第145話 通常のキュクロの3倍の速さで動くんじゃないかな

 ミラージュデザートでのレースが終わり、晶と3期パイロット達のホームの待機室パイロットルームでは恭介達が明日奈の生還にホッとしていた。


「無事に生還したか」


「あの女、人を殺すのに躊躇ないね」


「麗華、あの女呼ばわりは止めた方が良い。同じ日本チームなんだから」


「はーい」


 麗華は自分から恭介を奪おうとする明日奈に良い感情を持っていない。


 それゆえ、恭介に注意されて一応は頷くが恭介の腕に抱き着いて自分だけを見てくれと言外に甘えた。


「容赦なくるのはサーヤの仕込み?」


「そんなこと教えてませんよ。私は自分の命を大事にするようにと伝えただけです。容赦なく追い打ちするのは明日奈さんの性格でしょうね」


「そっかぁ」


 そんな話をしている内に、フォルフォルがイベントエリアに戻って来た明日奈を見て話し始める。


『日本の独り勝ちだったね。さて、全体向けの結果を発表するよ』


 フォルフォルがそう言った直後、待機室パイロットルームのモニターに全体向けレーススコアが表示される。



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レーススコア(第1回新人戦・ミラージュデザート)

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1位:ヨッシャア=明日嬲る(日本/ハイピクシー/37分12秒)

2位:ジェイソン13(A国/アンダーテイカー/記録なし/死亡)

3位:ルドルフ(D国/キュクロ/記録なし/死亡)

4位:ジャンヌ(F国/エンジェル/記録なし/死亡)

5位:トーマス(E国/モノティガー/記録なし/死亡)

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備考:2~5位の物的財産は全てヨッシャア=明日嬲るに転送されたよ

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 レーススコア発表が終わり、フォルフォルが再び喋り出す。


『はーい、同胞を殺されて悔しいなら次のレースで恨みを晴らしてね。デンジャラスドックで走るパイロットをランダムでコースに飛ばすよ』


 フォルフォルがそう言った瞬間、潤が乗るニンフがデンジャラスドックに転送された。


「今度は潤さんか。罠が多いところだと、ギフトに関係なくなんとかなりそうな気がする」


「確かにそうかも」


「あの人の運が良いと言うよりは、あの人が関わることで周りが不運になると言うべきでしょうね」


「あればっかりはメンターの僕にもどうにもできなかったよ」


 恭介達が感想を言い合っている内に、潤がデンジャラスドックのスタート位置に着いた。


 それと同時にモニターにレース参加者の情報が映し出される。



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レース参加者(第1回新人戦・デンジャラスドック)

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1位:ヴァイス(D国/スイーパー/土)

2位:クライウルフ(E国/ライカンスロープ/風)

3位:レッドマーキュリー(A国/キュクロ/火)

4位:ギロチン(F国/ブリキドール/水)

5位:タナー=ボッター(日本/ニンフ/風)

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「明日奈さんと元ネタが一緒な奴がいるじゃん」


「通常のキュクロの3倍の速さで動くんじゃないかな」


「A国でもあの作品のファンはいるものなんですね」


「大作だもの。世界にファンがいて当然だよ」


 A国のレッドマーキュリーが火属性のキュクロに乗っていることから、これは狙っているだろうと恭介達が話していると、全員の準備ができたと判断してフォルフォルがレース開始のカウントダウンを始める。


『3,2,1,GO!』


 今度はスタートと同時にギフトを発動するパイロットがいなかった。


 スペックで言えば今いる5機の中で最も優れているから、ニンフはスタートダッシュをきめることであっさりと1位になれた。


 デンジャラスドックは戦艦やゴーレムを格納する施設であり、ここには積み込み前の兵器や装備前の武器も置いてある。


 その内の1つであるミサイルシステムが誤作動によって発射され、1位のニンフに直撃コースで飛んで来た。


 しかし、そのミサイルは推進部に問題があったのかバフンと小さく爆発して向きを変え、ニンフを素通りして2位のヴァイスに向かって飛んで行った。


 ヴァイスは想定外のミサイルを躱し切れず、狙撃するもミサイルの爆発に巻き込まれてしまった。


『D国のヴァイスがやられたぁぁぁ! なんという不運! 日本のタナー=ボッターを狙っていたミサイルの不具合でとばっちりを受けてしまったぁぁぁ! ギミックによる死亡だからヴァイスの物的財産は没収だよ! D国のみんな、稼ぎ頭が減っちゃって大変だね!』


「今のってギフトを使ってないよな?」


「使ってないと思うな。GBOの時もあんな感じのことが起きてたし」


「麗華さんに同感です」


「僕もあれは偶然に1票だね」


 恭介達の予想は正しく、先程のミサイルの軌道変更は潤の不幸招来バッドラックを使ったものではない。


 D国のヴァイスは運が悪かったのだ。


 ミサイルシステムの誤作動をきっかけに、安置されている爆弾の爆発や銃の暴発が立て続けに起きた。


 ほとんどのアクシデントが潤の乗るニンフをスルーしていき、迷惑を被るのは全て他国のパイロットだった。


『E国のクライウルフが撃墜! A国のレッドマーキュリーがギミックによるダメージで怯んだクライウルフを仕留めたよ! クライウルフの物的財産はレッドマーキュリーの物になったよ! やったね!』


 これで生存者は潤とレッドマーキュリー、ギロチンだけになった。


 デンジャラスドックはギミックが多いからモンスターが出現しないけれど、警備用のゴーレムであるドックキーパーがレースに参加するゴーレムを攻撃する。


 念のために補足するならば、代理戦争や新人戦といったイベントでNPCのゴーレムが登場するのは初めてである。


 ドックキーパーはライフルを装備しており、目に見えた同機種以外のゴーレムを撃つように指示されている。


 偶発的な攻撃でなければ、潤の運もそこまで力を発揮しない。


 したがって、潤は自力でドックキーパーの射撃を躱しながらデンジャラスドックを進む。


 ニンフが2周目に突入したところで、コースに出現するドックキーパーの数が増える。


 先程までの数ならなんとかなったが、攻撃を捌き切れなくなってギロチンが乗るブリキドールが撃墜された。


『F国のギロチンもやられたぁぁぁ! 数を増やしたドックキーパーの銃撃によって死す! パイロットが関与しない死亡だからギロチンの物的財産は没収だよ! F国のみんな、D国同様大変だね!』


 潤はアナウンスが聞こえる中、このままでは攻撃を躱し切れなくなると判断してドックキーパーへの反撃を始める。


 普段のレースに出て来るNPCを倒しているようなものだから、他国のパイロットを倒すよりもまだ気持ちが楽であろう。


 3周目にニンフが突入すると、今度はギミックのバリエーションが増えた。


 ドック内にある戦艦が砲撃を始めたのだ。


 半周するまで粘ったけれど、過激なギミックと自分を狙う銃撃を捌けなくなって来た。


 ところが、突然戦艦の砲撃がニンフではなくドックキーパーに当たるようになった。


「潤さんがギフトを使ったようだな」


「流石にこれは使わなきゃ厳しいよ」


「むしろ今までよく使わなかったと思います」


「潤さんのギフトは使ってもバレにくいってのが利点だよね」


 恭介達は潤が不幸招来バッドラックを使ったことを確信したが、他国のパイロットで見抜ける者はいないのではないだろうか。


 何故なら、新人である3期パイロットがレースで3周目に突入するまでの時間でも効果を発揮するギフトを持っているとは思わないのが普通だからだ。


 恭介の黄竜人機ドラキオンが一度も国家間のイベントでは披露されていないから、その発想に至る者はいないはずである。


 結局、潤はレッドマーキュリーを追い抜かすことはできなかったが、安全第一の目標を守って無事に1位でゴールした。


『ゴォォォル! 優勝は日本のタナー=ボッター&ニンフだぁぁぁぁぁ!』


 フォルフォルは潤が1位であることを宣言し、ニンフは魔法陣によってイベントエリアに転送された。


 レースで日本チームの誰一人欠けることなく済んだことは、観戦している恭介達をホッとさせた。

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