第147話 フォルフォルなら煽るだろ。だってフォルフォルだもの

 デュエルトーナメントが始まり、Aブロックでは仁志が順当に勝ち進んだのを見て待機室パイロットルームにいた恭介達は安心していた。


「仁志さんの戦いは安心して見れたな。最後はアレだったけど」


「ニトロキャリッジで参戦するって割と頭おかしいよね」


「リスクとリターンの釣り合いが取れてません。レース部門ならまだしも、バトル部門ではリスクが大き過ぎます」


「日本チームでニトロキャリッジを使おうとする人がいたら全力で止めようね。僕、味方が爆死するところなんて見たくない」


 晶の発言に残り3人が頷いた。


 特に恭介と麗華の場合、力をつけたパイロットが侵略者との戦いで共に戦うことになるのだから、無駄死にしてほしくないという気持ちは強い。


「それにしても、トーナメントの組み合わせ方がとことん日本に不利だな」


「そうなっちゃうぐらい他国との差が開いてるんじゃない?」


「次は遥さんの番ですね。晶さん、あの人の仕上がりはどうですか?」


「うーん、あの4人の中で最恐なのは遥さんって感じかな。あの人については全く心配してない」


 メンターをしている晶がそう言うのだから、恭介達はこれから始まるBブロックの試合をおとなしく見ることにした。


 モニターにはランプオブカースを装備した土属性のシーサーが映し出され、それと対峙するように風属性のマッドクラウンが現れた。


『日本のバンコーン&シーサー対F国のブリオッシュ&マッドクラウン、試合開始!』


 ブリオッシュのマッドクラウンは機体のあちこちにナイフを装備しており、それら全てを取り出してジャグリングを始める。


「大道芸でも始める気かな?」


「命がけの戦いでそんな酔狂なことはしないはずです。何か狙いがあるんでしょう」


 晶が抱いた疑問をそのまま口にすると、沙耶がそんな頭のおかしい奴なんていないと言った。


 狙いがあるという考えに同感だったため、恭介は思い付いたことを言ってみる。


「ギフトじゃないか? 武器を増やしたり、自動で操作するとか」


「引き寄せるギフトかもよ。投げた後の回収が楽になるみたいな」


 恭介と麗奈の予想だが、正解は恭介の武器が増えるというものだった。


 ブリオッシュはジャグリングの途中にちょくちょく投擲を挟んでいるのだが、宙に舞うナイフの数が一向に減らないのだ。


 これは無限投擲インフィニットスローというギフトであり、ギフトレベルに応じて効果時間内に手に持っている投擲武器が無限に増え続けるのだ。


 ジャグリングをする理由だが、これは無限投擲インフィニットスローの効果を考慮して行っている。


 効果時間内に手に持っている投擲武器ということで、元々装備している投擲武器に急いで手に持たないと効果対象外になってしまうからだ。


 うっかり効果対象外の投擲武器を投げてしまえば、回収しなくてはならなくなる。


 そして、戦場で一度手から離れた武器は簡単には回収できないから、ブリオッシュはマッドクラウンの器用さを活用してジャグリングをするスタイルを選んだのだ。


 しかし、そんなブリオッシュの戦略を遥は微塵も脅威に感じていなかった。


 淡々と避け続け、ランプオブカースでコックピットを狙撃し続けた。


 命がけの場面において、勝敗を決めるのは精神力だ。


 午後十時騎士団に所属する遥ならば、この程度の攻撃は小鳥の囀りにしか感じられない。


 一撃ごとに確実にブリオッシュの集中力を削いでいき、ブリオッシュは狙撃を躱すのに必死でジャグリングに失敗した。


 その時に接近することで更にブリオッシュから冷静さを奪い、投擲の隙を突いてマッドクラウンのコックピットに弾丸を命中させた。


『勝者は日本のバンコーン&シーサー! 惚れ惚れしちゃう精神力だ! 戦闘報酬はブリオッシュの物的財産だよ♪』


「フォルフォルが素直に褒めるなんて珍しいな」


「確かにそうかも。フォルフォルって遥さんのことを煽ったりするのかな?」


「フォルフォルなら煽るだろ。だってフォルフォルだもの」


「説明になってないのに理解できちゃうなぁ」


 恭介の言い分を聞いて麗華は苦笑した。


 そうしている間に、今度は水属性のジャックフロストが現れた。


『日本のバンコーン&シーサー対A国のドクトルコーラ&ジャックフロスト、試合開始!』


 パシュッという音がした直後に、ジャックフロストのコックピットが爆発した。


 遥が開始の合図から早撃ちでコックピットを撃ち抜いたのである。


『勝者は日本のバンコーン&シーサー! フライングじゃないよ! 見事な早撃ちだった! 戦闘報酬はドクトルコーラの物的財産だね♪』


「また遥さん贔屓な発言。もしかして、フォルフォルって遥さんがタイプなのか?」


『3期パイロットの中で最も注目してるのは彼女だけど、恋愛的なタイプではないね』


「新人戦の進行はどうした?」


 自分の疑問にほとんど間を空けずに答えたフォルフォルに対し、新人戦の進行をせずに自分とおしゃべりしていて良いのかと恭介は訊ねた。


 それに対してモニターに現れたフォルフォルはOKサインを出す。


『問題ないよ。私は新人戦の進行担当とは別の分身だからね。そんなことより恭介君、他人の恋愛よりも自分の恋愛に集中しなよ』


「煩い。仕事に戻れ」


『はーい』


 この時ばかりは麗華もフォルフォルによく言ったと心の中で褒めた。


 恭介が遥に恋愛的興味があるとは思っていないが、他人の恋よりもまずは自分を見てほしいと麗華が思うのは何もおかしくあるまい。


 フォルフォルがモニターから消えた直後、ジャックフロストと入れ替わるようにして火属性のタム・リンが戦場に現れた。


『日本のバンコーン&シーサー対E国のジン&タム・リン、試合開始!』


 タム・リンは槍と盾を装備したゴーレムであり、遥がランプオブカースから放った弾丸を盾で防ぎながら距離を縮める。


 ジンは盾で弾丸さえ防いで距離さえ詰めれば勝てると思っているようだが、どうやらランプオブカースの効果を甘く見ているらしい。


 何発か防いでいる内に盾が石化し、そこに弾丸が立て続けに当たることで盾が砕けてしまった。


 盾が壊れるまでに槍が届く距離にいれば、ジンが勝つ可能性はなくもなかったけれど、盾がなくなってしまったら槍で全ての弾丸を弾く芸当は身に着けていなかったため、次第に機体に被弾するようになった。


 麻痺や爆発、遅延等の各種デバフによって満足にタム・リンを動かせなくなり、ジンはそのまま追い詰められて遥にやられてしまった。


『勝者は日本のバンコーン&シーサー! 戦闘報酬はジンの物的財産! 観戦してる3期パイロット諸君、もうちょっと武器の効果とかお勉強しようね!』


 ジンがやられたこの試合を教訓として学ばせるあたり、フォルフォルは使えるものならなんでも使うようだ。


 遥の準決勝の相手として、土属性のシルキーが現れた。


『日本のバンコーン&シーサー対D国のミゲル&シルキー、試合開始!』


 シルキーはGBOにおいて少し変わったゴーレムで、敵と比べてスペックが下回る場合、初撃だけその敵に勝るスペックまでパワーアップする。


 その特性を使い、ミゲルは一撃で決めるつもりでシルキーに装備させたライフルを放った。


 遥はその攻撃を簡単に通すつもりはなかったため、ランプオブカースを連射してシルキーの放った弾丸と相殺しようとした。


 それでも、弾丸を弾丸で撃ち落とすなんて芸当は難しく、残念ながら一番惜しいものでも掠って弾き飛ばされてしまった。


 だが、シルキーの放った弾丸は徐々に遥の乗るシーサーから外れていった。


「上手い。押付重力グラビティの使用を誤魔化したな」


押付重力グラビティの存在を知らなければ、弾丸同士が掠ったせいで外れたと思うもんね」


「やり手ですね、遥さん」


「遥さんは僕が育てた」


 ここぞとばかりに晶がドヤったが、恭介達にジト目を向けられて晶はてへぺろして誤魔化した。


 初撃を凌げばシルキーなんて恐れる必要はない。


 二撃目は遥の方が素早かったため、その弾丸がシルキーのコックピットに命中してシルキーが爆発した。


『勝者は日本のバンコーン&シーサー! ミゲルの物的財産はバンコーンの物だよ! 日本以外の諸君雑魚過ぎワロタ! 日本対日本になるって予想を覆そうとは思わないかな!? 次回こそ頼むね!』


 フォルフォルが言いたい放題言ったけれど、事実なので誰も否定できなかった。


 結局、AブロックもBブロックも勝ち残ったのは日本チームだったため、決勝戦は模擬戦に決定した。

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