第168話 汚い花火だ

 恭介と麗華が瑞穂に戻って来た時、沙耶と晶のゴーレムは格納庫に戻って来ていなかった。


 とりあえず、恭介は手に入れたエクスドレイクとナグルファルの設計図を合成することにした。


 エクスドレイクとは二対の翼でXの文字を模っているドラゴン型ゴーレムだ。


 手足がない代わりに、二対の翼に仕込まれた銃で攻撃し、避けられない攻撃は二対の翼から展開される八面体のエネルギーフィールドで防ぐ特徴を持つ。


 設計図合成キットを使った結果、クライオブドラグーンと呼ばれるゴーレムの計図が完成した。


 クライオブドラグーンはリュージュと同様に機械竜形態に変形できる竜人型ゴーレムで、その翼にはエクスドレイクとナグルファルの特性が盛り込まれている。


 具体的には、上側の一対の翼には銃が仕込まれており、下側の一対の翼は蛇腹剣になっているのだ。


 リュージュのように口からビームは放てないけれど、翼だけで遠距離も近距離も対応できるのが推しどころだろう。


『恭介さん、合成作業は終わったの?』


「いや、むしろここからだ」


 ソロモンとブリュンヒルデの調整作業を終えたため、麗華がブリュンヒルデのコックピットから恭介に作業が終わったか訊ねて来た。


 それに対して恭介は、今終わった作業は前座に過ぎないんだと笑みを浮かべて答えた。


 恭介が浮かべた笑みの理由だが、ナグルファルには使えなかったけれど、クライオブドラグーンにはリミットブレイクキットが使えるからである。


 リミットブレイクキットにより、クライオブドラグーンに更なる変化が生じた。


 翼が二対から三対に増え、銃はXを模る上下の二対の翼に仕込まれた。


 中段の一対の翼がソードウィングであり、これが蛇腹剣として扱える。


 クライオブドラグーンよりも全体的にスリムになったゴーレムの名は、ドラクールである。


 (これで頭にドラが付く機体は3機目だな)


 土属性のドラキオンと火属性のドラグレンに続き、今度は水属性のドラクールが恭介の操縦できるゴーレムに加わった。


 残るは風属性のドラが頭に付くゴーレムだけれど、タラリアをその段階まで強化するには設計図と設計図合成キット、リミットブレイクキットが足りない。


 コンプリートまでの道は地味に遠いようだ。


 ドラクールは竜人型ゴーレムがベースだが、ドラキオンとドラグレンと異なり水龍形態になることで水中戦も可能である。


 もっとも、宇宙空間で水龍形態をお披露目する機会があるとは考えにくいから、その姿を見られる機会はなかなかないだろうが。


『良いなぁ。私もソロモンを強くしたいなぁ』


「侵略者達と戦ってる内に良いアイテムが手に入るかもしれない。物欲センサーに引っ掛からないように願おう」


『難易度ルナティック!』


 麗華がそうツッコむのも無理もない。


 人によっては良いアイテムが欲しいと思うだけで物欲センサーが反応してしまうのだから、物欲センサーに引っ掛からない程度に願うなんて難易度が高過ぎる。


 恭介達がコックピットから降りようとしたその時、モニターにラミアスが現れる。


『総員、第一種戦闘配備。繰り返します。総員、第一種戦闘配備。侵略者が現れました』


「嫌なタイミングで出て来るじゃん」


『ラミアス、敵戦力について教えて』


『承知しました。C004ミ=ゴが4体と初めて接敵する種族が4体です。これは…C005ダーク・ワンです!』


 ラミアスが断定した直後に、恭介と麗華の見ているモニターに接近する敵勢力の映像が映し出される。


 ミ=ゴはさておき、ダーク・ワンは恭介達にとって初見の敵だ。


 その見た目はどことなく不気味なオーラを纏っている黒いゴーレムで、ベースファイターとベーススナイパーを足して2で割ったようだった。


「沙耶も晶もいないし、俺達だけでやってしまおう」


『お待ち下さい』


「どうしたラミアス?」


『恭介さんと麗華さんが出撃する前に、瑞穂の射撃訓練をさせていただけないでしょうか?』


 ラミアスの申し出を聞き、恭介も麗華も確かにそれもありだと思った。


 何故なら、いつも恭介達が出撃して倒してしまうため、瑞穂のミサイルプログラムをはじめとした武装を一度も使えていないのだ。


 本当に必要な時に訓練なしで使うのは不安が残るから、恭介と麗華はラミアスの訓練が終わって必要なら出撃することにした。


『ターゲット捕捉。ミサイル、発射します!』


 ラミアスの宣言が聞こえた直後、瑞穂からミサイルが一斉に発射された。


 ダーク・ワンは装備しているビームライフルでミサイルを撃ち落としたが、ミ=ゴは触覚を伸ばしてミサイルを吸収しようとして失敗した。


 その結果、ミサイルに被弾したミ=ゴが爆散することになった。


「汚い花火だ」


『見て、恭介さん。ダーク・ワンがミ=ゴの破片を吸収してるよ』


「そうだな。てか、なんか見た目が変わってない?」


『そうだね。キュクロみたいになってる』


 ダーク・ワンが掌からミ=ゴの破片を吸収し、ベースシリーズの見た目からキュクロの見た目へと変わった。


『ミサイルシステムによる迎撃ですと、ダーク・ワン4機に対して非効率だと判断しました。また、特装砲と主砲、副砲での攻撃も発射までの動作で避けられてしまうでしょう。申し訳ないのですが、恭介さんと麗華さんに出撃していただきたいです』


「了解。その判断に俺も賛成だ」


『私も。資源だって限りがあるんだから』


 瑞穂の武装や艦体だが、資源カード(素材)を消費して最適化される運用になっているらしく、無限に使える訳ではない。


 実は食堂についても運用が変わっており、ホームから瑞穂になった時に資源カード(食材)が消費されるようになっていた。


 食堂の場合、4人で食べる分なんてたかが知れているから、こちらは消費するよりも獲得する方が多いので恭介達が餓死する未来は来ないだろう。


 恭介がドラクールをカタパルトまで移動させると、ラミアスの声がコックピット内に響く。


『進路クリア。ドラクール、発進どうぞ!』


「明日葉恭介、ドラクール、出るぞ!」


 ドラクールがカタパルトから射出されたのを確認し、麗華がその後に続く。


『ブリュンヒルデ、発進どうぞ!』


『更科麗華、ブリュンヒルデ、出るわよ!』


 ブリュンヒルデもすぐに宇宙空間に飛び出し、恭介のドラクールの後ろに続いた。


 ドラクールとブリュンヒルデが出撃したことを知り、ダーク・ワンが背後に闇の門を展開し始める。


 その門が開くと、中からベースシリーズにそっくりなダーク・ワンの群れがぞろぞろと現れた。


「ワープ? それとも召喚か?」


『数ばかり揃えたって無駄なんだから』


 麗華の言うことは正しいが、数は力なりなんて言葉もある。


 警戒は怠らない方が賢明である。


「ドラクールの力、見せてやるよ」


 恭介が得意気にそう言ったのを聞きつけ、モニターにルーナが姿を見せてBGMを流し始める。


 そのBGMは3分クッ○ングのテーマだった。


 ルーナの意図としては、数だけ揃えたダーク・ワンなんて3分で倒してしまえというものだろうが、なんとも雰囲気を台無しにしている。


 戦闘に集中している恭介はツッコまないから、ドラクールの三対の翼を駆使してダーク・ワンの数を減らし、接近して来る個体はレジェンドブルーを振るって倒していく。


『喰らえぇぇぇぇぇ!』


 麗華もジャバウォックと四対の翼の銃をフルで使い、ダーク・ワンの群れをどんどん倒している。


 ドラクールのコックピット内に流れるBGMが終わった時には、ダーク・ワンの群れは全滅していてピクリとも動かなくなっていた。


「宇宙ゴミってどうすりゃ良いんだ?」


『汚物は焼却じゃない? クトゥルフ神話の生物なんて、破片でも残してたら碌なことにならなそうだし』


 そんな風に話していると、遠くの方から何かが恭介達に接近して来た。


『恭介さん、麗華さん、敵の増援です! 瑞穂のデータベースによりますと、C101バイアティスです!』


 ラミアスが敵の正体を告げた時には、恭介も麗華もモニターで蟹のような鉤爪を持ち、象のような鼻を持つ髭を生やしたモノアイの大蛇を捕捉していた。


 バイアティスはダーク・ワンの群れの残骸を全て鼻から吸い込み、それら全てを吸収してしまった。


 宇宙ゴミがなくなったのはありがたいことだけれど、それがバイアティスの強化に繋がることを思うと素直に喜べない。


 恭介達の戦いは第二ラウンドに移行した。 

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