第148話 は? ビビってねえし。いつものゲームをやろうぜ

 決勝戦はルールに定められた通り、味方同士で行われる場合は模擬戦になる。


 武器は訓練用の物になるため、扱いさえ間違えずにいればどちらかが死ぬことはない。


 仁志は遥の乗るシーサーと向かい合い、短く溜息を吐いてから聞き耳を立てているであろうフォルフォルに訊ねる。


「なんでどっちのブロックも日本が勝ったのに模擬戦をやるんだ?」


『それはね、他国の未熟者共に気合を入れてもらうためだよ。3期の強い者同士が戦うのを見れば、次の新人戦までに鍛えないと死ぬのは自分だってわかってもらえないでしょ?』


「理屈はわかる。だが、俺達の手の内を晒させるんならそれなりの対価を払うべきだろ。だって、俺達からすればやらなくて良いんだから」


『道理だね。じゃあ、模擬戦をしてくれれば勝っても負けても少しだけ報酬に色を付けようじゃないか』


 正直なところ、フォルフォルはデュエルトーナメントの決勝戦が味方同士の戦いになった時にこう言われるだろうと予想していたから、元々報酬に色を付けるつもりだった。


 それなのに譲歩したように見せるあたり、フォルフォルもなかなかやり手である。


 やれやれと仁志が溜息をついていると、遥が話しかける。


『仁志、午後十時騎士団同士の戦いなんだし、いつものゲームをしよう』


「マジで言ってる?」


『マジ』


 午後十時騎士団のいつものゲームとは、負けた方が勝った方の言うことを聞くというゲームである。


 今まではGBOでのオンライン上でのやり取りだったから、精々レアドロップが出るまで付き合うとか、自力では倒せないモンスターを倒す手伝いをする程度の話だった。


 しかし、仁志も遥もオフラインで会ってしまっている訳で、同じ場所にいるならば願いの幅は自然と広がってしまう。


 仁志があまりやりたくない理由としては、遥のシーサーと自分のザントマンが属性的に相性最悪だからだ。


 遠距離から攻撃できる上に苦手属性で攻撃してくるなんて、遥に有利過ぎる条件だ。


 無論、仁志にはまだ温存しているギフトがあるけれど、他国のパイロットが見ている中でわざわざ情報を与えるような真似はできない。


 手の内を隠した上で今の遥に勝つというのは、かなり難易度が高いと言えよう。


 なかなか返答しない仁志に対し、遥は追い打ちをかける。


『仁志、もしかしてビビってるの?』


「は? ビビってねえし。いつものゲームをやろうぜ」


 仲間同士だからこそ、馬鹿にされたくないと思って仁志は安い挑発に乗ってしまった。


『ムフフ、何やら面白いイベントが始まった予感がするね。さあ、日本のサビザン&ザントマン対バンコーン&シーサーの決勝戦、始め!』


 フォルフォルは何かを嗅ぎつけたらしく、ご機嫌な様子で試合開始の合図を告げた。


 遥は開始早々に早撃ちで攻勢に出る。


 この展開は読めていたから、仁志は回避しながら距離を縮める。


 遥の使う武器がランプオブカースでなければ、多少被弾しても追加効果はない。


 それゆえ、仁志は回避と同時に接近を試みている訳だ。


 互いに手の内はバレているため、戦いは膠着した。


 それでも、少しずつ近づいていた仁志はようやく射程圏に入ったため、モーニングスターで遥に攻撃を仕掛けた。


『効かないわ』


「だろうね」


 エネルギーを消費することで、シーサーはバリアを展開して攻撃から身を守れる。


 属性的に相性も良いことから、バリアによって消費するエネルギー量は少なくて済んだ。


 バリアを展開している間、その中から銃撃はできないので仁志はモーニングスターで殴り続ける。


 それに対し、遥はこのバリアを守りに使うだけでなく攻めに使い始める。


『攻撃は最大の防御よ』


「うわっ、そう来んの!?」


 遥はバリアを展開したまま、シーサーをザントマンにぶつけたのだ。


 土属性のバリアならば、水属性のザントマンにぶつけた時に他の属性よりも効きが良い。


 後ろに倒されてしまったザントマンはマウントを取られ、バリアを解除したシーサーがライフルの銃口をザントマンのコックピットに向けたことで勝敗は決まった。


『そこまで! 優勝は日本のバンコーン&シーサー! 模擬戦だから物的財産は移動しないよ!』


 縛りがあったとはいえ、負けは負けである。


 仁志は負けた悔しさから大きく息を吐き出し、モニターに映ったスコアを確認し始める。



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バトルスコア(第1回新人戦・デュエルトーナメント)

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順位:2位

ゴーレム撃墜数:4機

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総合評価:A

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報酬:資源カード(食料)100×5枚

   資源カード(素材)100×5枚

   50万ゴールド

Aブロック突破ボーナス:ギフトレベルアップチケット

ギフト:霧満邪路ミストダンジョンLv4(stay)

コメント:Aブロック突破ボーナスにちょっとだけ色を付けたからね

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 敵に無駄な情報を与える訳にはいかなかったから、ギフトレベルアップチケットは仁志にとってありがたいチケットだった。


 すぐに霧満邪路ミストダンジョンをLv5にしたところで、仁志達はイベントエリアに強制転移させられた。


 2人のゴーレムがイベントエリアに戻って来たのを確認し、フォルフォルはニッコリと笑みを浮かべる。


『最後に総合順位を発表するよ』


 参加者全員のコックピットのモニターには、新人戦の総合スコアが表示される。



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総合スコア(第1回新人戦)

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1位:日本(生存者4人/獲得資源(食料)100×25枚/(素材)100×25枚)

2位:A国(生存者1人/獲得資源(食料)100×4枚/(素材)100×4枚)

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敗戦国:F国/E国/D国

報酬:アップデート無料チケット(フリー)

コメント:敗戦国とA国のみんな、次回は日本にギャフンと言わせようね☆

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 レース部門とバトル部門の報酬に加え、敵国のパイロットを倒したことで集まった資源カードはそれぞれ食料も素材も100のカードが2枚分だったようだ。


 A国はレッドマーキュリーのおかげで辛うじて資源を手に入れられたが、それ以外の国にとっては敵国の情報しか得られずに新人戦は終わってしまった。


『はい、という訳で今回も日本は強かったね。モニターの前で観戦してるその他大勢のみんな、次は日本チームの目玉が飛び出るぐらい強くなって来てね。バイバイ!』


 それだけ言ってフォルフォルのホログラムは消えた。


 レッドマーキュリーは早々に自分のホームに戻り、仁志達も転移門ゲートをくぐってホームに帰還した。


 ホームに戻り、明日奈と潤はさっさとコックピットから出たが、仁志と遥はコックピットに残っていた。


 何故なら、ゲームの勝者である遥が敗者の仁志に願いを告げるためである。


 フォルフォルの耳は至る所にあるから、どこで願いを言ってもバレる。


 だったらコックピット内で通信すれば、明日奈と潤にはバレずに済むと考えたのは仁志も遥も同じだった。


「それで、遥さんは俺に何をご所望で?」


『ゲームの勝者としてお願いするわ。私の彼氏になりなさい』


「…その発想はなかった。本気で言ってる?」


 てっきり何か欲しい物を奢ってくれと言われるのかと思っていたため、仁志は遥が本気なのか確かめた。


『本気よ。恭介君と麗華ちゃんを見てたら羨ましくなってね。仁志ならGBOでお互いに色々とぶちまけ合った仲だし、人生のパートナーにするなら仁志だなって思ってたから』


「それなら普通に告白してくれれば良いのに」


『煩いわね。踏ん切りがつかなかったから、午後十時騎士団のゲームに便乗したのよ。それで、返事は?』


 遥は恥ずかしかったようで、自分のことは良いから返事を聞かせてくれと仁志に催促した。


 仁志は遥という人間をよく理解しており、デスゲームに参戦してブラック企業から解放された今、恋愛をする余裕もできた。


 少し押しが強いところはあるけれど、気心が知れていて遥と話すのはなんだかんだで楽しかったから頷く。


「俺で良いなら喜んで」


『ヒャッハァァァァァ! 2組目のカップル成立だぁぁぁぁぁ!』


 当然の如く聞き耳を立てていたフォルフォルが、2人のゴーレムどころか仁志達のホームのモニター全てをハッキングして叫んだことから、仁志と遥が付き合ったことは一瞬で他のメンバーに広まった。

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