第143話 私的にはグレートだけどね

 麗華が落ち着いてから、恭介はレースで手に入れたパシフィスタの設定を行うべくリュージュに乗り込んだ。


 GBOにおいて、パシフィスタとは刺突、斬撃、打撃、射撃、投擲の5つのカテゴリーから3つ選び、それぞれのカテゴリー内からランダムで選ばれた武器に自在に変形させられる武器である。


 平和主義者パシフィスタ何て名前のくせに、平和とは真逆の戦闘に特化した変形武器なのはGBO制作陣のブラックジョークということなのだろう。


 (打撃と射撃、投擲を選ぼう)


 恭介の選択により、その3つのカテゴリーからランダムで戦槌ウォーハンマーとビームライフル、ブーメランが選ばれ、それらに変形できるパシフィスタが恭介の所有物になった。


 (悪くない組み合わせだな。さて、ここからが本番な訳だが)


 本番とは何かと言えば、武器合成キットでナイトメアとパシフィスタを合成するのだ。


 ドラキオンの装備であるラストリゾートには及ばずとも、ナイトメアとパシフィスタの合成によって変形先の増えた武器ができる。


 完成した武器のデフォルトの姿は蛇腹剣だったが、恭介はリュージュのモニターに映る説明を読んでニヤリと笑みを浮かべる。


「ファルスピース、偽りの平和か。これもまたブラックジョークなんだろうけど、酷い名前じゃないか」


『私的にはグレートだけどね』


「そりゃ戦わせたいフォルフォルとしてはそうだろうよ。優秀な武器じゃなきゃ使わないさ」


『GBOの制作陣と心から握手したい気分だ』


 そんな話をしているが、ファルスピースは6種類の武器に変形できる武器である。


 今回変形させられるのは合成元のナイトメアとパシフィスタの武器だから、蛇腹剣と槍、銃、戦槌ウォーハンマー、ビームライフル、ブーメランだ。


 三叉槍が槍になってしまったけれど、恭介にとっては三叉槍でも槍でもどっちでも良かったから気にしていない。


 武器としての格は間違いなくラストリゾートに近付いており、ファルスピースが普段使いできるようになったからこそ恭介が笑みを浮かべたのである。


 ファルスピースを完成させてからは、まだ昼食の時間まで時間があったので恭介と麗華は宝探しに挑むべくタワーに向かった。


 午後の予定だが、明日の新人戦に向けて日本チーム全員で打ち合わせをすることになっている。


 それならば、自由に活動できる時間はしっかりと侵略者の襲撃に備えるのが恭介達なのだ。


 昇降機で湿地帯と呼ぶべき地下7階層に移動した直後、恭介と麗華の耳にアナウンスが届く。


『ミッション! 1時間以内にリザードマンシーフの宝を横取りしろ!』


 リザードマンシーフの宝とあるが、ターゲットは正確には竜血石りゅうけっせきと呼ばれる赤い石だ。


 これはGBOではリザードマンが進化する際に使われるアイテムであり、パイロットにとっては換金アイテムでしかない。


 モニターに映る説明を読む限り、地下7階層に集まるリザードマン達はバトルロイヤルを行い、最後の1体になった者が竜血石を使って進化するはずだった。


 ところが、狡賢いリザードマンシーフが戦わずに竜血石を持ち逃げしてしまったのだ。


 このアイテムは同じ生息地にいる同族を全て殺さなければ使えないから、今のリザードマンシーフにはそれができない。


 とりあえず、竜血石を持ち逃げされてキレているリザードマン達の後を追い、恭介達は通路の先へと進む。


『私達に襲い掛かって来る個体がいませんね』


「そうだな。優先度は竜血石の方が高いのかもしれない」


 戦闘をせずに先に行かせてもらえるならば、恭介と麗華にとっても楽ができるので助かる。


 通路を通過して広場に出たところ、リザードマンの群れが見つかった。


「竜血石を探すにはこいつ等が邪魔だ。片付けるぞ」


『うん』


 広場に大量にいるリザードマンを倒さなければ、探し物が満足にできない。


 それゆえ、恭介はファルスピースの試運転も行うついでにリザードマンに攻撃を開始した。


 蛇腹剣のままファルスピースを振るったが、その使いやすさはナイトメアの上だった。


 (良いね。ラストリゾートに近づいて来てるじゃん)


 満足した恭介は、続いてファルスピースをブーメランに変えた。


 このブーメランは属性の元素を纏わせながら投げられるようになっており、今は火を纏いながらリザードマン達の首を次々に刎ねていく。


『負けてられないね』


 麗華も切替竜銃スイッチドラガンと四対の翼の銃からビームを放ち、リザードマン達をサクサクと倒した。


 広場にいる全てのリザードマンを倒しても、竜血石はドロップしなかった。


 つまり、この広場にはリザードマンシーフがいなかったことを意味する。


 広間の奥には通路があったので、恭介達はそのまま奥の通路に突入し始める。


 足場が全て水に浸かり、恭介達を見つけたリザードマン達が殺されると思ったのか奥に逃げるのだが、その途中で底なし沼に嵌って動けなくなる個体もいた。


 麗華がそういう個体もきっちり仕留め、2人は次の広場に到着した。


 そこにもリザードマンの群れがいたが、いずれも先程の広場にいた個体より体が一回り大きく、既に槍を振り回してバトルロイヤルを始めていた。


「シーフはいない?」


『いないっぽいね。倒しちゃおう』


「そうしよう。俺は左からやる」


『私は右からだね。了解』


 リザードマン達は恭介と麗華に襲撃され、バトルロイヤルを中断して2人の乗るゴーレムに攻撃し始める。


 しかし、タワー13階層程度のモンスターでは恭介達に敵うはずがない。


 最後の1体を倒した時、広場が揺れて1ヶ所で泥が跳ね上がる。


 リュージュもブリュンヒルデも空を飛んでいるから影響はないが、泥が跳ねた場所の中心にはリザードマンバーサーカーがいた。


 どうやら、どこからか大きく跳躍してこの広場に現れたらしい。


 リザードマンバーサーカーは空を飛ぶ2機のゴーレムを恨みがましく見上げるが、そのリザードマンバーサーカーの背後から忍び寄る影があった。


 リザードマンシーフである。


 リザードマンバーサーカーが恭介達に気を取られている隙に、リザードマンシーフはククリナイフで後ろからその首を刎ねてみせた。


『ギフト発動』


 麗華は金力変換マネーイズパワーを発動し、10万ゴールドをコストに強化した一撃で獲物を仕留めて油断したリザードマンシーフにヘッドショットを決めた。


 竜血石の力で進化するため、恭介達にほとんど全てのリザードマンを倒してもらうのは良い戦略だった。


 だが、最後のリザードマンバーサーカーだけ仕留めて油断したところで麗華にやられたのだから、リザードマンシーフもまだまだである。


『恭介さん、竜血石がサイドポケットに転送されて来たよ』


「良かった。これで宝探しは終了だな」


『うん』


 2人が話している内に、宝探しスコアが恭介達の見るモニターに表示される。



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宝探しスコア(マルチプレイ)

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ミッション:1時間以内にリザードマンシーフの宝を横取りしろ

残り時間:13分7秒

協調性:◎

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総合評価:S

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報酬:50万ゴールド

   資源カード(食料)100×5枚

   資源カード(素材)100×5枚

ランダムボーナス:武器合成キット

ギフト:黄竜人機ドラキオンLv27(stay)

コメント:最近、麗華ちゃんの金遣いが荒い件について

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「別に麗華の金遣いは荒くないだろ。ギフトのレベル上げのためなんだから」


『そうかもしれないけどさぁ、たかがリザードマンシーフを倒すのに10万ゴールドって支払い過ぎでしょ』


「そんなこと言ったって、レベル上げに多くのゴールドがかかるようにしたのはフォルフォルだろ? 貯金に余裕がある時にレベル上げするのは当然だ。俺は麗華の考え方を支持する」


『だってよ、麗華ちゃん。恭介君は麗華ちゃんのことが大好きなんだね。理詰めで徹底的に打ち負かそうとするなんて、庇う相手を好きじゃなきゃここまでしないよ』


 (最初からそれが狙いか)


 勝ち目のない言いがかりをして来たことに違和感を覚えたが、麗華に今のやり取りを聞かせるためにフォルフォルが仕掛けたのなら、恭介はフォルフォルのコメントに納得できた。


『恭介さん、好き』


「やれやれ。麗華、フォルフォルに都合良く転がされてるぞ」


 ギフトレベルが上がり、恭介に大切に思われているとわかって麗華はご機嫌だ。


 その一方、恭介はフォルフォルにしてやられたので苦笑している。


 それはそれとして、宝探しも終わったことだし恭介達は瑞穂に帰還して昼食を取ることにした。

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