第154話 素数は1と自分の数でしか割ることのできない孤独な数字…

 恭介達が瑞穂に来てから35日目、朝食後の食休みを経てそろそろ各ペアが自分達のデイリークエストに挑もうとした時、モニターにラミアスが現れた。


『総員、第一種戦闘配備。繰り返します。総員、第一種戦闘配備。侵略者が現れました』


「ラミアス、敵はショゴスか? それとも他にもいるか?」


『C001ショゴス以外にも接近しております。瑞穂のデータによれば、C002ナイトゴーントです』


「1種類じゃなくて2種類の下っ端か。すぐに向かう」


 ラミアスからの情報を聞いてから、恭介達は格納庫にある自分達のゴーレムに搭乗する。


 恭介がドラグレンをカタパルトまで移動させると、ラミアスの声がコックピット内に響く。


『進路クリア。ドラグレン、発進どうぞ!』


「明日葉恭介、ドラグレン、出るぞ!」


 カタパルトから射出され、ドラグレンが瑞穂の外の宇宙空間に飛び出してから麗華達が続く。


『更科麗華、ブリュンヒルデ、出るわよ!』


『筧沙耶、デルピュネ、発進します!』


『尾根晶、アイトワラス、行きまーす!』


 ブリュンヒルデとデルピュネ、アイトワラスも宇宙空間に飛び出し、恭介のドラグレンの後ろに続く。


 侵略者との戦闘に備え、沙耶と晶は各自のゴーレムを構成する鉱物マテリアルを黒金剛アダマンタイトに変えている。


 これにより、日本の1期と2期パイロットは全員が黒金剛アダマンタイト製のゴーレムに乗っていることになる。


 もっとも、デルピュネやアイトワラスではまだまだドラグレンやブリュンヒルデにスペックで差をつけられているため、沙耶と晶には現状に満足してもらっては困るのだが。


 恭介達の前方には、灰緑色のショゴスの集団が昨日の倍以上集まっていた。


『『『…『『テケリ・リ!』』…』』』


『頭に声が直接響くだなんて気持ち悪いです』


『ただ呼吸を続ければ良い』


「さっさと倒すぞ。属性を得た個体が現れたら弱点属性で攻める。まずは俺からだ」


 沙耶と晶が初陣だから負担を最小限にしたいので、恭介は蛇腹剣形態のファルスピースを横薙ぎし、最前列のショゴスを一刀両断して倒した。


 その直後に後ろにいたショゴス達が倒された個体を捕食する。


 これで前に出て来たショゴスが火属性になったため、水属性のアイトワラスに乗る晶が攻撃を仕掛ける番だ。


 合成銃キメラガンで攻撃していけば、火属性にとって弱点の水属性の攻撃でショゴス達は動かなくなる。


 3列目にいたショゴス達が倒された個体を喰らい、今度は水属性になった。


 そのタイミングでショゴス達の後ろから、蝙蝠の翼を背中から生やして鯨の皮膚と牛の頭部を持つ人型生命体の群れが現れる。


『『『…『『ヨォォォォォ!』』…』』』


 (ナイトゴーントも頭に直接声を響かせるタイプか。嫌な共通点だ)


 ショゴスだけでなく、ナイトゴーントも同じ特徴を持つと知って恭介は嫌な予感がした。


「みんな、気をしっかり持て」


『大丈夫』


『段々と頭が痛くなって来ました』


『素数は1と自分の数でしか割ることのできない孤独な数字…。僕に勇気を与えてくれる。2…3…5…7…』


「さっきから晶はどうした? ボケる余裕があるのかおかしくなってるのかわからんぞ」


 晶の発言が先程から微妙に晶らしくないため、恭介は晶のことが心配になって来た。


 沙耶もじわじわと不味い状況に追い込まれているが、彼女の場合は危機感を口にしてくれる分だけマシである。


「ナイトゴーントは俺に任せろ」


『恭介さん、私も半分手伝う!』


「頼んだ」


 ショゴス達を追い越してナイトゴーントが接近して来たから、恭介と麗華が手分けしてナイトゴーント達を倒していく。


 ショゴス達だけなら何とかなると思い、沙耶が鶏蛇斧槍コッカベルテで着実に水属性になった奴から順番に倒した。


 そこに猛スピードで鳥型生命体が姿を現し、倒れたショゴス達を一気に吸い込んでからこの場を離脱した。


「ラミアス、乱入して来たのはなんだ?」


『C003シャンタク鳥です。ショゴスを喰らってパワーアップするのが狙いだったようです』


「ナイトゴーントが苦手って話は本当だったのか。それはそれとして逃がさん!」


 ラミアスの説明を聞いて頷いた後、恭介はコックピット下からビームを放って逃げるシャンタクの翼を撃ち抜いた。


『シャアン!?』


「ここがお前の墓場だ」


 一対の翼の銃からビームを連射し、シャンタク鳥の体が穴だらけになった。


 シャンタク鳥を倒したところで敵はもういなくなったと思ったが、そこにナイトゴーントの群れがやって来た。


 敵が弱ければナイトゴーントの群れがダメ押しする作戦だったのだが、恭介達が敵を全て倒してしまったせいでただの後続の敵扱いである。


「ナイトゴーント達を倒せば他にはいなさそうだ。もうひと踏ん張りだ」


『うん!』


『頑張りましょう』


『落ち着くんだ…。素数を数えて落ち着くんだ…』


 (晶が結構ヤバそうだな。急がねば)


 晶の応答がかなり怪しいので、恭介達は後続のナイトゴーントを速やかに倒してから瑞穂に帰艦した。


 ドラグレンがアイトワラスを掴み、ブリュンヒルデがデルピュネに肩を貸す形での帰艦である。


 着艦と同時に4人のゴーレムのコックピットにスコアが表示される。



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バトルスコア(VSクトゥルフ神話)

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出動時間:24分19秒

撃破数:ショゴス18体

    ナイトゴーント22体

    シャンタク鳥1体

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総合評価:S

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報酬:資源カード(食料)100×6枚

   資源カード(素材)100×6枚

   60万ゴールド

ファーストキルボーナス:スケープゴートチケット

            パイモンの設計図

ノーダメージボーナス:魔石4種セット×50

ギフト:黄竜人機ドラキオンLv29(stay)

コメント:相変わらず良い引きしてるよね

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 (スケープゴートチケットが加わったのはありがたい。パイモンはどうしたものか)


 そんな風に思っていたけれど、沙耶と晶の様子が心配だったから恭介は格納庫に戻ってすぐに麗華と共に沙耶達の安否確認を行った。


「沙耶と晶は大丈夫か?」


「コックピットから出られますか?」


「…ギリギリ大丈夫です」


 沙耶はゆっくりとだがコックピットから出て来たが、晶の反応がなくて恭介達はより一層心配する。


 晶は沙耶よりも時間をかけてコックピットから出て来たが、目は虚ろで何かブツブツ言っていた。


「11…13…17…19…23…28…。いや…違う29だ」


「落ち着け」


「へぶしっ」


 恭介が晶の脳天にチョップしたことにより、晶の目にハイライトが戻って意識が覚醒したようだ。


「正気に戻れたか?」


「あれ? ここは瑞穂のコックピット? なんとか戻って来れたんだね。助けてくれてありがとう」


「やっぱり正気じゃなかったのかよ。連れて帰って来れて良かったぜ」


「あぁ、ごめん。僕が足を引っ張っちゃったみたいだね」


 晶は自分の精神がかなり不味い状況だったため、自分を無事に瑞穂まで連れ帰ってくれた恭介に感謝した。


 沙耶は同じ2期パイロットとして晶を心配していて晶に近づこうとしたのだが、バランスを崩して恭介にぶつかった。


「沙耶もかなり疲れてるらしいな。しっかりと休め」


「わかりました」


 自分も自分で晶を心配できる立場ではなかったとわかり、沙耶もおとなしく休むことにした。


 沙耶が自分だけで立てると恭介から離れると、麗華が恭介に近づいてその頭を恭介の胸に埋める。


「麗華、どうした?」


「私のことも構ってくれなきゃ嫌」


『おやおや、麗華ちゃんは甘えん坊だね』


 恭介に甘える麗華を見て、フォルフォルが格納庫のモニターにニヤニヤした状態で姿を現した。


 麗華がフォルフォルに文句を言うよりも先に、恭介がフォルフォルに訊ねる。


「フォルフォル、俺と麗華が耐えられて沙耶と晶がしんどくなった理由はわかるか?」


『勿論わかるよ。2期パイロットの2人はギフトレベルも低ければ、場数も足りてないのさ。恭介君と麗華ちゃんは5連戦でコロシアムに参戦したり、タワーを一気に5階層上まで上がるでしょ? そのおかげで恭介君達はギフトレベルが上がり、精神的にも肉体的にも強くなったんだ』


「ということは、下っ端程度との戦いで負けないように沙耶と晶にコンテンツをもっとクリアさせないといけないな」


『そうだね。もっと頑張って恭介君達に追いついてね。それじゃ』


 フォルフォルがモニターから姿を消してから、沙耶は溜息をついた。


「晶さん、じっくりと休んでから頑張りましょう」


「そうだね。いつまでもおんぶに抱っこじゃ不味いもんね」


 沙耶と晶は正気に戻っていたので、念のため午前は休んで午後から再開予定だ。


 恭介と麗華は昼食までまだ時間があったから、それぞれドラグレンとブリュンヒルデに乗り込んでタワーへと向かった。

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