銃を遠隔操作して死角からビームを放ったり、コックピット下の砲門からビームを放ってシュブ=ニグラスへの攻撃も忘れない。


 恭介も真剣に戦っているのだが、今の麗華はキレッキレな状態で戦闘をしている。


 それはキラキラパシューンなんて音と共に何かが割れたレベルであり、無駄なく怒涛の攻めで黒い仔山羊の群れを殲滅し、シュブ=ニグラスに攻撃対象が移る。


『止さぬか! 我がその雄の子を孕』


「言わせない!」


 頭部に集中して攻撃することで、麗華はシュブ=ニグラスにそれ以上喋らせない。


 恭介も身の危険を感じ、シュブ=ニグラスに集中砲火を浴びせること数分、ようやくシュブ=ニグラスが物言わぬ死体になった。


『これは回収させてもらうね』


 クトゥルフ神話の侵略者達に死体を回収された場合、どんな変貌を遂げるかわからないからルーナが速やかに戦場からシュブ=ニグラスの死体を回収した。


『恭介さん、麗華さん、お疲れ様でした。周辺に敵の反応はありません。帰艦して下さい』


「『了解』」


 ラミアスからの連絡を受けて2人が瑞穂に着艦すると同時に、各々のゴーレムのコックピットにバトルスコアが表示される。



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バトルスコア(VSクトゥルフ神話)

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出動時間:38分45秒

撃破数:クトーニアン6体

    黒い仔山羊66体

    マガ鳥4体

    シュブ=ニグラス1体

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総合評価:S

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報酬:資源カード(食料)100×6枚

   資源カード(素材)100×6枚

   60万ゴールド

ファーストキルボーナス:スケープゴートチケット

            リペアチケット

ノーダメージボーナス:魔石4種セット×50

ギフト:黄竜人機ドラキオンLv35(stay)

コメント:恭介君の人気って種族を問わないんだね

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 (そんなこと知るかよ)


 シュブ=ニグラスに貞操の危険を感じた恭介としては、ルーナのコメントを読んだ時にぐったりしていた。


 コックピットから出て少し休もうと思ったら、麗華が待ち構えていて恭介を抱き締め、そのまま強引にキスする。


 その場に相応しい効果音を付け加えるならば、ズキュウウウンがぴったりだろう。


 強引な麗華に対して完全に受け身な恭介は、麗華がキスを終えてから話しかける。


「麗華、落ち着いてくれ。俺は何処にも逃げないから」


「恭介さんは私のだもん! あんな得体のしれない化け物になんか渡さないんだから!」


「せ、せめて私室でしてくれ!」


 恭介の願いは残念ながら聞き届けられず、再び麗華に情熱的なキスをされてしまうのだった。

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