第169話 世の中には知らない方が良いこともあるんだよ

 バイアティスはモノアイから素早くビームを発射する。


 その標的は恭介であり、恭介はレジェンドブルーを盾に変形させて防いだ。


 守っているだけでは勿体ないので、二対の翼の銃でビームを放って反撃する。


 しかし、そのビームはバイアティスの鉤爪によって反射された。


「ただの雑魚モブとは違うらしいな」


『ビームを反射するって厄介だね』


「鉤爪で守ったってことは、体にはビームが効くはずだ。そうじゃなきゃ、わざわざ守る必要がない」


『確かにそうだね。それなら、私は回り込んで防御できないタイミングを狙うよ』


 麗華が隙を窺って狙撃するならば、恭介は陽動を引き受ける。


 一対のソードウイングでバイアティスに攻撃を始めたら、バイアティスは鼻を硬質化させて蛇腹剣を捌いてみせた。


「3本目は防げるか?」


 ソードウィングの蛇腹剣2本であればギリギリ防げたようだが、ここに大剣形態のレジェンドブルーによる攻撃が加われば話は別だ。


 恭介が刃を伸ばして剣先からビームを放てば、鉤爪による防御が間に合わずにバイアティスの鼻の破壊に成功した。


『ぬぁぁぁぁぁ!? よくも鼻を壊してくれたなぁぁぁぁぁ!』


 バイアティスの声が恭介達の脳に直接届く。


 その声は今までに戦って来た雑魚モブよりも不快であり、さっさと倒してしまいたい衝動に駆られる。


 麗華はバイアティスの注意が恭介に向いていると判断し、死角から全武装による一斉掃射を行った。


『舐めるな!』


 死角からの攻撃だったはずなのに、それが見えているかのようにバイアティスは躱してみせた。


「麗華、バイアティスは熱源探知ができるらしい。偏差射撃だ」


『了解!』


 回避した様子から、恭介はバイアティスの特性を推測して麗華に伝える。


 麗華も恭介の考えに同感だったから、攻め方を変えてバイアティスに攻撃を仕掛ける。


 バイアティスが右側の鉤爪で麗華のビームを反射しようとしたタイミングを狙い、恭介はレジェンドブルーの刃を伸ばしてその鉤爪の根本から切断した。


 そうなれば、本来反射できるはずだったビームがバイアティスに直撃するため、バイアティスのダメージを受けて怒る声が恭介達の脳に届く。


『おのれ貴様等ぁぁぁぁぁ!』


 バイアティスは怒声と共にモノアイからビームを放ち、麗華の乗るブリュンヒルデを攻撃する。


 ビームの発射速度はドラゴン型モンスターのブレスよりも素早く、もしも麗華がブリュンヒルデに乗っていなかったら無事に躱すことはできなかっただろう。


「おい、麗華に何してくれてんだよ」


 恭介はレジェンドブルーの刃を伸ばし、バイアティスのモノアイを貫いた。


 その痛みに叫び出しそうなタイミングで蛇腹剣2本で左側の鉤爪を切断し、バイアティスが叫ぶのを邪魔する。


 攻撃手段を奪うだけ奪って恭介が離脱すれば、その直後に麗華も反撃する。


『ギフト発動』


 20万ゴールドをコストに金力変換マネーイズパワーを発動し、麗華はジャバウォックから強烈な一撃をバイアティスに放った。


 大きな風穴が開いたことにより、バイアティスの生命活動は停止した。


「麗華、お疲れ様。体調の方は大丈夫か?」


『なんとかね。でも、疲れたから帰ったら甘えさせてくれると嬉しいな』


「わかった」


 麗華のブリュンヒルデは無傷だったが、バイアティスの声のせいで精神的に異常が発生していないか心配で恭介は麗華の安否を確かめた。


 疲れているものの無事だとわかり、恭介はホッとした。


 2人の会話が終わったことを確認してから、ラミアスが恭介達に声をかける。


『お疲れ様でした。周辺に敵戦力が残っていないことも確認済みです。帰艦して下さい』


「『了解』」


 麗華が先に戻り、恭介がその後を追って帰ろうとした時、ボロボロになったバイアティスの体が跡形もなく消えた。


「なんだ? 敵の仕業か?」


『警戒させちゃってごめん。私がドラクールを媒介にしてバイアティスの死体を回収したんだ』


「なんだルーナか。バイアティスの死体を何に使うつもりだ?」


『世の中には知らない方が良いこともあるんだよ。でも、開示できる範囲で言えば敵戦力の分析も含めて回収するのさ。例えば、バイアティスの記憶を回収できれば、瑞穂のデータベースが充実して戦闘が楽になるかもしれないだろ?』


「なるほどな」


 ルーナの言い分を聞いて恭介は納得し、ブリュンヒルデに追いついて順番に瑞穂に着艦した。


 それと同時に、恭介達のゴーレムのコックピットにバトルスコアが表示される。



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バトルスコア(VSクトゥルフ神話)

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出動時間:22分18秒

撃破数:ダーク・ワン120体

    バイアティス1体

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総合評価:S

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報酬:資源カード(食料)100×5枚

   資源カード(素材)100×5枚

   50万ゴールド

ファーストキルボーナス:エースドレイクの設計図

            設計図合成キット

ノーダメージボーナス:魔石4種セット×50

ギフト:黄竜人機ドラキオンLv30(stay)

コメント:単一個体も出て来るようになったね。気を付けて

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 (ルーナが心配するってことは、敵も本腰を入れて来たって考えた方が良さそうだな)


 ふざけずに自分を気遣うコメントだったことから、恭介はルーナもふざけられない敵が送り込まれて来たのだと理解した。


 コックピットを出ると、麗華が恭介に抱き着いた。


「お疲れ様、麗華」


「お疲れ~」


 伸びた語尾に麗華の疲れが滲み出ている。


 このタイミングで沙耶と晶のゴーレムが格納庫に戻って来た。


 麗華が人前で恭介に抱き着くのは珍しいので、何かあったのかと慌てて沙耶達がコックピットから出て来た。


「何事ですか?」


「一体何があったの?」


「お疲れ様。雑魚モブ扱いできないクトゥルフ神話の敵が現れてな。麗華が甘えてるんだ。特に負傷した訳じゃない」


「「えっ」」


 沙耶と晶が驚いたのは、恭介が雑魚モブ扱いできないと言った点だ。


 恭介にそう言わせるだけの強さがあり、麗華が人前でも恭介に抱き着くぐらい甘えたくなる敵なんて、自分達が無事に倒せるのだろうかと心配に思ったのである。


 2人はラミアスに頼み、恭介達の戦闘映像を見させてもらった。


「ダーク・ワンの群れはなんとかなるでしょうけど、バイアティスは厄介ですね」


「ビームを反射する鉤爪と剣と渡り合える象の鼻って駄目でしょ。僕達じゃ決定力が足りてない」


「午後も頑張りましょう」


「そうだね。妥協して大変な目に遭うのは僕達だもん。やれることはやらなきゃ」


 戦闘映像を見て沙耶達が更にやる気を出してくれたことは良いことである。


 昼食までまだ少し時間があったから、恭介はタラリアに乗って設計図合成キットを使い、タラリアとエースドレイクを合成した。


 エースドレイクは機械竜形態と戦闘機形態の2つの姿になれるゴーレムであり、戦闘機形態が上から見るとアルファベットのAに見えることからエースドレイクと名付けられている。


 合成の結果だが、ジャッジオブドラグーンと呼ばれるゴーレムの設計図が完成した。


 竜人型のゴーレムであるジャッジオブドラグーンだが、注目すべきは機体の周囲を衛星のように回るビットだ。


 迎撃システムが組み込まれており、敵対した物に対してビームあるいは実弾を発射する。


 なお、ビットは早撃ちを優先しているため、威力は一般的な武装よりもやや弱い。


 それに加えて戦闘機形態に変形することも可能であり、その形態になっている時はビットがΔマークを維持するようにジャッジオブドラグーンについて来る。


 (リミットブレイクキットが手に入れば…。不味い、物欲センサーが反応しそうだ)


 欲を言えばリミットブレイクキットが欲しいところだけれど、物欲センサーが反応するのを警戒して恭介は考えるのを止めた。


 これからの戦いでは今まで以上に苦労するかもしれないが、新たな力を手に入れた恭介は前向きになれた。


 それだけではなく、麗華を攻撃されて本気で怒った時、自分が麗華を大事に思っていると実感できた。


 やることを終えたらランチに丁度良い時間になったから、恭介達は食堂に向かった。

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