第179話 貴様等に人の心はないのか?
明日奈がムッシュを駒のように扱って中型戦艦を撃墜したのを見て、麗華は眉間に皺を寄せていた。
「あの女らしいやり口ね」
「まあまあ。どっちかって言うとムッシュが我が身可愛さに下手に出たっぽいじゃん」
「それはそうなんだけどね」
麗華が依然としてムスッとした表情のままだから、恭介が麗華のモヤモヤを解消しようとしたその時、ターミナル攻略戦を映していたモニターが切り替わってラミアスが現れる。
『総員、第一種戦闘配備。繰り返します。総員、第一種戦闘配備。侵略者が現れました』
「向こうにとっちゃ新人戦とか関係ないか。ラミアス、敵戦力について教えてくれ」
『承知しました。C005ダーク・ワンが6体と初めて接敵する種族が2体です。これは…C006ビヤーキーです!』
ラミアスが断定した直後に、恭介達の見ているモニターに接近する敵勢力の映像が映し出される。
ダーク・ワンは以前見た通りだからさておき、ビヤーキーは恭介達にとって初めて見る敵だ。
その見た目は蜂とワイバーンを足して2で割ったようだが、クールという感じよりもグロテスクと表現するのが妥当だろう。
「ここは俺と麗華が出る。沙耶と晶は新人戦を最後まで見届けてくれ」
「…わかりました」
「わかった。僕達は待ってるね」
4人全員で出撃してしまうと、新人戦に出場する3期パイロット達が戻って来た時に誰も出迎えがいなくなってしまう。
それでは3期パイロット達に悪いから、恭介は自分と麗華だけで出撃すると述べた。
沙耶と晶がそれに頷いたことを確認し、恭介と麗華は格納庫に移動した。
恭介がドラグレンをカタパルトまで移動させると、ラミアスの声がコックピット内に響く。
『進路クリア。ドラグレン、発進どうぞ!』
「明日葉恭介、ドラグレン、出るぞ!」
ドラグレンがリニアカタパルトから射出されたら、麗華がその後に続く。
『ブリュンヒルデ、発進どうぞ!』
『更科麗華、ブリュンヒルデ、出るわよ!』
ブリュンヒルデもすぐに宇宙空間に飛び出し、恭介のドラグレンの後ろに続いた。
ドラグレンとブリュンヒルデが出撃したことを気づき、ダーク・ワンが背後に闇の門を展開し始める。
その門が開くと、中からベースシリーズにそっくりなダーク・ワン部隊がぞろぞろと現れた。
「数だけ揃えりゃ良いと思ったか?」
蛇腹剣形態のファルスピースを横に薙げば、多くのダーク・ワンの上半身と下半身が別れを告げることになる。
『恭介さん、私の分も取っといて!』
ジャバウォックと四対の翼の銃からビームを放ち、麗華も恭介に負けじと残ったダーク・ワンを掃討した。
『『いあいあ!』』
ビヤーキー2体の声が恭介達の頭に響くのと同時に、それらはダーク・ワンの残骸を吸い込んでから強烈なビームを放つ。
威力があっても当たらなければ意味がない。
恭介も麗華もビームを躱すだけでなく、接近してから各々の武器でビヤーキーの頭部を撃ち抜いて仕留めた。
「これ以上の生いあいあは勘弁願いたいね」
『2体いたってことはきっとまた現れるんじゃないかな』
「だよなぁ」
そんな風に話していると、ビヤーキーの死体の後ろに何かが空間を捻じ曲げて現れた。
『恭介さん、麗華さん、敵の増援です! 瑞穂のデータベースによりますと、C102ミゼーアです!』
ラミアスが敵の正体を告げた時、恭介達の目の前には体に赤い分岐線の浮かび上がった黒い巨狼の姿があった。
ミゼーアとはクトゥルフ神話においてティンダロスの王として知られている存在だ。
その足元に巨大な魔法陣が現れ、ダーク・ワンやビヤーキーの死体をコストにミゼーアに似た色合いの粘体が2つ現れた。
それらはあっという間に狼男のシルエットに変わり、恭介達に襲い掛かって来る。
「麗華、ミゼーアの警戒と援護を頼む」
『了解!』
恭介は狼男の正体がティンダロスの猟犬だと判断し、ファルスピースを槍に変えて手前の個体に突き刺した。
突き刺された個体はニヤリと笑って槍を掴み、もう片方の個体が上空からドラグレンに爪を伸ばして攻撃する。
『やらせないわ』
麗華がブリュンヒルデの全武装を一斉掃射し、ドラグレンを攻撃しようとした個体を倒した。
それと同時に恭介もファルスピースを蛇腹剣形態に変形させ、ティンダロスの猟犬の手が外れた瞬間に蛇腹剣でバラバラに切断した。
ティンダロスの猟犬2体がやられ、ドラグレンとブリュンヒルデの動きを分析し終えたミゼーアが先にドラグレンに向かってビームを放った。
それが避けられることを前提に放っていたようで、隙を突いて接近するドラグレンに対して逆立てた毛を針のように飛ばして迎撃する。
(その程度じゃ効かない)
ゴーレムチェンジャーでドラクールに乗り換え、レジェンドブルーを盾形態にすることで恭介はミゼーアの針を防いでみせた。
恭介がミゼーアの注目を集めてくれている間に、麗華がミゼーアの死角から全武装による一斉射撃を行う。
ミゼーアはそれを素早い身のこなしで躱すが、ビームを避けた直後を狙って大剣形態のレジェンドブルーの刃の先端からビームを放ち、ミゼーアの右前脚と右後ろ脚を撃ち抜いた。
次の攻撃に繋げられたくなかったミゼーアは、ドラクールとブリュンヒルデから十分に距離を取って抗議する。
『貴様等に人の心はないのか?』
「そこに無ければ無いね」
『化け物に言われる筋合いはない』
少しでも同情させて油断を誘うべく、ミゼーアは自分の思いつく可愛い狼らしさをアピールしたけれど、恭介と麗華には全く通じなかった。
今度は麗華が偏差射撃でミゼーアを追い詰め、恭介がレジェンドブルーの刃を伸ばしてミゼーアの左前脚と左後ろ脚を貫いてみせた。
レジェンドブルーの刃が突き刺さったままだから、ミゼーアは逃げることができない。
そのチャンスを見逃す麗華ではなかった。
『ギフト発動』
20万ゴールドをコストに
『恭介さん、麗華さん、お疲れ様でした。周辺に敵戦力はおりません。帰艦して下さい』
「『了解』」
ミゼーアの体がバイアティスの時と同じように消え、恭介はそれがルーナの仕業だと察した。
2人が瑞穂に着艦すると同時に、各々のゴーレムのコックピットにバトルスコアが表示される。
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バトルスコア(VSクトゥルフ神話)
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出動時間:22分18秒
撃破数:ダーク・ワン108体
ビヤーキー2体
ティンダロスの猟犬2体
ミゼーア1体
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総合評価:S
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報酬:資源カード(食料)100×6枚
資源カード(素材)100×6枚
60万ゴールド
ファーストキルボーナス:メカニカルブルー
ファンタズマグリーン
ノーダメージボーナス:魔石4種セット×50
ギフト:
コメント:新人戦の途中で出撃してくれたから報酬に色を付けたよ
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(よし、これでレジェンドブルーとクロノグリーンがファルスピースに並ぶぞ)
報酬を確認し終えたら、恭介も麗華もコックピットから出て
「今、どんな状況?」
「おかえりなさい。たった今、無事にターミナル攻略戦が終わりました。勿論、破壊率ワンツーは日本が獲得してます」
「おかえり~。バトル部門で生き残ったのは日本の2人とF国のムッシュ、E国のマキシマムだけだよ」
沙耶と晶が手短に説明した後、モニターにイベントエリアを背景に総合スコアが映し出された。
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総合スコア(第2回新人戦)
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1位:日本(生存者4人/獲得資源(食料)100×26/(素材)100×26)
2位:F国(生存者1人/獲得資源(食料)100×6/(素材)100×6)
3位:D国(生存者1人/獲得資源(食料)100×4/(素材)100×4)
3位:E国(生存者1人/獲得資源(食料)100×3/(素材)100×3)
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敗戦国:A国
報酬:アップデート無料チケット(フリー)
コメント:日本以外が弱過ぎだね。第3回デスゲームはここまでにするよ
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(第4回デスゲームってやる意味あるのか? 侵略者との戦いに集中した方が良い気がする)
現在、3期パイロットにおける日本以外の生存者数はどの国も1人だけだ。
仮に彼等が日本のパイロットより弱かったとしても、デスゲームでこれ以上数を減らすのは勿体ないのではないかと恭介は考えた。
もしもルーナが自分の話を聞いてくれるなら、一度デスゲームについて意見を述べることを決めてから、恭介は麗華達と共に3期パイロット4人を出迎えに行った。
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