第172話 ふむふむ。麗華ちゃんはやはりエッチと

 レース会場から戻って来た恭介は、麗華にモーセの設計図を渡す。


「麗華、これあげる」


「わぁ、モーセの設計図だ! 流石恭介さん! ありがとう!」


 麗華は笑顔で恭介に抱き着いて喜びを体で表現した。


 満足するまで抱き着いてから、麗華はソロモンに乗り込んで設計図合成キットを使った。


 ソロモンとモーセの設計図を合成して完成したのは、ハーロットと呼ばれるゴーレムの設計図だった。


 ハーロットは大淫婦バビロンから名前を取られたゴーレムだが、淫婦というよりは女型悪魔と呼ぶべき外見の機体である。


 七つの大罪で色欲を司るアスモデウスは出て来ないくせに、ハーロットはGBOに出て来るのだから制作陣の思考は謎である。


 一対の翼はナグルファルと同様にソードウイングになっており、麗華も蛇腹剣を使えるようになった。


 更に言えば、ハーロットには任意で半径500m以内に入っているゴーレムの動きを妨害する信号を発する特性がある。


 この信号が効かないのはハーロット未満のスペックのゴーレムのみであり、恭介の4機のゴーレムと麗華のブリュンヒルデには通用しない。


 そのことから、ハーロットは格下に強いゴーレムと言える。


 この後、麗華はミルキーウェイに挑むつもりだったが、元々はブリュンヒルデで挑む予定だったのを変更してハーロットに乗り込んだままレース会場に移動した。


 その瞬間、ハーロットのモニターにニヤニヤしたフォルフォルの姿が現れる。


 麗華にはまだ権限がないから、ルーナではなくフォルフォルの姿が映るのだ。


『麗華ちゃんってばエッチだね。ハーロットに乗るだなんて。欲求不満なの?』


「煩いわね。さっさと消えなさい」


『いやいや、ここは大事なことだから退かないよ。麗華ちゃんのコンディションが悪いと、侵略者達との戦いに影響が出るからね』


 フォルフォルが下世話なのは間違いないが、今のやり取りに限って言うと下世話ないじり方をしたいだけで振り出した話ではなかった。


 それを感じ取れたからこそ、麗華はできるだけ恥ずかしさを我慢して応じる。


「欲求不満かどうかはわからないわ。でも、好きな人と結ばれたいって思うのは当然でしょ?」


『ふむふむ。麗華ちゃんはやはりエッチと。それなら夜這いしちゃいなよ。どうせいつも添い寝してるんだし』


 訂正しよう。


 やはりフォルフォルは下世話だった。


「失せろゲスフォル」


『はーい』


 少しでもフォルフォルのことを見直して損したとキレる麗華に対し、フォルフォルはニヤニヤしたままモニターから姿を消した。


 いつの間にか入場門が開いていたため、麗華はハーロットを操縦してその中に入った。


 移動した先のコースは、天の川がモチーフで空に浮かぶ道の上を走るミルキーウェイである。


 1位~7位のゴーレムが既に位置に着いており、麗華の準備が整うのを待っている。


 競う相手は前から順番に火属性のセラフ、水属性のオベロン、風属性のティターニア、風属性のペガサス、水属性のペガサス、土属性のユミル、火属性のユミルだ。


 8位の位置に麗華のハーロットが着けば、レース開始のカウントダウンが始まる。


『3,2,1,GO!』


 スタートダッシュと同時に、麗華はハーロットの信号をオンにする。


 それが原因で、ハーロット以外のゴーレムがまともに操縦できず、そこに流れ星が降り注いでスタート地点がカオスな状態になった。


 ハーロットの信号による妨害は、ゴーレムを停止させるものではなくその操縦機能に障害を発生させ、操縦したい内容と違う動作をゴーレムにさせてしまうのだ。


 思いきり横や上方向に飛び出したなんてことはマシな部類で、コースにジャンピングプレスしたり逆走してしまったゴーレムもいた。


 麗華は流れ星が降り注いで来たけれど、それらによって被害を出すことなく1位まで順位を上げている。


 ミルキーウェイは流れ星がどんな場所にも常時降り注ぐコースなので、出現しても流れ星に押し潰されては無駄だからモンスターは一切現れない。


 ただし、ランダムな間隔でカメラを覆う程眩しい光が生じるため、運が悪いと光で何も見えない時に流れ星がゴーレムに直撃する。


 スタート地点で思うように操作ができず、最初から落ちて来た流れ星による被害を受け、ハーロットの影響範囲から脱せても流れ星が絶え間なく落ちて来るので、他のゴーレム達は集中力の切れた者から脱落していくことだろう。


 ランダムな間隔で流れ星によってカメラを覆う程眩しい光が生じるから、運が悪いと光で何も見えない時に流れ星がゴーレムに直撃する。


 その上、タイミングによってはコースに設置されたアクセルリングをくぐる邪魔をされる訳だから、運が悪いとレースのタイムが大幅に落ちるし順位も落とすことだってある。


 (鬱陶しい)


 シミュレーターで経験済みとはいえ、やはり光が邪魔なことには変わらない。


 どうにかアクセルリングをくぐったが、眩しい物は眩しいから麗華は心の中で悪態をついた。


 1周目では無事に全てのアクセルリングを通過し、麗華は2周目に突入する。


 2周目では上空からだけでなく、横方向からも流れ星が飛んで来るようになる。


 難易度が跳ね上がるけれど、麗華は冷静に上と横から来る流れ星を避けていく。


 アクセルリングに到着するまでの間に、ペガサス2体とユミル2体が残骸になっていた。


 (ハーロットと戦ってなければ、もっとレースに参加できてたよね。ご愁傷様)


 弱肉強食の世界なので、麗華は同情することなくアクセルリングをくぐり始める。


 アクセルリングのゾーンを抜け、3周目に入ってから前方に手負いのオベロンとティターニアの姿があった。


 それらは2位争いで流れ星を避けながら戦っており、翅から爆発する粉やチャフを撒き散らし、ビームライフルも使っているからあちこちで爆発が起きている。


 そこにハーロットが近づけばどうなるか。


 信号の効果範囲に入り、オベロンとティターニアがそのパイロット達にとって予想外な動きをし始める。


 チャフを撒こうとしたはずが、爆発する粉を撒いてしまってそこにビームが当たったものだから派手に爆発が生じる。


 ハーロットはギリギリで爆発に巻き込まれなかったけれど、爆発地点に近かった2機は残骸だけになってしまった。


 競争相手がいなくなったため、少し油断してしまった麗華だったが、流れ星の光でアクセルリングに入り損ねてしまう。


 (うわぁ、やっちゃった)


 途中からアクセルリングをくぐれたが、タイム的にはロスしてしまったためゴールした麗華は肩を落とした。


『ゴォォォル! 優勝は傭兵アイドル、福神漬け&ハーロットだぁぁぁぁぁ!』


 麗華はレース会場前に脱出し、モニターに映し出されたレーススコアを確認する。



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レーススコア(ソロプレイ・ミルキーウェイ)

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走行タイム:38分4秒

障害物接触数:0回

モンスター接触数:0回

攻撃回数:0回

他パイロット周回遅れ人数:7人

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総合評価:S

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報酬:資源カード(食料)100×5枚

   資源カード(素材)100×5枚

   50万ゴールド

非殺生ボーナス:魔石4種セット×50

ぶっちぎりボーナス:スケープゴートチケット

デイリークエストボーナス:50万ゴールド

ギフト:金力変換マネーイズパワーLv26(stay)

コメント:最後の最後に油断しちゃったね(((*≧艸≦)プークスクス

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 (その通りだけどすっごい腹立つ!)


 フォルフォルに油断したことを指摘され、麗華はとても悔しがった。


 スケープゴートチケットを手に入れたことは喜ばしいことのはずなのに、ちっとも喜べる気分になれない程である。


 しかし、悔しがった後に事実は事実として受け止められたのだから、麗華はまだまだパイロットとして高みを目指せることだろう。


 それでも、瑞穂の格納庫に戻ってから麗華が恭介に甘えたとだけ補足しておこう。

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