第176話 だってフォルフォルだもの

 マグマ&ウェーブでのレースが終わり、瑞穂の待機室パイロットルームでは恭介達が仁志の生還に安堵していた。


「他国が潰し合ってくれたおかげで、負担が減ったのはありがたかったな」


「うん。無事に帰って来れて良かったよ」


「飛べないゴーレムであそこまでやるとは、午後十時騎士団に所属してるのは伊達じゃありませんね」


「飛べるゴーレムに乗り換えたらどうなるか楽しみだね」


 感想を言い合っていると、モニターに映るルーナがイベントエリアに戻って来たケイローンとスフィンクスを見て話し始める。


『日本の優勝はいつも通りだったけど、D国が粘りに粘って2位だったのは珍しかったね。さて、全体向けの結果を発表するよ』


 ルーナがそう言った直後、待機室パイロットルームのモニターに全体向けレーススコアが表示される。



-----------------------------------------

レーススコア(第2回新人戦・マグマ&ウェーブ)

-----------------------------------------

1位:サビザン(日本/ケイローン/38分34秒)

2位:ザワークラウト(D国/スフィンクス/51分13秒)

3位:ハンバーガーソウル(A国/メビィ/記録なし/死亡)

4位:パリジャン(F国/ジャンクバスター/記録なし/死亡)

5位:スターゲイジーパイ(E国/アラクネ/記録なし/死亡)

-----------------------------------------

備考:3~5位の物的財産は全てザワークラウトに転送されたよ

-----------------------------------------



 レーススコア発表が終わり、ルーナが再び喋り出す。


『同胞を殺されて悔しいとか、資源が足りないとか思うなら次のレースで恨みを晴らして物資を奪おうね。過去ばかり見ずに前を見るんだ。じゃあ、クレイジーサーキットで走るパイロットをランダムでコースに飛ばすよ』


 ルーナがそう言った瞬間、遥が乗るペガサスがクレイジーサーキットに転送された。


「今度は遥さんか。今度は空を飛べるゴーレムに乗ってるから、クレイジーサーキットが地面にギミック山盛りでもなんとかなりそうだ」


「遥さんならきっちり仕上げるでしょ」


「仁志さんが生還したんですから、遥さんも必ず生還しますよ」


「愛の力は偉大なんだね」


 晶が自分を見ていることに気づき、麗華はドヤ顔で応じてみせる。


「当然です。私だって恭介さんが帰りを待ってるって思えば、是が非でも帰ってきますよ」


「だってよ、恭介君」


「生き残ることを最優先に動いてくれれば、俺が助けに行くさ」


「恭介君はサラッとそういうこと言えちゃうんだねぇ」


 そんな話をしている内に、遥がクレイジーサーキットのスタート位置に着いた。


 それと同時にモニターにレース参加者の情報が映し出される。



-----------------------------------------

レース参加者(第2回新人戦・クレイジーサーキット)

-----------------------------------------

1位:バンガース(E国/イフリート/火)

2位:クリーク(D国/サイバードレイク/水)

3位:エピ(F国/エクスキューショナー/風)

4位:グリードポット(A国/ドミニオン/火)

5位:バンコーン(日本/ペガサス/土)

-----------------------------------------



「さっきのレースもそうだけどさ、日本以外も乗ってるゴーレムが強くなったな」


「1期と2期に比べてデスゲームに前向きだからじゃない?」


「あり得ますね。後はフォルフォルがテコ入れしてるとかでしょうか」


「あるある。エンタメのためならテコ入れとかやりそうだもん」


 恭介達がスタート位置に着く5機のゴーレムを見てコメントしている間に、全員の準備ができたと判断してルーナがレース開始のカウントダウンを始める。


『3,2,1,GO!』


 レース開始と同時に、グリードポットの乗るドミニオンが光り出し、スタート地点の前方に猛スピードで落下する隕石が現れた。


 この現象はグリードポットの隕石衝撃メテオインパクトというギフトによるものだ。


 グリードポットは早いタイミングで勝負に出たのである。


 クリークのサイバードレイクが口からビームを放てば、落下する隕石に罅が入った。


 それに続くように、遥が隕石に呪機関銃カースマシンガンで連射する。


 隕石が割れて破片がコースのあちこちに散ったところで、遥はグリードポットに仕返しをするべく呪機関銃カースマシンガンを連射した。


 自分を攻撃した者に遥は容赦しないのだ。


 グリードポットはドミニオンを操縦して連射される弾丸を躱すが、遥の狙いはここからである。


「あっ、使うぞ」


「ギフト?」


「そうだ」


 麗華の質問に恭介が頷いた直後、隕石の破片が不自然な加速をしてドミニオンに命中した。


 破片とはいえ隕石が衝突すれば、ドミニオンはバランスを崩して地面に墜落する。


 それを見逃さずに呪機関銃カースマシンガンで連射し、遥はグリードポットを仕留めた。


『やってくれたね! 日本のバンコーンがA国のグリードポットを蜂の巣にした! バンコーンはグリードポットの物的財産を手に入れたよ! やったね!』


「上手いですね。連射に注意を向けさせてギフトで勝負を仕掛けるとは流石です」


「恐ろしい人だよね、遥さんって。仁志さん、頑張れ」


 沙耶が遥のやり方に感心する一方で、晶は遥に戦慄して彼女と付き合っている仁志にエールを送った。


 クレイジーサーキットというコースは基本的に直線のないコースだ。


 連続ヘアピンカーブという次元ではなく、ヘアピンカーブしかないサーキットである。


 しかも、陸を走るゴーレムと空を飛ぶゴーレムの公平性を保つため、空に続く光の壁がショートカットを許さない。


 そこにギミックが用意されているから、モンスターの介入する余地がない。


 そんなコースなので、現在走行中の4機はひたすらカーブを繰り返している。


 1周目のギミックは進行方向とは逆に吹く強風だ。


 これのせいでどのゴーレムも思うようにスピードが出ない。


『E国のバンガースが撃墜! D国のクリークがバンガースのコックピットを撃ち抜いた! クリークがバンガースの物的財産を手に入れたよ! おめでとう!』


 クリークのサイバードレイクは水属性だから、バンガースが操縦する火属性のイフリートに対して属性的な相性が良い。


 それゆえ、倒せる機会があれば倒そうと狙っていたクリークが、丁度射線に入ったタイミングを見計らって狙撃したのである。


 1位が遥のペガサス、2位がクリークのサイバードレイク、3位がエピのエクスキューショナーのままレースは進み、遥が2周目に入る。


 その瞬間、強風が収まった代わりにコースの至る所に障害物と爆弾が仕掛けられた。


 突然現れた地雷を踏み抜いてしまい、狼形態のエクスキューショナーが両前脚を損傷してしまう。


 障害物と爆弾は地上も空も関係なく設置されるから、遥は進行方向に爆弾を見つけて呪機関銃カースマシンガンで爆発させる。


 爆発の影響で近くの障害物も吹き飛び、遥は最短経路を飛ぶことに成功する。


 それを真似したクリークだが、爆弾の影響範囲を見誤って爆発に巻き込まれてしまった。


『ヒャッハー! D国のクリークが自滅したぁぁぁ! クリークは自滅だから物的財産は私が没収するよ! E国の物的財産もあったのに残念だね!』


「声が全然残念そうじゃないんだが」


「だってフォルフォルだもの」


 麗華のコメントに恭介達はその通りだと頷いた。


 モニターの向こうでは遥が3周目に突入し、再び進行方向とは逆に強風が吹き荒れる。


 厄介なことに、障害物と爆弾が強風によって吹き飛ばされ、走行中のゴーレムを邪魔するようになった。


『なんてこった! F国のエピが飛んで来た爆弾に当たって爆死しちゃったよ! エピは事故死だから物的財産は私が没収するよ! どんまい!』


 この瞬間、クレイジーサーキットは遥のタイムアタックに変わった。


 遥もそれを理解しているので、障害物と爆弾に触れないように注意して飛んだ。


 タイムは落ちてしまったけれど、損傷なくゴールできたのは遥の集中力があってこそである。


『ゴォォォル! 優勝は日本のバンコーン&ペガサスだぁぁぁぁぁ!』


 フォルフォルは遥が1位であることを宣言し、ペガサスは魔法陣によってイベントエリアに転送された。


 今回もレースで日本チームに犠牲者が出なかったため、恭介達はホッとした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る