第163話 爆散して魚の餌になれば良いのに

 麗華を十分に甘やかした後、恭介は麗華と共に宝探しをするべくタワー前に移動した。


 完全に自業自得だが、フォルフォルは麗華の前に現れて罵倒されるのを覚悟して2人のモニターに姿を見せる。


『爆散して魚の餌になれば良いのに』


『辛辣辛辣ゥ!』


「煩い。フォルフォル、さっさと出て来た用件を言え」


『あっはい。誠に残念ながら、宝探しが地下10階層で一旦ストップだって伝えに来たんだ』


 麗華に余計なことを言ったため、恭介が自分を擁護してくれる可能性はないとわかっていたから、フォルフォルはおとなしくモニターに出て来た用件を伝えた。


「宝探しはタワー探索やレースと同じで、代理戦争と新人戦が終わる度にコンテンツが増える認識で良いのか?」


『それについては検討中だよ。クトゥルフ神話の侵略者達が本格的に襲撃を仕掛けて来ることも考えて、恭介君達が瑞穂にいない時間を減らす方針なんだ。どうなるかは今後次第だと思ってほしい』


「…そうか。用件はそれだけか? それならもう宝探しに挑む」


『いってらっしゃーい』


 長話をしたら嫌がられるだろうと判断し、フォルフォルはモニターから姿を消した。


 フォルフォルのお知らせが終わってすぐに恭介はドラグレン、麗華はブリュンヒルデを操縦してタワーの地下10階層にやって来た。


 地下10階層は巨大な地下闘技場であり、昇降機から降りた瞬間に恭介達の耳にアナウンスが届く。


『ミッション! 1時間以内にネクロポットを手に入れろ!』


 GBOにおいて、ネクロポットとはデーモンがアークデーモンではなく、デーモンネクロマンサーに進化するための壺だ。


 誰かが死ぬか再起不能な状態になった際に生じる負の感情が集まり、それが溜め込まれて満タンになった時に出現するのがネクロポットである。


 地下闘技場には数えるのが面倒なぐらいデーモンがおり、恭介達が地下10階層に来た時にはどのデーモンも臨戦態勢だった。


 ミッションが恭介と麗華の耳に届いた瞬間、デーモン達は一斉に配下のモンスターを自分の傍に召喚する。


 それらが召喚したのは11~14階層の雑魚モブではなく、オーカスとミミック、ウィードラン、ツインヘッドオーガという各階層のレアモンスターだ。


「麗華、とりあえず蹂躙するぞ」


『了解!』


 恭介が麗華に指示を出すのを聞き、実はフォルフォルがひょっこりとモニターに現れて口をぽかんと開けていた。


 蹂躙というワードはとりあえずというワードとセットで使うものではないからである。


 そんなフォルフォルの驚きなんて放置して、恭介は左側で麗華が右側からサクサクとモンスターを片付けていく。


 恭介は蛇腹剣に変えたファルスピースを使い、麗華はマシンガンに変えたジャバウォックを使うから、5分もかからずに地下10階層の掃除が終わってしまった。


 これはミッションの進行においてイレギュラーであり、そういった場合にはネクロポットが出現する前に特別なモンスターが召喚されるように設定されていた。


 そして、恭介達はそのイレギュラーな状態を引き起こしたため、2人の前にスケリトルドラゴンが2体現れた。


 以前スケリトルドラゴンと戦った時は、恭介が操縦していたリュージュが機械竜形態になったのを見て、リュージュに夢中になったスケリトルドラゴンが腰をカクカクさせながらリュージュを追いかけた。


 しかし、ドラグレンは機械竜形態に変形できないゴーレムであり、あくまで竜人形態のみだからそんなことにはならなかった。


 2体のスケリトルドラゴンはドラグレンとブリュンヒルデを捕捉し、別々に無属性のブレスを吐き始める。


 (ブレスを吐いてようやくドラゴン扱いできるってもんだ)


 そんな感想を胸に抱きつつ、恭介はブレスを躱して戦槌ウォーハンマーに変えたファルスピースを振りかぶり、ブレスを吐いて隙ができたスケリトルドラゴンに接近した。


 接近されたスケリトルドラゴンはブレスの軌道を変え、ドラグレンを撃ち落とそうとしたがブレスのような大技に細かいコントロールは向いておらず、恭介の振り下ろしが頭部に命中して砕ける。


 頭部が砕けても、コアがドラゴンにおける逆鱗の裏にあるコアが傷ついておらず、スケリトルドラゴンは倒れずにいた。


 前回、麗華が金力変換マネーイズパワーで強化した一撃で倒した際は、射線上にコアがあったことにより一撃で倒せたのだ。


 麗華はそれを覚えていたから、ガトリングガンに変えたジャバウォックと四対の翼の銃でコアを狙っていたのだが、麗華と対峙する個体は守りが堅くてなかなかコアに攻撃が当たらない。


 (大きな隙を作らせてもらおう)


 自分が対峙する個体には頭部がないから、ドラグレンを感知してもブレスでは攻撃できず、尻尾の振り払いや爪での攻撃しかできない。


 その動きはいずれも大振りだから、恭介はその攻撃を引き出すように接近してみる。


 恭介の作戦が成功し、頭を失ったスケリトルドラゴンが尻尾を振り回してドラグレンを叩き落とそうとした。


 スケリトルドラゴンの動きはそこまで速くないから、恭介は華麗に尻尾の振り払いを躱して接近し、ファルスピースでぶん殴ってもう片方のスケリトルドラゴンにぶつけた。


 巨体同士がぶつかり、バランスを崩して両方とも地面に倒れた。


『私だって役に立つんだから!』


 ジャバウォックをビームライフルに変形させてから、四対の翼の銃と一緒にビームを放つ。


 それにより、コアを守っていた骨の破壊に成功した。


「狙い撃つぜ」


 下に敷かれている方の個体のコアに照準を定め、恭介はビームライフルに変形させたファルスピースで狙撃してみせた。


 その直後に麗華も残った個体が立ち上がる前に狙撃し、コアを完全に破壊した。


 どちらのスケリトルドラゴンも力尽きて光になって消え、モンスターが1体もいなくなった地下10階にネクロポットが出現する。


 ドス黒い壺から煙が空に昇っており、その煙がランプの魔神のような姿になっていく。


「『邪魔』」


 恭介と麗華がビームの集中砲火で煙で形成された守護者を散らしてしまえば、ネクロポットはぽつんと地面の上に置かれたまま何も起きなくなった。


 ネクロポットを守る者も消えたため、恭介がそれを回収したことによって宝探しのミッションをクリアした扱いになり、宝探しスコアが恭介達の見るモニターに表示された。



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宝探しスコア(マルチプレイ)

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ミッション:1時間以内にネクロポットを手に入れろ

残り時間:43分46秒

協調性:◎

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総合評価:S

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報酬:50万ゴールド

   資源カード(食料)100×5枚

   資源カード(素材)100×5枚

ランダムボーナス:武器合成キット

レアモンスターキルボーナス:魔石4種セット×100

ギフト:黄竜人機ドラキオンLv30(stay)

コメント:レアモンスターを2体倒した分ボーナスも2倍だよ

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 (魔石4種セットが普段の倍貰えたのか。地味にありがたいな)


 今では火属性のドラグレンと水属性のナグルファル、風属性のタラリアでそれぞれの属性の魔石を消費するから、魔石はいくらあっても困らない。


 強いて言うならば、ドラキオンが消費しない土属性の魔石は余るけれど、沙耶が確保できなかった時に融通すれば良い話だ。


『私、設計図合成キットを手に入れたよ。恭介さんはどうだった?』


「俺は武器合成キットだ。ナグルファルとタラリアに合成できる設計図は残念ながら貰えなかった」


『今思えば贅沢な話だよね。設計図合成キットや武器合成キットがこんなにポンポン手に入るなんて』


「それな。GBO時代じゃ考えられない」


 GBOをプレイしていた時は、どちらのキットも簡単には手に入らないアイテムだったため、恭介も麗華も自分達がぜいたくになったものだと感じた。


 それはそれとして、そろそろ昼食を取るのに丁度良い時間になったことに気づき、恭介達はタワーから脱出して瑞穂に戻った。

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