第149話 出ました! 恭介君の遺憾砲!
仁志と遥が付き合うことになったと発覚した後、恭介達は食堂で新人戦お疲れ様会をしてから瑞穂に戻って来た。
今日はナショナルチャンネルを使う日だとわかっていたので、今回は恭介と麗華だけではなく、瑞穂に住んでいる沙耶も持木内閣との会談に同席する。
モニターを操作してナショナルチャンネルにすると、恭介達の家族がいるのは前回通りだったが、持木内閣からは持木のみが参加していた。
『明日葉君、更科さん、筧さん、3期パイロットを新人戦で全員生還させてくれたことを感謝するよ』
「俺と麗華はちょこっとアドバイスしただけです。彼等の勝利は沙耶と晶のおかげです」
『そうは言うけれど、明日葉君と更科さんがいるから3期パイロットを指導する筧さんと尾根君が無事なんだ。私は全員に感謝するべきだと思うよ』
「そうですか。ありがとうございます。ところで、他の人達はどうされたんですか?」
家族を除いて持木しかいない状況は、何かしらがあってそうせざるを得なかったのではないかと恭介が考えるのも当然だろう。
『新人戦で得られるだろう資源の件で色々あってね。君達に会わせた時に暴走されては困るから内閣を代表して私だけが参加することにしたんだ』
「資源は生存する分には十分ありましたよね? まさか、この機に他国にマウントを取るために更なる資源を求めてるとかじゃないですよね?」
恭介がジト目で訊ねれば、持木は困ったように笑って何も答えなかった。
その時、モニターにフォルフォルが乱入する。
『その通り! もはや日本に敵はないとか、逆境をチャンスにして日本を発展させようとか自分は戦わないのに偉そうなことを言ってた奴等がいたよ! 癒着のある団体から頼まれてそう言った部分もあるんだろうけど、勝手なこと言った奴等には今までに死んだパイロットの苦痛を追体験してもらった! そいつ等が崩れ落ちたらパニックになったって訳さ☆』
完璧に隠し通せるとは思っていなかったが、フォルフォルに暴露されるとは思っていなかったため、持木のポーカーフェイスは苦しそうな表情に変わっていた。
持木のリアクションからフォルフォルの言っていることは事実だと悟り、恭介は大きく溜息をつく。
「こんなセリフを貴方に言うとは思いませんでしたが、今回の件は大変遺憾です」
『出ました! 恭介君の遺憾砲!』
「フォルフォルは黙って」
『はーい』
首相に対して国民が遺憾なんて言葉を直接伝える機会はないはずなのだが、緊急事態である今はその機会が訪れてしまった。
胃が痛そうな顔で持木は深々と頭を下げる。
『本当に申し訳ない。国政に影響が出ないようにしてから内閣を解散するつもりだ。国民の信を問い、君達に配慮のある者が日本の舵取りをするように全力を尽くそう』
『そーいうの良いから。どうせ今の政治家なんて碌なのいないし、あんたは責任から逃げるな。ゴミは私が排除してあげるから、あんたはちょっとでもマシな人材を内閣に加えなよ。ここまで内閣の状況が酷いと私の計画が遅れるんだよね。まったくもう、困ったものだよ』
フォルフォルは政治家の無様な姿を見て嘲笑うことを楽しんでいたが、恭介と麗華に伝えた侵略者との戦争を考えるとこれ以上野放しにはできないと判断したようだ。
持木はフォルフォルの口から出た計画という言葉が気になり、教えてもらえるかわからないが訊ねることにした。
『計画とはなんだ? 新人戦に出なかった明日葉君と更科さん、筧さん、尾根君に関係あるのか?』
『良い勘してるじゃないか。残念ながらあんたには資格が足りないから、話すことはできないよ。それとも、無理を承知で聞いて頭がポンと弾け飛ばすかい? それならそれでも構わないけど』
『…これ以上訊くのは止めておこう。この話は口外厳禁と考えた方が良さそうだ』
『そうだね。それが賢明だよ』
このやり取りだけでも恭介達が更なる面倒事に巻き込まれていると悟り、持木は何も訊かないし口外しないことを決めた。
ちなみに、沙耶も薄々恭介と麗華が自分達とは別の方向に向けて動いていると悟っていたため、ここで驚いて声を出してしまうなんてことにはならなかった。
「フォルフォル、麗華と沙耶が家族と喋れる時間は限られてるんだ。すまないが、今しなくて良い話は後でしてくれ」
『そうだね。遥ちゃんが仁志君に告白して付き合うことになったこととかは後で大々的に発表するね♪』
「わざとバラすなよ。悪意の塊だな」
『いっけなーい。私ってばうっかりさんだね☆』
恭介と麗華、沙耶から氷点下レベルの視線を向けられ、フォルフォルは静かにモニターから姿を消した。
そこから先は家族の時間である。
最初に首相官邸側で口を開いたのは沙耶の母親である美緒だった。
『沙耶、大丈夫? 辛くない?』
「大丈夫。こっちには兄さんと麗華さんがいる。パイロットとして選ばれた最初はびっくりしたし、レースでやられた時は終わったと思ったけど、兄さんが助けてくれたから平気」
正直なところを言えば、沙耶は強がっていた。
美緒に心配をかけている自覚があったから、心労で倒れられては困ると思って自分は平気だと言ったのである。
しかし、そこは親子だから沙耶が強がっていることを美緒はすぐに察した。
『恭介君、沙耶は限界が来るまで我慢しちゃうから、近くで支えてあげてくれると嬉しいわ。勿論、麗華ちゃんっていう彼女がいるから、その次で構わない』
「ちょっと母さん」
「わかりました。可能な範囲で支えましょう」
「兄さん」
美緒の前で手のかかる子のように扱わないでくれと不満そうな顔をするが、その表情とは別に声音はそれほど嫌がっているように感じられない。
頼りになる恭介から支えてくれると言質が取れたことは、沙耶にとって嬉しいことだったらしい。
次にモニターの向こう側で口を開いたのは麗華の母親だった。
『麗華、恭介さんとの関係は順調なの?』
「順調だよ。キスもできたし」
『キス…』
キスと聞いて麗華の父親はふらついてしまった。
麗華のことを任せるなら恭介しかいないと思っており、付き合うことに賛成したものの自分の娘が誰かの彼女になってしまったことはショックのようだ。
『その先には進めそう?』
(この人ぶっ飛んでるぞ)
恭介は他人の目もある中で何を訊いているんだと心の中で引いた。
「まだ難しいかな。でも、突破口は見えたよ」
『それは良かったわ。恭介さん、私、孫の顔が見られることを楽しみにしてますね』
(麗華、真面目に答えなくて良いからね?
麗美とは麗華の母親の名前だ。
恭介はその名前を麗華から聞いていたので知っており、直接名前は呼ばなかったけれど心の中でやんわりとツッコんだ。
恭介が困っていることを察し、恭子が助け舟を出すように話しかける。
『恭介、さっきまでの話で詳細はわからないけど、私達の知り得ない何かに巻き込まれてることは理解したわ。大変だと思うけど無茶してないかしら?』
「今のところ大丈夫だ。これからはわからん」
ペラペラしゃべってしまうと、フォルフォルが言うように頭がポンと弾け飛んでしまう可能性があるため、恭介は端的に答えた。
それでも、麗美によって展開された苦手な話題がシリアスなものに変わったので、その点について恭介は恭子に心の中で感謝した。
『そうなのね。とりあえず、私からは無事に帰って来てほしいって願いだけは伝えとくわ。こう見えても私、そこそこあちこちに顔が利くから、恭介が帰って来れた時にできるだけ普通に暮らせるように準備しておくから』
「それは助かる。騒がしいと帰るに帰れないからな。晶はゴリゴリに接待されてもう帰りたくないって言ってたし」
『でしょうね。こっちのことは任せておきなさい』
「ああ。頼んだ」
このやり取りで時間切れになってしまい、モニターには首相官邸の様子が映らなくなった。
疲れる会談だったと短く息を吐く恭介に対し、フォルフォルがひょっこりとモニターに姿を現す。
『恭介君、お疲れ様!』
「とても不愉快な笑みを浮かべてるじゃないか。さっさと失せろ」
『恭介君と麗華ちゃんの間に子供が生まれたら、私に名付けさせてくれないかい?』
「失 せ ろ」
『あっはい』
不機嫌な恭介を見て、ちょっとやり過ぎたとフォルフォルは思って退散した。
ぐったりしている恭介の隣では、麗華が自分と恭介の子供のことを妄想しているがそれはひとまず放置しておこう。
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