第185話 攻撃技だからと言って攻撃に使わなきゃいけない理由はない

 恭介達が瑞穂に来て43日目の朝、恭介はドラグレンに乗ってレース会場にやって来た。


「ルーナ、クレイジーサーキットに挑む。入場門を開いてくれ」


『はーい』


 朝一番でクトゥルフ神話の侵略者達が襲撃して来なければ、恭介がレースに挑もうとするのは想像に難くない。


 だからこそ、ルーナはいつでもクレイジーサーキットに繋がる入場門を開けるようにスタンバイしていた。


 開かれた入場門を通ってドラグレンがクレイジーサーキットに移動したところ、速さを競い合う4機の黒金剛アダマンタイト製ゴーレムが既に定位置にいた。


 その内訳は1位に火属性のイフリート、2位に水属性のサイバードレイク、3位に風属性のエクスキューショナー、4位に火属性のドミニオンである。


 ドラグレンが5位のスタート位置に到着した途端、レース開始のカウントダウンが恭介の耳に届く。


『3,2,1』


「ギフト発動」


 恭介がギフトの発動を宣言し、彼はドラグレンのコックピットからドラキオンのコックピットの中に移った。


『GO!』


 レース開始と同時に、ドミニオンが隕石衝撃メテオインパクトを発動してスタート地点の前方に猛スピードで落下する隕石が現れる。


 (仕掛けて来るのはわかってたぞ)


 一昨日の新人戦のレースでも同じパターンだったから、恭介はスタートの合図と同時にドラキオンがスタートダッシュを決め、いち早く落下する隕石の衝撃が届かない所まで進んでいた。


 新人戦の時のデータを基に難易度が上がっているため、隕石の落下地点は絶妙であり、ドラキオンとドミニオン以外の3機が隕石の落下によって生じた衝撃波で機体にダメージを負った。


 クレイジーサーキットはヘアピンカーブしかなく、陸を走るゴーレムと空を飛ぶゴーレムの公平性を保つため、空に続く光の壁がショートカットを許さない。


 それだけでも空を飛ぶアドバンテージが封じられているのに、1周目は進行方向とは逆に吹く強風のギミックがある。


 では、スピードを上げるためにはどうするか。


 その答えを恭介は実行し始める。


 ラストリゾートを大楯に変形させ、ドラキオンの前に斜めの向きで構えて進むことで逆風を受け流したのだ。


 こうすることで空気抵抗がマシになり、ドラキオンはスピードアップした。


 ところが、恭介が1位で半周したところで風の流れはただの逆風ではなくなった。


 強い乱気流が発生して大楯でどうにかする段階ではなくなってしまったのである。


 (悪い流れを断ち切るために使わせてもらおう)


 そう判断して恭介が使ったのは土精霊槌ノームハンマーだ。


 ドラキオンの後方に狙いを定めて発動すれば、特大サイズの槌が召喚されて恭介の狙った場所にそれが振り下ろされる。


 その結果、土精霊槌ノームハンマーが地面に衝突した衝撃で乱気流が消し飛ばされ、それどころか後方で生じた衝撃波でドラキオンが一気にトップスピードまで加速した。


 あっという間にドラキオンが半周して2周目に突入し、逆風も乱気流もぴったりと止んだ。


『その発想はなかった』


「攻撃技だからと言って攻撃に使わなきゃいけない理由はない」


『攻撃技だからと言って攻撃に使わなきゃいけない理由はない。名言いただき!』


 ルーナはとても良い笑顔でメモを取る素振りをした後、ドラキオンのモニターから姿を消した。


 クレイジーサーキットでは、誰かが2周目に突入することでコースの至る所に障害物と爆弾が仕掛けられる。


 障害物と爆弾は地上も空も関係なく設置されるし、地中に埋められた地雷はその上を通過するだけでも瞬時に爆発する。


 恭介はその爆発を利用して加速するものだから、どんどん負傷して思うように走行できない競争相手を抜いていく。


 5位のイフリートと4位のエクスキューショナーは、障害物に誘導された場所を移動して地雷を作動させてしまったらしく、それらのパーツがあちこちに散らばっていた。


 3位のサイバードレイクは後ろから迫って来るドラキオンに気を取られ、2周目直前に地雷の爆発に巻き込まれて爆散した。


 ドラキオンが3周目に突入したことで、クレイジーサーキットのギミックに変化が起こる。


 新人戦では逆風が再び吹くようになり、設置した爆弾が走行するゴーレムに向かって飛んで来た。


 それに対し、ここでは逆風が吹かない代わりにコース全体に赤外線センサーが張り巡らされ、ゴーレムが触れると何処からともなくミサイルが飛んで来る仕様になっていた。


 恭介はシミュレーターで予習済みだったから、赤外線センサーが出現してもある程度躱せたけれど、前触れもなく赤外線センサーが出現したように感じるドミニオンは違う。


 いくつもの赤外線センサーに触れてしまい、多数のミサイルから狙われてその内のどれかが爆弾に触れて爆発し、その爆発が連鎖して巻き込まれてしまった。


 (難易度の上がり方がえげつないって)


 そこそこ近い位置で爆発が続き、最後に派手な爆発が生じたのを知って恭介は苦笑した。


 少ししてからドミニオンの残骸を見つけ、恭介はここから先がタイムアタックになったことを理解する。


 (油断しなければ問題ない)


 気を引き締め直し、半周したところで赤外線センサーの数が倍に増えたため、恭介はそれに触れてしまうことを承知で最短経路を進む作戦に切り替えた。


 逆風や乱気流さえなければミサイルに追いつかれない自信があったため、恭介は障害物や爆弾を盾にしてミサイルを振り切り、そのまま無傷でゴールした。


『ゴォォォル! 優勝は瑞穂の黄色い弾丸、トゥモロー&ドラキオンだぁぁぁぁぁ!』


 アナウンスが聞こえた後、恭介は危険なコースから1秒でも早く去るべく脱出して黄竜人機ドラキオンをキャンセルした。


 ドラグレンのコックピットに戻るのと同時に、そのモニターにレーススコアが表示されたためそれをチェックする。



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レーススコア(ソロプレイ・クレイジーサーキット)

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走行タイム:26分59秒

障害物接触数:0回

モンスター接触数:0回

攻撃回数:1回

他パイロット周回遅れ人数:4人

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総合評価:S

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報酬:資源カード(食料)100×6枚

   資源カード(素材)100×6枚

   60万ゴールド

非殺生ボーナス:60万ゴールド

ぶっちぎりボーナス:リミットブレイクキット

デイリークエストボーナス:魔石4種セット×60

ギフト:黄竜人機ドラキオンLv35(up)

コメント:型破りなレースが型破りなアイテムを呼び寄せたらしいね

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 (この時を待ってた)


 恭介はリミットブレイクキットの文字を見てニヤリと笑った。


 瑞穂の格納庫に戻ったら、ジャッジオブドラグーンに乗り換えてリミットブレイクキットを使い、ジャッジオブドラグーンがドラストムに変化した。


 ドラストムも他のドラを冠するゴーレムと同じく竜人型ゴーレムだ。


 ドラストムはトップスピードに到達せずとも嵐の鎧を纏えるため、並大抵の攻撃ではそれに弾かれてしまう。


 更に言えば、一対の翼には銃が仕込まれていない代わりにチャフと爆発する粉塵が仕込まれており、それを放出して操作できる。


 嵐の鎧と組み合わせて使えば攻防一体の戦い方も選べる訳だ。


 満足した様子でドラストムから恭介が出て来たため、麗華も笑顔で話しかける。


「恭介さん、おめでとう。遂にドラーズが揃ったね」


「ありがとう。揃えられて良かったよ。麗華は火属性と土属性のゴーレムを増やさないのか?」


「あった方が便利なんだけど、ベースゴーレムが手に入らないことにはなんとも言えないよ」


「そっか。まあ、強く欲しいと願ったら物欲センサーが働くかもしれないし、手に入ればラッキーってところだな」


 麗華も恭介のように四属性のゴーレムを使い分けてみたいと思ってはいるものの、まずはベースゴーレムが手に入らなければ話は始まらない。


 強く願えば願う程、物欲センサーが仕事をして報酬として手に入れられる機会が遠ざかりそうだと思い、麗華は恭介の言う通りベースゴーレムが手に入ればラッキーぐらいに思っている。


 それはそれとして、麗華も次の襲撃があるまでは操縦スキルを磨いて多くのアイテムを手に入れたかったから、ブリュンヒルデに乗り込んでコロシアムに向かうことにした。

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