第166話 質問を質問で返すな
恭介達が瑞穂に来てから39日目の未明、恭介は気づいたら見覚えのない白い空間に立っていた。
「ここは何処だ?」
その問いに答えるのはいつの間にか恭介の背後にいた金髪碧眼のグラマラスボディの女性だった。
「ここは君と私の精神を繋いだ世界だよ」
「フォルフォルか」
「もうちょっと驚いてよ。折角、福神漬けのアバターを借りて登場したのに」
「いい加減本体で出て来いよ。他者の姿を借りないと人前に姿を見せられないのか?」
フォルフォルがGBOで麗華が使う福神漬けのアバターで登場したけれど、恭介はちっとも驚いていなかった。
それどころか、冷静にツッコミを入れられてフォルフォルはむすっとした表情になっている。
「まあ、恭介君なら私の姿を見る資格を有してるかな。どうしても見たいって言うなら見せてあげても良いよ?」
「別にそのままで構わん。それで、どんな要件でここに呼び出した?」
「もうちょっと私に興味を持とう? お願いだからさ」
「どうしても見てほしいって言うなら見てあげても良いぞ?」
恭介とフォルフォルの立場が逆転した瞬間だった。
「Look at me!」
「俺が日本人なんだから日本語で言えよ」
「私を見て!」
その瞬間、福神漬けのアバターが光を放ってそれが精神世界を包み込む。
光が収まった後、福神漬けの姿をしていたフォルフォルの姿が洋風の巫女と呼ぶべき姿に変わった。
金髪碧眼だったのに対し、本来の銀髪に紫の眼に変わって髪型もエアリーボブに変化している。
「それがお前の本来の姿なのか?」
「君には今、私がどう見えてる?」
「質問を質問で返すな」
「大事な質問なんだよ。ちゃんと答えて」
目の前の巫女が真剣な表情で言うものだから、恭介はやれやれと溜息をついてから銀髪で紫の眼をした洋風の巫女が見えると答えた。
「なるほど。はっきりと私の姿が見えてるんだね。おめでとう、恭介君はこちら側の領域に足を踏み入れたよ」
「こちら側ってどちらだよ?」
「神寄りってことさ」
「どゆこと?」
予想外の言葉を聞いてしまい、恭介は意味がわからなくて首を傾げた。
「
「それを言ったら他のパイロットも超人だろ。一般人にできないことができるんだから」
「確かにそうだね。でも、君と違って彼等はギフトレベルが低いからまだ見習いみたいなものさ。それよりも、私の名前を訊かないのかい?」
「そうだったな。これ以上借り物の名前を呼ぶと乗っ取られたフォルフォルと福神漬けに失礼だ。名乗ってもらおうか」
仮に巫女が神だとしても、恭介は今までの言動を思い出して彼女を敬う気持ちなんてこれっぽっちも持ち合わせていない。
そんな姿勢に巫女はショックを受けたようだ。
「酷いや。これでも私、人から神になった偉い存在なんだよ?」
「偉い存在は俺達をデスゲームに巻き込み、ありとあらゆる監視をして楽しむこともしなければ、ゲス顔を浮かべてゲスな発言をしないもんだろ」
「その件は前にも話した通り侵略者達と戦うための選別なんだよ。私のスタンスと恭介君のスタンスじゃ平行線のやり取りになりそうだから、名乗ることにするよ。私の名はルーナ=ヘルヘイム。ヘルの子孫にしてロキの巫女だよ」
「北欧神話に所縁のある人間がロキの巫女になり、今となってはゲス顔を浮かべる残念な神になった訳か」
「恭介君、私のことをいじって楽しんでるでしょ?」
ルーナは恭介にジト目を向けた。
真面目に名乗ったのに一言多いから、真面目な話がしたいんだと態度でアピールしているのだ。
「別にいじってる訳でも楽しんでる訳でもない。事実を言ってるまでだ。胸に手を当てて思い返してみろ」
「…やればできるじゃん。まさか、恭介君の口からセクハラ発言が飛び出すなんてね」
「ん? セクハラ? 何が?」
「くっ、なんて純真な瞳なんだ。私の反論の意味を理解してもらえてない…」
ルーナとしては、胸に手を当ててというのがセクハラだと難癖をつけたかったようだが、残念ながら恭介がピンと来ていなかったせいで一矢報いることができなかった。
一矢報いるのは無理だと判断し、ルーナは溜息をついてから恭介に話しかける。
「これから私のことはルーナって呼んで良いよ。ギフトレベルが30未満の人達にはフォルフォルって聞こえるように細工したから」
「そんなことまでできるのか。というか、ルーナはどんな神なんだ? ゲス神?」
「ゲス神一択とは恭介君もなかなか言うじゃないか。私は虚構と幻想の神だよ」
「胡散臭さMAXな神じゃん」
ルーナが神だとわかっていても、恭介は態度を改めたりしなかった。
「言うねぇ。恭介君はそんなに私の言うことが信用できないと思ってるの?」
「今までの言動が言動だから仕方ないだろ」
「オホン、ここまでにしよう。どうかここまでにしておくれ。私のライフが恭介君のせいでガリガリ削られてるんだ」
そうなってしまったのは完全にルーナの自業自得なのだが、これ以上自分が物申すと無意味に時間だけが過ぎてしまう。
したがって、恭介はルナが虚構と幻想の神であることを前提に話を進める。
「そろそろこの場に俺を呼んだ理由を述べろ」
「1つ目は終わったよ。私の正体を明かすことだね。ルーナという名前も恭介君にはしっかり聞き取れている以上、知る権利は恭介君のみ認められてるよ」
「そうか。2つ目は?」
「他の神が置かれた状況の説明だね。なんで私しか神が現れないのか気になってると思うんだけどどうかな?」
2つ目の目的はルーナにとってプラスであるというよりも、パイロット達がフォルフォル以外の神に頼れるか説明するため、恭介に訊いてもらいたいとフォルフォルが思うのは当然だ。
「ルーナ、俺は無神論者だからそこまで思い入れはない。でも、言われてみればその通りで、ルーナ以外の神に遭遇したことはないな」
「でしょ? 実は、今の地球には私以外の神がいないんだ」
「なんで?」
「ロキが過去にやらかした実験で神の世界が吹き飛んだからだね。それもあってクトゥルフ神話の侵略者達が地球に付け入る隙があると判断して攻め込んで来たんだよ」
ルーナの口から知らされた事実を聞き、恭介はこの場にいないロキになんてことをしてくれたんだと苛立った。
それでも、話をこれ以上脱線させるのも時間が勿体ないから、深呼吸して落ち着きを取り戻した。
「ということは、ルーナがやってるのはロキの尻拭いってことだな?」
「残念ながらそうだね。でも、誰かがやらなきゃ世界が滅んじゃうから私が指揮するの」
ちなみに、ロキは自分がいなくなる前に自分の玩具箱たる地球がなくならぬように動いていた。
自分の直系の血筋だと聞いてルーナを自分の巫女にしたロキだが、ルーナもロキにとっては地球を守るための保険の1つでしかない。
「クトゥルフ神話の侵略者達との戦いはいつまで続くと考えてる?」
「これ以上戦力を投下しても無意味だと敵にわからせられれば、きっと戦いは終わる。いつまでかはわからない。だって、恭介君達が倒した
「まったく、碌でもない敵との戦いに巻き込まれたもんだ」
「ごめ~んね☆」
「絶対に許さない」
ふざけちゃいけないところでふざけるルーナに対し、恭介は静かにキレた。
今のところ順調に迎撃できているが、これから先の戦いで恭介達が無事でいられるとは限らない。
クトゥルフ神話の有名どころはまだ一度も現れてないことを考えれば、恭介達はいざそれらが現れた時に苦戦を強いられる可能性が高い。
「ごめんって。おっぱい揉ませてあげるから許して」
「すぐそういうネタに走るんじゃねえよ」
「だって麗華ちゃんも混浴してる時に揉ませようとしてたじゃん」
「ん? そんなことあったか?」
麗華が恥ずかしがって未遂に終わったのだが、恭介はその事態を把握していなかったので首を傾げた。
「恭介君がそう思うならなかったんじゃないかな」
「どっちだよ?」
「さあね。とりあえず、これからも頑張ってクトゥルフ神話の侵略者達を倒してね。恭介君には一番期待してるから」
「別にルーナのために戦ってる訳じゃないさ」
そのように答えた後、目覚めの時が来たようで恭介の意識が精神世界から現実世界に移行した。
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