第146話 この世は全て自己責任なんだ。恨むなら自分の弱さを恨め

 潤が戻って来てからしばらくして、レッドマーキュリーの乗る赤いキュクロがイベントエリアに戻って来た。


『はーい、全員戻って来たから全体向けの結果を発表するよー』


 フォルフォルがそう言ったら、この場にいる全員のコックピットのモニターに全体向けレーススコアが表示される。



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レーススコア(第1回新人戦・デンジャラスドック)

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1位:タナー=ボッター(日本/ニンフ/31分49秒)

2位:レッドマーキュリー(A国/キュクロ/40分22秒)

3位:ギロチン(F国/ブリキドール/記録なし/死亡)

4位:クライウルフ(R国/ライカンスロープ/記録なし/死亡)

5位:ヴァイス(D国/スイーパー/記録なし/死亡)

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備考:ここまでで参加者が半分になってる国があるってマ?

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 (こうやってちょくちょく煽るのがフォルフォルのやり方か)


 仁志はフォルフォルのやり方を見て、くだらないと思って溜息をついた。


『これ以上弱者をいじるのもかわいそうだし、バトル部門のテーマをサイコロで決めちゃうよ』


 フォルフォルが指パッチンしたら24面ダイスが突然現れ、それを放るのと同時にフォルフォルが歌い出す。


『何が出るかな♪ 何が出るかな♪』


 恒例のネタの後で24面ダイスが止まった時、その面に記されていた文字はデュエルトーナメントだった。


『テーマ決定! デュエルトーナメントだよ! やったね!』


 デュエルトーナメントのルールがそれぞれのコックピットのモニターに映し出される。



 ・レースに参加しなかった各国の残りのパイロットがトーナメントに参加する

 ・トーナメントはAとBの2ブロック制であり、味方同士は決勝戦以外で当たらない

 ・味方同士の決勝戦になった場合、両者優勝として模擬戦が行われる

 ・模擬戦を除いて1対1の試合はどちらかが死ぬまで行われる

 ・各試合ごとに制限時間は設けられていない

 ・トーナメントの組み合わせはこれまでのコンテンツの進捗率に基づく

 ・試合が終わってもゴーレムの損耗は回復できない

 ・ゴーレムのサイズはタワー探索時と同じ



 全員が8つのルールを確認し終えたら、仁志と遥の乗るゴーレムの足元に魔法陣が現れる。


『いってらっしゃーい。命がけの試合で私を楽しませてねー』


 フォルフォルの不愉快な声が聞こえた後、イベントエリアが光に包み込まれた。


 光が収まって仁志が目にしたのはコロシアムだった。


 対峙しているゴーレムは水属性のアークエンジェルであり、仁志のザントマンと属性が被っていた。


『日本のサビザン&ザントマン対F国のバゲット&アークエンジェル、試合開始!』


 バゲットのアークエンジェルは銃剣を装備しており、仁志を自分に近づけさせまいと銃撃を開始する。


 (まあ、そうなるよな)


 もしも自分がバゲットならば、ボムスター零式を装備したザントマンなんて近づけさせたくない。


 だからこそ、仁志はバゲットの戦術を理解できた。


 GBOでサビザンとしてプレイしていた仁志は、ストレスフルな日常から解放されるためにモンスターとの戦闘に明け暮れていたため、様々なゴーレムや武器に精通している。


 それゆえ、アークエンジェルと銃剣の特徴を利用し、バゲットにとって近づいてほしくない領域まであっさりと距離を詰めてみせた。


『こっちに来るなぁ! 来るなぁぁぁ!』


 バゲットの本気で嫌がっている声がザントマンのコックピットに届く。


 仁志に通信を繋いだ覚えはないから、バゲットが通信を繋げて相手が人間だとわかって隙を作ろうとしているのか、あるいはフォルフォルの悪質なやり方のどちらかだろう。


「この世は全て自己責任なんだ。恨むなら自分の弱さを恨め」


『嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』


 ボムスター零式がアークエンジェルのコックピットに命中し、バゲットの悲痛な叫び声と共にアークエンジェルが爆発した。


『勝者は日本のサビザン&ザントマン! 戦闘報酬はバゲットの物的財産だよ♪』


 (やっぱり気分の良いものじゃないが、今までそんな役割を押し付けて来たんだ。逃げちゃ駄目だ)


 年上の者として、第2回までのデスゲームで恭介達に手を汚させてしまったと申し訳なく思っていたため、仁志は自分がこれから率先して汚れ役になってやろうと覚悟を決めていた。


 その覚悟はレース部門で先に出番があった明日奈や潤も同様であり、Bブロックでこれから戦うはずの遥も同じである。


 アークエンジェルの残骸が強制的に転移させられ、それと入れ替わる形で土属性のザントマンが現れた。


 属性的には敵のザントマンの方が有利だが、敵が装備している武器はデフォルトのモーニングスターだから仁志の方が有利である。


『日本のサビザン&ザントマン対A国のアクター&ザントマン、試合開始!』


『逆シードで連戦の君は疲れただろう。優しい俺が引導をくれてやる!』


 (今回も通信は繋がってるのか。これはフォルフォルの仕業っぽいな)


 連続して敵が通信が繋げて来ることは考えにくいから、仁志はそのように判断した。


 考え事をしながらでも、自分が今操縦しているザントマンの特徴はちゃんと把握しているので、仁志はアクターのモーニングスターを狙ってボムスター零式を命中させた。


 属性的には不利だとしても、ザントマン程度のゴーレムのデフォルトの装備ならばボムスター零式の方が装備としてのスペックは高い。


 更に言えば、あっさりとアクターのモーニングスターが爆散したあたり、構成マテリアルはアイアンではなく青銅ブロンズだったのだろう。


『馬鹿な!? 属性的には有利なはずなのに!?』


「死ぬまでの残り僅かな時間で考えると良いさ」


『Nooooooooooo!!』


 仁志が無防備なアクターのザントマンのコックピットを狙い、ボムスター零式を命中させる。


 アクターは無駄に良い発音で叫び、そのままザントマンと一緒に弾け飛んだ。


『勝者は日本のサビザン&ザントマン! アクターの物的財産は君の物! 2連勝おめでとう♪』


 アクターのザントマンが消え、今度は火属性のジャック・オ・ランタンが現れる。


『日本のサビザン&ザントマン対E国のエンデヴァー&ジャック・オ・ランタン、試合開始!』


『死にたくない! 死にたくない!』


 その声は女性のものであり、間違いなく泣いていた。


 (随分と悪質な演出だ。覚えてろよフォルフォル)


 静かに怒る仁志は、エンデヴァーが自棄になって振り回した大鎌デスサイズを全て躱す。


 相手のことを思えば罪悪感がに押しつぶされそうになるので、仁志は何も考えないようにしてジャック・オ・ランタンの背後に周り、ボムスター零式をその背中に命中させた。


 爆散するジャック・オ・ランタンを眺めていると、フォルフォルのアナウンスが聞こえて来る。


『勝者は日本のサビザン&ザントマン! エンデヴァーの物的財産をプレゼント! 今、どんな気持ち?』


 不愉快な気持ちでいっぱいだったが、フォルフォルにそう答えたら喜ばれると思って仁志はスルーを決め込んだ。


 ジャック・オ・ランタンと入れ替わるようにして、火属性のニトロキャリッジが現れた。


『日本のサビザン&ザントマン対D国のハイネ&ニトロキャリッジ、試合開始!』


 試合開始の合図が出された直後、ニトロキャリッジはザントマンに突撃しようとして失敗し、そのまま自爆した。


『ハイネェェェェェェェエエエ!!』


 フォルフォルが思わずアナウンスを忘れて叫んでしまうぐらい残念な結末だったようだ。


 (ニトロキャリッジで出て来るなよ。リスクが高過ぎだろ)


 仁志が呆れていると、フォルフォルも自分の役割を思い出して決着のアナウンスを伝える。


『決勝に進むのは日本のサビザン&ザントマン! ハイネの物的財産は残念ながら自爆なので没収だよ! まったくもう、盛り上がりに欠ける自爆なんて止めてよね!』


 ツッコミという点では大音量でしていただろうと思ったけれど、仁志は応じるだけフォルフォルを喜ばせてしまうと思って沈黙を守った。

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