第165話 恭介君、君がNo.1だ
恭介達が瑞穂に来てから38日目、1期と2期パイロットの4人はクトゥルフ神話の侵略者達が襲撃して来ない限り、オフを満喫することになった。
「という訳で、午前中はトレーニングルームで遊ぶぞ」
「わ〜い」
「偶にはそういうのも良いですね」
「オフって言葉はなんて魅力的なんだろうか」
1ヶ月以上ゴーレムに乗らない日はなかったので、恭介と麗華にとっては少し違和感を覚える感じだろう。
沙耶と晶は恭介達よりもゴーレムに乗っている日は少ないけれど、オフがあることは嬉しいようだ。
トレーニングルームで4人が最初に遊ぶことにしたのは、バッティングセンターである。
「1番、ファースト、明日葉」
「急にどうした晶?」
野球場のアナウンスを真似し始めた晶に対し、恭介はいきなりどうしたと訊いてみる。
「この方が感じ出ると思って」
「なるほどな。それで、俺がファーストの理由は?」
「恭介君、君がNo.1だ」
「そんな野菜の国のMっパゲ王子みたいに言わんでくれ」
晶はオフというところでボケに走るらしい。
恭介はツッコミを入れつつ、バッターボックスに立つ。
どれぐらいの速度から始めれば良いのかわからないので、とりあえずキリの良い時速100kmの球を選択した。
(あれ、遅く感じる?)
予想していたよりも遅く感じ、恭介はあっさりホームランを打ってしまった。
ホームランを祝う音楽が流れ、麗華がパチパチと拍手する。
「すごい! 最初からホームランだよ!」
「ありがとな。次は…、えっ、時速150km? なんで?」
トレーニングルームのピッチングマシンはパイロットに適切な球速を自動で選択してくれる。
時速100kmで余裕だとしてと、時速150kmが適切とはどういうことだと思いながら、恭介はバットを構える。
時速150kmでの1球目は当てるのがギリギリだった。
2球目はヒットで、3球目でホームランという結果に麗華達は驚く。
「恭介さん、プロになれちゃう?」
「流石にこれだけでは難しいと思います。守備も走りもあるんですから」
「代打限定ならあるいは」
時速150kmが最高速度だったので、恭介の挑戦はここで終わった。
麗華は時速120kmでライナーと呼ぶべき当たりを見せ、沙耶は時速110kmでゴロという結果だった。
晶の番だが、晶は時速120kmでホームラン、時速130kmではホームランは厳しいと判断して何故かバントをしてみせた。
「バッティングセンターでバントって良いのか?」
「チッチッチ。恭介君、可能性を自ら狭めるのは良くないよ」
「物は言いようだな」
晶のドヤ顔を見てやれやれと恭介は首を振った。
4人全員のチャレンジが終わると、今度はキックターゲットに移動する。
「恭介さん、狙った番号に当てて」
「投げるならともかく、蹴るのじゃできるかわからん。何番が良いんだ?」
「8番」
トレーニングルームのキックターゲットは縦3マス×横4マスだから、8番のマスは2段目の1番右のマスだ。
恭介は狙って蹴ってみたが、狙いが甘くて7番に当たった。
「難しいな」
「惜しい! 後もうちょっとで8番だったね! 次は私がやってみる!」
「麗華、リベンジで8番を狙ってみてくれ」
「了解!」
麗華も8番を狙って蹴ったが、高さが足りなくて12番のマスに命中した。
「うぅ、難しい」
「次は私の番ですね」
「サーヤ、8番に当てちゃって」
「狙ってみます」
沙耶が蹴った結果、11番のマスに当たった。
「フッ、真打ち登場だね」
「そこまで言うなら8番を当ててくれよ?」
「任せてよ。こう見えても僕は大学時代にフットサルサークルで宴会隊長って呼ばれてたんだから」
「賑やかし要員じゃねえか」
晶の大学時代の話を聞き、恭介はバッサリと切り捨てた。
自信満々だった晶は、力を入れ過ぎて蹴ったボールが4番のマスに当たった。
この展開は予想できたけれど、晶がなんて弁明するのか気になって恭介達は見守っていた。
「何か言ってよ。無言でじっと見られるぐらいならいっそ罵ってほしい」
「すごいな。流石宴会隊長だな」
「恭介君、さてはSだね?」
「よし、残ったマスを狙うぞ」
晶の発言をスルーし、恭介達は残ったマスを協力して当てていった。
結局、8番のマスは恭介が当てた。
キックターゲットが終わったら、恭介&麗華ペアVS沙耶&晶ペアでダブルスの卓球を行った。
気持ちの良い汗をかいたため、昼食前にそれぞれシャワーなり風呂に入ってから食堂で合流することになった。
恭介と麗華の場合、ここ最近は混浴が日常化してしまったため、今日も水着を着用して一緒に入っている。
最初は恭介にも抵抗があったけれど、もうお互いの背中を流し合うことに慣れてしまった。
慣れとは恐ろしいものである。
髪も体も洗った後、恭介と麗華は一緒に湯船に浸かる。
麗華は早々に恭介に体を預ける。
「恭介さんもこうやって体を預けても、びっくりしなくなったよね」
「そりゃ毎日くっつかれてるからな」
「ドキドキしてくれたら満点なんだけどね」
「そう言われても困る」
「そうだよね。これからも私がガンガン行くから覚悟してね」
恭介は父親の件もあり、自分から異性にモーションをかけようとするとブレーキが勝手にかかるから、麗華からガツガツ行かないと関係は進まない。
だからこそ、麗華はやる気満々なのだ。
「お手柔らかに頼む」
そう言って恭介は目を閉じた。
その瞬間、麗華は恭介の腕に抱きついて胸を押しつけた。
「麗華さんや、今日は攻めるじゃないか」
「バストアップ体操の効果を体感してもらおうと思って」
「コメントに困ることを言わないでくれ」
「これでもAからBになったんだからね!」
「おぉ、すごいな」
どう反応すれば良いのかわからず、恭介はとりあえず麗華を褒めた。
「目指せCカップだよ。貧乳なんて言わせないの! それにあの女にマウント取られるのはムカつく!」
どうやら麗華はフォルフォルに揶揄われ、かなり悔しかったようだ。
それに加え、恭介ガチ恋勢の明日奈に恭介を奪われたくないから、デスゲームに参加するまでは特に意識しなかった女としての魅力を上げるということもするようになった。
元々美人であり、モデル体型だった麗華が凹凸のある体になれば、目を奪われる者は増えるだろう。
恭介のためにそこまでするあたり、麗華はかなり本気である。
「俺はサイズを気にしてないんだけどな。麗華が気になるなら気の済むまでやってみると良い」
「うん。そ、それか、恭介さんが大き…、やっぱりなんでもない!」
「ん? 俺が大きい?」
「なんでもない!」
同じ言葉を繰り返したから、本当になんでもないのだろうと判断して恭介はそれ以上何も触れなかった。
ゆくゆくは麗華も恭介とドッキングしたいと思っているようだが、今はまだ恥ずかしさもあればその時ではないと判断したようだ。
恭介が先に風呂から出た後、フォルフォルが私室のモニターにとても良い笑みを浮かべて現れる。
『恭介君、恭介君』
「なんだよフォルフォル?」
『もしもの時が来たら言ってね。2,3時間だけ監視を止めるから。あっ、でも、いきなりお風呂で始められたら見ても不可抗力だよね』
「もしもの時とか関係なく監視を止めろよ」
恭介のツッコミは正論だった。
しかし、フォルフォルは肩をすくめて首を横に振る。
『それはできない相談だね。君達の恋路に私はとても注目してるんだ。それこそ、3期パイロットの成長度合いと同じぐらいね』
「もっと他のことに注目しろよ」
恭介のジト目にフォルフォルはまたしても首を横に振る。
『嫌だ。麗華ちゃんのバストアップ日記とか、見ててとっても笑顔になれるし』
「最低ね。塵になって散れば良いのに」
肌の手入れを終えて戻って来た麗華は、フォルフォルにゴキブリを見るような視線を向ける。
「麗華、食堂に行こう。沙耶達が待ってるかもしれない」
麗華の機嫌がこれ以上悪くなるのは困るので、恭介は麗華の手を握って食堂に移動した。
恭介から手を握ってくれることなんてほとんどないから、麗華はすぐに機嫌を良くした。
その後、昼食を4人で取り、午後は
幸運なことに、今日はクトゥルフ神話の侵略者達が襲撃して来なかったので、恭介達は久し振りに一度もゴーレムに乗らずに済んだのだった。
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