第153話 ビームを斬れるなら斬ってみろ

 恭介が瑞穂に戻ってゴーレムの調整を終えた時には、晶が瑞穂のクルーとして着任していた。


 3期パイロットのメンターの任を終え、フォルフォルから元々のホームを拠点にするか瑞穂を拠点にするか質問され、迷うことなく後者を選んだらしい。


「そりゃ、瑞穂の方があらゆる設備において充実してるからね」


「じゃあ、俺と麗華が払った分だけ活躍してもらわないとな」


「身を粉にして働くよ…」


 コツコツとアップデート無料チケットを手に入れ、今の状態までアップデートして来たのだから、恭介はそこに無賃乗艦させるつもりはない。


 晶も設備の充実度合から、そんな美味しい話がないよねと頷いた。


 沙耶と晶は私室をver.5までアップデートしており、恭介と麗華の私室に比べれば格は落ちるがそこそこ寛げる空間を持っているのは幸いと言えよう。


 昼食後、恭介と麗華、晶と沙耶のペアに分かれて行動することにした。


 恭介達は各々のゴーレムに乗り込み、タワーに移動してから地下8階層に向かう。


 地下8階層は道場と呼ぶべき内装だった。


 昇降機から出た瞬間、恭介と麗華の耳にアナウンスが届く。


『ミッション! 1時間以内にオーガを狂わす大剣を破壊せよ!』


 オーガを狂わす大剣とあるが、ターゲットは正確にはエネミーブッチャーと呼ばれる首切り包丁のことだ。


 これはGBOにおいてオーガが手にすることで狂暴化し、敵味方問わずミンチにしようとする武器である。


 モニターに映る説明によれば、地下8階層に集まるオーガ達はバトルロイヤルを行い、力で同族支配するべくエネミーブッチャーを求めるようだ。


「さて、ドラグレンの性能を試させてもらうぞ」


『ドラキオンレベルのスペックだもんね。良いなぁ』


「こればっかりはアイテムを手に入れる運の要素も絡むからな」


『私も恭介さん並にリアルラックが高くなりたい』


 そんな話をしつつ、恭介は早速手前のオーガから順番に蛇腹剣にしたファルスピースで薙ぎ払っていく。


 ドラグレンはリュージュにリミットブレイクキットを使って完成したゴーレムであり、リュージュと違って機械竜形態には変形できない竜人型ゴーレムだ。


 リュージュは機械竜形態の時に口からビームを放てたが、ドラグレンはコックピット下からリュージュの時よりも強力なビームを放てるようになった。


 更に言えば、一対の翼には銃が仕込まれており、本体に接続した状態だけでなく分離させて遠隔操作することも可能である。


 スピードの面ではリュージュよりもドラグレンの方が僅かに速いけれど、それでもドラキオンには敵わない。


 速さという観点でドラキオンを超えるゴーレムは今のところGBOには存在しないので、黄竜人機ドラキオンをデスゲームに巻き込まれて早々に会得した恭介は本当にラッキーなのだろう。


 昇降機前にやって来たオーガの集団をサクッと倒してから、恭介達は通路の先に進む。


 通路に数体いたオーガについても、恭介が銃に変えたファルスピースでちゃっちゃと倒してしまうから、まだ麗華に出番が来ない。


『恭介さん、そろそろ私に出番が欲しいかな』


「すまん。ドラグレンに乗ってちょっとはしゃいじゃった」


『その気持ちはわかるけどね』


 麗華は広間に到着したところで話を止め、今まで戦えなかった分だけ切替竜銃スイッチドラガンと四対の翼の銃でどんどんオーガを撃ち抜いていく。


 はっきり言って、ドラグレンとブリュンヒルデが揃ってしまえばオーガなんていくら揃っても全然歯が立たないのである。


 広間にいる最後のオーガを倒した瞬間、その場に魔法陣が現れてそこからアルゴスが現れた。


「『邪魔!』」


 アルゴスに何もさせたくないと思ったから、恭介と麗華はそれぞれの武器と翼の銃でアルゴスに一斉攻撃を行ってあっさりと倒してしまった。


『時間調整役のレアモンスターを瞬殺しないでよ』


「そんなの知るかよ」


『そうよ。弱いからいけないの』


『ぐぬぬ、次の階層ではテコ入れが必要なようだね』


 地下8階層を設計した時にはレアモンスターのアルゴスがいれば、少なくとも5分以上足止めできるとフォルフォルは考えていた。


 ところが、実際は倒すまでに1分もかかっていないので、これにはテコ入れの必要性があるとフォルフォルが思うのも仕方のないことである。


 アルゴスを倒したことで手に入ったドロップアイテムがコックピット内のサイドポケットに転送され、それを確認してから恭介達は先に進む。


 通路にいるオーガなんて大したことないから、サクサクと倒して次の広間に移動した。


 その広間は今までの広間の3倍近く広く、オーガが大量に集結していた。


 中央部にはターゲットのエネミーブッチャーが刺さっており、オーガ達がそれを奪い合うべく乱闘を行っている。


「左半分は俺がやるから、麗華は右半分を頼む」


『了解』


 恭介と麗華は手短に打ち合わせを済ませ、それぞれが担当する領域のオーガを倒して回る。


 その途中でエネミーブッチャーを手にしたオーガが現れ、恭介達とは別にオーガをバッサバッサと斬り捨てていく。


 オーガの血を浴びてエネミーブッチャーが怪しく光を放ち始める。


 (敵を倒した分だけエネミーブッチャーの強度が上がるとかありそう)


 そう判断した恭介は蛇腹剣にしたファルスピースでノルマを片付け、エネミーブッチャーを振り回すオーガに接近する。


「ウォォォォォォォォォォ!」


「ビームを斬れるなら斬ってみろ」


 ドラグレンがコックピット下から強力なビームを放つと、エネミーブッチャーを振り回すオーガは自分が斬ったもののまだ息のあるオーガを蹴り上げ、それを肉壁にした。


 そうだとしても、ドラグレンのビームの威力はオーガの体を貫通し、エネミーブッチャーを握るオーガはそれを盾にした。


 オーガ達の血を浴びて強化されたことに加え、僅かばかりでも手負いのオーガを肉壁にしたことで威力が減衰し、ドラグレンのビームでもエネミーブッチャーに蜘蛛の巣状の罅を入れるに留まった。


『私の出番だね。ギフト発動』


 麗華は10万ゴールドをコストに金力変換マネーイズパワーを発動し、切替竜銃スイッチドラガンから強烈な一撃を放った。


 その結果、ドラグレンのビームでボロボロになっていたエネミーブッチャーが粉々に破壊され、エネミーブッチャーの後ろにいたオーガもビームに胴体を貫通されて力尽きた。



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宝探しスコア(マルチプレイ)

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ミッション:1時間以内にオーガを狂わす大剣を破壊せよ

残り時間:42分54秒

協調性:◎

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総合評価:S

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報酬:50万ゴールド

   資源カード(食料)100×5枚

   資源カード(素材)100×5枚

ランダムボーナス:アップデート無料チケット(待機室パイロットルーム

レアモンスターキルボーナス:魔石4種セット×50

デイリークエストボーナス:黒金剛アダマンタイト50個

ギフト:黄竜人機ドラキオンLv29(stay)

コメント:ドラグレンとブリュンヒルデのタッグが強過ぎたね

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 モニターに現れたフォルフォルは眉間に皺を寄せていた。


 ドラグレンだけ、あるいはブリュンヒルデだけでも十分に地下8階層のミッションはクリアできたと理解しているらしく、地下9階層はもっと難しくせねばと思っているようだ。


「俺の方は待機室パイロットルームのアップデート無料チケットが手に入ったぞ。麗華はどうだ?」


『私は私室のアップデート無料チケットだったよ。それとさっきの攻撃でギフトがLv19になったわ』


「おめでとう。帰って早速アップデートしないとな」


『うん』


 タワーを脱出して恭介達は瑞穂に戻った。


 すぐに待機室パイロットルームに移動し、2枚のアップデート無料チケットを使って待機室パイロットルームと恭介達の私室をアップデートした。


 待機室パイロットルームはver.7からver.8に変わり、恭介達の私室はver.9からver.10に変わった。


 アップデートの結果、待機室パイロットルームではショップチャンネルの拡充とネット検索が可能になり、恭介達の私室ではどんなに疲れていてもベッドで寝ることで翌朝には万全の状態で目覚められるようになった。


 ゴーレムの強化も大事だけれど、それと同じぐらい設備のアップデートも重要なので恭介も麗華も今日の宝探しの結果に満足できた。

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