第157話 その程度でドラキオンを追い詰められると思うなよ

 恭介達が瑞穂に来てから36日目、恭介は朝食を取り終えてからドラグレンに乗ってレース会場にやって来た。


「やっとレースができる」


『一昨日と昨日は朝から侵略者との戦闘だったもんね。今日はブリザードルインズに挑むのかい?』


「その通りだ。入場門を開いてくれ」


『はーい』


 フォルフォルは余計な言葉を口にせず、恭介に言われた通りに入場門を開いた。


 入場門を通った先には、吹雪で視界の悪い廃墟街と呼ぶべきブリザードルインズがあった。


 いつも通り、恭介がコースに来た時には既に7機の黒金剛アダマンタイト製のゴーレムが位置に着いている。


 1位の位置には土属性のレオンロック。


 パンクなデザインでドラムセットを叩くパーツごとに衛星のように飛ばしているのが特徴的で、獅子形態に変形可能なゴーレムだ。


 2位の位置には風属性のイーグルノクターン。


 紳士的なデザインでヴァイオリン型ビームランチャーを装備しているのが特徴的であり、鷲形態に変形できるゴーレムである。


 3位の位置には火属性のイグニスオペラ。


 シンガーのようなデザインでマイク型ロッドを装備しており、変形能力がない代わりに腰には折り畳み式のレールガンがある。


 4位の位置には水属性のクルーエルラプソディ。


 イーグルノクターンよりも砕けたデザインで、キーボード型ガトリングガンを装備しているゴーレムだ。


 5位の位置には土属性のロイヤルガード。


 一見、片手剣と盾を持った騎士型ゴーレムなのだが、剣と盾が周囲から金属を引き寄せて纏わせたまま攻撃や防御に使える力を持つ。


 6位の位置には風属性のベルセルク。


 2本の大剣を背負った戦士型ゴーレムであり、両手に大剣を装備して暴れ回る姿を狂戦士だと誰かが言ってからそのような名称で呼ばれるようになった。


 7位の位置には火属性のテスタメント。


 遠距離重視で実弾とビームを切り替えられる銃を装備しており、状況に応じて使い分けられる遠距離戦を得意とするパイロット向けのゴーレムだ。


 8位の位置に恭介のドラグレンが着いた瞬間、レース開始のカウントダウンが始まる。


『3,2,1』


「ギフト発動」


 恭介がギフトの発動を宣言し、彼はドラグレンのコックピットからドラキオンのコックピットの中に移った。


『GO!』


 吹雪の中のスタートだけれど、恭介はいつも通りにスタートダッシュを決めて1位に浮上した。


 ドラキオンが1位になったことで、それ以外のゴーレムはレース早々に1つ順位が下がっている。


 6位以下は混戦であり、ガンガン武器を使って少しでも高い順位を狙っている。


 4位のイグニスオペラと5位のクルーエルラプソディは、クルーエルラプソディが4位になろうと果敢に攻めるがイグニスオペラが逃げながら迎撃している。


 イグニスオペラがロッドが後ろ向きに火の球を放てば、クルーエルラプソディがガトリングガンから水属性の弾丸を乱射してそれを消す。


 そう考えると、恭介がゴーレムで注意すべきは2位のレオンロックと3位のイーグルノクターンだけだ。


 いずれも今は獅子と鷲に変形しており、吹雪の中ドラキオンを追いかけている。


 恭介は後ろから攻撃が飛んで来ないので、モニター上のセンサーと映像に集中する。


 (ん? 何かいたな)


 一瞬だけ吹雪の中で何かが光ったことに気づき、恭介はドラキオンをの位置をずらした。


 その直後に光が見えた場所から、先程までドラキオンがいた位置を狙ってビームが飛んで来た。


 ビームの正体だが、ブリザードルインズがかつて要塞都市だった頃の迎撃システムだ。


 熱源に反応してビームで狙撃する仕組みであり、一定の間隔で狙いを定めてビームを放つのである。


 ギミックは当然それだけではなく、ドラキオンが通過した直後に地面が爆発した。


 これはブリザードルインズに埋められた地雷であり、ある程度の高度までを上限として、その上を何かが通った瞬間に爆発するようになっているのだ。


 爆発によって雪が吹き飛び、それがコースの上に積もれば陸を走るゴーレムにとっては邪魔でしかない。


 迎撃システムと地雷を躱して先に進んだ所で、雪を巻き込んだ竜巻がドラキオンに向かって接近して来る。


 正面衝突する訳にはいかないから、恭介は竜巻を迂回するようにドラキオンを操縦した。


 当然、どのゴーレムもそう判断するだろうから、このタイミングで迎撃システムが一斉掃射を始めてゴーレムを竜巻に追いやろうとする。


 (その程度でドラキオンを追い詰められると思うなよ)


 恭介は全てのビームを的確に躱し、竜巻の影響を受けないルートを進んで竜巻をやり過ごした。


 2周目に突入し、ブリザードルインズに狼の群れが放たれる。


 その狼はシルバーウルフと呼ばれるモンスターであり、群れのリーダーが統率して吹雪の中でチームワークの取れた狩りを得意とする。


 しかし、シルバーウルフは空を飛べないし、空を飛ぶゴーレムに対する攻撃手段は風の砲弾を口から吐き出すのみだ。


 吹雪の勢いが強くなり、生半可な出力では空を飛ぶのが危険な状態だが、ドラキオンならば問題ない。


 ちなみに、シルバーウルフは賢いので迎撃システムの射程圏内や地雷の上に獲物を誘導しようとする。


 地上を進むゴーレムでは、2周目はかなり難易度が上がると言えよう。


「アォォォォォン!」


「「「…「「アォォォォォン!」」…」」」


 群れのリーダーが遠吠えした後、配下のシルバーウルフ達が吠える。


 これは雪崩の前兆なのだ。


 元々、ブリザードルインズは山の中の集落であり、シルバーウルフの咆哮で山の上の方に積もった雪が下にある集落に落ちるようにしたのである。


 視界の利かない中、雪崩が押し寄せて来るというプレッシャーも加われば、注意力が低下して迎撃システムや地雷に引っ掛かってしまう者も出て来る。


 実際、2周目の残り4分の1の地点でテスタメントとベルセルク、ロイヤルガードが走行不能な姿で雪を被っているのを恭介は目撃している。


 竜巻をやり過ごした際、恭介はイグニスオペラとクルーエルラプソディが竜巻に巻き込まれてコースを強制的に逆走させられているのも見つけた。


 (視界が悪くなきゃ、こんなことにはならないだろうにな)


 イグニスオペラとクルーエルラプソディの機体スペックは、セラフにも引けを取らないのだが、パイロットがこの環境に対応できなかったせいでドラキオンに周回遅れにされてしまった訳だ。


 恭介が3周目に突入すると、ブリザードルインズにデンジャラスドック同様に警備用ゴーレムが出現する。


 その名はロストガーディアンであり、廃墟街となったブリザードルインズに置き去りにされた無人型ゴーレムだった。


 ただし、ロストガーディアンの機体スペックはせいぜいドミニオン程度で空を飛べないから、単機での勝負ならブリザードルインズに挑めるゴーレムならば負けることはない。


 そうだとしても、吹雪によって狭まる視界と迎撃システム、地雷、シルバーウルフの群れが組み合わされば格落ちの機体だって十分脅威だ。


 これら全ての要素が揃って初めて恭介は背筋がひやりとした。


 (あっ、レオンロックがやられてる)


 3周目も終盤に差し掛かる地点で、レオンロックがビームによって撃ち抜かれていた。


 その少し先では、鷲形態のイーグルノクターンが必死に迎撃システムとロストガーディアンの銃撃を躱しているようだった。


 恭介はトップスピードを維持し、あちこちから銃撃されているイーグルノクターンを追い越すと、迎撃システムのヘイトを掻っ攫ってしまった。


 それにより、恭介は迎撃システムと竜巻、シルバーウルフの群れを注意しなくてはいけなくなった。


 (土精霊槌ノームハンマーの出番だな)


 どれか1つの要素が消えれば余裕なので、恭介は解禁された土精霊槌ノームハンマーで竜巻を攻撃した。


 黄金に輝く巨大な槌が竜巻を押し潰し、恭介は拓けたルートを突き進んでそのままゴールした。


『ゴォォォル! 優勝は瑞穂の黄色い弾丸、トゥモロー&ドラキオンだぁぁぁぁぁ!』


 こんな所に長居はしたくないから、恭介はさっさとレース会場前に移動して黄竜人機ドラキオンをキャンセルした。


 ドラグレンのコックピットに戻るのと同時に、レーススコアがモニターに表示されたのでそれを確認する。



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レーススコア(ソロプレイ・ブリザードルインズ)

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走行タイム:41分22秒

障害物接触数:0回

モンスター接触数:0回

攻撃回数:1回

他パイロット周回遅れ人数:7人

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総合評価:S

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報酬:資源カード(食料)100×5枚

   資源カード(素材)100×5枚

   50万ゴールド

非殺生ボーナス:魔石4種セット×50

ぶっちぎりボーナス:拒絶盾リジェクトシールド

デイリークエストボーナス:魔石4種セット×50

ギフト:黄竜人機ドラキオンLv30(stay)

コメント:竜巻を潰すとか常識を何処に置いて来たのかな?

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「常識に囚われてたら良い結果は出せない」


『常識に囚われてたら良い結果は出せない。またまた名言いただきましたぁ!』


 恭介が黙れと言おうとした時には、既にフォルフォルがモニターから消えていた。


 溜息をついた後、わざわざ呼び出して物申すのも面倒だから恭介は瑞穂に戻った。

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