第167話 姿を変えるのはお前の専売特許じゃない
起床した恭介は隣にいる麗華に見つめられていた。
「おはよう、恭介さん」
「おはよう、麗華」
「眉間に皺を寄せてたけど、嫌な夢でも見たの?」
「嫌と言うか変な夢だ。フォルフォルの正体がルーナって女で、ヘルの子孫でロキの巫女だった」
「恭介さん、フォルフォルがなんだって? 上手く聞き取れなかったんだけど」
(これがルーナの名前を知る権利を持つか持たないかの差か)
麗華は肝心なところが聞き取れなかったようで、困った表情になっていた。
恭介はこれ以上この話をしていても仕方がないから、なんでもないと言って着替えて朝食を取ることにした。
朝食と食休みを終えて、クトゥルフ神話の侵略者達による襲撃はなかったから恭介と麗華は各々のゴーレムに乗ってコロシアムに向かった。
精神世界でルーナと出会ったからなのか、モニターに映るはずだったフォルフォルの姿がルーナの姿に変わっていた。
「ルーナ、マルチプレイ5連戦だ」
『恭介君ってばもう、私は都合の良い女じゃないんだからねっ』
『フォルフォル、寝ぼけたことを言ってないでさっさとして』
『はーい』
恭介がフォルフォルをルーナと呼んだ場合、今の麗華にはフォルフォルと言ったように聞こえるから、麗華からすればルーナの発言は寝ぼけているとしか思えない。
ルーナはおとなしく入場門を開き、恭介達はそれぞれのゴーレムを操縦してコロシアムの中に移動した。
コロシアムの中で恭介と麗華を待ち構えていたのは、影の巨人と呼ぶべき存在だった。
このモンスターの名前はドッペルタイタンであり、対峙した相手の姿でその存在の苦手属性に変質する特徴を持っている。
複数の敵とドッペルタイタンが遭遇した場合、ドッペルタイタンがどの敵の姿に変身するかはランダムである。
今回は火属性のブリュンヒルデに変身した。
(姿を変えるのはお前の専売特許じゃない)
恭介はすぐにゴーレムチェンジャーを使い、水属性のナグルファルに乗り換えた。
その瞬間、新しい敵が来たと判断したのかドッペルタイタンが土属性のナグルファルに姿を変えた。
「麗華、メインで頼む」
『任せて!』
土属性の敵が相手ならば、風属性のブリュンヒルデに乗る麗華の出番だ。
しかも、ドッペルタイタンは姿を変えた対象のスペックも完全に模倣するから、ブリュンヒルデよりもスペックが低いナグルファルを相手にする場合、ブリュンヒルデは有利だと言えよう。
ドッペルタイタンは自分が属性的に有利な恭介を狙い、偽物のレジェンドブルーで斬りかかる。
『やらせないわ』
麗華はドッペルタイタンの死角からジャバウォックと四対の翼の銃で一斉掃射を行い、ドッペルタイタンをあっという間に倒してみせた。
恭介を囮にした攻撃が見事に嵌った訳だ。
ドッペルタイタンが光の粒子になって消え、それと入れ替わりに墓場がコロシアムの中に現れた。
「トゥームマスターか」
『アンデッドの召喚が面倒なんだよね』
「墓石を壊すぞ」
『了解』
墓場全体がトゥームマスターという1体のモンスターであり、それぞれの墓石にアンデッドモンスターが宿っており、それらで敵を攻撃するのだ。
恭介達が墓石を壊し始めてすぐに、トゥームマスターは無事な墓石から、スカルキューブとレイス、レギオン、キョンシーを召喚した。
「麗華、墓石の破壊を任せる。俺は召喚されたモンスターを倒す」
『わかった』
ナグルファルからドラグレンに乗り換え、恭介は蛇腹剣形態のファルスピースでレギオンを細切れにしつつ、レイスに一対の翼の銃からビームを放って倒した。
スカルキューブはほとんど動かないから、接近して来るキョンシーが恭介の次のターゲットである。
キョンシーは武器を持っておらず、肉弾戦がメインのモンスターだ。
恭介がキョンシーのやりたいようにさせるはずもなく、レギオンと同様にバラバラに斬ってキョンシーは力尽きた。
(スカルキューブには打撃が良いか)
そう考えてファルスピースを
恭介が召喚された4体を倒している内に、麗華は全ての墓石を破壊し終えた。
墓石のないトゥームマスターなんてただの的だから、恭介と麗華は一斉に攻撃してトゥームマスターを倒した。
トゥームマスターが消えたことにより、今度はヒュドラトレントと呼ばれるヒュドラを模った黄色いトレントが姿を現した。
ヒュドラの頭部を模った枝には金属を腐食させる毒を凝縮した棘が生えており、その棘で刺された部位は
また、ヒュドラトレントに成っている果実は強力な爆弾になっており、
「麗華、棘と爆弾になる果実に触れないように気を付けろ」
『勿論だよ。恭介さんこそ接近戦はしないでね』
ドラグレンでも戦えなくはないけれど、属性的相性を考慮して恭介はゴーレムチェンジャーでドラグレンからタラリアに乗り換える。
タラリアの武器であるクロノグリーンをビームキャノンに変形させ、恭介はヒュドラトレントの枝へ破壊作業を始める。
当然、麗華は全武装で果実を狙い撃ち、その爆発で枝を破壊するからヒュドラトレントはどんどん枝を破壊されてあっという間に攻撃手段を失ってしまった。
ヒュドラトレントは再生力の高いモンスターであり、放置していると枝も果実も徐々に再生してしまう。
「再生する前に倒す」
『これで決める!』
枝と果実が再生するよりも先に、恭介も麗華が一斉に攻撃することでヒュドラトレントは力尽きた。
『おかしい。ヒュドラトレントってタフで倒すのにもっと時間がかかるはずなのに』
ルーナはヒュドラトレントがこんなに簡単に倒されて良いはずないんだとショックを受けているが、恭介達はそのコメントをスルーした。
ヒュドラトレントの体が消失すると同時に、4体目のモンスターがコロシアムの上空に現れた。
そのモンスターは全身が真っ赤で、巨大魚と翼竜を足して2で割ったような外見であり、名前をワイバハムートという。
ワイバハムートは火属性なので、恭介はゴーレムチェンジャーでナグルファルに乗り換え、麗華もブリュンヒルデからソロモンに乗り換えた。
『余談だけど、ワイバハムートのお肉を食べると男性なら男性ホルモン、女性なら女性ホルモンが分泌されるよ。女性なら女性らしい体つきになるって言ったら、あとはもうわかるよね?』
『恭介さん、ワイバハムートのお肉が欲しい!』
「落ち着いてくれ。焦ってミスをすればルーナの思うつぼだぞ」
『…ごめん。でも、どうしても欲しいの』
バストアップ効果がある食材だとわかれば、麗華が興奮するのは容易に想像できる。
事実かもしれないが、このタイミングで麗華に余計な情報を齎したルーナに恭介はジト目を向けた。
ルーナはその視線から逃げるようにモニターから消え、それと同時にワイバハムートがファイアブレスで攻撃し始める。
恭介はレジェンドブルーを盾に変形させてファイアブレスを防ぎつつ、ソードウィングでワイバハムートの両翼を切断した。
翼がなければ落下するしかないので、ワイバハムートは地面に墜落した。
辛うじて体力が残っていたようだが、上空から麗華がガトリングガン形態のゴエティアでとどめを刺して戦利品がソロモンのサイドポケットに転送された。
5体目に現れたモンスターはノーヘッドドラゴンと呼ばれるアンデッドモンスターで、文字通り頭のないドラゴンだった。
これは恭介と麗華が両翼を撃ち抜いて地面に墜落させたところ、ワイバハムートよりも体が脆くて落下ダメージで力尽きた。
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コロシアムバトルスコア(マルチプレイ)
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討伐対象:①ドッペルタイタン②トゥームマスター
③ヒュドラトレント④ワイバハムート
⑤ノーヘッドドラゴン
部位破壊:①全身②墓石×16③枝(全て)/果実(全て)
④翼(左右)/頭⑤全身
討伐タイム:22分52秒
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総合評価:S
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報酬:100万ゴールド
資源カード(食料)100×10枚
資源カード(素材)100×10枚
ファーストキルボーナス:エクスドレイクの設計図
ノーダメージボーナス:魔石4種セット×50
デイリークエストボーナス:魔石4種セット×50
ギフト:
コメント:これでコロシアムのコンテンツも完クリだね(ノД`)・゜・。
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(ルーナの用意したコンテンツがどんどん終わってく。本格的に侵略者達との戦いが始まるってことか)
コメントを読んで恭介は少しだけ寂しく感じた。
恭介の考えている通り、ルーナもここまで強くなれば後は侵略者達との戦いに全力を尽くしてほしいのだ。
コメントからその考えを読み取れるあたり、実のところ恭介の想定よりも事態は深刻なのかもしれない。
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