第174話 諸君、私はゴーレムが好きだ
恭介達が瑞穂に来て41日目にして第2回新人戦当日、3期パイロット4人は恭介達に見送られながらイベント会場に向かった。
2期パイロットである沙耶と晶のどちらかは、オーバーエイジ枠として今日の戦いに参加できたけれど、明日奈達が自分達だけで大丈夫だと力強く言ったので、日本チームは3期パイロットだけが参加する。
オーバーエイジ枠を使わない決断は、見栄によるものではないとわかっているから、沙耶達は3期パイロット達の意思を尊重した。
その一方、F国は前回の新人戦に参加したパイロット達が全滅したため、1期パイロットのムッシュは問答無用でオーバーエイジ枠を使って参加している。
恭介達が
勿論、新人戦においても恭介以外の目にはルーナではなく、軍服を着たフォルフォルの姿が見えている。
『諸君、私はゴーレムが好きだ』
静まり返ったイベント会場に真剣なルーナの声が響いた。
『諸君、私はゴーレムが好きだ。諸君、私はゴーレムが大好きだ』
今度は主催者としての熱量をもって言葉を口にし、大事なことだから2回連続で言ってみせた。
各国の3期パイロット達はルーナのスピーチに戦慄しつつ、最後まで聞かなければ話が先に進まないから黙って聞いている。
『タワー探索が好きだ。レースが好きだ。コロシアムが好きだ。宝探しが好きだ。デイリークエストが好きだ。代理戦争が好きだ。合成が好きだ。修理が好きだ。新人戦が好きだ。タワーで、洞窟で、遺跡で、廃墟で、工場で、森林で、レース会場で、コロシアムで、地下で、イベント会場でこの地上で行われるありとあらゆるゴーレムの戦いが大好きだ』
ゴーレム好きな者は当然3期パイロット達の中にもいるので、わかっているじゃないかと思う者達が目を輝かせている。
『諸君、私はゴーレムを望む。諸君、私の話を聞く3期パイロットとオマケ諸君。君達は一体何を望む? 更なるゴーレムを望むか? 合成に合成を重ねたゴーレムを望むか? ロマンを満たしてくれる自分だけのゴーレムを望むか?』
『『『…『『ゴーレム! ゴーレム! ゴーレム!』』…』』』
『よろしい。ならばゴーレムだ』
(遂にこのネタに手を出したか)
恭介はやり切った表情のルーナと、共感してゴーレムと叫ぶ何人かの3期パイロットがいるのを見て戦慄していた。
麗華と沙耶、晶も同じ表情である。
「いつかやると思ってたけど…」
「代理戦争の時にやるよりは妥当なんじゃないでしょうか。3期パイロット達は立候補してデスゲームに参加してますから」
「そこに巻き込まれてるF国のムッシュは涙目だろうけどね」
ムッシュの心情は晶の言う通りである。
オーバーエイジ枠で参加しているムッシュにとって、こんな演出は苦痛でしかないだろう。
それはさておき、今回は自分の用意したネタをやり切ったルーナがルール説明を始める。
・新人戦は参加国のパイロットが5,10,15のように5階層突破毎に開催される
・例外として新人戦で一度でも総合優勝した国が突破した場合はノーカウント
・もしも1ヶ月以上新たに5階層が突破されなければ、新人戦が強制開催される
・新人戦はレース部門とバトル部門が順番に行われる
・レース部門はランダムで2名が選出されて順番にレースに参加する
・レース部門は毎回違うコースで行われる
・バトル部門では生存者全員が毎回別のテーマで戦う
・報酬は部門毎に用意されており、実績によって按分される
・他国のパイロットを仕留めるとギフト以外全ての物的財産を引き継げる
・今大会は条件を満たすことでオーバーエイジ枠が1枠だけ設けられる
最後に追加されたルール以外変わっておらず、日本が一方的に有利にならないようにレース部門に参戦する者が完全にランダムになっている。
10個目のルールに記された条件とは、新人戦に参加できるパイロットが3名以下の場合である。
本来は日本もオーバーエイジ枠が使えたが、日本が一方的に有利にならないような見せ方をしているので、F国のムッシュだけが該当するような文面に差し替えられたのだ。
こうすることにより、しれっとE国とA国、D国からF国にヘイトが向けられている訳だが、F国はその3ヶ国に比べて戦力的に有利だと思われているのだから仕方あるまい。
日本の4人は実力では負けていないという自負があるから、特にF国を妬ましく思う者はいなかった。
『それじゃ、レース部門のコース選択を始めるよ』
笑顔のルーナが指パッチンしたことで24面ダイスが2つ現れ、レース部門で走るコースの選定が始まる。
サイコロを上に放り投げてからルーナが歌い出す。
『何が出るかな♪ 何が出るかな♪』
(ルーナのビジュアルであの歌を聞くのは新鮮だな)
このコース決めの流れは新人戦でもお約束なのだが、恭介の目にはフォルフォルではなく巫女服姿のルーナが見えているので、新鮮に感じるのも頷ける。
サイコロの動きが完全に止まった時、上を向いている面に記されていた文字はそれぞれマグマ&ウェーブとクレイジーサーキットだった。
「マグマ&ウェーブは火山と海が舞台だろうけど、クレイジーサーキットってどんなコースだろうな?」
「少しも安全なルートがないサーキットなんじゃない?」
「直線皆無のカーブだけのサーキットかもしれませんね」
「周が変わる毎に舞台が変わるのかもよ?」
恭介が口にした疑問に対し、麗華達が自分の意見を述べる。
新人戦では観戦するだけだから、恭介達は呑気なものである。
ルーナがネタバレするはずはないので、良い笑顔を浮かべながらコース名を発表する。
『やったね! 第2回新人戦のレース部門はマグマ&ウェーブとクレイジーサーキットで開催だよ! まずはマグマ&ウェーブでレースするパイロットをランダムに選出するよ!』
もう一度ルーナが指パッチンすると、ドラムロールが何処からともなく聞こえて来る。
ドラムロールが聞こえている間、スポットライトが国ごとに順番に各国のゴーレムを照らすようになり、ドラムロールが終わった時に日本チームは仁志が乗ったケイローンがスポットライトに照らされていた。
それと同時に、
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レース参加者(第2回新人戦・マグマ&ウェーブ)
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1位:ザワークラウト(D国/スフィンクス/土)
2位:スターゲイジーパイ(E国/アラクネ/土)
3位:ハンバーガーソウル(A国/メビィ/風)
4位:パリジャン(F国/ジャンクバスター/火)
5位:サビザン(日本/ケイローン/水)
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「飛べるのはメビィだけか」
「A国のパイロットが勝ったとか思ってそう」
「もし本当にそう思ってたらめでたい頭をしてますね」
「A国ならわからないよ。だって、赤い水星(笑)と同じ国だし」
恭介の言う通り、最初のレースで飛べるゴーレムはメビィだけだ。
個別事情を把握していなければ、メビィにアドバンテージがあると考えてもおかしくない。
しかし、ケイローンに乗っているのは仁志だ。
午後十時騎士団はいずれも実力者揃いであり、GBOでは飛べないゴーレムで空を飛べるゴーレムを倒す縛りプレイをすることも平然とやってのけて来た。
それを知らずにハンバーガーソウルが勝ったと楽観的に考えるようなら、ハンバーガーソウルは酷い目に遭うことだろう。
ちなみに、晶がレッドマーキュリーのことを赤い水星(笑)と称したのは、その方が煽りに使えると思ったからだ。
レッドマーキュリーという響きは決して悪いものではないと思い、ニュアンスで馬鹿にしているのが伝わるだろう赤い水星(笑)と言った訳である。
ルーナ的にもその煽り方は使えると思っているのは余談である。
とりあえず、ケイローンや他の選ばれたゴーレムの足元に魔法陣が出現し、そのまま魔法陣でマグマ&ウェーブへと転送された。
その直後に
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