第184話 もっと熱くなれよ!
時は日本の全パイロットが瑞穂に合流した時に遡る。
午前にフォルフォルのレクチャーを受けたその他連合軍は、午後になってからそれぞれのホームから戦艦パンゲアに引っ越した。
キャプテンプログラムは瑞穂がラミアスのため、残ったノアがパンゲアのキャプテンを務める。
パンゲアのクルーは、1期パイロットが1人と3期パイロットが3人の合計4人だ。
その4人がパンゲアの
F国のムッシュとA国のレッドマーキュリー、D国のザワークラウト、E国のマキシマムはこれから同じパンゲアのクルーとして生活することになるので、自己紹介を行うことにした。
『はい、という訳で進行役は私がやるよ。ほら、ジェスパーから始めちゃって。パンゲアではゴーレムの通信同様に翻訳されるから好きに喋って良いよ』
モニターに現れたフォルフォルはF国担当のフォルフォルだ。
1期パイロットで生き残っているムッシュがいるから、序列を考慮してその他連合軍の担当をF国担当のフォルフォルが引き受けるのである。
フォルフォルはムッシュの方を向き、パイロットネームではなく本名を呼んだ。
ジェスパーと呼ばれた人物の見た目は、地味なフランス人男性だった。
「ジェスパー=ローレンだ。パイロットネームはムッシュで、今は風属性のパイモンのパイロットをしてる。ギフトは
『ジェスパーは
「フォルフォルは相変わらず一言多いな」
フォルフォルが言う通り、ジェスパーはよくいるF国人という雰囲気を出しているから、物語ではさっさと退場しそうだという感想を抱く者も少なくない。
『はい、ジェスパーの次はイザベラだね』
イザベラと呼ばれたのはグラマラスボディの金髪碧眼の女性だった。
「ハーイ、私はレッドマーキュリーの名前でプレイしてるイザベラ=ミラーよ。火属性のオリエンスに乗ってるわ。ギフトは
『色々な武器で戦えるのに、第1回新人戦でレースに参加しただけで昨日の新人戦に出て来なかったんだね』
「他の連中も出番が欲しいって言ったから一度だけ譲ったのよ。全員死んだけどね」
フォルフォルの発言にムッとしたらしく、イザベラは昨日の新人戦に参加しなかったことが本意ではないと主張した。
『ふーん。まあ、そういうことにしておいてあげよう。次、メリッサ』
メリッサと呼ばれた人物は女親方と呼ぶべき貫禄のある外見の女性だった。
「メリッサ=シュミッドよ。ザワークラウトの名前でGBOをプレイしてたわ。今乗ってるのは土属性のスフィンクスで、ギフトは
『昨日のレースで生き残れたのはこのギフトがあってこそだったね。運が良い部類だと思うよ』
「そりゃどうも」
フォルフォルが余計なことを口にせず、純粋に評価することはあまり多くない。
そう考えるとメリッサは有望なのかもしれない。
『最後にグレゴリーだね』
「グレゴリー=アンダーソン。パイロット名はマキシマム。水属性のヨトゥンに乗ってる。ギフトは
『ターミナル攻略戦で不自然な破壊現象が起きたのは、このギフトがあったからだね。というかグレゴリー、もうちょっと愛想良くしようよ。時代はスマイルだよ?』
仏頂面で自己紹介するグレゴリーに対し、フォルフォルはわざと変顔をして笑わせようとしたけれど、グレゴリーの表情が少しも変わらず変顔のやり損だった。
『はい、という訳で自己紹介タイムは終わりだよ。たった今、瑞穂がクトゥルフ神話の侵略者達から襲撃を受けたって連絡が入ったから、見学して君達には勉強してもらうよ』
フォルフォルはグレゴリーにスルーされたショックから立ち直り、ルーナから知らされた情報を基にモニターを切り替えた。
そのタイミングで、瑞穂から沙耶の乗るデルピュネと晶の乗るアイトワラスが出撃した。
「フォルフォル、ちょっと質問良いかしら?」
『なんだい? ポップコーンとコーラが欲しいのかい?』
「あるなら欲しいわ。じゃなくて、パンゲアからこの戦いが見られるのはどういう仕組みなの? パンドラは瑞穂の近くにいるの?」
『瑞穂の近くにいるよ。今はまだ、君達がクトゥルフ神話の侵略者達と戦えないから特別に隠密性の高い結界で囲んでるんだ。君達が戦えるようになったら、結界は解除されるからね』
イザベラの疑問は至極真っ当なものであり、フォルフォルも真剣に答えた。
フォルフォルの回答を聞いてムッシュが納得したように頷く。
「だから
『ヘイ、チキチキチキン。
「呼び名に悪意を隠さな過ぎるだろ。そんなに俺のことが嫌いなのか?」
『慎重なのは良いけど小心者だから、負けそうになったらすぐ相手に媚びるじゃん。私、そういう芯のない人間って単二電池並みに使えないと思ってる』
フォルフォル的にはジェスパーのスタイルが見ていて面白くないのだ。
本気を出せばもっとやれるはずなのに、中途半端な力しか発揮できないまま日本のパイロットに何度も降参するジェスパーの在り方は、最初の頃なら嘲笑うだけだったけど、厄介な敵と戦う今となっては不安でしかない。
「そんなことを言われても、俺だって死にたくないんだ。折角、ギフトで知った命の危機を回避できるなら回避するのは当然のことだろ?」
『もっと熱くなれよ! 降参ばっかじゃ強くなれないよ! 最後まで本気出せって! それができるだけの力があるんだから出し切って私を楽しませてくれよ!』
「良い感じに見せかけて最後は自分のためかよ!?」
『当たり前じゃないか。だってフォルフォルだもの』
自分で言うなと4人のパイロットのジト目が物語っていた。
その間に、モニターでは沙耶がミ=ゴ達の伸ばした触角を
最後の3体は鉤爪を盾にして頭部を守ったけれど、7体は今のコンビネーション攻撃で倒すことに成功した。
「蛇腹剣は最高にクールだ」
『グレゴリーが自分から喋った!?』
「俺をロボットだと勘違いしてるのか?」
『だって君、自分から話すことなんて今まで一度もなかったって聞いてたんだよ?』
E国のホームにおいて、グレゴリーが自ら喋ることはなかった。
そんなグレゴリーが蛇腹剣に反応して喋ることは、E国担当のフォルフォルからの情報にはなかったからF国担当のフォルフォルにとって驚きだったのだ。
フォルフォルがグレゴリーの喰いつきに驚かされている一方で、沙耶と晶は残り3体のミ=ゴとビヤーキー2体を倒していた。
『そうそう、君達はもっとギフトレベルを上げようね。クトゥルフ神話の侵略者達は脳に直接声を響かせて精神を攻撃して来るんだ。ギフトレベルが20もあれば大抵の声には耐えられる。この点はジェスパーを評価できるね』
「フォルフォルが俺を褒めた…だと…? 実は偽者なのか?」
『ちょっと褒めたら何この対応? 慎重過ぎて疑心暗鬼になってるじゃん。これだからジェスパーはジェスパーなんだよ』
「なんだ、本物か」
「ジェスパー、あんたってMなの?」
「違う!」
自分への酷い対応からやはりモニターに映るのは本物だとジェスパーが確信すれば、イザベラが若干引き気味に訊ねる。
それは濡れ衣だと抗議するが、芽生えた疑いは簡単には晴れない。
この空気を作った原因はフォルフォルにあるが、それを壊すのもフォルフォルである。
『おーい、日本の2期パイロット達がティンダロスの猟犬を倒して帰艦したよ。ということで、君達には今日からギフトレベルを上げるためにガンガン鍛えてもらうんでよろしく』
「カオスな奴ね。この戦艦内の空気を微妙にしては壊すとか自由過ぎる」
メリッサの呟きはもっともだ。
しかし、ジェスパーはイザベラの誤解を解くのに必死だし、グレゴリーは喋らないから誰もメリッサの呟きに反応することはなかった。
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