第182話 相手にするだけ無駄。スルーが吉

 恭介の武器が強化され、麗華も自分のゴーレムの武器を強化したいと思ってレース会場に移動した。


 乗って来たゴーレムはハーロットであり、スタートダッシュで敵のゴーレムを邪魔するつもりのようだ。


『麗華ちゃんってば、ハーロットが気に入っちゃったんだ?』


「スタートダッシュで使うだけよ。スペック的にはブリュンヒルデの方が高いもの」


『そう言ってハーロットにズブズブになるんだよね、わかるよ』


「黙ってギガントフォレストに繋がる入場門を開きなさい」


 やれやれと肩を竦め、フォルフォルはリクエストされた入場門を開いた。


 ハーロットを操縦してその中に移動すると、普通の木がゴーレムの元のサイズ並みに大きいギガントフォレストに着いた。


 1位の位置から順番に水属性のマザーフレーム、火属性のファザーフレーム、風属性のゴリアテ、土属性のアマイモン、水属性のアリトン、火属性のオリエンス、風属性のパイモンが並んでいる。


 マザーフレームはレースや探索において環境を味方にできる特性を持っているから、できればギガントフォレストで競いたくないゴーレムだ。


 ファザーフレームがマザーフレームに対をなすというコンセプトで建造された機体であり、環境による影響を反射できる特性を持っているから、恭介が挑んだ時のようにマザーフレームとファザーフレームで勝手に潰し合ってくれと麗華は祈るばかりだ。


 ゴリアテは常に風を纏っているせいで攻撃が当たらない大型ゴーレムだが、逆に言えばそれだけなのでスピード面で言えば脅威にはならない。


 アマイモンとアリトン、オリエンス、パイモンはハーロットの合成元であるソロモンの合成元だ。


 2,3期パイロット達にとっては脅威かもしれないが、今の麗華ならば油断しなければ問題なく対処できる。


 したがって、麗華が特に気を付けなければならないのはマザーフレームとファザーフレームである。


 8位の位置に麗華のハーロットが着けば、レース開始のカウントダウンが始まる。


『3,2,1,GO!』


 スタートダッシュと同時に、麗華は予定通りにハーロットの信号をオンにする。


 それが原因で3位以下のゴーレムがまともに操縦できず、それぞれのゴーレムの足元から巨大な木の根が突き出して脚部を串刺しにされた。


 風を纏えるゴリアテも、風を纏う機能が封じられればただの的なのだ。


「やっぱりマザーフレームとファザーフレームは強敵ね」


 麗華がハーロットの信号をオンにした時、既にマザーフレームとファザーフレームはスタートダッシュに成功してハーロットの効果範囲外に出ていた。


 3位まで順位を上げてすぐに、麗華はゴーレムチェンジャーを使ってハーロットからブリュンヒルデに乗り換えた。


 ギガントフォレストの洗礼は巨大な木の根だけに留まらず、コースの両脇に生えた木の実が地面に落下した途端に爆発する。


 1位のマザーフレームの環境を味方にできる特性により、爆発の影響がファザーフレームだけに集められた。


 しかし、ファザーフレームの特性でその爆発は反射されてファザーフレームは無事だった。


 反射された爆発は3位のブリュンヒルデのいる後方に広がるが、麗華だってそれはシミュレーターで経験済みである。


 (ここまでは想定通りね。問題ないわ)


 麗華は心の中で自分に言い聞かせ、前方に見えるドリフィド達に備える。


 マザーフレームとファザーフレームはドリフィド達を邪魔に思い、それぞれが装備しているビームライフルで倒した。


 露払いをしてくれたことは、麗華にとってありがたい話だ。


 トリフィドの出るゾーンを抜け、根や木の実による妨害を躱していった先にはトレントが待ち受けていた。


 その時にはブリュンヒルデがマザーフレームとファザーフレームに追いつき、1位集団を相手にトレントが枝を鞭のように振るう。


 スピードではブリュンヒルデがこの中で一番だから、トレントの走行妨害を利用して麗華が一気に1位に躍り出る。


 1周目も4分の3が終わった地点から、根の代わりにランダムな間隔で次々に竹が地面から生えてブリュンヒルデの邪魔をする。


 それでも、ブリュンヒルデのトップスピードならばギリギリ竹が成長するよりも速く動けため、麗華が竹のゾーンで足止めされることなく2周目に入った。


 2周目に入ってすぐの位置で、4~8位のゴーレム達の破片が飛び散っていた。


 それらはハーロットの効果で足止めされた後、根で脚部を貫かれて動きが鈍ったところを集中攻撃されたようだ。


「私の作戦、上手くいき過ぎて逆に怖いわ」


『残虐非道な作戦に恭介君がドン引きしてないと良いね』


「煩い」


 狙い通りなのは間違いないが、やり方がエグいのも否定できない。


 麗華はその点をフォルフォルに突かれて短く不機嫌であることを告げた。


 フォルフォルもレースに大きな影響を与えるちょっかいは出さないから、おとなしくモニターから姿を消した。


 トリフィドが現れるゾーンに麗華が着くと、トリフィドタンクがトリフィド達に紛れ込んでいた。


 (相手にするだけ無駄。スルーが吉)


 冷静にトリフィドやトリフィドタンクの混成集団の妨害を躱し、ブリュンヒルデはトレントのいるゾーンに着いた。


 1周目は1体だったトレントが2体に増えており、どちらもブリュンヒルデに狙いを定めて枝を振るう。


 (図体がデカい分動きは遅い。余裕ね)


 いくつもの枝がブリュンヒルデを地面に叩き落とそうとするけれど、麗華はそれを躱してみせた。


 竹が急激に生えるゾーンでは、あまりにも止まらないブリュンヒルデにギカントフォレストがムキになったのか、横一列に竹の壁が生成された。


 (穴がなければ作れば良い)


 ジャバウォックで竹の壁に穴を開け、ブリュンヒルデはそこを通過する。


 壁の向こうも壁だったが、麗華はもう一度撃ち抜いて穴を通過した。


 ブリュンヒルデが3周目に突入した瞬間、トラップの密度が一段と濃くなる。


 その影響もあってか、離れた所で2位争いをしているらしいマザーフレームとファザーフレームの戦闘音が激しくなり、麗華がある場所まで聞こえて来る。


 (3周目であの戦いには巻き込まれたくないわね)


 根や爆発する木の実、トリフィド、トレントが執拗にブリュンヒルデを狙うが、武器を解禁した麗華を邪魔するには力不足だ。


 竹がどれだけ進路を妨害せんと生えようが、全て破壊して突き進む。


 マザーフレームとファザーフレームの戦闘に近づかないことを決めたため、周回遅れにできなかったものの、麗華は危なげなく1位でゴールした。


『ゴォォォル! 優勝は傭兵アイドル、福神漬け&ブリュンヒルデだぁぁぁぁぁ!』


 麗華はギガントフォレストから脱出し、モニターに映し出されたレーススコアをチェックする。



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レーススコア(ソロプレイ・ギガントフォレスト)

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走行タイム:41分26秒

障害物接触数:0回

モンスター接触数:0回

攻撃回数:18回

他パイロット周回遅れ人数:5人

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総合評価:A

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報酬:資源カード(食料)100×4枚

   資源カード(素材)100×4枚

   40万ゴールド

非殺生ボーナス:魔石4種セット×40

ギフト:金力変換マネーイズパワーLv27(stay)

コメント:全員周回遅れにしないなんてビビりちゃんだね

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「なんとでも言いなさい。私はガンガン行こうぜよりも自分の安全を優先するのよ」


『どうぞどうぞ。それが本当の麗華ちゃんならその道を進みなよ』


「嫌味な奴ね。さっさと失せなさい」


『はーい』


 ぶっちぎりボーナスが手に入らなくてガッカリしているところに、フォルフォルの意味深な態度なんて真正面から受け止めたら精神が擦り減ってしまう。


 瑞穂の格納庫に戻った麗華は、出迎えてくれた恭介に甘えるべく抱きつく。


「マザーフレームとファザーフレームは無理に抜かなくて正解だ。俺は麗華のやり方を見て安心できたよ」


「ありがと〜」


 自分が言い訳の様に弁明せずとも、恭介が自分の意図を理解してくれたから、麗華の機嫌が回復した。


 麗華は十分に甘えた後、ブリュンヒルデとハーロットの調整作業に移った。

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