第183話 別に、アレを倒してしまっても構わんのだろう?
午後になり、3期パイロット4人が瑞穂に引っ越して来た。
今日の午前中はルーナが恭介達の現状に加え、3期パイロットがこれから恭介達と共に何と戦うのか説明する時間だったから、引っ越しが午後になったのである。
(瑞穂も私室がどんどん増えてくね)
先程までは3つだった私室が、今では6つまで増えている。
何故増えたのが3部屋なのかと言えば、仁志と遥が私室をアップデートして恭介と麗華のように2人の私室が合体したからだ。
ちなみに、2期パイロット2人の私室がver.8で、3期パイロット4人の私室はver.7までアップデートされている。
「トゥモロー様、貴方の
「恭介さんは私が守るからお帰り下さい」
「ハッ、守る? それ、本気で言ってます?」
「言ってますけど何か?」
麗華の発言を鼻で笑う明日奈に対し、麗華は額に青筋が浮かび上がりそうな程にキレた。
明日奈はずっと今日まで溜め込んでいたことを口にする。
「守るとかほざいちゃってますけど、トゥモロー様に寄生してるようにしか見えませんよ。トゥモロー様からなんでもかんでも恵んでもらってるくせに、トゥモロー様ばかり働かせてるじゃないですか」
「は? ちゃんと役割分担してるんですけど? 寄生って言葉、辞書でしらべたことあります? 難癖付けるのは止めて下さいよ、アラサー」
「なんですって!?」
「そっちこそなんですか!」
『面白くなって来た!』
言い合いを始めた麗華と明日奈を見て面白がっているのは、煎餅とほうじ茶を準備してモニターに現れたルーナである。
(ルーナ、相変わらずゲスいな)
ルーナに戦慄した恭介だが、麗華と明日奈の言い争いを放置する訳にはいかないので口を挟む。
「等々力さん、麗華が寄生してるって発言は撤回して下さい。麗華の言う通り、俺と麗華は役割分担をして戦ってます。それに、俺は麗華に恵んでるつもりではなくそれが男の甲斐性だと思ってます。少し時代錯誤かもしれませんが、俺は彼女の前で見栄を張りたいんですよ」
「…トゥモロー様がそのように言うならば撤回します。失礼しました」
「麗華も年齢の話は駄目だ。良いね?」
「…わかった。ごめんなさい」
恭介の心情的には麗華の味方だったけれど、麗華がアラサーと言った瞬間に流れ弾を喰らった遥の反応を見て、恭介は麗華にも注意した。
四捨五入という恐ろしい考え方によれば、遥は35歳だから40に切り上げられてしまう。
つまり、どうあがいてもアラサーにはなれない遥が精神的にダメージを受けてしまうので、そのアプローチは止めておくべきだと恭介は判断したのだ。
仁志も隣の遥がピクっと反応したことに気づいたため、恭介にこっそりよく言ってくれたとサムズアップしていた。
その時、残念そうなルーナが映っているモニターがラミアスに切り替わる。
『総員、第一種戦闘配備。繰り返します。総員、第一種戦闘配備。侵略者が現れました』
(チッ、これまた嫌なタイミングで襲撃して来るじゃないか)
ラミアスからの知らせを聞き、恭介は心の中で悪態をついた。
「今日も来たか。ラミアス、敵戦力について教えてくれ」
『承知しました。C004ミ=ゴが10体とC006ビヤーキーが2体です』
「兄さん、ここは私と晶さんが出撃します」
「そうだね。恭介君と麗華ちゃんはここで3期パイロットの4人にレクチャーしといてよ」
沙耶と晶がそう言い出した理由だが、半分は3期パイロット達を気遣ってのことで、もう半分は自分達もできるというところをアピールしたかったからだ。
麗華が寄生していると言われ、沙耶達も瑞穂クルーの先輩として実力を見せたいと思った訳である。
「わかった。じゃあ、やれるところまで頼む」
「恭介君」
「なんだ?」
晶が何か言いたいようだったので、恭介は出撃前にスッキリさせようと続きを促した。
「別に、アレを倒してしまっても構わんのだろう?」
「構わん。さっさと行って来い」
「はーい」
真面目な発言かと思えばネタに走った晶に対し、恭介は小さく溜息をつきながら早く行けとジェスチャーをした。
沙耶からもジト目を向けられつつ、晶は沙耶と共に自分のゴーレムに乗り込んで瑞穂から出撃する。
沙耶がミ=ゴ達の伸ばした触角を
最後の3体は鉤爪を盾にして頭部を守ったが、7体は今のコンビネーション攻撃で倒すことに成功した。
「沙耶と晶がやってるように、ミ=ゴは最初に触角で攻撃しようとするからそれを迎撃して怯ませる。怯んでる内に頭部を撃ち抜けば効率よく倒せる」
「トゥモロー様、質問良いですか?」
「等々力さん、どうぞ」
麗華と言い争いを再開するために口を開いた訳ではなさそうだから、恭介は明日奈に質問を許可した。
「トゥモロー様だったらあの数のミ=ゴ相手にどう戦いますか?」
「それはソロでのことを言ってますか? それとも他のパイロットと一緒にですか?」
「ソロです。複数人での戦い方は、沙耶さんと晶さんと変わらないでしょうから」
明日奈はトゥモローガチ恋勢ではあるが、決して口だけのパイロットではない。
沙耶達の戦いが理に適っていると理解しているから、ソロで戦うことになってしまった時のことを恭介に訊ねている。
「俺であれば、触角で攻撃される前に蛇腹剣で真っ二つにします。ただ、それができるかどうかはゴーレムの性能によるものなので、デルピュネに乗ってた場合は沙耶と同じようにしたでしょうね」
「そうですか。では、ナグルファルではどうでしょう?」
「ナグルファルなら触角が届くよりも先にこちらのソードウイングさえ届くはずなので、真っ二つにする方を選びますね」
「わかりました。ありがとうございます」
恭介の回答を聞き、明日奈は頭の中で自分の操縦を恭介の回答通りにやってみて成功のイメージが掴めたらしく、納得のいった表情になった。
明日奈から恭介が質問を受けている間に、沙耶と晶は残り3体のミ=ゴを倒してビヤーキーとの戦闘に移っていた。
「私からも質問良いですか?」
「潤さん、どうぞ」
潤からも質問が出たので恭介はそれを許可した。
「クトゥルフ神話の生物達って私達の頭に直接声を届けるって本当なんですか?」
「事実です。ビヤーキーならいあいあって声を直接頭に届けて来ますね」
「ショゴスならテケリ・リだったよね、恭介さん?」
「そうだな」
「うわぁ…」
恭介の回答と麗華の補足を聞き、潤は嫌そうな顔をした。
無論、明日奈と仁志、遥も似たような表情を浮かべている。
「今のところ、この声を聞いても耐えられるようにするにはギフトレベルを上げるしかないです。Lv20を超えてると大抵はどうにかなります」
「「「「Lv20」」」」
現在、3期パイロットのギフトレベルは遥と潤がLv10で、明日奈と仁志がLv9だ。
まだまだ先が長そうなので、思わず4人全員が口を揃えてしまった。
彼らが驚いている間、恭介はモニターの向こうで沙耶が明らかにビヤーキーの動きを読んで攻撃したことに気づいた。
(
沙耶だけでビヤーキー2体を倒してしまい、戦闘は終わったように見えた。
ところが、沙耶がビヤーキー達を倒して油断しただろう瞬間を狙い、体に赤い分岐線の浮かび上がった黒い粘体が襲い掛かった。
しかし、そこは晶が
「ラミアス、ティンダロスの猟犬は察知できなかったのか?」
『申し訳ございません。C007ティンダロスの猟犬がC004ミ=ゴやC006ビヤーキーと違って奇襲の直前までレーダーに反応しませんでした』
恭介は索敵精度が低いのは不味いと思い、ラミアスに今の精度が限界なのか訊ねた。
その回答がティンダロスの猟犬の性能にレーダーが負けているというものだったため、恭介達の眉間に皺が寄った。
『恭介君、開発が遅くなってごめんね。ショップチャンネルに最新のレーダーシステムを追加したよ』
「いくらだ?」
『300万ゴールド』
「買おう」
なんでもっと早く売られないんだと文句を言いたいところだが、まずは対策するのが先なのでモニターをショップチャンネルに変え、恭介はレーダーシステムを購入した。
「300万ゴールドのアイテムを即決購入するなんて素敵です!」
「そりゃどうも。おっと、あっちの戦いは終わったようだ」
明日奈が目をハートにして褒めて来るのに対し、恭介はサラッと応じてチャンネルを宇宙空間での戦闘に戻した。
その時には既に戦闘が終わっており、沙耶と晶は瑞穂に戻る途中だった。
3期パイロット達は今までのデスゲームは前座に過ぎず、これからが本番であることを先程の戦闘を見て理解した。
そういった意味では、沙耶達が先輩クルーとして威厳を保つことができたので、2人の出撃は対内的にも成功したと言えよう。
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