第177話 まったく、人気者は辛いですね
遥がイベントエリアに戻って来たら、それ以外にクレイジーサーキットから戻って来れる者はいない。
『はーい、全員戻って来たから全体向けの結果を発表するよー』
フォルフォルがそう言ったら、この場にいる全員のコックピットのモニターに全体向けレーススコアが表示される。
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レーススコア(第2回代理戦争・クレイジーサーキット)
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1位:バンコーン(日本/ペガサス/35分45秒)
2位:エピ(F国/エクスキューショナー/記録なし/死亡)
3位:クリーク(D国/サイバードレイク/記録なし/死亡)
4位:バンガース(E国/イフリート/記録なし/死亡)
5位:グリードポット(A国/ドミニオン/記録なし/死亡)
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備考:認めたくないものだな。立候補した3期パイロット達が雑魚だとは
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フォルフォルのコメントは生き残った者達を煽るものだった。
これで生存者達が怒り、バトル部門で期待以上の成果を出してくれれば良いのだが、どうなるかはバトル部門が始まってみないとわからない。
『これ以上正論パンチしても仕方ないし、次のバトル部門のテーマを決めちゃうね』
フォルフォルが指パッチンしたら24面ダイスが突然現れ、それを放るのと同時にフォルフォルが歌い出す。
『何が出るかな♪ 何が出るかな♪』
いつも通りに振った24面ダイスが止まった時、その面に記されていた文字はターミナル攻略戦だった。
『テーマ決定! ターミナル攻略戦だよ! 楽しみだね!』
ターミナル攻略戦のルールがそれぞれのコックピットのモニターに映し出される。
・レースに参加しなかった各国の残りのパイロットが参加する
・ターミナルと呼ばれる惑星基地の破壊が目的であり、破壊率100%でクリア
・制限時間は2時間で、1時間経過した時に破壊率50%未満なら全員失格
・報酬は破壊率(=貢献度)に基づいて与えられるが、失格なら何も貰えない
・モニターには味方と他国のパイロット、敵の3種類のアイコンが映る
・状況に応じて妨害する存在が変わる
・各国のパイロットに協力する義務はない
・ゴーレムのサイズはレースの時と同じ
全員が8つのルールを確認し終えたら、潤と明日奈の乗るゴーレムの足元に魔法陣が現れる。
『いってらっしゃーい。ターミナル攻略戦で君達の可能性を私を見せてねー』
フォルフォルの不愉快な声が聞こえた後、イベントエリアが光に包み込まれた。
光が収まって潤が移動させられたのは宇宙空間であり、離れた所にはターミナルと思しき惑星基地があった。
『ターミナル攻略戦、開始!』
モニターの中心には白い三角形のアイコンが映っており、残念ながら近くに明日奈のアイコンは見つからなかった。
(バトル部門で味方と最初から合流できた例はないって話でしたね)
潤はターミナルに近づけば明日奈のアイコンも見つかるだろうと判断し、ティターニアを動かす。
それから10秒も経たない内に、ターミナルをトラペゾヘドロン型の結界が覆った。
(ア○テミスの傘にしては、結界の形が不気味ですね)
この時、潤はギリギリのタイミングで結界の中に入り込んでいた。
あと1秒でも遅ければ、結界に阻まれて中に入れなかっただろう。
『誠に残念ながら不幸なパイロットがいたよ! D国のキルシュが乗るラセツは、結界によって上半身と下半身が分断されて爆発しちゃった! 物的財産は没収だよ! バイバイ!』
(危ないところでしたね。あともう少しで私も同じ目に遭ってました)
相変わらず潤はギフトと元々の体質の境目がわかりづらい男である。
とりあえず、結界をどうにかしなければターミナルを破壊する人手が足りないから、潤は結界を展開する装置を破壊することにした。
ターミナルを守るその装置は複数あるが、結界に穴を開けるだけならば全て壊さなくても良い。
潤はティターニアの翼から爆発する粉を飛ばした時、装置の側に配置されていたビーム砲からビームが発射された。
その結果、粉に引火して爆発が生じてしまい、装置もビーム砲も破壊された。
本当は
ティターニアのモニターには破壊率が2%とカウントされた。
それと同時にターミナルの中から黒塗りのビームマシンガンを2丁装備した戦闘機が出て来た。
その戦闘機はエイのような形であり、腹部に360度動かせるビームマシンガンを2丁装備している。
これはエイブラムスと呼ばれるゴーレムだ。
(当然、ターミナルに護衛はいますよね。その展開はわかってました)
敵のアイコンがモニターに表示されるとルール説明にあったのだから、護衛のゴーレムがいると考えるのが自然だ。
潤はチャフ用の粉と爆発する粉を展開し、自分に有利な状況を準備してエイブラムスとの戦闘を始める。
ティターニアのチャフには多少なりともビームの威力を抑える効果もあり、エイブラムスが早速連射して来たけれど、ティターニアにそれが届くことはなかった。
(エイブラムスの火力を利用させてもらいましょうかね)
そう考えた潤は次の装置の場所に向かい、エイブラムスを誘導する。
背後に装置が来るようなポジションを取り、ティターニアは爆発する粉を装置付近に撒いていく。
そして、エイブラムスの連射をギリギリまで引き付けて避ければ、2つ目の装置の破壊に成功する。
装置を2つ破壊することで、トラペゾヘドロンの結界に生じた穴が広がり、ターミナル攻略戦に参加している他のゴーレムも結界の中に入って来た。
それと同時にエイブラムスがターミナルからどんどん出撃し始め、モニター上で数においては敵のアイコンが最も多くなった。
現在、ティターニアのモニターには潤が成し遂げた破壊率が4%とカウントされており、全体での破壊率は12%と表示されている。
潤以外にもターミナルの破壊に貢献する者が出て来たらしい。
3つ目の装置を壊しに向かったところで、2機のエイブラムスが潤を挟み撃ちにしようと構えていた。
(挟み撃ちですか。やれやれですね)
心の中のコメントだけで言えば困っているように聞こえるが、潤の操縦に迷いは全く感じられない。
片方のエイブラムスをターゲットに攻撃を開始し、もう片方のエイブラムスの攻撃はその攻撃を避ければ装置に当たるように立ち回る。
ティターニアの機能を十全に扱い、粉の爆発を利用して敵の視界を遮った瞬間を狙ってターゲットのエイブラムスを撃墜したら、どうにか回り込んで避けられても良い位置から射撃するエイブラムスも片付けた。
護衛がいない装置なんて壊すのは容易いから、潤は3つ目の装置を壊した。
『ピンポンパンポーン! A国のディーラーがE国のティーティーと戦ってたところをエイブラムス部隊にやられたよ! どっちの物的財産も没収だね! どんまい!』
(愚かな選択をしたものです)
潤だけの破壊率が6%、全体での破壊率が18%の今、まだ人手が必要なはずなのに協力し合えないパイロット達がいる。
その事実は真面目にターミナルを破壊している潤にとって、嘆かわしいと言わずしてなんと表現するか困るものだった。
4つ目の装置を壊そうとして移動すれば、今度は4機のエイブラムスが潤を包囲してやろうと待ち伏せていた。
(まったく、人気者は辛いですね)
最初に潤が狙ったのは4つ目の装置である。
エイブラムスには盾がないから、ビームを防ぐ手段はなくて躱すしかない。
装置の位置は4機のエイブラムスの中心であり、エイブラムスが機体を犠牲にして守る以外に選べる手段はなかった。
咄嗟にそんな判断をできる者はおらず、あっけなく4つ目の装置が破壊されて爆発し、その爆発で陣形が乱れたところを突けば、潤は数的不利をものともせずに全てのエイブラムスを撃墜した。
ただ周りに不幸をばら撒くだけでなく、着々と外側からターミナルを破壊する潤本人も操縦の腕が見事であると証明された。
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