第152話 一発だけなら誤射かもしれない

 レース会場に到着したところで、フォルフォルがコックピット内のモニターに姿を現して恭介に声をかける。


『恭介君、ショゴスと戦った後なのによくレースをやる気になるよね』


「問題ない。それよりも質問がある。ミラージュデザートとデンジャラスドックって連続でレースできる?」


『できるけど正気?』


「せめて本気と訊けよ。あの程度のコースなら難易度が上がっても連続で挑める自信がある」


 恭介の自信は決して過信ではない。


 新人戦のレースを見て、シミュレーターでテスト走行もした上で自分ならできると判断したのだ。


『わかった。それじゃあ、ミラージュデザートでゴールしたらスコア発表をスキップしてデンジャラスドックに転送するね』


「よろしく」


 フォルフォルが入場門を開いたので、恭介はリュージュを操縦してその中に入った。


 ミラージュデザートでは自分以外のゴーレムが木目鋼ダマスカス製になった状態でスタート位置に待機しており、恭介も5位の位置に着いた。


『3,2,1』


「ギフト発動」


 カウントダウンが0になる前に恭介はギフトの発動を宣言し、それによってリュージュのコックピットからドラキオンのコックピットの中に移った。


『GO!』


 レース開始直後、新人戦の時と同じくアンダーテイカーが電鋸一閃ジェイソンスラッシュを発動し、アンダーテイカーの周囲を巨大なチェーンソーがぐるりと1周した。


 その結果、2位のモノティガーと4位のエンジェルの上半身と下半身が真っ二つにされ、そのまま爆発した。


 恭介は斜め上に向かってスタートダッシュを成功させていたため、後ろで敵が勝手に数を減らしてくれたぐらいにしか思っていなかった。


 ミラージュデザートではレーダーによる情報が何よりも大事であり、恭介は幻影に惑わされずすいすい進んで行く。


 地上にある障害物が幻影によって消えていたり、逆にありもしない障害物の幻影があろうとも空を飛んでいる恭介にとっては何も関係ないのだ。


 デザートスコーピオンに加え、デザートワームもレースに参加するゴーレムを邪魔しようと飛び出すが、恭介のドラキオンは全てを置き去りにする。


 レース参加者の誰かが2周目に突入すれば、ミラージュデザートのギミックが解除される。


 難易度が下がったため、恭介は3周目に突入するまでにはキュクロとアンダーテイカーを抜き去っていた。


 3周目は再びギミックが作動し、カメラを含む視覚が当てにならなくなる。


 それだけでなく、ショゴスの幻影とテケリ・リという音がパイロット達の視覚と聴覚を試して来る。


「それは駄目だろ」


『戦場とは非情なんだよ。これは恭介君にとっての訓練でもあるのさ』


「だったらさっさとゴールしてやる」


 2周目に最短ルートを覚えていたこともあり、恭介は幻影にも邪魔をするモンスターの妨害をものともせずあっさりとゴールした。


『ゴォォォル! 優勝は瑞穂の黄色い弾丸、トゥモロー&ドラキオンだぁぁぁぁぁ! 次行くよぉぉぉぉぉ!』


 フォルフォルのアナウンスが終わった瞬間、ドラキオンはミラージュデザートからデンジャラスドックに転送された。


 デンジャラスドックで待機していた4機のゴーレムについても、木目鋼ダマスカス製なのは変わらない。


 (注意すべきはレッドマーキュリーのキュクロぐらいだな)


 新人戦のレースを見ていた時、恭介はレッドマーキュリーがちゃんとしたゴーレムに乗っていたらもっと白熱したレースになっただろうと思っていた。


 それゆえ、キュクロとはいえ木目鋼ダマスカス製ならば新人戦の時よりも注意しておくべきと判断した訳だ。


 5位の位置に恭介のドラキオンが着いた瞬間、レース開始のカウントダウンが始まる。


『3,2,1,GO!』


 先程のレースとは異なり、今回はスタートと同時にギフトを発動するパイロットがいなかった。


 そうであるならば、ドラキオンが1位になるのを防げるゴーレムなんていないということだ。


 デンジャラスドックは戦艦やゴーレムを格納する施設なので、ここには積み込み前の兵器や装備前の武器も置いてあり、それらが誤作動を起こしてレースに参加するゴーレムを襲う。


 新人戦の時に誤作動で飛んで来たのは普通のミサイルだったが、このレースではあろうことか弾頭にヤバいマークが付いているミサイルだった。


「管理が杜撰過ぎるだろ! なんだって核弾頭ミサイルが発射されるんだよ!」


『一発だけなら誤射かもしれない』


「冗談じゃねえよ畜生!」


 フォルフォルが自分の発言にネタを差し込むので、恭介はふざけるなとキレた。


 ドラキオンは核弾頭ミサイルを躱したが、ドラキオンの後ろから来たゴーレム達の中には核弾頭ミサイルの爆発に巻き込まれて走行不能になった機体もあった。


 核弾頭ミサイルの誤射をきっかけに、安置されている爆弾の爆発や銃の暴発が立て続けに起きた。


 いずれも新人戦の時よりもパワーアップしており、爆弾の火力は数倍で銃に至ってはビームが放たれる始末である。


 警備用ゴーレムであるドックキーパーもどんどん出動し、レースに参加するゴーレムを手分けして追跡する。


 後方からの射撃が始まるが、幸いにもドックキーパーのスペックはドラキオンと比べてかなり低い。


 恭介は自分を追跡するドックキーパーの射撃を利用し、コース脇の爆弾に命中させて足止めに使った。


 警備すべきコースの爆弾を爆破させるとは警備の役割を担う者としてあるまじき行為であり、ドックキーパー隊による攻撃は今の攻撃による結果にビビってマシになるだろう。


 ドラキオンが2周目に突入してからしばらくすると、序盤に誤射された核弾頭ミサイルにやられて爆散したスイーパーとライカンスロープの残骸が落ちていた。


 (酷いもんだな)


 本来、レースで見るような被害ではなかったから、恭介はここまでやるのかと戦慄した。


 誰かが2周目に突入すれば、デンジャラスドックでは出動するドックキーパーの数が増える。


 ドックキーパーは量産型ゴーレムであり、ベージュ色で個性があまり感じられない。


 ところが、ドラキオンを追うデンジャラスドック隊の奥から赤いドックキーパーが飛び出して来た。


 そのドックキーパーはただのライフルではなく、ビームライフルとビームソードを装備していた。


 (る気満々かよ)


 通常のドックキーパーよりも高性能な赤いドックキーパーからビームが放たれ、恭介はそれを躱して再びコース脇に置かれている爆弾に命中させる。


 その爆発にドックキーパー隊は巻き込まれてしまったが、赤いドックキーパーだけは距離こそあるけれどドラキオンの後を懸命に追っている。


 3周目に入る目前でブリキドールが走行不能な状態で見つかり、恭介はそれをあっさり追い抜いて3周目に突入した。


 ドック内にある戦艦が砲撃を始め、デンジャラスドックの中は爆音と爆発が収まることを知らない状況になってしまった。


 3周目の途中でキュクロを見つけ、トップスピードのドラキオンが纏う風のバリアでそれを吹き飛ばした。


 そうなれば、ドラキオンにいくら距離を取られても追い続ける赤いドックキーパーとキュクロが接敵し、赤いキュクロと赤いドックキーパーの戦いが始まる。


 その隙に恭介はどんどん進み、あらゆるギミックを躱し続けてゴールした。


『ゴォォォル! 優勝は瑞穂の黄色い弾丸、トゥモロー&ドラキオンだぁぁぁぁぁ!』


 これ以上危険な場にいる必要はないから、恭介はさっさとレース会場前に移動して黄竜人機ドラキオンをキャンセルした。


 リュージュのコックピットに戻るのと同時に、レーススコアがモニターに表示されたのでそれを確認する。



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レーススコア(ソロプレイ・ミラージュデザート/デンジャラスドック)

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走行タイム:①22分43秒②23分6秒

障害物接触数:①0回②0回

モンスター接触数:①0回②0回

攻撃回数:①0回②0回

他パイロット周回遅れ人数:①4人②4人

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総合評価:S

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報酬:資源カード(食料)100×12枚

   資源カード(素材)100×12枚

   120万ゴールド

非殺生ボーナス:魔石4種セット×120

ぶっちぎりボーナス:リミットブレイクキット

ギフト:黄竜人機ドラキオンLv29(up)

コメント:非常識な2連続レースが常識的な結果を齎すはずないよね

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 (よっしゃ、リミットブレイクチケット! ギフトレベルも2つアップ! 最高かよ!)


 フォルフォルはモニターに現れており、恭介をジト目で見ていた。


 リミットブレイクキットとは、恭介がGBO時代に使ってドラームドをドラキオンにした激レアアイテムである。


 それが手に入ったことも喜ばしいことだが、恭介の黄竜人機ドラキオンが2つのレースを連続クリアしたことで一気に2つもレベルアップした。


 この結果を見て、恭介はフォルフォルのジト目なんて全く気にならないぐらいご機嫌になった。

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